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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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 自分たちの敵として対峙する『Cマガメ族』の機体、『フライヤー』は例えるなら汎用タイプのイコンであり、一対一であれば『モデラート』であっても十分に対処が可能だった。
(威力も、一撃で耐久度を損耗する事もありません。落ち着いて対処すれば負けることはありませんわね)
 確かな自信を得たエリシアは、積極的にフライヤーを迎撃する。『モデラート』の頭部に装着された元々は音響設備用の装置が、モデラート自身の咆哮やノーンのスキルを増幅させてフライヤーを襲い、損傷が溜まった所へブレスの一撃で仕留める。反撃に放たれたビームは回避するか、後方に味方の影があった時はシールドで防御する。
「ヴァイスさんも元気に戦ってるよ! みんなすごい頑張ってる!」
 ノーンの報告によれば、ヴァイスは小隊の一員として他の龍族と共に、向かってくる『Cマガメ族』の機体と交戦しているとのことだった。エリシアの方も彼の与する隊を視界に収められる範囲に控え、危機に駆けつけられるようにしている。ヴァイスが二人に贈り物を託した以上、彼はこちらが危機に陥った際は身を呈してでも護りに来るはず。
(そのようなカッコいい事は、させませんのよ? あなたも無事に帰りなさい)
 心に呟き、エリシアは『モデラート』を目の前のフライヤーを目標に定め、軽快な動作でもって接近、敵の苦し紛れに放ったビームを旋回して回避すると通り過ぎ様に爪の一撃を浴びせる。武器と腕を破壊され、浮力装置にもダメージを負ったフライヤーは徐々に落下していき、戦線から離脱していった。


 浮上した『フリムファクシ』を、各員は慣れているとは言い難いながらも懸命に操作し、迫り来る敵機を迎撃していた。
「敵機、3時と4時、それと5時と6時方向から接近」
「要するに向こう全方面ってことだろ? んじゃ砲向けろ、向けたら撃て!」
 観測士、ブラギの報告を砲撃手のハールが受け取り、船員に砲の指向を指示する。すぐさま応射がなされ、効果を通信士のゲフィオンが報告する。
「効果、撃墜2! ……左舷に弾着、損傷軽微!」
「流石は大型艦だ、なんともないですぜ!」
 操舵手のギュルヴィが調子よく舵を取る。内部は最新の技術が用いられているのだが、舵だけは何故かいわゆる『ぶん回せる』タイプのものであった。
「当たり前ですわ! この程度の攻撃で落ちるフリムファクシではありませんの!
 さあ、狙いは輸送艦! ノコノコと前線にやって来た報いを受けなさい!」
 フライヤーの迎撃をものともせず、『フリムファクシ』はフライヤーが護るキャリアーを照準に定める。
「てーっ!!」
 掛け声とともに要塞砲が放たれ、直撃を受けたキャリアーが爆散する。
「お嬢、フライヤーがまとわりついてきますぜ!」
「小物があがきますわね! 艦内各員は固定ベルトを! 粒子砲発射と同時にサイドスラスターで急速転回! 薙ぎ払いますわよ!」
 指示の通りに各員が自らを固定し、衝撃に備える。
「てーっ!!」
 再びの掛け声とともに今度は荷電粒子砲が放たれ、同時に『フリムファクシ』は急速転回、周りのフライヤーを薙ぎ払う。
「フライヤー、撃墜8!」
「周囲に敵性反応無し」
「砲弾数、未だ十分! まだまだ行けるっす!」
 次々と報告が飛ぶ中、それを受けるべきノートはというと、指示に熱中するあまり自身を固定するのを忘れ、船内の片隅であられもない姿を晒して目を回していた。
「お嬢様、のびている暇はごさいませんよ」
 歩み寄った望がノートの混濁した意識を元に戻させ――まあ実際は往復ビンタを見舞っただけなのだが――、頬を赤くしたノートは引き続き『Cマガメ族』の迎撃を指揮するのであった。


『しっかしまあ、まさかあんさんとこうして一緒に戦うなんて思っても見ませんでしたわ』
『それは俺とて同じ事だ。……ていうか何でお前、俺と一緒に居るわけ?』
『いややなぁ、うちとあんさんの仲やないですか』
『……いつから仲良くなったんだ。戦闘のたびにお前は俺を付け狙いやがって。お前につけられた左腕の傷、まだ治ってないんだぞ』
『それを言うたらうちだってほら、ここんとこ色変わっとるやろ? あんさんの爪でぶっ壊されたんやで』
『ふん。自業自得だな』
『なんやて!?』
「…………お前ら、うるさい。喧嘩なら他所でやれ」
『ハッ!? し、失礼しました隊長ー!』
『……済まない』
「……分かればいい。しかし、どうしてこうなった……
 頭を抱える柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の呟きに、どこか楽しそうなヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の声が被さる。
『真司の事は、龍族と鉄族の両方に知れ渡っていた、ということですね。
 随分と慕われているみたいですし、いい事だと思いますよ』
「気楽に言ってくれる。俺は俺のすべきことをしてきただけだ。……まあ、嫌われるよりはマシ、だがな」
 ふふふ、と笑みを強くするヴェルリアを適当にあしらい、真司は左の鉄族、右の龍族をそれぞれ確認する。鉄族は“雷電”と名乗り、龍族は『ハンス』と名乗った二人は、真司の搭乗機『ゴスホーク』に接近したかと思うと、『あなたの僚機に加えてほしい』と言ってきた。これは龍族にとってはあの“灼陽”に唯一大きなダメージを与えた存在であり、一方鉄族にとっては圧倒的な力を振るった“灼陽”に唯一手傷を負わせた(以前に“紫電”との一騎討ちで互角な勝負をしたことも記憶されていた)存在として、有名になっていたのだ。
「『Cマガメ族』の解析は済んでいるな?」
『はい。データを転送します』
 直後、サブモニターに『Cマガメ族』の機体のデータが映し出される。地上タイプの『トコトコ』と空中タイプの『フライヤー』、輸送艦『キャリアー』と『ボムキャリアー』にボス的存在とも言えるだろう『マクーパ』。これが『Cマガメ族』の構成であった。
「よし。後は実際に交戦して感覚を掴もう。……彼らとの連携も確認する必要があるだろうしな」
『ふふ。何だかんだで隊長機、務めようとしているのですね』
「彼らが折角共闘するってなったんだ、みすみす落とさせるのも気分が悪い。
 ……来たぞ、いつも通りに頼む。……ハンス、“雷電”、おしゃべりは終わりだ、いいな?」
『アイアイサー!』
『……参る!』
 真司の命令を受け、『ゴスホーク』とハンス、“雷電”は左に旋回すると敵編隊の左側面から攻撃を仕掛ける。まずは“雷電”のレーザーライフルと『ゴスホーク』のプラズマライフルが敵編隊――『ボムキャリアー』1に『フライヤー』5の編成――を襲い、まともに弾を浴びた一機が全身をボロボロにして落下する。残る4機はひとまず2・2に分かれ、左と右から挟み撃つように迫る。
「右2機は俺が受け持つ、2人は左2機をやれ」
 真司の指示に従い、防御を固めたハンスがまず先頭に出てフライヤーの攻撃を受け止め、背後から“雷電”が射撃の終わったフライヤーを狙い撃つ。フライヤーは辛うじて回避するものの分断され、残る一機を“雷電”とハンスが挟み撃つように攻撃を加え、やがてハンスの吐いた炎に巻かれたフライヤーが煙を吐きながら落下していった。
(彼らの連携もなかなかのものだな。幾度も戦っていた経験が生きているのだろうか)
 そんな事を思いながら、真司はヴェルリアにレーザービットの展開を指示、その間にブレードを赤熱化、速度を上げて接近戦の用意に入る。飛び交うレーザーですっかり分断されたフライヤーは真司の接近に対応出来ず、灼熱のブレードをまともに浴びて懐に大きな傷を作りながら地面に落ち、砕けると同時に忽然と姿を消した。
『反応消失。残存弾数、エネルギー共に十分』
「『ウィスタリア』への着艦はまだ先でいいな。……“雷電”、ハンス、そちらはどうだ?」
『問題ないでー。まだまだ行ける!』
『こちらも問題ない。いつもよりも上手く動けている気がする』
 それぞれ無事を伝える通信を受け取り、真司はまあこれも悪くはないな、と感想を抱いて周囲の警戒に当たる――。


「はい、お兄ちゃん。これで頑張ってね! 私はポッシヴィの防衛に行ってくる!」
 酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が持ち込んだ、“掟破りの武器”『三上山の大百足』が納められた鞘を受け取り、美由子がレモンちゃんと『ポッシヴィ』へ向かうのを見て、酒杜 陽一(さかもり・よういち)は恋人の名を冠する大剣を構える。あくまで鞘の中の大百足は切り札、状況はまだそこまで切迫していない。
(新たな敵は、龍族と鉄族の結束を大いに促しているようにも見える。
 やはり、彼らも人間と同じ本能からは逃れられないのかもしれないな)
 天秤世界の理とやらは、どうしても白黒付けたがりたいらしい。そうじゃない解決方法を模索してきた契約者にとっては腹立たしく思うかもしれないが、人間は理性を併せ持つ生き物である。
(ただ、戦って勝つだけが目的じゃない。あくまで事の解決が優先だ)
 龍族と鉄族もそう思ってくれることを期待し、陽一は戦場へと飛び込む。生身でありながらその大剣により、地上を進んできた『Cマガメ族』の『トコトコ』に対しても互角以上に戦うことが出来た。
『♪――――♪』
 しかし、トドメを刺そうとした所へ『Cヴォカロ族』の『初めてのみく』が音楽を奏で、陽一の行動を阻害する。不可視の攻撃に一旦は怯むものの、観察眼を働かせ視力を高めた上で動きを見れば、音楽がある軌道を持って自分の所へ飛んでくるのが確認出来た。
(見えたなら、対処は出来る)
 心に呟いた事を、陽一は体術でもって再現する。飛んでくる音楽を身体の動きで避け、『初めてのみく』が移動するその先を読み、先回りした上で予想到達点に大剣を振るえば、まるで自ら飛び込んできたかのように『初めてのみく』が大剣に触れ、分割されると同時に無数の欠片となって粉砕される。見た目は繊細な少女がバラバラになる光景を目の当たりにしても、陽一の表情に変化はない。彼はその点、既に割り切っている。
「!」
 だからこそ、不意を狙ったはずのトコトコのビーム銃の攻撃も、大剣の幅の広さを生かして受け逸らす事が出来た。仕留め損なったトコトコが退こうとするのを逃さず、陽一は構えた大剣から闘気をまるで砲のように発射する。ある程度の誘導性を備えて飛ぶ闘気弾はトコトコを直撃し、こちらも無数の欠片となって爆散した。