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コーラルワールド(最終回/全3回)

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コーラルワールド(最終回/全3回)

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 取るに足らない小さな闇など、光の者にとっては、何の価値も無い塵だろう。
 力を持たない闇の存在など、己の経験を上げる為の単なる獲物に等しいだろう。

 ああ、光にも闇にも怯える非力な私は、
 けれどその大樹の枝葉の下でだけ、雨を凌ぎ、安心して眠ることができたのだ……





第14章 待つ者達は思い馳せて


 ミュケナイ地方、ルーナサズに留まる、ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)のパートナー、タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)は、三毛猫 タマ(みけねこ・たま)からのテレパシーで、トゥレンがコーラルワールドに居ることを知った。
 テオフィロスと戦闘になるかもしれないことも。
「何か……、伝えること、ある?」
 それを選帝神イルダーナに伝えて問うと、イルダーナは、ふっと溜息を吐いて、「無い」と答えた。
 その表情を見れば、何か思うことがあるようだが、タマーラには、それが何かは解らなかった。


◇ ◇ ◇


 帝都では、ヴリドラの召喚に失敗し、ユグドラシル内の街に戻ろうとするジール達の後ろで、じっと考え込んでいた黒崎 天音(くろさき・あまね)が、意を決したように顔を上げた。
「申し訳ないのだけれど、もう一度、召喚を試してくれないかな。
 繋がりが切れていないと言っていたよね」
 先を歩く、彼女の師匠を顔を見合わせた後、構いませんが、と答えつつも、ジールは首を傾げる。
「繋がりと言っても、『探す手間が省ける』くらいのものでしかありませんが」
 もう一度やってみたとて、同じ結果になるだけなのでは、とジールは告げた。
 天音は肩を竦める。
「本当は……リューリク帝に願わないと召喚に失敗するだろうことは解っていた。
 でも、それを言うことができなかった」
 天音は、召喚の成功を願っていなかった。
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、少し驚いた顔をしたものの、すぐに、やれやれ、と肩を下ろす。
 全く、天音にはそういうところがある。

 天音には、ずっと疑問があった。
 何故、真面目で堅物のテオフィロスが、都築中佐を伴い、皇帝の墓場へと赴いたのか。
 何故、都築とテオフィロスは死の門から先に進めたのか。
 何故、テオフィロスは門の向こうから、門番シバに攻撃することができたのか。

 英霊と普通の人間の魂、パラミタに転生する際の浄化期間の長さの違い、確かに魂に差というものは存在するのかもしれない。
 だが、そもそも、門を開くのに、本当に高貴な命を必要とするのか、それが天音には引っかかる。

「そんなものに、ヴリドラの命を使ってくれと願えなかった……」
 すっかり捻くれた人間となってしまった自分には、心の内を素直に明かす、ということができなくなってしまったけれど、今度はちゃんと、ヴリドラに伝えたい。
 嘘をついたことを謝りたかった。
 そして、コーラルワールドへ赴いた者達の帰還の為に、再び門を開く為の犠牲となって貰えないだろうか、と、その言葉を聞き届けてくれることを、真剣に願った。