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【両国の絆】第四話「『それから』と『これから』」

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【両国の絆】第四話「『それから』と『これから』」
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【賑やかな幕開け】



 
 華やかであり、和やかでもあったパーティも終わり。
 熱気冷め遣らぬままの彼らを迎えたのは、打って変わって激しく賑やかな音の洪水だ。

 式典とは違い、招待客以外に多くの一般客が訪れている、普段ならばクラシックのコンサートやオペラが上演されているのが相応しいようなその豪華なコンサートホールでは、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の二人<シニフィアン・メイデン>が会場を暖めていた。
 知名度の差こそあれ、さゆみ達も立派にアイドルの一員である。ティアラに挨拶をしに楽屋を訪れた二人はその際に「出演してみませんかぁ?」とティアラに声をかけられたのだ。
「”国交回復記念”ライブ……ですからぁ、そこで歌うのが、エリュシオン側のみ、っていうのはぁ、看板に偽りありって感じ? みたいな?」
 そう言われれば強く断るわけにもいかず、いきなりの参戦となったのである。元々は観客のつもりで訪れえているため、上品なドレス姿での登場だが、それはそれで舞台に映え、観客達の目を引いていた。
 ほとんどなし崩し的にティアラ登場までのオープニングを勤めることになった二人だったが、こんな大舞台で、と緊張していたのも最初だけだ。一曲終える度に上がる拍手にテンションは上がり、比例して会場もその熱を上げる。
 動の歌姫であるさゆみがステージ上を盛り上げて回り、静の歌姫であるアデリーヌが中心でそれを支える。そうして、普段ライブというものに来たことがないような者達も含め、会場の隅々まで熱気が伝わっていった。そこへ、佳奈子のボーカルとエレノアのキーボード、バックコーラスが混じって更に豪華になったステージは更に盛り上がっていく。
 とは言え、本来の主役はティアラなので、あくまで前座としてという位置をはみ出さない程度に抑えてはいる。だが、それも数曲分まで終わったところで、観客達に気付かれないように、さゆみはアデリーヌと顔を見合わせた。
(……それにしても少し)
(遅い……ですわね)
 二人がそう、心中で違和感を覚えていた頃。
 まさにその時、ティアラの楽屋には、思わぬ来客が訪れていた。
 先日の演習場での事件の折、飛び込んできたテロリストファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)だ。
「……何か、御用ですかぁ?」
 ティアラは僅かに身構えたが、ディルムッドが動こうとするのを制しつつ首を傾げた。現れた場所こそ唐突ではあるが、先日の時と違って彼の周りには部下らしき姿は無い。一見しては手ぶらでもある。攻撃してこない様子に、ファンドラは目を細めると両手を挙げて戦闘の意思が無いことを示した。
「事を構えるつもりはありません。私はあくまで、ご挨拶に伺っただけですよ」
 ディルムッドは更に警戒を強めて武器に手をかけようとしたが、それをティアラは「駄目ですよぉ」と咎めて下がらせた。
「大事なライブの前ですしぃ、手荒なまねして変な事態を招きたくないんですよねぇ」
 その言葉一つで、下がっていなさいとばかりディルムッドの動きを封じてしまうと、ティアラはファンドラに向かってにっこりと笑って見せた。そんなティアラの態度に、ファンドラは更に面白そうに笑みを深める。
「やはり、面白い方ですね。ここで捕まえておこう、とはお思いになりませんか?」
「普段なら、シャンバラに恩を売るのにぃ、そうしたかもしれませんがぁ」
 挑発とも取れる言葉に、ティアラはあっけらかんと肩を竦める。
「今はこちらの貸しに傾いて増すしぃ、あんまりどちらかに貸し借り天秤が傾くとぉ、逸れはそれで厄介だし? みたいな」
 故に、挨拶だけならば見逃す、と暗に告げるその言葉に「やはり、あなたは面白い人ですね」と、ファンドラはくつくつと喉を震わせて一礼をして見せた。
「本当にご挨拶だけですよ……今後とも、お会いすることがあるでしょうから」
 恐らく、敵としてだろうが、と隠すことも無く匂わせたファンドラがにっこりと笑ったのに、ティアラもまた余裕の笑みで返す。そう簡単に思い通りにさせるはずが無いでしょう、と言わんばかりのその強気の笑みは、アイドルのそれではなく、選帝神としての彼女の顔だろう。お互いに言葉無く、ただ笑みだけで間に火花を散らせつつも、それをどこか楽しんでいる節がある。ディルムッドがこっそり苦虫を噛み潰したような顔をする中で「さて」とファンドラは慇懃に頭を下げた。
「何時までもお引止めするわけには参りませんね……私は後ろのほうで、ライブを楽しませていただきますよ」
 では失礼、と、現れた時と同じようにして、ファンドラはすっと楽屋から姿を消したのだった。




 同じ頃、ステージ。
 ティアラが来訪者と顔をあわせている中、ステージはステージで予想外の事態が発生していた。

「フハハハ!」

 唐突に照明の切り替わったコンサートホールに響いた一声は、そんな聞き慣れた高笑いだった。
 どよめくホール内のステージど真ん中に、その白衣がばさりとなびくと、照明の光を受けて、メガネがキラリと輝いた。
「我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! ククク、このライブ会場は、我らオリュンポスが乗っ取った!」
 そう宣言されるや否や、何時の間に潜り込んでいたのやら、覆面全身タイツの戦闘員“特選隊”が会場にばらばらと現れたのだ。何事かと呆気にとられている観客達を前に、ハデスの態度はいつもと変わらず堂々たるものだ。
「フハハハ! 会場に居る観客に怪我人を出したくなければ、おとなしく、我らオリュンポスの要求を飲むのだな!」
 そう言って、ばっと手を翳したハデスは威風堂々と「我らの要求はただひとつ!」と声を高らかにすると、セルウスやネフェルティティ達のいる貴賓室側に向けてびしりと指を突きつけた。なかなかに恐れ多い行為だが本人は一向に気にするでもなく続ける。
「シャンバラ王国およびエリュシオン帝国が我らオリュンポスの傘下に入り、オリュンポス連邦政府を樹立すること!」
 その言葉は、その場にいた者達の目を丸くさせるのに十分な効果があった。セルウスは半ばきょとんとしているだけだったが、勿論顔をこわばらせる者もいる。そんな中、会場の隅で一人、氏無が思わずと言った様子で噴出していたのは余談だ。
「そうすれば、これ以上の争いの生まれない平和な世界となることだろう……って、な、なにをする、貴様らー!」
 兎も角、騒然となった会場で、ハデスは尚も演説を続けようとした、が。当然そう何時までも警備の者達ものんびりとしているわけは無い。すぐさまステージに上がってハデス達を片付けようとしたのだが、彼らは彼らでその程度のことは予想済みである。慌てず動じず、しかし騒がしく、その手はばっと翻って「我が部下たちよ! 我らオリュンポスの理想を邪魔する者どもを排除するのだっ!」と特選隊達へ指示を飛ばし、続けて
ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)の方を振り返った。調律改造を施し、潜在能力とその機晶石の力を解放させると「さあ、ペルセポネよ!」ともったいぶった調子で警備員達を指差した。
「我らオリュンポスの技術力を見せつけてやるがいい!」
「了解しました、ハデス先生っ! ……機晶変身っ!」
 頷いて、ペルセポネが声を上げた瞬間。制服が光の粒子となって消え、ブレスレットから溢れた光によってパワードスーツが装着されていく。どちらかというと悪の秘密結社と言うよりヒーローの変身に近い気のする変身シーンを終えたペルセポネは、ハデスの前へと躍り出ると、にじり寄る警備員達に向けて構えを取った。
「ハデス先生の理想、世界統一による平和の実現のために、頑張りますっ!」
 やはり悪の秘密結社らしからぬセリフを口にし、戦闘員たちとともにペルセポネは飛び出した。
 やっている事そのものはツッコミどころ満載ではあるが、現実として、敵として厄介なその数と実力である。警備員達は会場の外はしっかり警護していても、内部の方はそこそこの人数だ。その上、契約者達も武器を持ち込んでいない。たまたま警備についていたサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が、観客へ襲い掛かられるのだけは防いでいるが、多勢に無勢だ。唐突な緊張感が高まる中、警備員を蹴散らしていたペルセポネに異変が起こった。全力で戦っていたため、少女の体には強い負荷がかかっていたのだ。
『オーバーヒートが発生しました。装甲の強制パージをおこないます』
 非情なAIの音声が響き「え、え?」とペルセポネが戸惑った次の瞬間。ペルセポネの纏っていたパワードスーツが、爆発するように四方へ弾け飛んだのだ。勿論、ペルセポネが纏っていたのはパワードスーツのみ、ということは推して知るべしである。
「きゃ、きゃああああっ!」
 少女の可憐な叫び声が上がり、哀れ、柔らかかつ滑らか。適度に丸みを帯びた少女の全裸肢体が観客の前に晒されるかと……思われた、次の瞬間。
「そういうえっちぃシーンは、ティアラのステージには不要ですぅ」
 一声。続いて大量のスモークがステージの上を覆った。続けて激しいライトがステージの上で煌く。そして。なにやらどたばたという慌しげな音と共に、バキッだのドカッだのという不穏な音が響く。一体何が起こっているのかと観客達がざわめいていると、やがて晴れたスモークの向こうから、きらきらとスポットライトを浴びて、ようやく楽屋から駆けつけたティアラがそこに立っていた。
「みなさーん、お待たせしちゃいましたねぇ。悪者はこの通り、ティアラにメロメロのめっためたですぅ」
 ハートマークが語尾に飛んでいそうな甘い声が言ったが、後ろで倒れている特選隊たちがメロメロというより明らかにボロボロなのは突っ込んではいけないところだろう。
「さあて……まだ、やりますかぁ?」
 そうしてティアラがマイクを片手にハデスに凄んで見せる。その上ステージ脇から、戦闘員達をしばいたディルムッドが睨みを効かせているのだ。さしもにハデスと言えど思わず腰が引けると共に、仕方ない、と隊員たちを無理やりたたき起こし、びしっとそれでも尚ティアラたちに指を突きつけた。
「おのれっ、覚えておれよっ! ……そして、十六凪、見ておれよ。俺は人の血が流れない手段で世界平和……もとい、世界征服を成し遂げてみせる!」」
 そうして、ヒーローショーの悪役もかくやとばかりハデスたちが退散していくと、まだざわめく観客達へとパチンとティアラはウインクをして見せ、さり気なくディルムッドに庇われる形になっていた佳奈子が前へ出た。
「皆さーん! 前座はこれまで! 楽しんでくれたかなー!?」
 その言葉で、観客はああ、と納得するように手を打って、続いて拍手でその言葉に応えた。まさか本当に会場を襲撃されていたのだとは思いも寄らなかった、というよりはハデスたちのノリがあまりに良すぎたのが原因だろうか。煽るように、エレノアのキーボードが賑やかな音階を奏でて盛り上げる。そうして、さゆみとアデリーヌ、佳奈子とエレノアが後ろに下がりながら、ティアラとハイタッチを決めるとそのままバックダンサーとバックコーラスに落ち着くと、ティアラはすうっと息を吸い込み、選帝神にしてアイドル、ティアラ・ティアラは会場へと満面の笑みを向けるのだった。

「さあ、ここからが本番ですよぉ、盛り上がっていきましょうねぇ〜!」