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【両国の絆】第四話「『それから』と『これから』」

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【両国の絆】第四話「『それから』と『これから』」
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【声を重ね、想いを重ね】



 そうして、前へ出たティアラに続いて、ステージへ上がったのは歌菜と羽純だ。
 ギターとバックコーラスを担当する羽純が、さゆみたちと後ろへ下がってステージを支え始めると、魔法少女アイドル、マジカル☆カナに変身した歌菜は、ティアラと並んでステージの中央へ立ちながら「なんだかワクワクしちゃいますねっ」と眩しいばかりの笑みを浮かべた。
「今日は思いっきり楽しみましょうね!」
 そんな底抜けに明るい笑みは、ティアラとはまた違う魅力を持って観客達を惹きつける。そうして、羽純のかき鳴らすギターに乗せて、歌菜がティアラと共に歌うのは、彼女らしい、明るく弾む、その胸のうちのワクワクを解き放つような曲だ。それは歌声に乗せて会場を伝播し、聞いている者たちの心も弾ませる。自然に体が動き、時にはティアラと腕を組んだりとしながら、歌菜の体はステージの上でステップを踏む。
 楽しい、嬉しい! そんな気持ちを全身で表現して、歌菜はその手を観客席に向けた。
「皆、踊ろう!」
 そう歌菜が声をかければ「さぁ、一緒に」と羽純も合いの手を入れる。
 そんな歌菜と羽純の輝く笑みに会場は沸き、一階の観客達は、思い思いに踊り始めるのだった。


 そうして、歌菜たちがステージの前へ躍り出ていた中。
 楽器の調整をしていたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は溜息を吐き出した。
「何だかなぁ……結局、上の良いように振り回された感じだぜ」
 その愚痴めいた呟きに、サビクは肩を竦める。
「誰が活躍したとか、誰のおかげとかどうでもいいことだよ。無事に片付いたということが一番さ」
 大事な事は現場が知っていればいい、とあっさりと言って、サビクの手はぽん、とシリウスの背中を叩いた。
「さ、出番だよ」
 その声に押されて、ステージへ上ったシリウスをティアラが迎える。
 手を引かれ、挨拶代わりにとシリウスが奏でたのはハープギターだ。竪琴とギターという異色の楽器を纏めたその組み合わせは、メロディとベースを兼任するというトンデモ楽器である。
 その技巧に会場を沸かせて場を盛り上げながら、マイクの拾わないように声を抑えながら、シリウスはティアラに笑いかけた
「オレもお前も、ようやく本業に戻れるな」
 その言葉ににっこりと笑ったティアラも、マイクを抑えて「やっぱり、この時が一番楽しいんですよねぇ」と笑った。
「このライブも、色んな思惑があってのことですがぁ……シリウスさんたちは、ただ存分に楽しんでいってくださいねぇ?」
 寧ろそうしてくれた方が嬉しい、と、ばかり。選帝神ではなく、アイドルでもない一人の少女が微笑むのに、シリウスは「ああ」と笑って頷いた。そして。
「盛り上げていくぜ―――おい、サビク!」
「……なに?」
 唐突にステージ上から呼ばれ、脇にいたサビクは目を瞬かせた。
「折角だし、サビクもなにかやってけよ!」
「そうですよっ」
 そう言ったシリウスに、歌菜も追従する。
「折角ですから、皆さんで歌いましょう!」
 そんな満面の笑みで言われては、流石に断りきれたものではない。
「知らないぞ、どうなっても?」
 と、妙な凄みと共に、サビクはステージに上がって、エレノアやシリウスの奏でるメロディに体を合わせる。そのリズム感は悪くないし、普段の声が美声の部類であるから、きっと歌も――……という期待は、ものの数秒で打ち壊された。
 音痴、という言葉では足りない、壊滅的な音の外れぶりは最早災害級だ。流石のシリウスもしまった、と顔色を変えたがもう遅い。会場を揺さぶるような大音響で響き渡る超音痴に、観客達が思わず耳を塞ごうとした、その時だ。その破壊的な音を包むように、ティアラの歌声が溢れた。
 外れた音を拾い上げて、重ねて歌の中へ流し込む。歌菜や佳奈子がその歌声を更に重ねると、それは羽純やエレノア、そしてさゆみやアデリーヌたちのーラスを重ねて更に厚みを増して響き渡る。
 先ほとまでの騒ぎが嘘のように、観客達に降り注ぐ心地よい歌声のシャワーに、シリウスが目を瞬かせていると、そんな顔にティアラのウインクが飛んだ。
「さぁ、どんどんいきますよぉ〜!」
 そうして、そのまま観客へもウインクを投げるティアラに合わせて、歌菜と佳奈子がステージの両サイドへと向かうと、手拍子をつけて観客を煽っていく。
「さあ、皆さんも!」
「一緒に、歌いましょう! 次の曲は――……!」
 そうして、それぞれの声、それぞれの歌を、かき消すのでも飲み込むのでもなく、一緒に重ねて一緒に包み込むようにして、ティアラたちの歌は会場を明るく包み込んだのだった。