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第ニ章 闇は深く……5

 スカイラー・ドラゴノール(すかいらー・どらごのーる)はちょっと変わった目的で、この森に来ていた。
 スカイラーの最終目的は国と作ること。
 その手段として仲間に相応しいものを探していた。国を作るにはなんといっても強い仲間が必要だからだ。
 学園内外の強い者との間にコネクションを作りたいとなれば、それには吸血鬼をも含まれる。スカイラーには吸血鬼であっても、自分なら飼いならすことが可能だろうという自信があった。
「ふふふ。吸血鬼とやらに、どの程度の力があるのでしょう?」
 鼻歌を歌いながら森の中に入ったスカイラーは、すぐに吸血鬼と接触した。
 しかし、吸血鬼はスカイラーの交渉を断った。
「なぜだ?」
 面倒だったのか、その問いには答えず、吸血鬼は行ってしまった。
 吸血鬼に捕まって弄ばれるのが嫌なスカイラーは、そのまま森を出ることにした。

 一方、鬼瓦 為吉(おにがわら・ためきち)は吸血鬼に自らの身を差し出していた。
「遠慮はいらない! 思う存分に僕の生気を吸ってくれたまえ!」
 ゴージャスなマントを開き、下着一枚だけの陶磁器のように美しい自らの肌を見せ、為吉は吸血鬼に平和的解決を求めた。
 無防備な姿で、争う気がないことをアピールしているのだ。
「生きるために他者の生気を奪わなければいけない吸血鬼……なんて悲しい運命なんだ! 僕の美し〜い生気でその悲しい運命が少しでも癒されるなら……僕はいくらでも力になろう!」
 体を捧げようとした為吉だったが、急にあることに気づき、真剣なまなざしで言った。
「僕の事はミッシェルと呼んでくれたまえ!」
 為吉は自分の名前は美しくないと嫌っていて、自分の魂の名前は『ミッシェル』だと信じ込んでいた。
 そんなわけで、ご本人のご希望により、これ以降、為吉はミッシェルと表記する。
「僕のこの美しい身体に流れる、高貴で美しい生気が、君達を救う事が出来るのならば本望だ! その代わり、これで僕と君達は親友だ! さあ! 我が魂の友人たちよ!」
 自ら体を差し出すミッシェルに3人の吸血鬼が襲いかかった。
「あっ……」
 ミッシェルの手に常に持たれている一輪の赤い薔薇がその手から離れ、吸血鬼たちの激しいプレイの中で散っていった。
 それはミッシェルも同様であった。
「こんな……こんなことは初めてだ……」
 18年間生きてきた中で、一度も味わったことのない悦楽に、ミッシェルは溺れていく。
 ミッシェルの美しい体を複数の吸血鬼が弄ぶ。
「美しい僕が、漆黒の薔薇咲く森で、美しい吸血鬼たちに淫らに弄ばれる。……なんて、なんて美しい光景だ! そして、麗しき友情だ!」
 自らの行為と友情に感動し、ミッシェルは吸血鬼たちによって絶え間なく与えられる快楽に身を任せたのだった。

「なんたることだ……」
 月夜はもう同じ学生たちの姿を見て、何も言えなくなった。
 自ら体を差し出したり、最初は強引なものでも、徐々にその快楽におぼれてしまう者がいたり、自ら吸血鬼との関係を求める者がいては吸血鬼は交渉になど応じない。
 誰の支配も受けたくない月夜は、自分が吸血鬼に同じことをされないよう、森を抜けるしかなかった。
 月夜が出ていく頃、サトゥルヌスたちは黒い薔薇を手に入れていた。
「やった、やった! やっと見つかったよ! 凄く、嬉しくて涙が出そうだよ……」
「おめでとう」
 目の端に涙を浮かんで微笑むサトゥルヌスに昴はそう声をかけ、自らも秦のために漆黒の薔薇を摘んだ。
 そして、彼ら襲われた者たちで、薔薇を望む者たちもその手に薔薇を持ち、帰って行ったのだった。