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第一章 黒薔薇の森へ 6
それぞれに森を進んだ生徒たちは、木々の連なりが切れ開けた場所で互いに出会うことになった。
森の中では気づかなかったが、どうやらかなり時間は経ってしまったようで、日は落ちかけていた。
霧を抜けて微かに差し込む夕日が照らすその広場に、捜し求めていたものが淡く浮かび上がって見えた。
光を飲み込む漆黒の花びら、そして妖しい夢に誘うかのような、濃厚な甘い香り。
「漆黒の薔薇……」
誰ともなしにそうつぶやく声が漏れた。
人の手によって手入れがされているような気配はないが、群生し咲き乱れる様はどこかの薔薇園にでも迷い込んだのではないかと錯覚させる。
多くの者が、他に試練を受けている者のためと、一輪だけ摘んで帰ろうと考えていたが、そのような気遣いが必要なさそうなほど咲いている。
穹などは少しでも多く持ち帰ろうと、花束のようなものを作り抱えられるだけ抱えていた。
クリスは霞から見えないようにそっと、一本だけと手を伸ばしたところでトゲに触れてしまった。
「痛っ」
見ると結構深く傷がついてしまい、一筋の赤いものが流れ落ちる。
「絆創膏ならありますよ」
大晶はさりげなくそれを取り出して傷付いた指を手早く手当てした。
自身が摘んだ薔薇はすでにトゲの先を切り落としてある。
他の者たちにもトゲには気をつけるように告げつつ、大晶は絆創膏が必要になった者に手当てを施して回った。
「だ、大丈夫でございますか」
クリスの声を聞いて駆けつけた霞に、クリスは無言で黒薔薇を差し出した。
「これは……」
「無理やり男装までさせてごめん。どうしてもプレゼントしたかったのです」
その言葉と、トゲをきちんと処理された黒薔薇を見て、霞は頬をほころばせた。
「これだけ咲いているなら、少し多めに持ち帰っても大丈夫そうですね」
猿左衛門は自身でも持てるだけ摘み、協力を申し出た生徒にも頼んで、「黒薔薇の入手を望みながらも叶えられなかった」生徒たちのために、余裕を持って薔薇を運ぶことにした。
帰還の道中、まだ森で迷っている生徒たちの手助けもできるかもしれない。
特別に事情がある者以外は、共に学舎まで戻ることにした。
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