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合同お見合い会!?

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合同お見合い会!?

リアクション

「どうしてこの合コンに顔を出したかって? そだな……なんかこう、粗野な感じの友達が欲しかったんだよなぁ」
 紅茶の色をした濃い液体をちびちび舐めつつ、ミューレリアは言った。
「粗野か」
 セイリオス・プシリオ(せいりおす・ぷしりお)はまじめな顔で頷いた。
「おうよ。どうにも、百合女にはなかなか、私とデンパの合うヤツがいなくってさ」
「なるほど、肩を並べられる相手ということか……納得できる」
「ところで、あンたもなかなかワイルドっぽいじゃねえの」
 ミューレリアは、丸い氷がひとつ入った、紅茶色の液体を差し出した。
「友達んなろうぜ。まあ、飲めよ」
「……すげえアルコールのにおいがするんだが」
「ひひひ、この会場にはアルコールはねえんだとよ。高碕ってヤツに聞いてみな?」

「ねえ、大丈夫?」
 ぴりりとスパイスの効いた辛口のカレーを、幸せそうに頬張りつつ、ヒカリ・オールドトリック(ひかり・おーるどとりっく)は、顔を真っ赤にしてしゃがみこんだセイリオスに声をかけた。
「……うう、大丈夫、大丈夫だ。なんか食べればすぐ……ふう」
 セイリオスはよたよたと立ち上がって、手近にあったバナナを手に取った。
「大丈夫? なんか調子悪そうだけど」
「いいや、いいや、かけがえのない友情を得るために、ちょっといろいろ危険な橋をわたっただけだ。問題ない」
 言いつつ、セイリオスはバナナをチョコの噴水に突っ込んだ。
「ところで、あんたはなぜこの合コンに来たんだ?」
「何でそんなことを聞くの?」
「いいや、志の高そうな面構えだったからさ。オレはパラミタでライバルを探すためにここへ来たからな。……よっと、こんなもんだな」
 言いつつ、セイリオスはたっぷりチョコを絡めたバナナを、慎重に口へ運んだ。
「せっかくパラミタに来たからには、歴史に名を残すような人間になりたい。そのためには、共に切磋琢磨して成長できるライバルは、必要不可欠だろう?」
「そっかそっか、もぐ。うん、それなら、あなたはいい相手に声をかけたと思うよ」
 真っ赤なボルシチをうまそうに飲み干して、ヒカリは肉厚のハムをはさんだサンドイッチに手を伸ばす。
「オレはね、んぐ。会場のお嬢様方をお守りするためにここに来たんだ。やってきた不届きものを追い返せば、百合女のお嬢様がたには感謝される、自分の魔法の腕も試せる。いいことずくめじゃないか。あ、給仕さん、シチュー追加ないのー?」
 瀬蓮たちからは遠く離れたバイキングスペースで、たらふく飲み食いしながら、ヒカリはしれっという。けれどセイリオスは、感心したように頷いた。
「なるほど、だからこうして食いだめしているわけだな? うんうん、腹が減っては戦はできないものなぁ。……オレもな」
 ずい、とヒカリの耳元に口を近づけて、セイリオスはささやいた。
「オレも、この合コンには何か不穏なものがあるような気がするんだ。特に高原瀬蓮の周り、見てみろよ。腹に一物抱えたような目をした連中ばかりだ」
「あー、そうかも」
 シチューを待つ間、ウーロン茶でのどを潤しつつ、ヒカリはあいまいに頷いた・
「よし、決めた。騒ぎが起きたらお前と動こう。二人一組(ツーマンセル)なら行動の幅が広がると教官もおっしゃっていたしな。それまでは、お前を見習ってたっぷり、食おう」
「うん、それがいい。あ、給仕さんこっち!」
「あいー。いまもって行きます」
 がっしょ。がっしょ。がっしょ。
 おおよそ生身の人間では出せない足音を響かせながら、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)は、ドラム缶のように大きなシチュー鍋を抱えてきた。
 胴体、腕、そして足。人体において重要だと思われる間接のほとんどを「夏みかん」と書かれたダンボールでホールドされている筐子は、重そうな鍋をぴーんと伸ばした両手で持ち、うまく曲がらない足を動かして、よたよた、がしょがしょ、とヒカリのほうへ向かってきていた。
「うっ、うっ、やばい、けど。こんな、どこに借金取りさんが潜んでいるかわからない場所で、変装を解くわけには行かないわ」
 ぶつぶつつぶやいて自分を落ち着かせ、筐子は一歩一歩、確実に床を踏みしめる。
「さっきも瀬蓮さんのとこで、いかにも借金取りっぽいスーツの人に優しくされたし。うう、あたしはもうだまされないんだからぁ……ふえっ!?」
 ふらっ、と体勢を崩したかと思うと、筐子は前のめりにぐわっと倒れた。特撮のような迫力だった。
 それを、
『あぶない!』
 両脇からセイリオスとヒカリが、そして後ろから、メイド姿の良く似合った朝野 未沙(あさの・みさ)が、グラスが二つ載った銀盆を片手に持ったまま、倒れこむ筐子を見事に支えた。
 だんっ、と鍋だけが床に垂直落下する。
「気をつけろ、それじゃあ受身も取れんだろう」
 セイリオスが筐子をちゃんと立たせてやりながら、あきれたように言う。
「うう、ありがとうございます、親切なミナサン。この筐子の、百万トンもの体重を恐れず支えてくださって……」
「そんなにねーよ。まあなんにせよ、シチュー、ありがとうね」
 落ちたなべの中身を確認しつつ、ヒカリが微笑んだ。
「あー、もう。筐子さんだっけ? そんなお粗末な強化外骨格つけてるからいけないんだよー」
 後ろから筐子を支えた未沙は、ぼむ、ぼむとダンボール製の背中を叩いた。
「なんなら、あたしがなにかオプションつけてあげようか? 羽とか」
 未沙が、自分の背中についた白い羽を指差した。精巧な機械細工でできたそれは、時折ぴこ、ぴことかわいらしく動く。
「ホント!? じゃあワタシ、借金取りがやっつけられるのがいいな!」
「ようし! じゃ背中から大陸間弾道ミサイルが発射できるようにしてあげよう!」
「わーい! それ強いの!? 強いの!?」
「そりゃもう! ゴジラだって粉みじんだよ!」
 ひょいっ、と、片手に持っていた銀盆が軽くなったのに気がついて、未沙は振り返った。
「こんにちは、麗しいお嬢さん。飲み物、いただいてもいいかな?」
 さらさらの黄色い髪に縁取られた、中性的な美形を微笑ませて、柊 カナン(ひいらぎ・かなん)は未沙の手から、銀盆ごとグラスを持ち上げた。
「あ、うん。どーぞ。でも、二つも飲むの?」
「ううん、二つは多いかな。ひとつ飲んでくれるかい?」
 すっと差し出されたグラスを、未沙は反射的に受け取った。
「えっと、それじゃあはじめからひとつだけ取ればよかったんじゃ……」
「だめだよ。二つ取らなきゃ君の仕事が終わらない。お盆を抱えたままじゃ、二人で一緒にグラスを傾けるには邪魔だろう?」
 ちん、とカナンは、自分のグラスと未沙のグラスを軽くぶつけた。置いてきぼりの未沙は、ぱち、ぱちと瞬きを繰り返すばかり。
「くす。どうしたの? きょとんとして」
「楽しそうだな! これぞ合コンって空気だ! 俺も混ぜてくれよ!」
 ぴっと、カナンの手からすばやく横取りしたグラスを一気に乾して、湊が陽気に言った。
 ぴしり、と表情の固まったカナン、流れ出す微妙な空気を、邪気のない湊の微笑が受け流していく。
「キミは……いま僕からいろいろなものを奪っていったよ……?」
「ああ、飲み物か? すまん、ローグなもんで手癖がちょっとな。代わりの飲み物、もらって来るか?」
「さっきから、キミは僕に挑戦しているのかな……?」
「挑戦? ああ、なるほど、ケンカはイベントの華ってやつか。いいぜ、受けて立とう!」
 言って、湊はポケットから『合コン完全攻略ガイドブック』なる本を取り出した。
「コイツによれば、合コンにおける勝負とは、酒の飲み比べだとある。こいつで勝負だ」
「ふ……ふふふ……。あくまでもしらばっくれて僕に絡むというなら面白い! 受けて立とうじゃないか!」
 勢いづいたカナンを、セイリオス、ヒカリ、筐子、未沙がのんびり眺めていた。未沙にいたっては、やれやれーと手を叩いてさえいる。
「そこの給仕! ワインを持ってきてくれ! 初恋のように甘酸っぱい赤ワインをな!」
 通りがかった給仕はカナンのほうを振り向くや、その腕をがっと掴んだ。
「学生参加の合コンに、アルコールがあるわきゃないでしょ? お・兄・ちゃん?」
 はっと給仕の顔を見て、カナンはさあっと青ざめた。サファイアのような青い瞳でカナンを睨んだ日奈森 優菜(ひなもり・ゆうな)は、カナンの腕を放し、代わりに耳たぶをぎゅっとつかんで、湊たちに向き直る。
「なんかその、お兄ちゃんがなんか勝手なことしてごめんなさい! なんか責任を取らなくちゃいけなくなったときは、こちらまで!」
 優菜は、自分のメールアドレスを記した名刺を、その場にいた五人に手渡すと、カナンの耳をぎゅーっと握ったまま引きずっていく。
「いて、いててっ、ユウごめん、勘弁して!」
「いーえダメです。合コンだからって大目に見たのがいけなかったんだわ! お兄ちゃんにはこれからずーっと、私の隣でウエイターやっててもらいますからね!」
「えー、せっかくの合コンがぁー」
「情けない声出さないの!」