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第4章 その言霊狙う怪しき追跡者

闇に身を隠すために黒衣を着用し、ホウキに乗ったアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は、小豆を洗うような音を立てながらターゲットを探す。
丁度良さそうな対象を発見してニヤリと笑う。
デートのノリで参加したカルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)の傍には、キョロキョロと建物の様子を見回しているパートナーのアデーレ・バルフェット(あでーれ・ばるふぇっと)の姿があった。
「(あんなに辺りを見て怖いのか?)」
カルナスはアデーレが驚いて抱きついてくれることを期待していると、周囲にアルツールが魔法で作りだした火の玉が発生する。
「小豆磨いで食おうか…?それとも……人の子を生け獲って食らおうか…ククク」
「誰だ…!?」
周囲を見渡しても不気味に笑う声とショキショキという音だけしかきこえない。
しばらく彼らの周囲を飛び回っていたが、次なるターゲットを見つけたアルツールは音を立てたまま遠ざかっていく。
「聞こえなくなったな」
「―…怖かったの?」
「まっまさか、そんなわけないだろ」
見上げて言うアデーレに、誤解されたと思ったカルナスは慌ててた表情をして首を左右に振る。
なんとか挽回しようと考えているカルナスの近くに、2人を鋭い眼光で睨む存在が潜んでいた。
「可愛い女の子とイチャイチャして…こうしてやる!」
嫉妬の炎に燃えるエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)は、事前に仕掛けたトラップを2人に向けて発動する。
エドワードがボタンをポチッと押すと、古びた木箱の中から物理室にあった人型の骸骨の頭を飛び出す。
天井にバウンドして骸骨の口にアデーレの手がスッポリとはまってしまう。
驚く様子はなかったが何事かと1回瞬きをすると、骸骨の口が少女の手に噛みついた。
慌ててカルナスが外そうとするけれどなかなか取れない。
「フッフフフ……慌てるがいい…。対処が遅ければ遅いほど女子の心は離れていくのです。さて次なる手を使いますか」
再びエドワードがボタンを押すと、骸骨の目から数匹のトカゲが現れた。
「きゃあぁあー、爬虫類いやぁああー!早くとってとってー!」
悲鳴を上げながらアデーレは腕をブンブンと振り回す。
スッポーンと手から離れた骸骨はカルナスの足元に転がるとケタケタと笑う。
トカゲから逃げるように走るアデーレの後を、慌ててカルナスが追っていく。
コントのような光景を物陰からこっそり眺めていた羽入 勇(はにゅう・いさみ)がカメラのシャッターをきる。
「いい写真とれましたか?」
「うん、撮れたよ。さすがは魔法学校だね、面白い教材があるみたいだね」
嬉しそうに言う勇に、ラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)はニコっと微笑む。
「怪談チックなスクープ写真がとれてよかったですね」
「トラップばっかりで怖いけど、できるだけ沢山撮るぞー」
カメラを片手に次なるスクープを探しに行く勇の傍に、ライフが寄り添うように歩く。
それは撮ることに夢中になっているパートナーが、うっかりトラップにひっかからないように守るためだった。




「うーん…一緒に行ってくれる人が誰もおりません…いいかげん1人は怖いですなぁ。エンデュア…エンデュア…エンデュア」
気を紛らせるためか、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)はブツブツとエンデュアと何度も唱え始める。
ガサガサッと1階に下る階段近くの倉庫の方で物音が聞こえてくる。
白い薄手のシーツを頭から被った東雲 えいる(しののめ・えいる)がユラユラとした足取りでセオボルトへ近寄る。
「(驚かされるのは苦手ですけど、こっちの方なら平気です♪)」
えいるの震えるような笑い声は周囲の冷えた空気に振動する。
より恐怖感が増大され、辺りに叫び声を響かせてセオボルトは大広間の方へ駆け込んだ。
「何か聞こえなかった!?」
恐怖に出会ったような叫び声に驚いたアベリア・エルム(あべりあ・えるむ)が、懐中電灯を握り締めてビクッと身を震わせる。
「しかもさっきからマネキンの足が転がってるし…」
血糊のついた靴下を履かされているマネキンの足に目をやりながら小声で言う。
「さぁどうだろうね」
あからさまにトラップが設置された箇所に興味深々になっているトワ・アイオニー(とわ・あいおにー)は簡単な返事を返す。
簡単に切れそうなワイヤーを、トワがプチッと素手で切ってしまう。
「うあぁあ!」
トラップの発動によってナイフがアベリアの眼前を通過して壁に突き刺さった。
「ごっごめんよ。もうどっかいじって罠を発動させたりしないから」
しくしくと泣き出してしまうアベリアに、トワはオロオロしながらも謝る。
「ぅうっ、その言葉100回目。叫びカウンターがいっぱい回ってるじゃないか」
アベリアが涙を拭っていると、水が落ちる音が聞こえてきた。
恐る恐る音が聞こえてきた方へ視線を向ける。
そこには真っ赤な鮮血のついたボロボロの白いワンピースを着た戸隠 梓(とがくし・あずさ)が現れた。
「(女の子の方はだいぶ怖がりさんのようですね)」
頭は水に濡れたような長い黒髪のウイッグを被っている。
ギロリと梓は睨むような視線を2人へ向けた。
ナタを両手で持ち上げて1歩前へ出たかと思うと、突然足を速めてアベリアたちに近寄る。
ガリガリッ
梓は耐魔補正された傷のつきにくい壁にナタの刃を擦りつけながら追う。
絶叫しながら大広間の方へ逃げ込むアベリアたちに、ぽつりと小さな声で謝りの言葉を言って見送った。
逃げ込んだ先には男子生徒が1人いた。
中央には配置されたマネキンが1体置かれている。
「あぁ良かった。やっと人に会えた」
ゴールに向かっている人と遭遇することができず、1人で行動を余儀なくされていたセオボルトがアベリアとトワに声をかけてきた。
「凄いねー!1人なんて僕には絶対無理だよー」
怖がり同士で語り合う傍で、トワは血まみれのマネキンに興味深々だった。
トワがマネキンを見つめていると、腕をピクピクと動かす。
「―…痛い、痛いですわー…」
床に倒れ込んだマネキンと思われた荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、ズルズルと這いながら3人へ近寄る。
「どこ…どこに…わたくしの足はどこへいってしまったのかしらぁあああ!!」
さけペタペタと血糊のついた両手で這いながら彼らを追う。
「うぁあー!捕まったら持っていかれるー!!」
セオボルトが叫び声を上げると、アベリアとトワもその場から逃れるために全力で走り出した。