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第三章 クリスタルティアーズのカキ氷を

「──それじゃあ、いっただっきま〜す!」

 用意されたカキ氷を口にして、皆の顔がほころんだ。
「う〜ん、冷たくて美味しいですわ〜。このキーンと来るのがたまらないです」
 さけは、頬に手を当てて悶えた。
 樹が不思議な顔をする。
「でも、なんだろう? 普通のカキ氷とちょっと違う」
 隣に座っている光司も同じような顔をして氷を見つめている。
「口溶けがすごく不思議だ……」
「そうそう、それです! 氷の粒もちょっとだけ残ってるし噛み砕いた瞬間にそれが弾けて」
 ロザリンドが興奮しながら言う。
「すごい新触感!」
「本当においしいです〜」
 サーリアが心の底からの声を出した。

 身長3メートルの魅玖が、大きな丼に、ほとんど砕いていないクリスタルティアーズを山盛りに入れて食べている。
 シロップはキウイフルーツ。
「甘くておいし……わぁ、硬いのに噛んだとたんにしゃりっと弾けるよこれ!?」
 タネ子の表皮ですら傷つけられなかった氷を、歯で砕ける魅玖は、かなりの強者なのかもしれない。
「歯は大丈夫? もしあれだったらボクが空手演舞でよくやる氷割りをしてあげるよ」
 真琴が魅玖に話しかけた。
「ありがとう〜」
「でもこの氷、本当に不思議。もう食べられないかもしれないと思うと、残念です」
 口の中の感触を何度もハルカは確認した。
 翠が器を持ち上げて、ガラスの器を光にかざしてみる。
「うん。果物のシロップも良い味出してます。……食べさせたかった…な」
「え? 何か言いました?」
「あ、ううん!」
 一瞬頭に浮かんだ誰かの顔をかき消すように、翠は首を横に振った。
(来たら来たでナンパするし……やっぱりこれで良かったです)
 自分に納得させるように、大きく頷いた。

「これは……皆が頑張って取ってきてくれた物だよね」
 みことがそう言うと、フレアが静かに首を振る。
「いいえ、それは違います。これは皆で作った皆のかき氷です。友情の結晶」
「そうだね」
「いやー皆で努力して美味しいものを食べるって最高だよね! きっとこの味は皆が協力したから出る味なんだよ」
 勇が、うんうんと頷きながら氷を美味しそうに食べる。
「そうですね、これは皆が協力しで出来た証。滅多に味わえるものじゃありませんよ」
 隣でエドワードも賛同した。
「美味しいねぇ……あっ、その食べてる表情良いね! 一枚撮らせて!」
「あぁ、私も取材させて下さい!」
「え?」
 勇のカメラとカメラとエドワードの言葉に、みんな一瞬警戒の色を見せたが。
「はいは〜い、撮ってちょうだ〜い。取材もバンバン受け付けるよ〜〜〜」
 女の子の間にわざわざ入り込んで満面の笑顔を作る樹を見て、気にすることでもないのかと思った。
「樹〜〜〜〜〜また〜〜〜」
「ほらほら、光司も早く」
 知能犯なのか、光司を隣に引き寄せて、機嫌を瞬時に回復させる。
「食べてる瞬間が欲しかったんだけど、これもこれでまぁいっか」
 勇はシャッターを連続して切った。

「──抹茶味もあるよ〜誰か欲しい人いる〜?」
 茶道部を尋ねて抹茶を用意したケイは、小豆の無い抹茶味のカキ氷を作って、皆の所を回った。
「あ、僕、食べたいです〜」
 葉月が手をあげる。
「実は宇治金時食べたかったんですよ」
「小豆は残念ながら用意できなかったけどね」
「十分です。──あっ!」
 横にいたミーナが、すくっていた氷を先に口の中へ入れてしまった。
「うん、美味い」
「もう〜先に食べないでよ〜……うわ、美味しい!」
「良かった」
 ケイは笑顔を浮かべた。

「こちらはいかがですか〜? 美味しいですよ〜」
 ヴァーナーは、カキ氷にチョコやポッキーでトッピングして、中々そそられるものを持って歩き回っていた。
 まだ食べていない人はいないか、四方に意識を張り巡らせてチェックをする。
 果物もジュースにするだけでなくて、フルーツ盛りを作ったり、小さく切ってかき氷に可愛く飾ったりした。
「うわぁ〜それいいなぁ」
 晃代が目を輝かす。
「どうぞ、食べてください」
「ありがとう〜。イリスも、もらいなよ」
「分かったわ……あら? ところで、あなたはもう食べたの?」
「食べてないなら、一緒に食べようよ〜」
「え、いえ、あの……」
 晃代が強引にヴァーナーを椅子に座らせ、そして近くで忙しく動き回っていた琉那も引っ張って、隣に座らせた。
「え? え? え?」
「仕事もいいけど、溶ける前に食べなきゃ。ねっ」
 かき氷を前に置かれて、しばらく二人は黙ってそれを眺めていたが。
 ゆっくり口に運んで行って、冷たさを味わった。
「美味しい」
 ヴァーナーが呟く。
「すごい、不思議な感覚です!」
 琉那も驚きの声をあげた。
「ねっ。いっぱい食べようねっ」
 晃代が満面の笑みを向けた。

 隣のテーブルでは、野々が、レモンシロップで作った甘さ控えめのカキ氷を食べていた。
「ちょっと酸っぱかったかかしら? でも美味しい〜」
「私の作ったブルーハワイ、人気みたいだ」
 ミューレリアは空になりそうなシロップの瓶を見ながら、微笑んだ。
「天の恵みに感謝…っと。頂きまっ」
 レイディスは、ありがたく目の前のカキ氷を頂戴した。あまりにも美味しくて、一気に平らげてしまうと……
「うっ」
 頭痛が始まった。
(カキ氷は急いで食べるものじゃないな)
「まだまだあるから、頭痛起こしてる暇は無いぜ」
 ミューレリアの言葉に、レイディスは苦笑しながら大きく頷いた。

「さて。ちょっと涼んだことですし、バックミュージックでもかけますか」
「そうですね」
 ウィングと光が目で合図を交わす。
 ファティとアイシアも立ち上がり、楽器の用意をする。
 準備の出来た4人は皆が見つめる中、ゆっくりと演奏を始めた。風光明媚なヴァイシャリーをイメージした曲。
「……綺麗な旋律」
 繭が目を瞑って曲を楽しむ。
「たまにはこんなのも良いですね」
 イーオンとアルゲオも音に聞き入る。
「今の気分にピッタリだ」
「カキ氷を食べながら生音が聞けるって、なんて贅沢なんでしょう」
「穏やかな気分になれるね」
 そんな風に音楽を楽しんでいる横で。
「アルフィエル」
「ん? 何、イェルナ」
「あ〜〜ん」
「ちょ、ちょっとこんな所で」
「あ〜ん」
 皆が音楽に聞き入っているのを確認して、スプーンを急いで口の中に入れる。
 誰も見ていないからこそ出来る恥ずかしい芸当。
「ふふふ」
「へへ」
 だが。
 周りはそんなアツアツな二人を、しっかり盗み見していたのであった。

「──エレン、エレン! あたしが取ってきて作った苺のシロップのカキ氷だよ、食べて〜」
「あ、ありがとうございます」
 エレンはくしゃくしゃの笑顔を向ける葵に、微笑みかける。
「私のために頑張って下さったんですね」
 葵は、えへへと照れた笑いをした。
「これがカキ氷って言うんだね。すっごい美味しいね」
「はい」
 喉元まで出かかった、あなたと一緒だから──という言葉をエレンは飲み込んだ。

「……全種類のシロップをかけて食べてみるんだ〜」
 加奈は楽しそうにシロップを氷の上にかけている。
「メリナは、果物全部をミックスしてシロップを作るのだ」
 机の上に転がっている果物を集めて少しずつ、メリナはミキサーに放り込んでいった。
 その横で、柚子は果汁100%の絞りたてジュースを作っている。
「果物100%のジュースってかなり贅沢どすなぁ」
「こっちも飲む?」
 メリナがミキサーの中のジュースを指差す。
「おおきにぃ〜」
 柚子は小さく微笑んだ。

 ミルディアはこっそり作ったジャムを真奈のカキ氷の上にかけた。
「え?」
「人数分ないから内緒ね。すっごく美味しくなるよ」
「どれどれ……あ。本当ですねぇ〜、すごい発見ですわ〜」
「良かった喜んでくれて。作ったかいがあったね」

 イレブンとカッティが、シロップの置いてあるテーブル前で唸っていた。
「これと、これと、これを入れたら〜」
「こちらなんてどうですか?」
 どちらが美味しい物を作れるかの勝負をしていたはずが、いつの間にか一緒に仲良く作りあっていた。
「美味いな」
「そうですね」
 二人の間には、入れる隙間が無かった。

「オリヴィア、メアリ。腕は大丈夫?」
 円が尋ねた。
「なんとか……」
「大丈夫〜」
 オリヴィアとメアリは、微妙な表情を浮かべていたが。
「甘いわ〜、いつかモヤス、円ー早くおかわりー」
 カキ氷のお陰で、機嫌はすっかり直ったらしい。
「凜ーかき氷わたしもつくるーガリガリする〜」
 凜がメアリを抱きかかえながらの作業を始めた。
 カキ氷機から新しく零れ落ちる氷の欠片は、とても綺麗だった。

「──ヒール、ありがとね」
 マリカが突然礼を言った。
「そんな……当然のことをしただけで」
「わたくしからもお礼を言いますわ、ありがとうございます」
 テレサが頭を下げる。
「回復魔法が使えるって、すごいよね。本当に助かった」
 ミニファは顔を真っ赤にした。
「あれ? もしかして照れてる? ごめん、ごめん。いじめちゃったかな」
 マリカは声をたてて笑った。

「……あ〜あ、浴衣きたかったなぁ」
 セシリアが小さく呟いた。
「そうですねぇ、浴衣は夏の風物詩ですからね。カキ氷と浴衣と団扇。最高の組合せですよね〜」
 メイベルが目を瞑ってうっとりとする。
「あ〜あ、浴衣きたかったなぁ。残念」
「私も残念です」
「え?」
「セシリアの浴衣姿、きっと可愛かったでしょうね。見れないのは、口惜しいです」
「な、何言ってんだよ」
 メイベルは赤くなってそっぽを向くセシリアがいとおしくてたまらなかった。

「津波──クーラーボックス、借りてきましたわ」
「え? ナトレア、だって許可が取れなかったって……」
「他の皆には秘密ですよ。津波があまりにも一生懸命だったので、少しでもお役に立てればと思い……でもクーラーボックスなんで、どのくらいもつかは分かりませんが」
「ううん、十分! ナトレア、本当にありがとう!」
「津波が良い行いをしようとしているんです。それに対して、助力は惜しみませんわ。さぁ、溶けないうちに少しでも多くのクリスタルティアーズを集めましょう!」
「うん!」
 二人は食べかけのかき氷をそのままにして、駆け出した。