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血みどろの聖女

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血みどろの聖女

リアクション


Scene1
1-1

 キマクにあるとある酒場。
 そのカウンター席近くにベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は居た。
「言いたいことはわかる……が!」
「わかってる! でも何でこんな格好で……」
「生きるためだ……笑顔で行ってこいっ!」
 ベアは、着なれないメイド服を恥ずかしがるマナを酒を酌み交わし談笑する男たちのもとへと送りだしたベアは、カウンター席に座ると酒のグラスを傾けはじめた。
「それもこれも……マナ、おまえが拾ってきたヤギが俺の全財産食っちまったからなんだ……」
 そのために実入りの良いバイトとして請け負ったのが、この護衛の仕事である。


「ところで、女衒(ぜげん)って何?」
「ふん……女達を集めてきては遊郭に売る仲介人ってやつだよ」
 ベアの問いかけに、カウンターの中で働いているかなりふくよかで化粧の派手な店の女将が答えた。
「ふーん……ってことは、この近隣には、そういう店があるんだな」
「そうだよ。アンタも用があるなら、紹介してあげるよ」
 女将のウインクにベアは苦笑いを返し、自分達が護衛する対象に目を向けた。
 そこではガラの悪そうな男たちが集まり下品な笑い声を上げながら酒を飲み大騒ぎをしている。
 その中心に座し周囲に女を侍らせている大男がパラ実四天王のひとり女衒のゴンサロだ。
「グヒャハッハッハッ! こん前の女は高く売れたなぁ、オイ!」
「ギャハハハハ!! さっすが親分、女目利きは最高でさぁ! 」
(てか、女を食いものにするなんて、サイテー!!)
 そんな男たちの酌の相手をしているマナだが内心面白くない。
「あれ? なんか外がうるさいなぁ……」

ゴホッ!ゴホゴホッ!ゲホホ!
ゴハハハ!

 バイクの爆音?
 とりあえずそれが店の前に止まったようだ。


どがん!!


 勢いよく扉が蹴破られ、王大鋸が飛び込んできて店内を見回す。
 そして、ゴンサロを見つけるとズカズカと近づいた。
「てめぇらか、女を食いものにしているクソ外道は!」
 王がゴンサロ達の木のテーブルにドン! と足を載せて威勢良く吼える。
「なんだぁ、チェーンソー野郎? 
女がどうした? これまでさんざん食いものにしてやったがよ!」
 ゴンサロとその配下の屈強な守護天使たちが大笑いを始める。
 心底人をバカにしたげひた笑いだ。
 王は、そんなゴンサロたちの様子に、かれらがマレーナを慰み者にした犯人と断定した。
「しゃらくせぇ! ナラカへ落としてやらぁ!」
「来いや、モーニングスターでドタマかち割ったる!」

ドカン!

 王がテーブルを蹴り上げたのが合図だったのか、店内は上へ下への大騒ぎの乱闘が始まった。


1-2

「ゴンサロ一家と王ちゃんが戦争始めたぞ!」
 王大鋸とゴンサロ一家の戦いの模様は、瞬く間にキマク中に広がった。
 広がったついでに戦いの最終勝者が新たな四天王入りという話に変わっていた。
 そして、それを聞いた全国の不良たちがゴンサロの酒場に集まってくるようだ。
「……早いナ」
 その集まり方に王のパートナーシー・イー(しー・いー)は感心する。
 好事門を出でず、悪事千里を行く……ともいうので。
 とにかく、戦いの火蓋は切って落とされたのだ。


「この戦争、勝てば四天王入りじゃーっ!」
「よっしゃぁ! おっさんめっちゃ頑張るぜ!!」
 金髪オールパックの陽気な巨漢ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)がアサルトカービンを構える。
「ここは通さないぜぇ〜ヒック」
 ラルクの前に立ちはだかるのは、ベロベロに酔っ払ったゴンサロの用心棒(バイト)のベア・ヘルロッドだ。
「へ……そんな様子で俺に勝てるとおもってるのかよ!」
 ラルクがアサルトカービンのグリップでベアをぶん殴る。
「ってぇ……! このヤロウ!! さっき思いついた技を見せてやるぜ!」
 ベアは酒(アルコール度数高め)を口に含み「おがぶぇあ!」とかなんとか言いながら火を吹こうとして大失敗。自らが火達磨となって転げまわる。
「……(汗)。おっと、遊んでる場合じゃねぇぜ」
ラルクは気を取り直すと、周囲を取り囲む不良やらゴロツキたちに向かってスプレーショットを撃ちまくる。


 プラチナブロンドのポニーテールも愛らしいミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は三下野郎を相手に戦っていた。
「あ、あんなところにUFOが……」
「え?」
「うらぁ!!」
 相手が気をそらした隙にランスでぶん殴る。
 地味だが確実に相手の戦力を奪う戦法だ。
「ミュウ、うしろ!」
 パートナーのバニラ・バージェヴィン(ばにら・ばーじぇう゛ぃん)が叫び、ミューレリアの背後の敵をカルスノウトで切りつけた。
「バニラ、さんきゅ」
「ミュウ、気をぬいちゃだめだよ。
でも、なんで敵の大将狙いじゃないの? 
四天王になりたいならゴンサロ倒さなきゃだめなんじゃないの?」
 バニラの問いかけにミューレリアはにやりと笑った。
「だって、はじめから飛ばしたら、最後まで残れないかもしれないじゃないか。最後に残った者が四天王なんだぜ?」
 ミューレリアの答えにバニラはなるほどと納得する。それなら自分はパートナーを最後まで勝ち残れるようにサポートするだけだ。
 ふたりはたがいに顔を見合わせ頷き合うと、新たな敵に戦いを挑んでいった。


「マレーナちゃんはきっと口では言えないような過激なことをされたに違いないわ!」
 長い黒髪を振り乱し雨宮 千代(あまみや・ちよ)は憤る。
「私だってマレーナちゃんみたいな可愛い子と洒落たホテルのベットの上で、
あーんなことやこーんなこといっぱいしたいのに! 
あんな小悪党に先を越されるなんて……」
 後悔の念が絶えない。もっと早くマレーナと知り合えていれば、むざむざゴンサロなんかの手に渡さなかったものを……
 千代は乱闘する人々の間をかいくぐり目指すゴンサロの前に躍り出た。
「許さない赦さないユルサナイ、ころすコロス殺す!!」
 鬼の形相で大型チェーンソーを振りかぶる。
 しかし、うなるチェーンソーの振動に攻撃の手がブレ、狙いが思うように定まらず、ゴンサロを前にしながら彼の守護天使の屈強な腕に張り飛ばされた。
 千代が退けられたその一瞬の隙を突くように遊佐 祥子(ゆさ・しょうこ)がリターニングタガーを投げつける。
 が、それを軽くかわしたゴンサロの大きな手が祥子を掴み上げた。
「グフフ……威勢のいい姉ちゃんじゃのぅ?!」
「クソが……ぶっ飛ばしてくれる!」
 どうしてやろうかと舌なめずりするゴンサロを、身体ごと掴み上げられ身動きが取れない状況にもかかわらず祥子がキツイ目でにらみ返す。
 そんな反抗的な態度などまったく意に介した様子もなく、ゴンサロは祥子の衣類を取り払おうと太い指をかけた。
 周囲のゴロツキたちからも、その先の展開を期待する口笛や歓声が沸きあがる。
「どーんな下着をつけているのかのぉ〜 ゲハゲハ」
「や、やめろ! バカ!! 殺してやる!」


ギュィ―――――――ン


 エロ親父と祥子の間に甲高い機械音をたてながらチェーンソーがぬっと現れた。
 そのまま、祥子を掴む腕に向かって振り下ろされるが、それは分厚い金属の籠手に阻まれる。
「ちっ、しくじったか……」
「なんじゃぁ! まだ打たれ足りなかったんかい、ワレ!!」
 殴られ傷が生々しい王が悔しそうに舌打ちし、すぐに気を取り直して再びチェーンソーを振り上げるが、掴んでいた祥子を放り投げ、すばやくモーニングスターを手にしたゴンサロが反撃する。
「俺様に傷つけようなんざ、百年早いんじゃぁ、ボケェ!!」


ドカ! バキ! グハッ!


 お楽しみを邪魔された怒りのゴンサロと配下のゴロツキたちから一斉攻撃を受ける王。
 それを助けようと不良たちが乱入し、さらに乱闘は混迷を極めていく。
 そんな中を伊達 恭之郎(だて・きょうしろう)は、得意のケンカ殺法で暴れまくる。
 その背後を守るのは純白のドレスを翻し戦うパートナーの天流女 八斗(あまるめ・やと)だ。
(恭之郎が四天王を目指すなら、ボクは全力でサポートするよ!)
 八斗は恭之郎に背中を任せられたことを嬉しく思う。
 彼の傷をヒールで治し、背後から近づく敵をメイスでぶん殴る。
「……恭之郎、どこ見てるの?」
 ふと気がつくと、恭之郎は誰かを目で追っていた。
 八斗がその視線を追いかけると、そこには血まみれでボロボロの衣装を着たマレーナが不安そうな表情でたたずんでいるのが見えた。
「キレイなお姉さんは! 大好きですっ!」
 恭之郎はキメゼリフを叫びながら、ゴンサロ配下の守護天使たちに向かってリターニングダガーを投げ、近づく敵にはケンカ殺法と攻撃を続ける。
 戦いの中、恭之郎のギラついた四白眼とマレーナの黒目がちな瞳が一瞬合い、運命を感じた恭之郎がやたらさわやかに白い歯を輝かせマレーナに笑顔を送る……
 さすがの八斗も恭之郎の目的が四天王よりマレーナだということに気付く。
「恭之郎〜!!!!」
 八斗のメイスが恭之郎に炸裂した。


 マレーナに目を奪われているのは恭之郎ばかりではない。
 永夷 零(ながい・ぜろ)もそのひとりである。
「ゴクリ、綺麗な人だな……」
 その視線はマレーナの胸に釘づけだ。
 そんな零の様子にパートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)はぶんムクレている。
「零、ボクだってあの子と似たような格好してるのに!!」
「な、なに言ってるんだ? おわっ?」
 どうして自分を見ないのか、何が違うのかと噛み付きはじめたルナは、混乱する酒場の空気にあてられたのかカルスノウトを振り回す。
「よせ、危ないじゃないか! つるぺたなのがそんなに嫌か! 結構需要があるらしいぞ!」
「なによ、なによ! 零のばかぁ!!」
 剣を振り回すルナを避けるために、零は側に落ちていた鉄パイプを構えた。
 それがルナの神経を逆なでし激昂させる。
 戦いは、始まったばかりだ。


2-3

「ど、どうしましょう……私のせいで戦いになってしまいましたわ……」
「この戦いは、貴公のせいではないでしょう」
 楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)は可哀そうなくらいにオロオロしているマレーナを慰めていた。
「ちょっとキミ……」
「きゃぁ!?」
「な、なんですかな?」
 いつの間に近くに来たのか{SFM0000540#ハンドル し〜ふ}が、マレーナの背後にピッタリと寄り添うように立っていた。
 マレーナを護衛するつもりのフロンティーガが、思わずクロー状の右手をし〜ふに突きつけるが、彼はそんなことは意に介した様子もなくマレーナへの質問を続ける。
「この騒ぎの原因はキミのようですが、いったいどうしたというのですか?」
「それは私も聞かせてもらいたいです」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が口を挟む。
 岩造曰く、なぜ王大鋸とゴンサロ一家がこんな争いをしているのか教えてくれというのだが……
「彼女に非があるとは思えませんが」
 とフロンティーガ。
 マレーナについて、血みどろになりながら傷ついている様子のないなど、不審な点もあるが、少なくとも現段階の戦いの主題『最終勝者が新たな四天王』にマレーナは関係ない。


「本当にそうなのでしょうか?」
「それはどういう意味ですかな?」
「なぜ、この子がパートナーのドージェと一緒にいないのか」
 岩造のパートナーのフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)がマレーナを見て疑問に思っていたことを口にする。
「8年前、主のドージェと共に世界中を争っているあなたは、なぜ今となって戦いを止めようとする、答えろ!!!!!」
「……」
 フェイトは言葉を荒げ、マレーナの真意を探るように見つめる。
 か、マレーナは困惑の表情を浮かべるだけである。
「私はただ波羅蜜多実業高等学校の前で、ドージェ様をお待ちしていただけですわ……」
 それ以外の理由はまったくない。
 彼らがこのような戦いをしている理由は、マレーナが教えて欲しいくらいだ。
「でも……この戦いが止められるのなら、止めて欲しいですわ」
 この争いが自分のせいだろうが、そうでなかろうが、争いを止めて欲しい気持ちは本心だ。
 マレーナの意思を確認すると、岩造はフェイトを促し、トランジスタメガホンを取り出すと争いを続ける連中に向かって呼びかけ始めた。


「戦いをいますぐにやめて大人しくしなさい」


ドカ! バキ! グハッ! ゲホ!


 岩造たちが何度もメガホンをとるが、戦いは止まるどころかエスカレートするばかりのようだ。