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リアクション
メインステージに集う人々
そんな騒ぎの中も、着々と準備が進められているメインステージ。
ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は自身が扱うドラムを運び込み、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)もまた、アンプなどの接続が終わったようだ。
「まったく、くだらねぇことをする奴らもいたもんだな」
黙々と作業をしていたところで、嫌でも聞こえてきてしまう騒ぎ。レイディスがあきれ顔で見回せば、周りの生徒達にも不安は伝染してしまったのか、表情は暗い。
「祭はこれからだっていうのによぉ……いくぜてめぇらっ!!」
ナガンが激しくドラムを叩き始めると、暗い顔をしていた生徒たちは驚いて顔を上げ始める。
続いて、ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)がベースで低音を響かせる。
いつもは整えられた髪に凛々しい表情で、騎士らしい真面目な印象を受けるというのに、今日はひと味違っていた。
髪はザンバラ、顔に赤い稲妻のペイント、黒のレザージャケットにズボンという風貌で、普段の顔はどこにもない。
リズムが整うのを見計らったように、レイディスが小型飛空挺をホバリングさせた。
「ハッピーかぁ、お前らぁ! そうじゃねぇなら聴きやがれぇぇぇ!!」
そう叫び、ギターをかき鳴らす姿は、黒スーツを素肌に直接着て、ボサボサの髪で目元が隠れるようにしてあるから余計に普段の幼さを上手く隠して大人びた格好良さが増している気がする。
五条 武(ごじょう・たける)もまた、同じパートとして負けじとギターを弾く。
黒い細身のボンテージパンツ、黒タンクトップ右腕と顔の右半分に黒い炎のボディペイントでアピールをすれば、ギター同士の小さな戦いのように演奏も激しくなっていく。
そんなワイルドなファッションに身を包んだ美しい人物による演奏。
薔薇の学舎の相応しいような見た目で、今まで耳にすることは少なかったメタルな楽曲に、生徒達は先程の事件など忘れて音楽に乗り始める。
一色 仁(いっしき・じん)のシンセサイザーによってメロディが奏でられる。
目を閉じて演奏する様は優雅にさえ感じるのに、袖が演奏の邪魔になるのか上半身裸の上に黒革のベスト、黒いパンツに派手な銀のクロスのネックレスをジャラジャラつけて、優雅とはかけ離れた風貌だ。
さらに藍澤 黎(あいざわ・れい)がエレキバイオリンでメンバーをあおるように早弾きを始めるが、これも普段の彼ならば穏やかな曲を奏でるイメージがあるのに、目の前の姿は真逆だった。
インナーは真っ黒、ジャケットとズボンは白い燕尾服で顔は白塗り。アイラインと唇は黒くした化粧で地顔を隠し、シルバーアクセのチョーカーといった派手な風貌で、どのメンバーもこのステージにかける意気込みが強いことが見て取れる。
そうして曲の勢いがついたとき、やっと中央に立つクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が口を開く。
「Rebellion……メタルを聞いて、思いっきり暴れて発散すればいいっ!」
パイクつき首輪に真っ白のインナーに真っ黒の燕尾服。どうやら黎と色違いの衣装に、白く塗った肌に毒々しい紫色のきついアイシャドーと口紅という、いつもの大人しそうな風貌を隠した格好に、彼と同じ薔薇学生は自分の目を疑った。
「屋台制覇? 仲良く企画? いちゃいちゃデート? ミンナミンナクダラネェ! オレタチノウタヲキケェ!」
歓声が沸き起こる中、歌い始めたクライス。独特の歌詞と曲調に驚きを隠せない生徒もいるようだが、嘲笑うようにナガンがスティックをジャグリングし始める。
「本能ヲブチマケロー! 快楽ニミヲユダネロー!」
いつもはピエロのような格好でいるのに、今日は黒ラバー製の褌とさらし姿という極端に布地が少ない衣装での激しいパフォーマンス。
見ている方がドキドキさせられる中、ヘッドバンキングで客をあおり会場の高揚感を膨らませていく。
「王子っ!」
黎がバイオリンを弾いていた手のスピードを緩めることなくステージの前へ出る。それにクライスが口の端を上げて答えると、マイクスタンドの左側を空けて黎を歓迎した。
「どうしてお前はつながれたまま?」
「さぁ食いちぎれ、その鎖を」
クライスに続いて黎がマイクを奪うかのように割り込んで歌い上げ、顔を見合わせたかと思えば2人は顔を5センチまで近づける。
『だけど首輪はつけておけ お前はお前の飼い主だから』
戸惑っていた観客たちも、やっとノリ方がわかったのか会場の空気が一体化していく。時折混じる黄色い歓声に、ローレンスがガンつけながら会場を見渡した。
「なんだ、その黄色い声は! 俺の演奏の邪魔すんじゃねぇ!!」
テンションが上がってきたのか、中指をおったてながらメインボーカルであるクライスの前に出て、ソロパートを披露する。音楽能力の高さはメンバー1だと噂されていたが、速弾きを行いながら自慢の長髪を振り回す姿にさらなる歓声が沸き上がる。
しかし、そんな声にもべろを出して睨み付けるという荒々しい応え方をし、シャウトでソロパートを終了させた。
そうして観客を魅了すれば、他のメンバーだって大人しくはしていられない。
「てめえら見てるか! 俺たちの生き様! お坊ちゃまには分からねえだろうけどなぁ!」
今まではデス声によるコーラスやシャウトだけのアピールで抑えてきた武が、ギターを高く掲げて高速リフを始める。
レイディスも小型飛空挺から飛び降り、頭を激しく振りながら演奏をするが、斉奏していた演奏を武のソロを邪魔しないような演奏に切り替え、自分は目立たないように演奏を続けた。
「おらっ、よそ見してっと危ねぇぜ!?」
言うが早いか、突如観客席へダイブという予想外の事態にどよめきがあがる。
けれども、ステージ上で響きわたる破壊音にそのどよめきは広がるばかりだ。
――ガキッ!! バキャッ!
「ナマな愛を語るヤツは粛清だ!」
仁の扱っていたキーボードは、少しかじったことのある者なら一見してわかるヴィンテージ物。それを躊躇いもなく破壊していくので、もしかしたらレプリカなのかもしれないが、当然冷静な観客がいない中でそこまで考えが追いつく者もなく唖然とするばかり。
メインボーカルの座を誰にも奪われないように熱唱し続けたクライスもまた、シャウトで締めたあと客席へダイブをする。
興奮冷めやらぬ観客にもみくちゃにされながらも、久しぶりにメタルで一体感を味わえたことに満足したメンバーは、今日限りの再結成をして良かったと心から思うのだった。
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