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美しさを求めて

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美しさを求めて

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プロローグ 貼り紙

 薔薇の学舎の雅やかな門の前を、一人の不審者がうろうろと歩き回っていた。
 麦わら帽子を目深にかぶり、薄汚れた白衣を身に纏った彼の名前はヴラド。きょろきょろと忙しなく周囲を見回し、人目が向けられていないことを精一杯確認すると、彼はおもむろに小脇に抱えたポスターを広げた。

『・あなたの美しさを教えて下さい・

 薔薇の学舎の皆さま。美しさに自信のある諸君。
 その美しさ、私の目に見せ付けて頂きましょう。

 美しい歌声。美しい容姿。美しい筋肉。
 美しい友愛。美しい戦闘。そして美しい、愛。
 あなたの美しさを、教えて下さい。
 美しい方には、見合うだけのお礼を致します。

 明日、屋敷でお待ちしています。


 追伸:魔物を一匹ご用意しました。こちらをパフォーマンスにご利用頂いても構いません。……が、命までは奪わないであげて下さいね』

 門から少し離れた壁にガムテープでべたべたと四隅を貼り付けたヴラドは、もう一度周囲を確認すると満足そうに笑みを浮かべた。くるりと背を向け、やや足早に元来た方へと歩いて行く。しかしそんな彼の姿は、彼の思惑とは裏腹に数人の生徒に目撃されていた。
「……あれは……?」
 友人の元を訪れていたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、丁度門を出た瞬間に見えた不審な後ろ姿に目を留めた。壁に向かって何かをやっている、どうやらポスターを貼っているらしい。そこまで見届けて、エメは好奇心がむくむくと湧き上がるのを感じた。遠目に見たポスターの内容からすると、どうやら不審者は己の屋敷に人を招こうとしているらしい。
「これは、面白そうですね」
「後を追われるのですか?」
 エメの呟きを受けたパートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)は、純白に輝く翼を広げて彼を見上げる。小首を傾げた蒼に頷き、エメはこっそりとヴラドの後をつけ始めた。
「…………」
 彼らの更に後ろを、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は歩いていた。その傍らで尻尾を揺らすファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は、首を反らして呼雪の端正な横顔を見上げ問い掛ける。
「コユキ、どこに行くの?」
「……屋敷、らしいな」
 ちらりと見たポスターに書かれた文字を思い返し、呼雪は答える。それを受けたファルはぴょんと飛び跳ね、嬉しそうに尻尾を振り始めた。
「きっと凄い宝物がありそうだね!」
「どうだか……」
 前方を歩くヴラドのみすぼらしい格好を眺め、呆れ交じりに呟く呼雪とは対照的に、ファルは楽しげな笑みを浮かべながらとことこと歩いて行った。
 そして箒を片手に校舎を掃除していたアラン・ブラック(あらん・ぶらっく)もまた、窓の外で行われている不審者の不審な挙動を目撃していた。共に掃除をしていたセス・ヘルムズ(せす・へるむず)へ声を掛け、やや小走りに門の傍へと向かう。
「行くの、アラン?」
 急いで出てきたあまり使っていたモップを手にしたままのセスがポスターを眺めながら問い、同じく箒を持ったままのアランが頷く。彼のいつも通り温和な笑みには、確かな好奇心が湛えられていた。
「少し、気になるからね」
 そう言って歩き出したアランの後をセスが追い、掃除道具を手にしたままに彼らは遠くに見えるヴラドの背中を追い始めた。
 そんな彼らから少し遅れて、ポスターに目を付けた人物がいた。佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、何とは無しにふらりと立ち寄った壁に貼られた一枚のポスターをじっと眺める。
「どうした、何か気になることでもあったのか?」
 一歩後ろで首を傾げる仁科 響(にしな・ひびき)へと顔だけ振り返り、弥十郎は素直に頷いた。指先で文面を辿り、こつん、と地図上の屋敷を軽く叩く。
「……彼に、教えてあげたいことがあるんだ」
 にっこりと微笑みを浮かべながら答え、弥十郎は必要なものを取りに一度学舎へ戻って行った。