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華麗なる体育祭

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午前の部、団体競技『リレー』

 初っぱなの競技から大波乱を呼んだ抜き打ちテストin体育祭。
 いくら薔薇の学舎主催とは言え、他校や婦女子の方々がいる場であのような放送を行ったため、ミヒャエルとアマーリエは実況を自粛するよう言われ、教導団週間ニュースの取材に専念することになった。
 しかし、一部のご婦人方には大好評だったらしく、アマーリエのハンディカメラの映像はDVD可される予定だ。
 そして、次に待ち構えるのはリレー。今度はどんな展開が待っているやらと、銀枝 深雪(ぎんえだ・みゆき)は落ち着いていられなかった。
「普通の体育祭だと思っていたのに……」
 こうなったら、競技に参加するのは断念して応援にまわるしかない。
 幸い、チアガールの衣装は持ってきてあったし、あとはポンポンでも持って応援団に混ぜて貰えば大丈夫だ。
「あ、そこのキミ! 次のリレー、出てくれないかな。怪我人出ちゃって代理の人探してるのよ」
「いえっ! 私は応援の……あの、体操服もないし、だから、その……!」
 しかしながら深雪の願いは聞き入れて貰えず、断り切れないまま参加することになってしまった。
 Aチームになったのはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)菅野 葉月(すがの・はづき)北条 御影(ほうじょう・みかげ)
 そしてBチームは深雪、リア、久途 侘助(くず・わびすけ)。どちらも第一走者に女子生徒、第二走者から男子生徒に任せて追い上げる作戦のようだ。
「みんなっ! 全速前回でいっくよー!」
 気合いを入れたミルディアのかけ声に、Aチームは円陣を組んだ。それを見て、侘助も仲間の分のたすきを手渡した。
「学校は混合みたいだし、チアも体操服も詰め襟制服もみんな仲間だ! 揃えようぜっ!」
「あ、いいね! これで僕らも統一感が生まれるよ」
 個性的な面々が集まったBチームは服装までもバラバラだったが、同じたすきを締めることによって仲間同士の結束が強くなった。
「それでは第一走者、前へっ!」
 ウキウキとした表情のミルディアに対し、未だ緊張気味の深雪。
どこで試験がやってくるか分からない上、団体競技ではみんなに迷惑をかけてしまう。
「大丈夫、1人じゃないよ!」
「そうだ、これは団体競技。仲間同士で助け合える競技だ」
「……はいっ!」
 やっと元気になってくれた深雪に安心し、リアは急いで第二走者の待機場所へ向かう。
 第一、第二走者はトラック半分の200m、アンカーは1周の400m。問題はどこで提示されるか発表されていない。
「位置について、よーい……」

 ――パンッ!

 音と共に軽快に走り出したのはミルディア。小柄な体型と、自慢の運動能力で走り抜ける。
 深雪も運動が苦手なわけではないが、大きな胸で走るのは少し苦しそうにも見える。
「ミリィ、引き離すなら今ですわっ!」
 ミルディアの応援に現われたのは、男子校にしてはキワドいチアリーディングの衣装に身を包んだ和泉 真奈(いずみ・まな)
 あまりの衝撃に皆が見とれている頃、ミルディアは確実に突き進んでいた。
「……はいっ!! 任せたよ!」
 バトンをしっかりと受けとり、葉月は後ろを気にせず走り出す。
「葉月ー! 男の子なんて、やっつけちゃえ!!」
 コーナーに差し掛かる頃、ハッキリと聞こえたパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の声援。
 ぐっとバトンを握りしめて、蹴り出す足にも力が入る。
「僕は、男の子にだって、負けないんです……っ!」
 ミルディアから数秒遅れで深雪のバトンがリアへと渡り、必死の追い上げを見せた。
が、相手も相当の根性で振り切るつもりなのかあと1歩の差が縮まらない。
「はぁっ……珠輝が棄権した分、僕が勝たなきゃ薔薇学生として示しがつかないだろっ!」
 パシッ! と軽快な音がして、同時に2本のバトンがアンカーの御影と侘助に手渡される。
 そして、それを見届けると第一走者の2人がグランドの真ん中を突っ切って走ってくる。
「リアさん、これ……問題です!」
「葉月さんも! 相談していいから、答えられないとゴール出来ないって」

QAチーム:理科 蜂が八の字のダンスを踊るとき、何を知らせていますか?
QBチーム:家庭科 体を温め、また料理を冷めにくくするために汁物に入れる物はなんですか?

「もらった! 深雪さん、僕に任せてよっ」
 あとは侘助がゴールするのを待つだけの2人とは違い、表情の硬いAチーム。
「聞いたことはあるはずなんですけど……」
「うん、理科系は確かに苦手だけど、これくらいはわかるハズだもん」
 けれど、考える時間が欲しい。なんとか策はないかと、ミルディアは真奈に視線をやった。
「仕方がありません、この衣装は恥ずかしいのですが……」
 男同士の手加減のない白熱したレース。裸足で最後のコーナーへと向かってくる侘助に向かって、真奈はにこやかに手を振る。
「久途様〜♪ ゴールは目前です、力を緩められないとお怪我をなさってしまいますわ」
「えっ? あ、はい……」
 ウインクまでされ、驚きながらも満更でない侘助は真奈の応援に気を取られてスピードを落としてしまう。
 その隙を狙って、御影が差をつけた!
「俺の見てる前でなにやってんだ、とっとと走れっ!」
 応援団の準備をしていたはずの香住 火藍(かすみ・からん)は、黙っていられずメガホンで怒鳴り上げた。
 正気を取り戻した侘助に悔しがる顔を見せるも真奈もミルディアを応援する。
「私は時間を稼いだんですから、ミリィも頑張りなさい!」
「うわわっ! 知らせると言ったら、敵かエサだよね。敵、エサ……どっち?」
「侘助さん! 答えは分かってるから、急いでっ! 今ならチャンスだ!!」
 御影は、回答が用意出来ていない様子を見てスピードをやや下げ様子を窺っている。
 3人で相談をするなら、ゴールの10m手前で行わなければ行けないらしく、2人が御影の元までやってきた。
 その様子を見て、御影のパートナーであるマルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)は、ケラケラと笑いながら囃し立てた。
「御影も大変アルなー面倒な競技に出てしまて」
「うるさい、俺は絶対勝つ」
 負けず嫌いな御影の様子に笑いを堪えながら、遠巻きに様子を見守る。
 と、いうよりも、コース沿いにいる生徒達にお弁当を売りさばき始めた。
 どうやらマルクスは、体育祭には稼ぎに来ているらしい。
「久途っ! あんたの力はそんなもんか? 根性見せろっ!!」
 問題を受け取った御影が走り出すのと、侘助が追いつくのはほぼ同時、若干走り続けていた侘助の方がリードしているかもしれない。
「くそっ!」
 あと数メートル、互いに譲らずゴールテープを目指し、倒れ込むようにゴールした。そして――
「片栗粉っ!」
「餌の場所だっ!」
 一瞬の静けさが訪れる。ゴールの判定、そして問題の答え合わせ。
「判定の結果……同着1位とします!」
「あっぶねー、同着か。お前強かったもんな、いい勝負だったぜ!」
 ニッと笑って侘助が御影に右手を差し出した。一瞬だけ驚いた顔でその手を見、微笑を浮かべながら同じく右手を差し出した。
「久途こそ中々だったぜ、ムキになって悪かったな」
「おい、俺相手に手を抜くつもりだったのかよ」
「最初はな、かったりーし。でも、次は差を付けて勝ってやるよ」
「けっ、そっくり返してやるよ!」
 負けはしなかったものの、勝ちもしなかった。その微妙な判定にリアは少しだけ不満だった。
「おや、得意教科で力になった割に、浮かない顔をしていますねぇ」
「わっ、珠輝! 今度問題を起こしたら、僕でも庇いきれないよ」
「ふふ、大切なパートナーを労うのは罪ですか?」
「珠輝……」
 さっきのことは、きちんと反省してくれているんだ。そう思うと、今まで世話を焼いてきた苦労も報われるというもの。
「さぁさぁっ! 美少年の飛び散る汗は美しいですが、不快ではありませんか? 私が背中を流し――」
「1人で行ってこいっ! ……はぁ、少しでも見直しかけた僕がバカだったよ」
 やっと体育祭らしさも見えてきた2競技目。このまま無事に終わりを迎えることが出来るのか。
 太陽はもう、真上に近づき始めていたのだった。