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【借金返済への道】美食家の頼み

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【借金返済への道】美食家の頼み

リアクション

「キノコ狩りの男! スパ……シャンバラン!」
 神代 正義(かみしろ・まさよし)はBGM付きで妖しげなポーズを決めた。
「その昔、キノコ狩りの男とまで言われたヒーローに憧れた俺なら華麗に見つけられる!」
 そう言うと凄い勢いで見境なくキノコを背中に背負った竹籠に入れて行く。
 赤に白い斑模様、緑に白い斑模様、黒く爛れているキノコなど明らかに怪しいキノコも含まれている。
「これがジャタ松茸か?」
 すんすんと匂いを嗅ぎ確かめようとする。
「……キノコの平和を守る男! シャンバラン!」
 またもBGMを鳴らし、ポーズをとる。
 正義の目にはキノコ達が悲鳴を上げながら助けを求めているのだ。
「そんなにキノコを狩るのが楽しいかぁ!!」
 キノコを見境なく採っていた男の言葉とは思えない。
 次々と周りの人達を攻撃していく。
 異変に気が付いたコウジがホイップへと報せ、なんとか騒動は収まったのだった。

「では、ホイップ様の周りに禁猟区をかけさせていただきます」
「そこまでしなくても大丈夫だと思うよ?」
「万が一って事だよぉ」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)が禁猟区の準備をし、清泉 北都(いずみ・ほくと)がホイップを説得する。
「もう、心配し過ぎだって」
「念には念を、だ」
「そうですわ」
 隣でキノコを探していた黎とルディにも説得され、折れた。
「じゃあ、僕は向こうでキノコ探してくるねぇ」
 禁猟区がかかったのを確認し、北都が少し離れた場所へと移動する。
 その後ろをクナイが付いていく。
 そんなやりとりの少しあと、ホイップの側へ笑顔で桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が話しかけてきた。
 さっきまではキノコ狩りをしていたようだ。
 黎とルディは少し離れた場所でキノコを探している。
「ホイップく〜ん、匂い袋みせて〜」
 円に頼まれ、懐から匂い袋を取り出す。
「ふ〜ん、これがぁ……マスターこれですよ〜、はいど〜ぞ〜」
「えっ? えっ!?」
 ホイップは手にしていた匂い袋をいきなりとられ呆気にとられてしまった。
 匂い袋は円の手からオリヴィアへと投げられる。
「はい火術ぅ〜」
「させませんよ!」
 オリヴィアが火術を放とうとした時、クナイがまだ空中にあった匂い袋をメイスで高く跳ねあげさせる。
 放たれた火術は空へと向かっていった。
 森の木にはかすったが、火が付く事はない。
 空へと舞い上がった匂い袋を黎が見事にキャッチする。
「円さん、オリヴィアさん。なんでこんな事を?」
 匂い袋が自分の手に戻ってきたホイップが質問をする。
「だって、このまますんなりいったらボクとマスターが全く面白いと思えないじゃないか! もっと楽しませたまえ」
 円がふんぞり返って言い放つ。
 この2人は森の中で正座させられ、黎からお説教をくらう破目となったのだ。
 北都の元へクナイが戻ると、こっちでも面倒な事になっていた。
「校長先生に認められるだなんて……僕、僕……嬉しいです」
 木に向かってとても嬉しそうに笑っている。
「……北都、そんなに校長先生に認められたかったんですか。って、言ってる場合じゃないですね。ホイップ様の所へと無理矢理お連れ致しましょう」
 そう言うと北都の手を取り、ホイップの元へと導くのだった。

「……はぁ……。あ、これジャタ松茸だね」
 カレンが溜息を吐きながらキノコを手にとる。
「大丈夫か?」
 ジュレールが気遣い声を掛ける。
「ん? 何が? 大丈夫だよ、ジュレ」
「そう、か」
 いつもの元気がないのは誰の目にも明らかだろう。
 じーっと、採ったばかりのキノコを見つめる。
「こんなキノコがあるから……いけないんだぁ!!」
 カレンが突然叫び出す。
 手にしていたキノコを生のまま頬張り、近くで採っていた人達のキノコも次々に口へと運んで行く。
「すまない、後で謝罪する」
 ジュレールはその後ろに付いて、フォローしながら自分もキノコの回収をしていく。
 騒ぎを聞いたホイップとルディが駆け付ける。
「こんなキノコ、全部無くなっちゃえばいいんだ〜!」
 叫んでいるカレンの鼻に匂い袋を持っていき、正気へと戻す。
「あれ? ボク……」
「ふふ、ホイップさんに意地悪をしたのは何でかしら?」
 元に戻ったカレンにルディが妖しく笑い、聞く。
 獲物を狙う目に見えるのは気のせいだろうか。
「だって、だって……もうすぐ借金が無くなっちゃって、一緒に色んな事が出来なくなると思ってーーー!」
 泣きだしてしまったカレンをホイップが手を握る。
「何言ってるの! 借金が無くなったらもう一緒に色んなところに行ってくれないの? そんな理由が必要? 私、まだやりたい事とかあるのに?」
「行く! 必要ない! また……ボクも連れて行ってくれなきゃ嫌!」
「うん!」
 カレンの涙が止まり、笑顔で会話をしている。
 それにジュレールも加わる。
「ペットには出来ないですわね。もう少し真っ当じゃない理由だと問答無用でしたのに」
 ルディは1人、少し残念そうに見ていた。

「なんだか自治会とかが主催のオリエンテーリングとか遠足を思い出すなぁ」
 立体型マスクに活性炭を組み合わせたものをしている和原 樹(なぎはら・いつき)がしみじみと呟く。
「ふ〜ん」
 隣では採ったばかりのジャタ松茸を弄び、樹を眺めるフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が居る。
「そうそう、みかん狩りとかぁ……って、フォルクス! ちゃんとマスクしてろってば」
「いや、あれはマスクじゃない」
「何言ってるんだよ! 幻覚見たら大変じゃないか」
「樹……そんな格好をして……ふっ、嫌がってみせていてもお前の本心はそうなのだな」
 虚ろな目で樹を見つめ、訳の解らない事を口走り始める。
「ああああ! やっぱり変な幻覚見てるし! 俺が一体どんな格好しているっていうんだよ」
「自分で着ておいて解らないとは間抜けだな。スケスケレースのパジャマ姿ではないか
「そんなの持ってないし! 着ないよ!」
「改めて言う。我のものになれ……可愛がってやろう」
「聞いてないし! ちょ、馬鹿、抱きつこうとするなぁ!」
 フォルクスはいきなり抱きつこうとするが樹にグーで殴られ、気絶させられた。
「ホイップさ〜ん。幻覚止め貸してー!」
「はーい」
 呼ばれて、ホイップが直ぐに対応する。
 暫くすると、正気に戻り、意識も戻った。
「元はといえば、お前がいつまでも我のものにならないのがいけないのだ。だからあんな素敵な幻覚を見ることになったのだぞ。今宵はあのスケスケレースのパジャマを買っておくから覚悟しておけ!」
 無言で樹に殴られ、またも気絶する事になった。

 ホイップからそんなに離れていない場所で3人がキノコを探している。
「待て、トリック。何故この俺がこんな格好でキノコを探さなければならないんだ! こんな役、俺でなくても――」
 首輪と紐をつけられたジェミエル・エレクトロニクス(じぇみえる・えれくとろにくす)がわめく。
「あら? 私に逆らうおつもり?」
 紐をつかんでいるエレクトリック・オーヴァーナイト(えれくとりっく・おーばーないと)の眼光が妖しく光る。
「はい! すみません、やらせて頂きますです!」
 逆らう事など出来ず、大人しくキノコの幻覚にかかるのを待つ。
「幻覚にかからない方法があるって言ってましたけど、こういう事だったんですねぇ。納得ですぅ」
「ふふふ……そうでしょ?」
 シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)とエレクトリックが楽しげに会話をする。
「く、くそ。何で高貴なるこの俺が……ふ、ふははははっ! 俺を崇める貧民どもよ! そうだ! 俺がシャンバラの王なんだー! トリック、貴様も跪いて靴を舐めながら許しを乞えば今までの愚行は許してやっても――ぐえっ」
 急に紐を引っ張られ、首に力が加わる。
「この辺りにあるようね」
「そのようですぅ。ここは探しておきますから、ホイップ様の所に行って治してもらって下さいですぅ」
「あら、そう? じゃあお願いするわ。行くわよ、ジェミエル」
 後ろに引っ張られ、地面とランデブー中のジェミエルを足蹴にしてからホイップの所へと引っ張って行く。
「き〜のこ、きのこき〜のこ〜」
 その後ろでは不思議な歌を歌いながらキノコを探しているシャーロットがいた。