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リアクション
◇第三章 光影◇
ここで、解説者である藍澤 黎(あいざわ・れい)は一息入れる事にした。
「ふぅ、秩序とは難しいものだな……」
男なら許される範囲の出来事でも女では許されない部分がある。深い部分でのジェンダーの行き違いが現在のこの空気を作り出しているのかもしれない。人間は意図的に差別を作り出していた。では、開放すれば答えが見えるのかと言うと……人間は難しい。真理イコール万人が望む答えではないのだ。
「れいちゃん、とりあえず、こっちも一段落したよ!」
そこに我のパートナーであるエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)がやってきた。
「どうだ、この床。ピカピカだろう。オレだって、やれば出来るんだもん!」
アリス族にしては大柄なエディラはいつも一生懸命で、迷う事無く一直線なのだ。
(見習わなければならぬな。我も我の方法で、自分の居場所を見つけるのが目標なのだから……)
黎は少し俯くとその鋭い眼を辺りに向ける。
――この大会に重要なモノは何であろうか? 無論、歓声とBGMなど必要なモノは無数にある。だが、目に見える部分は華やかであるが、その華やかさは脇役あっての事なのだ。一瞬の煌きが映える演技者らを支える者達。演技者らと同じように努力しているからこそ、拍手喝采が沸き起こるのだ。
「え、あ……いや、その、あー、はい、すみません……」
和佐六・積方(わさろく・せきかた)は売店を開いていた。大会には参加してみたかったが、参加する勇気がでない彼は彼なりに行事に関わろうとしていた。『血汚れが目立たない、真っ赤なタオル』や『血と汗のスポーツドリンク』など、売っているモノはユニークなモノが多い。幼いころから体格が良く(太っていた)や真面目そうに見えるのに字がヘタなど、コンプレックスも多い彼だが、それでも頑張っていた。
「いらっしゃいませぇー、あー、その、はい、すいません……」
しかしながら、ダンスとは縁のないのに、この大会に参加したのは進歩であるとも言えよう。売上金の使い道も彼らしいがここで口にするのも野暮なのかもしれない。
客席の方で応援する連中もいた。いや、この二人は応援と言うより研究だろうか?
「今のところどう思う、クリス?」
「何が?」
「僕が思うに銀色の髪の女の子のポイントが高いと思うんだけどね」
顎に手をかけ、漆黒の瞳で舞台を見つめる神和 綺人(かんなぎ・あやと)はパートナーで熱心にメモを取るクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)に尋ねた。武道は得意だがダンスも実践的なバトルも苦手(と思い込んでいる)綺人は今回、戦闘の参考&観る方が楽しそうだからと言う理由で観戦を選んでいた。
「アヤ(綺人の呼び名)、あれは男の人よ。それに戦闘点なら彼らなんでしょうけど、これはあくまで総合力がメインですから、私はチアガールさん達だと思います」
「……ふぅ〜ん、なるほど」
初対面の人間の九割が女の子だと誤解する綺人はクリスに間違いを指摘されて少々考え込んだ。すると、クリスはフォローを入れるように声をかけたのだ。
「何が『なるほど』なんです?」
「いや、観戦も無駄じゃなかったってね。だって、様々な戦い方を学べるんだからさ。この空間はね」
「まぁ、アヤったら」
髪を掻き揚げながら真剣な眼差しを浮かべる綺人に安心したかのようにクリスは筆を進めた。運動神経の良い綺人の事、次は演舞する側になるかもしれない。
――ある日、彼女は彼に言った。
「野球の中継を見て思ったんです……私も、観客席で食べ物とか売ってみたいなぁ、って」
「試合を見ろ試合を」
当然のツッコミである。しかし、何故そこからここに繋がるのだろうか? さすがに無断で売り子するのは問題なので校長辺りに直談判までして……って、どうして繋がった!?
「え〜、観覧のお供に唐揚げいかがッスか〜?」
気づけば、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は唐揚げを売っていた。しかし、そのおかげで売り子デビューを果たしたパートナーのラグナ アイン(らぐな・あいん)はニコニコだ。そして、その偶然はアインの才能を開花させた。唐辛子をトッピングしたと言うか、唐辛子の中になんか白い奴が入っていると言うか、もはや唐辛子でいいんじゃね? と言う『なんか赤い奴』の発明である。
「とても楽しそうですね。私もご一緒して良いですか?」
「は、はぁ、どうぞ……」
一瞬、ナンパかとも思える彼女の行動はどこか流れるように自然だ。
「プレゼントです」
「あ、ありがとう」
「プレです」
「あり」
「プ」
「あ」
自然すぎて以下省略。
そして、純真なテロリストは悪魔の爆弾を配り続ける。一方、佑也はダンスバトルのとばっちりを受けないように、出場者達の様子はチラチラ窺っていた。不審者と勘違いされたら困るが安全の為だ。
「あ。あの人、さっきから私のスカートの中をチラチラ見てる」
「ドスケベね。これだから男は……うんたらかんたら……」
「ち、違っ……! これは俺が望んだ訳じゃないんだぁぁ!!!」
佑也の受難は続く。
ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドンドン、ドンドンドン!!
太鼓を掻き鳴らしながら、高月 芳樹(たかつき・よしき)は応援を続けていた。別に主役にはなりたくないが応援が大好きだった。【堅実一番】の彼らしい行動である。
「頑張れ、頑張れ、皆、頑張れ!!」
生家は元々陰陽師の家系であったが、落ちぶれて祖父の代にはただの易者みたいになっていた。将来的な展望はまだないが、シャンバラでの生活を楽しもうとしている。その隣には【疾風のヴァルキリー】のアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)がいるのだから。彼女は芳樹によって、封印から解放され、以来、彼の保護者的存在と存在していた。
(とりあえず、今のところ危険はないわね)
しかし、その直後、演舞場から飛んできた木刀の破片が迫ってきたではないか!? どうやら、芳樹は応援に夢中でそれに気づいていない。アメリアは瞬時に身を竦めると、カルスノウトの柄を握り、古代語を口にする。
『燃え盛れ!』
すると、周囲から湧き上がってきた火炎がカルスノウトの刀身に集まり、燃え盛ったではないか。これこそが、セイバーの高等スキルである爆炎波である。そして、まるで何事もなかったかのように木刀の破片は姿を消すと、芳樹は状況に気づきアメリアに言ったのだ。
「勝負は時の運というが、今回も女神は僕に微笑んでくれたようだね」
アメリアはそんな芳樹の言葉を返すように微笑んだ。
「当然よ。言ったでしょ、芳樹は私の命に代えても守るって……」
その微笑はまさに女神と言った所だろう。
「今ですぅ! 行くですぅ!!!」
大きな胸をユサユサと揺らしながら、ビシイイィッと指を突き出すとメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)はスカートの端を掴んで走り出す。パートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)と、立ち塞がる敵をヒョイヒョイと避わしながらである。
「ちょ、ちょい、メイベル危ない!!?」
メイベルの友人であり、姉代わりでもあると思っているセシリアは気が気でない。周りはまだダンスバトルの最中なのだ。
「……えっ?」
「ちょ、ちょっとぉ!? メイベル、後ろ向かない!!?」
ブンッ!! そこに襲い掛かる女セイバーのカルスノウトの一撃!!!
『ギイイイイィッン!! キコキコキコキコ……』
高らかな金属音。そして、なんとも情けない音がそれを妨害した。それは『ホワイトアーマー』に『自転車』と言った奇妙ないでたちの騎士フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)である。フィリッパは『ランス』の一撃をセイバーに食らわせたのだ。
「あらあら、大変ですわ!」
長く金色の髪、透き通るような白い肌の彼女は中世ネーデルラント、エノー伯アヴェーヌ家出身。自分の係累に繋がるメイベルの手助けをしようと……もちろん、ヒールは使えないが簡単な傷の手当てならと手伝いにきたのだ。
「やったぁ〜、さすがはフィリッパですぅ!!」
メイベルはフィリッパの援護に感激すると、辺りが静かでなるべく怪我人が多そうな場所を探し、両手を大きく広げ、祈るようにして両手を重ねた。そして、静かに吐息を吐きながら魔法の言葉を紡いでいく。
『〜 体内への尊厳 〜 生者への労り 〜 大地への祈り 〜』
すると、地面に六方星が現れ、キラキラと輝き始めたのである。そして、光は優しげに倒れ伏した戦士達の身体を包み込んでいく。
『リカバリですぅ☆』
両手に溜めた癒しの魔力が開放させると周囲の怪我人が同時に起き上がった。しかしながら、何かがおかしい。感謝されるどころかそいつらはメイベルに詰め寄ってきたのだ。
「どうして、俺達を復活させたんだ!? 弱い俺達が復活してもヤラレ役にしかなれないのに!!!」
奴らは群れで殺気だっていた。そして、その眼差しは白衣の天使であるメイベルに注がれる。
「くくくっ、よく見りゃ可愛いじゃねーか。もっと、癒してもらいたいねぇ。別の部分をな……」
「……ちょい待ちィッ、逃げるよメイベル! 中にはこういう奴らがいるから、リカバリは危険なんだよね!」
それまで丁寧に治療をしていたセシリアは怪我人たちを遮るようにメイベルを抱えて走り出した。大量のSPを使用するその『スキル』はメイベルの戦闘力を著しく低下させるらしい。もちろん、フィリッパも一緒にその場から逃げていく。
「みなさ〜ん、じゃあ、心置きなく戦ってきてくださいねぇ! ズズズッ……」
そして、一仕事終わったメイベルはどこから取り出したのか、優雅にお茶を口に含んで笑っていたと言う。
中盤まで隅っこでこっそりと踊り、終盤まで体力温存。ツッコミ役で厄介事を背負い込む苦労人。蒼空学園在住なのに【黒薔薇の勇士】の称号を持つ、彼の名は鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)!!
(射月の付き添いで仕方なく参加したが……何となく屈辱……)
あれは先ほど大会が始まる前だった。
虚雲のパートナーである紅 射月(くれない・いつき)がダンス大会に準備したのは背中が開き、紐を交差させながらも胸元に烏の羽をあしらう真っ赤なフリルドレスだった。当然、そんなモノを着るなんて虚雲のプライドが許さない。
「俺がんな格好するわけないだろ! お前が着ろ!」
「コホンッ、仕方ありません……虚雲くんが着てくれないなら僕が着ます」
「ナ、ナンデスッテェッ!!?」
射月はもちろん男であるが、赤い髪飾り、赤縁眼鏡、ゆるウェーブのロングのカツラを使用すると、まるで麗わしの長身美女に見えるほど綺麗であった。一方、虚雲がバトル対策に柔道着を着ており、音楽駄目、リズム駄目、ダンス駄目と言う三駄目君だ。
さらに射月によるパソドブレ(ラテン系の闘牛とフラメンコをイメージしたダンス)は圧巻。踊りは格好は女なのに男役担当の射月がリードしており、その上で言った言葉まで強烈だ。
「すみません、手加減が出来ませんでした(ニコリ)」
悪気はないし、虚雲に向けた訳ではないのだろうがブラックスマイル(何となく虚雲にはそう見えた)。戦闘も派手で赤いピンヒールの靴で周りの顔面や顎を足蹴にしていく格好良さがあり、そのお陰か虚雲もそれなりに踊れている風に見える……もちろん、面白くない。
(腹を括れということか。分かったよ、実践でも何でもやってやる!)
虚雲はキレた。わざとか本気か分からないが射月の足を踏みまくり、他のダンス参加者にぶつかるぶつかる。
完全ランダム的にどことなく勇者的なドット 君(どっと・くん)にタックルし、その後ろで休息していた麻野 樹(まの・いつき)の頭に突きと蹴りを炸裂し、さらに光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)に運体飛燕蹴り、さらにさらにマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)には変体卍蹴りを使う。
殺って殺って楽しもうぜぇええw! なんだか楽しくなってきた。――しかし、彼は知らなかった。もちろん、その後どうなるかをだろう。
【鈴倉 虚雲】 羽毛をばら撒く事無くリタイア。
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