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魅惑のダンスバトル大会 IN ツァンダ!

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魅惑のダンスバトル大会 IN ツァンダ!

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◇第四章 流水◇

 重い。なんと言う重さだろうか? フェンシング用の武器である、この『エペ』がここまで重く感じるとは……
 【焔の舞踏剣】を舞うリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は飛び散る汗を拭う事すら出来なかった。容姿・声帯・立ち振る舞いが女性に見えるため、間違えられるが彼は男性である。そのために主題に『フラメンコ』を選んだ。紅色の演舞用のシャツと漆黒のズボンに身を包み、足で床を踏み鳴らしてリズムをとり、手を大きく動かすブラッソはとても男性的とも言えよう。
(もっと強く、僕は強くならなくちゃ……人は誰かを護りたいから強くなれるんだよ)
 チラリと観客席を見たのは時間、それとも誰かの存在だろうか?
「オーレ!」
 ハレオと呼ばれる掛け声を発すると観客から拍手が巻き上がった。見た目はか細いが、そこには立派なバイラオール(男性の踊り子)が存在したのだから。

「おい、オッサン!!? 起きろよ、オッサン!!」
「んっ?」
 覆い尽くした顎鬚、ガッチリとした体系の男は瞳を開くとゆっくりと身体を起こした。彼はハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)。今、彼を起こした比賀 一(ひが・はじめ)のパートナーである。
「ちっ、人が折角いい夢見てたってのによ」
「……ったく、仕事を放棄しといて、観客席の後ろで寝てんじゃねーよ。この事態によくもまあグースカ寝てられるねえ、あんたは」
「この状況ではもう俺はいらんだろう。観客席を保護するための禁猟区も使い続ける事は出来んし……それに音楽はお前一人で充分だろう?」
 この大会の音楽や演出関係を担っていた比嘉は音楽の知識をいかんなく発揮していた。無論、彼一人ではないし、激しいバトルダンスの最中にBGMを聞いているとは限らない。しかし、それは違和感のない曲を選択している彼の力でもある。だが、それをハーヴェインに直言されるときまぐれな比嘉は言葉を濁したのだ。
「……し、しかし……まあ、どうしてこう血の気盛んな奴らが多いんだろう」
「だな。せめて後ろの席に居ればこんな事にはならなかったんだがな」
 目の前で血祭りにあげられた連中がいる。そいつらを見ながらハーヴェインは苦笑すると比嘉の背中を押したのだ。
「ほら、ここは俺に任せて仕事を続けろよ。『ダンスにBGMはつきもの。素晴らしい舞台にしようじゃないか』って言ってただろ?」
「き、聞いてたのか、オッサン!!?」
「パートナーだからな。気分屋のお前がやる気になって嬉しいぞ」
「チッ!! オッサンもちゃんと仕事をやるんだぞ!」
 顔を赤らめた比嘉が持ち場に戻ると、手を振っていたハーヴェインはまた居眠りを始める。もちろん、先ほどの夢の続きを見るためにだろう。

 救護班に運ばれてくる負傷者の数はどんどん増えてくる。中には負傷していない者も混じっているようだ……しかも、男はこぞって『ある白衣の天使』の元へ向かっていた。そこには駒姫 ちあき(こまひめ・ちあき)とパートナーのカーチェ・シルヴァンティエ(かーちぇ・しるばんてぃえ)が待っていたからだろう。
「はい、は〜い! 重症でない薔薇の皆さん以外の負傷者はここに集まってくださいねぇ〜!!」
 焦茶色のセミロングの髪の乙女とピンクショートの髪の乙女は、大きな乳房をユサユサと揺らしながら、まさに白衣の天使と評されるに相応しい活動をしていた。性癖の問題で薔薇学生は苦手らしいが急患には対応もするらしい。
「あら、ここが大きく腫れておりますわ。ここに念入りにお薬を塗っておきましょうね〜」
「はふぅ〜ん」
「はい、終わりました。戦場にお戻り下さい!」
「えっ、でも俺……まだ、傷口が塞がってないんだけど?」
「お黙りっ!!!」
 次々と死なない程度に治療して戦線に戻したり、応急処置中に胸とアソコ(傷口デス)に手を当ててみたり……評判になるだけはある。カーチェはお茶や食事などを準備しており、その場はなんとゆーかオアシスのようになっていた。
(チッ、ターゲットが野郎とはいえ、どうして、可愛い女の子があんまりやってこないのよ。面白くないじゃない!)
 部屋の中は男臭さが充満していた。鼻の下を伸ばした彼らはまだ知らない。
(ククククッ、いつネタばらしをやるか……それが問題だ)
 お花畑のようなこの白い空間が、絶望の灰色の空間に変わる一瞬、その瞬間が楽しくてしょーがない。
(と、ここでネタばらし。実は男でした! ザンネーン!)
「ワハハハハハッ、カーチェ、ちゃんと救護を続けるのよ。私も一生懸命やるからね」
 ちあきの暴走は続く。

 祈り目覚めよ。その日、一人の男が目覚めたようだ。
(白衣の天使って、俺の事? でも、男の俺が白衣の天使じゃおかしいから黒衣を着よう)
 ……と言う事で、『黒衣の剣士』が誕生した。漆黒の衣服、光り輝くカルスノウトはまさに戦う為の装束だ。誰も治療を受けたくないかもしれないが、放浪癖のある葉月 ショウ(はづき・しょう)は大真面目で治療に励んでいた。危険が迫ると真面目になる彼がそうなったと言う事は、そろそろ危険水域に達したと言う事だろう。あれだけいた参加者もすでに七割近くが脱落しており、残りの時間も少ない。
「さっ、治療してやる!」
「黒なのか白なのかどっちだよ!!? ウグッ!!」
「さて、次に治療を受けたい奴は誰だ?」
「横暴だぞ! ウグッ!!?」
 目的のためには手段を選ばない彼のことだ。当然、ツッコミはスルーする。ショウに病院送りにされた者も多数存在した。文句の多い奴らは気絶させ、ミイラ男になってもらう。【マミー製造工場】とは彼の事を指すのだろう。

 ――謎の女はその場で舞っていた。戦い慣れているようにも見える。
「この女、速すぎるぜ!!? ……ウグワッ!!?」
「風が吹き、華が舞い、時は止まる……我が剣、その身に刻め……」
 『御影 朔夜』はそう言って、次の獲物を探す。バトルロイヤルは魔法剣術部でいつもやっていた。作戦は温存策。人数が減るまで視野を広く持ち、攻守を万全に備える。一つ一つの動きが重要で、次の動作を考えて動く。体力を考えて、回避は極力ギリギリで、すれ違いざまにツインスラッシュを撃ちこむ。炎には爆炎波、氷術は火術で対抗。
 パートナーのファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)の援護もあって、今のところ、見事にそれは成功していた。闇討ちに遭わなかった事もあるだろうが、二人は着実に得点を稼いできていた。もう携帯の電池が切れて光条兵器が呼び出せなかったなどと言う失敗はしない! しない!! しないのだ!!!
(フフッ、これで優勝はいただきだな……)
 だが、人数が減ってくると目立つチームは狙われる。
「ククッ、ねーちゃん。中々の剣捌きじゃねーか。ちょっと、俺と踊ってくれよ」
「ククククッ……」
 朔夜の周りに集まってきたのは数人のチームたちだ。
「私を怒らせないほうがいいな」
 彼女は微かに笑うとライトブレードを彼らの鼻先に突きつけた。
(面白そうだから偽名を使い、女装して参加したが……正解だな)
 やってくるのは全身が生殖器のような下劣な男ばかり、『御影 朔夜』の中の人であるウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は流れるような剣捌きで魅せつけると言うのだ。
「では、私の流双剣を味わうがいい」
「何だとっ!?」
 ウィングは本日何度目かの戦闘を開始する。

(ゼェゼェ……マ、マジかよ。昨日は徹夜だったんだぞ)
 瀬島 壮太(せじま・そうた)はバトルダンスと言うのがいかに大変かを身を持って体験していた。
「みんなー! オネイサンとの楽しい踊り、はーじまーるよー!」
 ……と言う、パートナーのミミ・マリー(みみ・まりー)の台詞から始まったダンスは体全体で数字を表現しながらパンチ・パンチ・キックを繰り出す過酷なモノだった。手で猫の真似をしながら裏拳。『怒った象さんパオーン!』の歌詞にあわせながら、リターニングダガーを投げてミミを守る。しかし、さすがに限界がきていた。
「わわっ、ごめんなさい!?」
「このガキッ!! 貴様のおかげで俺様の美しいダンスが乱れたではないか!!!」
 なんと、ミミの足が当たった男が苛立ちを隠せずに声を荒立てて、ミミを殴りつけたのだ。それを見ていた荘太は怒りに任せて殴りかかろうとするが、もはや体力は残ってない。しかし、ミミは倒れなかった。それどころか頭突きで応戦する。もちろん、ここまで残った歴戦の強者に勝てる訳はないがミミは抵抗した。
「……ミ、ミミ?」
 驚いたのはもちろん誰でもない荘太である
「そ、壮太はさ……僕のこと弱っちいってよく言うけど……僕だってちゃんと闘えたよ」
 その言葉で荘太は満足だった。どこから降ってきたのか? 目頭に溜まった水のせいでよくは見えなかったが、ミミの成長が見れたのだからそれだけで悔いはないだろう。そして、彼は満足そうに笑うと大の字になって叫んだのだ。
「チクショー、負けだ、負け! もう一歩も動けねぇー!!」
 【瀬島 壮太】、【ミミ・マリー】 リタイア。