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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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二条城を巡る『火』のコース



 二条城・本丸。
 天気同様晴れ晴れとした笑顔を風祭優斗(かざまつり・ゆうと)は浮かべていた。
「さあさあ、こちらですよ。環菜先輩、ルミーナさん」
 そう促されて、本丸庭園を歩くのは御神楽環菜(みかぐら・かんな)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)である。
 修学旅行中と言えども、環菜のスケジュールは詰まっている。そんな忙しい彼女たちにも修学旅行を楽しんでもらいたいと、優斗は仕事を手伝い彼女たちに休みを作ってあげたのだ。そして、今彼女たちと二条城を回っているわけである。何故、二条城なのかは双子の弟のためなのだが……、とりあえずそれは置いておこう。
「時間が取れたのなら、他の仕事をしようと思ったのに……」
「そんな事おっしゃらずに。優斗さんが作ってくださった休暇なのですから、楽しみましょう」
 不満げな環菜と反対に、ルミーナはこの休暇を楽しんでいるようだ。
「そう言ってもらえれば、僕も嬉しいです」
「……それは良かったですわね」
 環菜に続き不満そうな人物がもう一人。
 優斗のパートナーのテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)である。
「さっきから変ですよ? どうかしたんですか、テレサ?」
 心配そうに優斗が声をかけると、テレサは不必要なほどの笑顔で答えた。
「私は環菜先輩達の仕事のお手伝いをするために、鴨川を巡る『水』のコースで仲睦まじい恋人達のフリをして天后さんをおびき寄せる囮役ができないからといって、不満をもっているわけではないですよ。本当ですよ?」
「え、えーと。なんだかとても不満そうに聞こえますけど……?」
「勿論、してまんせんよ! 不満そうな顔なんて! ちゃんと我慢してます!」
 そう言われて、複雑な表情を浮かべる優斗だった。


 普通に観光してる優斗のすぐ側では、戦闘の最中である事を忘れてはならない。
「さあ、騰蛇さん。かかって来なさい!」
 本丸の屋根の上で、語気を強めているのは佐々木真彦(ささき・まさひこ)だ。
「ヒャッハー! そんなにオレ様に食い散らかされてぇのかよぉぉぉ!」
 挑発に乗せられやすいこの大蛇は、長い胴体をくねらせて飛びかかった。
 迎撃の用意は万全、真彦は持参したペットボトルを放り投げた。
 しかし、騰蛇は狂ったように笑い、鬼火でボトルを破壊する。
 そのまま真彦に迫るが、その身体はふと何かに引っかかり、空中でぴたりと停止した。
「おいおい。お前の相手は佐々木のアニキだけじゃねぇぜ!」
 高らかに言い放ったのは、真彦のパートナーのマーク・ヴァーリイ(まーく・う゛ぁーりい)
 その手に握られた大量のとりもちが、マークと騰蛇の間でアーチを描いていた。
「ふっふっふ、動けまい。そして、さらにこうしてやらぁ!」
 マークはとりもちを引き寄せると、為す術無く引っ張られる騰蛇にチェインスマイトをお見舞いした。
 とりもちに絡まりながら、騰蛇は屋根をゴロゴロと転がっていく。
「……さて、ようやく話の出来る状態になりましたね」
 そう言って、真彦は屋根の隅でもがいている騰蛇に近づいた。
「私に式神を従える方法を教えてもらせませんか?」
 どうやら真彦は、式神の使役法を直接聞き出すのが目的のようだ。
 その手に握られたペットボトルのふたを緩め、騰蛇に無言のプレッシャーをかけている。
「し、知るかよぉ。晴明の旦那にでも訊きやがれぇ」
 真彦から離れようとする騰蛇。
 だが、そこに真彦のもう一人のパートナー、関口文乃(せきぐち・ふみの)が立ちはだかった。
 文乃はしげしげと騰蛇を見つめると、雷術を用いてその身に稲妻を呼び集めた。
「もう少しお灸が必要みたいね。雷がどの程度効くのか見せて頂戴」
 半ば興味本位で稲妻を放つ文乃であるが、興味本位で雷術を繰り出しては駄目である。
 雷が生み出すのは火。五行の教えにおいても、木属性の雷は火を活性化させるものなのだ。
「……おいおい、いいのかぁ? こんなにごちそうしてくれちまって!」
 木気を受けて力を増した騰蛇は、絡み付くとりもちを消し炭に変えてしまった。


 鬼火を巻き散らし飛び上がった騰蛇に、どこからか飛んで来た矢が突き刺さった。
 屋根の上で、ロングボウを構える少女は、ロレッカ・アンリエンス(ろれっか・あんりえんす)
「い、いてえじゃねぇか! ……って、おいおい小娘じゃねぇか?」
 人間は女子供が美味い信仰が、いつから魔物の間で流行っているかは定かでない。しかし、その信仰は今も健在。お世辞にも食欲をそそらない真彦たちには見切りをつけ、騰蛇は獲物を変更した。
「ロレッカ! 参るでありますよー!」
 ロレッカが放つ無数の矢をかわし、騰蛇は鬼火を飛ばして応戦する。
 鬼火が退路を断つよう飛び交うその隙に、騰蛇は牙を剥き出して突進した。
 だが、戦闘を観察していた彼女は、騰蛇の攻撃パターンを予測している。
 騰蛇は獲物を直接仕留めるのを好むのか、必ず己の牙で攻撃を仕掛ける傾向があるのだ。
「生肉を食べるのは危ないであります!」
 彼女は先手を取り、鞄から取り出したペットボトルを真上に放り投げた。
「どこに投げてやがんだぁ?」
 と、騰蛇がいぶかしんだ瞬間、乾いた音と共にボトルは破裂し、中の天然水が降り注いだ。
 屋根の端で伏せる人物に向かって、ロレッカは元気に親指をおっ立てた。
「グッドジョブであります! お師匠!」
 それを確認して、屋根の端の人物は微笑んだ。
 ロレッカのパートナー、クゥネル・グリフィッド(くぅねる・ぐりふぃっど)である。
「ふぉふぉふぉ、遅咲きの天才スナイパーとでも呼んでもらいましょうかな?」
 ロレッカの投げるペットボトルを、次々とクゥネルはシャープシューターで撃ち抜く。
 雨のように降り注ぐ天然水シャワーに、さすがの騰蛇も逃げ出さずにはいられなかった。
「……ち、ちきしょう! き、急に食欲がなくなったぜ! 命拾いしたな!」


 本丸庭園を駆け抜けて、騰蛇の後を風祭隼人(かざまつり・はやと)が追跡している。
 その手に握られているのは、パートナーのアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)が用意した武器だ。
「俺から逃げられると思うなよ!」
 隼人の武器は水鉄砲。騰蛇を弱らせるべく遠距離から狙い撃つ。
 退路を接近戦で封じるのは、もう一人のパートナー、ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)
「僕が……、いや、俺があのカスをぶっ叩く! 着いて来い、隼人!」
 普段は温和なソルラン。しかし、武器を手にすると一変、凶暴な性格が牙を剥くのであるが、その手に握られている武器は水風船剣(棒状の水風船)。言動とのちぐはぐさが、激しく不気味である。
「まったく、相変わらずの二重人格だぜ……」
 豹変したソルランに悪態を吐くと、ふと隼人の目に見慣れた顔が飛び込んで来た。
 庭園の向こうで手を振っているのは、まぎれもなく双子の兄の優斗。
 そして、その隣りにいるのは、隼人の憧れるルミーナ。
「ほ、ほんとに連れて来てくれたのか! 恩に着るぜ……、優斗!」
 優斗が環菜たちを二条城に案内したのは、ルミーナに良い所を見せたいと言う弟のためであった。
 憧れの人を前に俄然闘志を燃やす隼人だったが、戦闘中によそ見をしていると本当に燃えてしまう。
 騰蛇の放った鬼火が、隼人の鼻先をかすめた。
「どわあああ!」
「ヒャッヒャッヒャッ! 人間ごときが調子に乗ってんじゃねぇ!」
「……騒々しいな、君は」
 音もなく騰蛇の前に現れたのは、本コース最後の参加者・御凪真人(みなぎ・まこと)
 騰蛇がなにか言おうと口を開く前に、真人は持参した火気厳禁のスプレー缶を放り投げた。
 すかさず火術を発動させ、宙を舞うスプレー缶を爆発させた。
「馬鹿かてめぇ。オレ様に火なんぞ通用すると思ってんのかぁ?」
「君に馬鹿にされるのは心外ですね」
 そんな事は百も承知。この爆発は攻撃ではなく、騰蛇の視界を奪うための煙幕なのだ。
 爆発に伴って発生した黒煙が、騰蛇の周囲を包み込む。
「な、なんだこりゃあ! ふざけた真似しやがって!」
 興奮してわめき散らす騰蛇の姿に、つとめて冷静な真人は静かに笑った。
「なんのわだかまりもなく、澄みきって静かな心を持って行動する……」
「なんの話をしてやがる!」
「明鏡止水の心境も水剋火の一手、と言う事ですよ」
 そう告げると、真人は側で控えるパートナーに合図を送る。
 合図を受けて、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)はバーストダッシュで飛び出した。
「強いヤツに媚びるようなヤツなんて最低よ!」
 それに続くのは同じく光の翼を持つソルラン。
「カスが! たっぷり地獄の淵を覗いてきやがれ!」
 セルファが繰り出す会心の突きと、ソルランの渾身のなぎ払いが、十文字を描く。
 即席のわりに、息のあったコンビネーションで、騰蛇は本丸を囲む内堀に叩き落とした。
「うぎゃああああああああ!!!!」
 清らかな水は容赦なく火の力を奪い、騰蛇は気持ちいいほどの悲鳴を上げた。
 セルファは塀の上に華麗に着地を決め、フェザースピアを振り回し、勝ちどきを上げた。
「十二神将が一柱、討ち取ったり〜!」
「こら。まだ終わっていませんよ」
 真人は気を緩めたセルファを叱ると、氷術を放って内堀の水を凍結させた。
 半身を内堀に取り込まれてしまった騰蛇は、苦しみに耐えながらジタバタともがいている。
「お、オレの負けだ! み、見逃してくれ! い、痛いのはやめてくれ!」
「散々暴れといて、言う事はそれだけか?」
 みっともなく慌てる騰蛇を、塀の上から見下ろすのは隼人。
 その手には光条兵器の『翼』をモチーフにした銃剣が握りしめられている。
「反省ならあの世でゆっくりするんだな!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 勢い良く突き出された銃剣は、騰蛇の顔をかすめて凍った内堀に突き刺さった。
「……なんて、本気にするなよな」
 銃剣を肩に担いで、隼人は悪戯っぽく笑った。
 残念ながら、失神してしまった騰蛇の耳には、その言葉は聞こえなかったようである。