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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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四条河原町周辺通りを巡る『金』のコース



 四条河原町周辺通り。
 四条河原町を東西に走るのは四条通である。西の松尾大社から、東は祇園の八坂神社へ続く通りだ。そして、四条通と交差するのが、鴨川に沿って南北に走る河原町通。北に下鴨神社、南へ向かえば京都駅がある。


 四条通。
 こちらのコースでは、すでに勝負は始まっていた。
 『金』を司る十二神将、大陰(たいいん)白虎(びゃっこ)は東へ向かって爆走中だ。
 白虎はその名の示す通りホワイトタイガーである。
 人語を操る事は出来ないが、こちらの言葉を理解するだけの知恵は持っている。走る事が三度の飯より大好きな、無邪気な性格の持ち主だ。高い戦闘力を持っているが、無闇に人を傷つけたりはしない。
 一方、白虎の背に乗る、大陰は巫女服を着た十歳ほどの少女である。
 可愛らしい姿であるが、どうにも小生意気な性格をしている。大人ぶってみたい年頃なのだろうが、その言葉遣いは乱暴で目に余る。晴明ももう少し女の子らしくすればいいのに、と嘆いているほどだ。
「どけどけ、そこのチビ! そんな所に突っ立ってると、白虎に吹っ飛ばされるぜ!」
「なっ!? 君だってボクと同じくらいちっこいじゃないか〜!」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)に暴言を吐き捨て、大陰は風のように駆け抜けていった。
「むっか〜! 陣くん! このチビ捕まえちゃおうよ! ボクの方が上だって見せつけてやるんだから!」
 お前も大陰も五十歩百歩だろう……、身長的に考えて。
 リーズの相棒の七枷陣(ななかせ・じん)は、呆れつつもパートナーのため、重い腰を上げた。
 そんな陣の横を、大陰を追う数機の飛空挺が通り過ぎていった。
「大陰ちゃんは随分とお転婆な子みたいだねぇ」
 大陰の背を見つめながら、佐々良縁(ささら・よすが)はのんびりとした口調で言った。
 そんな縁の飛空挺に相乗りしているのは、パートナーの佐々良睦月(ささら・むつき)
「京都ひゃっほー、追いかっけこひゃっほーーーい!」
 なんかもう力試しとか関係なしに、睦月は純粋に追いかけっこを楽しんでいるようだ。
 縁は速度を上げると、先行するもう一人のパートナーとで、大陰の前後を挟み込んだ。
「よしよし。このまま交差点まで連れて行くわよぉ」
 徐々に距離を縮める、縁とパートナーの佐々良皐月(ささら・さつき)
 彼女達は二神を捕獲するため協力する『白虎を捕まえ隊』の一員である。
 この先の四条河原町交差点で罠をはる仲間の所へ、二神を誘導するつもりなのだった。
 ところが、大陰はおもむろに白虎の背毛を引っ張ると、ひょいとジャンプして飛び越えた。
「へっへんだ! そんなもんであたしらが止められるかよぅ!」
 頭の上を飛び越していった二神に、皐月は思わず感心してしまった。
「うわぁ! あの子、すごーい!」
 自分と同じ年頃に見える少女が、颯爽と大虎を乗りこなす姿に何か憧れるものがあったようだ。
 実際には大陰が千歳ほど年上なのであるが、まあ、精神年齢的にはあまり変わらない。
「こらこら、驚いてないで追いかけないと……」


 さて、そのころ別のルートでは、法定速度を余裕でぶっちぎる自転車の姿が目撃されていた。
「おらおら、どけどけ! 轢き殺されてぇーのか!」
「危ないです、前を通らないでください、退いて下さい!」
 赤色バンダナを鉢巻きにして、風になっているのは結城翔(ゆうき・しょう)だ。
 その後ろに乗っているのは、パートナーの神楽誠(かぐら・まこと)である。
 白いパーカーにジーンズと、カジュアルな服装の誠なのだが、何故か頭には軍用ヘルムが。安全のためなのだとしたら、僭越ながら注意しておこう。自転車に乗る時は、専用のヘルメットを着用する事!
「なあ、誠。このまま突き進んで大丈夫なのか?」
 翔はナビを任せてある誠に尋ねた。
「ええ、任せて下さい。この先が四条通……」
 と、四条通に差し掛かった二人の目に、白虎に乗った大陰が駆け抜けて行くのが見えた。
「ようやく、見つけたぜぇ!!!」
 馬鹿みたいなスピードで走る自転車を、より馬鹿にし。
 二人は大陰の真横に並んだ。
「な、なんだよ、お前たち……?」
 異常な速度の自転車を不気味に思ったのか、横を一瞥した大陰は速度をわずかに落とした。
 自転車は大陰を追い越し、あっという間に二神から離れて行った。
「あ、あの……、翔さん? 追い越しちゃいましたけど?」
「……ぶ、ブレーキが効かない!!」
「な、な、なんですって!」
 四条河原町交差点を通り過ぎ、眼前には四条大橋。そして、鴨川が広がっている。
 誠は光条兵器の大振りの両手剣を出すと、地面に突き刺しブレーキをかけようと試みた。
 だが、この状況でそんな事をすれば、どうなるかは自明の理。
 ブレーキの反動で、二人は自転車から投げ出され、鴨川へ突っ込んだ。
「どわああああああ!!!」
 この一件がきっかけで、鴨川にまた一つ名物が生まれる事になる。
 はた迷惑な名物『カモガワダイビング』の誕生の瞬間であった。


 四条河原町交差点。
 多くの通行人で賑わう京都の中心地で、葛葉翔(くずのは・しょう)は両の目をごしごし擦っていた。
「今、何か自転車らしきものが通って行ったような……」
 お化けでもみたような彼の元に、パートナーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が戻って来た。
 アリアは飛行能力を生かして、二神を追い込む袋小路を空から探しに行っていたのだ。
「翔くん。北の河原町通の途中にいい感じの行き止まりを見つけたよ」
「あ……、ああ。ありがとう。よし、じゃあ、罠を設置して追い込むとするか」
「これがダーリンお手製の罠……。すごい臭いジャン……!」
 もう一人のパートナー、イーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)が青い顔で呟いた。
 翔の用意したのは、コーヒーの粉と納豆を混ぜたものと、柑橘系の芳香剤である。
 コーヒーの粉と納豆からは、十二神将も裸足で逃げ出すような強烈な臭いが漂っている。
 三人が交差点に罠を設置し終えると、ちょうど良く大陰がこちらへ向かって来た。
「……な、なんだ? この臭い? く……、臭い!」
「ガ、ガガ、ガウガウガウガウー!」
 そのまま祇園方面に行こうとしていたのだが、二神は慌てて進路を南に変更した。
 交差点の東を死守するコーヒー納豆には、大陰よりも嗅覚の優れた白虎のほうがたまらない。ついでに付け加えるなら、全然関係ないのにコーヒー納豆を嗅がされた通行人の皆さんはもっとたまらない。
 南に向かう二神だったが、設置された芳香剤を前にし、突如白虎は歩みを止めた。
「……そう言えば、どうして普通の芳香剤なんか設置したの?」
「ああ、その事か。猫ってやつは柑橘系の匂いが苦手なんだよ」
 アリアの素朴な疑問に答える翔だが、その企みは大成功を見せた。
 白虎は嫌そうに顔を背けると、狙い通り河原町通を北へ向かって走って行った。
 その様子を確認し、翔は同じ『白虎を捕まえ隊』のメンバーに携帯で連絡を入れた。


 河原町通。
 翔の連絡を受け、待機していた『白虎を捕まえ隊』のメンバーが追跡を開始する。
「ああ、そのもふもふの身体にダイブしたい。是非したい」
 はやる気持ちを抑えつつ、白虎を飛空挺で追いかけるのは十倉朱華(とくら・はねず)だ。
 どちらかと言えば犬派の彼だが、猫は猫でも大型猫なら大好物である。
「もふもふも最高だけど、肉球ぷにぷにも忘れちゃいけないよ?」
 そう言ったのは、朱華の隣りで飛空挺を走らせている、久世沙幸(くぜ・さゆき)である。
「ぷにぷにとな。そちもなかなかのデカ猫好きよのぅ」
「いえいえ。お代官さまにはかないませんよ」
 楽しそうに小芝居をする二人に、沙幸と相乗りするパートナーの藍玉美海(あいだま・みうみ)は声をかけた。
「三文芝居の続きは、終わってからにしてくださいな、お二人とも」
 朱華と沙幸は苦笑いして、意識を前方の二神へ戻した。
「……あらあら、白虎さんは寄り道がお好きなのかしら?」
 途中の路地へ入ろうとする白虎に、美海は火術を繰り出して威嚇した。
 朱華もおもむろに剣を抜き爆炎波で、進路を変えないように牽制している。
 五行思想では、火剋金、火は金属を溶かす。
 金を司る二神は火を苦手とするわけるだが……、基本的に火が苦手ではない生き物はいない気もする。
 とそこへ、一隻の飛空挺の影が上空から忍び寄った。
「ふっふっふ……、もっふもふと聞いたら、俺が参上しないわけにはいかないよねぇ」
 登場したのは、東條カガチ(とうじょう・かがち)である。
 彼は飛空挺を乗り捨てると、白虎の背中に豪快に飛び乗った。
「な、なんだよ、おまえ! 白虎から降りろ!」
「おやまぁ、大陰ちゃんはつれないねぇ。そんな顔しないで、タンデムと洒落込もうぜ」
 もっふもふの白虎のふわ毛を、ふるもっふにしながら、カガチは夢心地だった。


 河原町通T字路。
 はるか上空から、カミュ・フローライト(かみゅ・ふろーらいと)は河原町通の騒動を見物していた。
「なんだか盛り上がってるみたいじゃない。さてと……、速人に教えなくちゃ!」
 飛空挺の上に双眼鏡を放ると、カミュは地上のパートナーへ連絡を入れた。
 連絡を受けたのは、最後の『白虎を捕まえ隊』メンバー、赤月速人(あかつき・はやと)である。
「……ようやく俺の出番ってわけだな!」
 彼はトラッパースキルを駆使し、通りに素早く罠を仕掛けていった。
 北へ向かう道を大量の鼠のぬいぐるみで塞ぎ、袋小路へ続く小道には大きな輪を設置した。
「おっと。さっそく十二神将さまのおでましか……」
 T字路に差し掛かった白虎は、ふと前方の鼠のぬいぐるみを見つけ興奮した。
 やはり猫科の悲しい性か、鼠を見るといても立ってもいられない。
 白虎が近づいたのを見て、上空のカミュは仕掛けを作動させた。
 中に仕込まれた火の呪符が発火し、道に炎の壁を作った。
「ガ、ガウガウー!」
 白虎は地面に爪を突き立てると、慌ててブレーキをかけた。
 そして、進路変更。
 小道へと入る白虎であるが、そこで速人はもう一つの罠を作動させる。
 仕掛けられた輪に炎がともり、突如白虎は火の輪くぐりを無茶ぶりされてしまった。
 この狭い小道では、もはや後戻りなど出来ない。
「ガウー!」
 火を恐れる獣の本能を乗り越え、白虎は火の輪をくぐってみせた。
 彼が半泣きであったのは言うまでもないが、彼が本泣きになるのはその直後である。
 道の先に待ち受けるのは行き止まりなのだから。
「ば、馬鹿! 白虎の馬鹿! なんでこっちの道に入ったんだ!」
 白虎を責める大陰の前に、一難さってまた一難。
「は〜い、そこな爆走ロリ。追いかけっこもお仕舞いだ」
 別ルートから追って来ていた、陣とリーズが屋根の上に現れたのだ。
「陣くん! やっちゃって!」
「へぇへぇ、お嬢様の仰せのままにー」
 喉を鳴らして威嚇する白虎の前に、陣は火術を放って注意を引きつける。
 その隙をついて、リーズが大陰に飛びかかった。
 白虎の上でもみ合う二人に、さっきまで夢心地だったカガチが止めに入るが……。
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着きな。危ないって……、わわっ!」
 カガチは二人をかばうようにして、白虎の上から転げ落ちた。
 助けてくれたカガチを踏みつけて、二人は取っ組み合いのケンカを始めてしまった。
「いきなり何すんだよ! このチビ!」
「ごめんなさいって、謝れ〜!」
「不毛だ……。とてつもなく不毛だ……」
 なんとも間の抜けた泥仕合を繰り広げる二人に、陣はため息を吐いた。
 いつの間にか、周囲には『白虎を捕まえ隊』の面々が揃っている。
 二人のケンカに戸惑っていた白虎は、捕まえ隊に捕まえられ、沙幸の用意した高級キャットフードを美味しそうに食べていた。