リアクション
蛮族でホイ/竜巻消そうぜ!(ドリルで) 竜巻が起こり、それに呼応するように大ミミズが出現する少し前。 掘削隊のベースキャンプから少し離れた場所。 慚愧に耐えない、といった表情で引きずられている機晶姫が一人。ヤード・スコットランド(やーど・すこっとらんど)だ。 パートナーである桜田門 凱(さくらだもん・がい)の引くリヤカーに乗せられている。 「なんたるクツジョク――」 「運命の絆って奴か。くく、感謝しろよ?」 ヤードは掘削隊に合流しようとしていた最中、砂漠の環境に耐えられず身動きできなくなってしまっていた。そんな彼女を、偶然通りがかった凱が救助したのだ。凱は蛮族との交渉のためにリヤカーで砂漠では貴重な品を満載して来たのだ。それと引き替えに、蛮族を使って掘削チームを襲撃するつもりなのだ。 凱とヤードが広い砂漠で出会ったのは、まったくの偶然だ。パートナー同士の絆が二人を引き寄せたとしか思えない。 「なぜあなたのような人がワタシを再起動させたのデショウ……」 ヤードは自信を再び目覚めさせた凱と契約したが、すぐに凱の人間性が嫌になり逃亡したのだ。それなのに、砂漠で再会してしまった。 「まぁもう少し寝てろ。もうすぐのはずだ」 凱の目算では、そろそろ蛮族の根城に到着するはずだ。 「ん? なんだこれ」 砂漠の砂の上に延々と、轍のようなものが続いている。凱がそれに触れようとすると、 「それに触れてはならん」 いつからそこにいたのか。モヒカンの老人がそこに立っていた。 「……」 老人はじろじろと凱の姿を見やると、陽炎に揺らぐ地平線を指さした。 「ついてこい。その線は踏むなよ」 老人はそれだけ言うと凱に背を向けて走り出す。老人とは思えぬ身のこなしだ。 「っく!」 凱はリヤカーを引いて全力で駆ける。しかし凱と老人との次第に距離は広がってしまう。 少し離れたところから老人は振り返って凱が追いつくのを待っている。 「妖怪じじい……」 凱は吐き出すように呟くと、砂漠の上に崩れ落ちた。 意識を取り戻した凱が最初に目にしたものは、煌々と燃えるたき火と忙しく立ち回る蛮族たちだった。凱を先導していた老人は今は、悠々と敷物の上に座っている。 空には満天の星が瞬いている。 「夜……夜だと?」 凱の計画では夜に襲撃をかける予定だったのだ。 「そちらのお嬢さんから話は聞いた」 老人の声に導かれて目をやると、そこにはガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が座っていた。凱と目が合うとにこりと笑って見せた。 「この砂漠に穴を開けようとしている者達がいるそうだな。お嬢さんはわしらにそれを手伝えと」 「はい。十分な報酬……今後の生活再建を含め、支援をお約束いたします」 「お嬢さん、それには応じられない。我々はいつかドージェ様がここを訪れるまで砂漠に印を描き続ける」 砂漠の蛮族たちは、砂漠に奇妙な図形を描き続けることで、自分たちが神とあがめるドージェをこの地に呼ぶことができるという信仰を持っているらしい。 「それじゃあ、作業を中断させるために俺に力を貸してるくれるな?」 凱は老人に詰め寄る。老人は無言で凱に頷いてみせる。 「それは見過ごすわけにはいきませんね」 ガートルードが静かに立ち上がる。彼女の取り巻きのパラ実生もいつでも戦闘を開始できる体制を整えている。 緊迫した雰囲気が大気まで動かしたのか。 にわかに風が強くなってきた。強風に巻き上げられた砂がガートルードたちを叩く。 「……竜巻デス」 黙って事の推移を見守っていたヤードが彼方を指出す。そこには砂漠に屹立する巨大な竜巻が在った。 「に、にげろおおおおおおおおお!」 モヒカンの一人が叫ぶ。しかし、時すでに遅し。竜巻はすさまじい勢いで凱たちに接近し、逃げるまもなく、彼らを巻き込み空へと放り投げた。 「ぅわぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁ――」 回転しながら上昇していくせいなのか、悲鳴に細かなドップラー効果が掛る。 ともあれ、蛮族も凱もヤードもガートルードもそろって宙に巻き上げられたのだった。 *** 蛮族たちを巻き上げた竜巻こそ、掘削隊が目撃した竜巻であった。 そのことを知るよしもない仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)は、ギターを弾きまくっていた。 突然の竜巻が、サンダー明彦のメタル魂に火を付けてしまったらしい。 「さぁ〜、盛り上がってまいりました! だぜぇ〜!」 スライド奏法歯ギターで叙情的なメロディーを奏でたサンダー明彦は、ギターを抱きかかえるようにして砂漠に膝をついた。 自分の美しさに打たれ、これ以上演奏を続けることができなくなってしまったのだ。 「ちょ、竜巻近づいてきてるよ!」 プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が特に意味もなくサンダー明彦を足蹴にしながら竜巻を指さす。 プリモのパートナーである機晶姫ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)が、風に煽られる長い髪を押さえながら竜巻を見やる。 「確かに近づいてきている」 なぜかジョーカーはスクール水着を着ている。 「はわわわ、それがしのすくみずが、すくみずが!」 風に舞うスク水を追いかける宇喜多 直家(うきた・なおいえ)。外見年齢四十二歳。男性である。 「私のドラゴンアーツで!!」 錯乱気味に腕まくりするのはアピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)。 「アビス落ち着かなきゃだよ! アタイのドリルで!!!」 シリル・クレイド(しりる・くれいど)はパートナーのアビス以上に錯乱してるとしか思えない動きで両腕を動かす。 「竜巻はベースキャンプを直撃。回避は不可能」 燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)は冷静に状況判断し、坦々と結論だけを述べる。 「ザイン、こんなこと言っている場合じゃ……」 神野 永太(じんの・えいた)はおろおろと辺りを見回している。 「回避できないなら正面からぶつかるのみモグ!」 ドリルも凛々しいモグ三である。 「全機晶姫、ドリル構え!」 モグ三が叫ぶ。 「唯乃?」 機晶姫のフィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)は、ドリルを構えながらもパートナーの四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)を振り返る。 唯乃は笑顔を浮かべて大きく頷いて見せた。本当はモグ三が何をしようとしているかまったくわからなかったけれど。 「データ解析は任せて……」 エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)は、相変わらずの眠そうな顔ながらも、フィアを励ますように笑みを浮かべた。 ほかの機晶姫たちも、不審そうな顔のもの、とりあえずドリルを持つのが嬉しくてたまらないもの温度差はあるもののその場にいる全員がドリルを構えた。 「天を衝け!! ドリル最大回転!」 モグ三の号令に従って機晶姫たちは空にドリルの先端を向ける。 そうしている間にも、竜巻はベースキャンプへと近づいてくる。それに伴い、風はますます激しさを増していく。 「何が起こっているのかしら」 沈没船に乗り合わせてしまった英国紳士よろしく、テントの中で優雅にティエリーティアの淹れてくれた紅茶を飲んでいたセルシア・フォートゥナ(せるしあ・ふぉーとぅな)が顔を覗かせる。 「ドリルで天を衝いてるよ?」 セルシアのそばを片時も離れず世話をしているフランボワーズ・アンテリーゼ(ふらんぼわーず・あんてりーぜ)が冷静に告げる。フランボワーズは機晶姫だが、パートナーであるセルシアのそばに控えるためにドリルを使うことを拒否している。 「あのドリルは、ブラックボックスが多いのですよ。単純に作業に使うのであれば機晶姫しか使用できないのは明らかにデメリットです。さらに、掘削するのにも最適な形ではない……さりとて、武器としてもいかにも無駄が多い」 セルシアの背後に立ったよれよれネクタイ氏は紅茶のカップで両手を温めながら独り言のように呟く。 「そこで私が思いついたのが、祭器としてのドリルです」 よれよれネクタイ氏の視線はドリルを掲げて天を衝く機晶姫たちに注がれている。 すべての音の上に覆い被さるような風を、さらに圧するようにドリルの駆動音が響いている。 ドリルの駆動音がさらに高まり、そして。 唐突にドリルの駆動音が変わった。純粋な機械の動作音が止み、ドリルから異国の弦楽器を思わせる音が生じる。 「これは……」 ジェラルドは言葉を失う。ぶれないようにするだけで精一杯だったドリルが、突然に安定した。回転速度は、さらに増していく。ドリルに刻まれた螺旋模様は、すでに目で捉えることができない。 機晶姫たちのドリルから放たれる音が、やがて一つの和音となる。 「あ……」 誰もが空を見上げた。先ほどまであれほど荒れ狂っていた竜巻が急速にその勢いを失っていく。テントを揺さぶっていた風も、完全に止む。 凪いだ空気。 竜巻とともに出現した大ミミズも、竜巻が消滅したことによって地中へと戻ったらしい。 夜空には、満天の星が広がっている。その場にいる全員が、まるで数日ぶりに星空を見上げたような錯覚を覚えた。 「これがドリルの力モグ!」 |
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