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ウツクシクナレール!?

リアクション公開中!

ウツクシクナレール!?

リアクション

 洞窟の最奥で戦う彼らには知る由もない事だが、その頃外では異様な事が起こっていた。
 洞窟内部の彼らが大タコを傷付け、それらが再生を行う度に、薔薇の学舎を目指し進行していた子タコたちが少しずつ消えているのだ。そんな理由を知りようもない外の生徒達は意気揚々と討伐を続け、タコ焼きを焼く弥十郎たちの屋台には「タコ焼きなのにタコが無い」と苦情が入る事さえあった。タコを捕獲した亮司やスレヴィたちは呆然と空になった水槽を眺め、首を傾げる。
 洞窟で戦う彼らの預かり知らない所で、少しずつ、彼らは大タコを追い詰めつつあったのだった。

「出来たぜ、副会長!」
 そんな子タコの減った戦場で、虚雲は満足げに小瓶を掲げた。その中には、ミレイユたちの活躍もあって入手できた二種類の血液が収められている。惚れ薬となったそれを揺らす虚雲へ、声を掛けられた海已は気だるげに振り返ると、その瓶を即座に奪い取った。冬の外気に晒される腹部を片手で撫で遣りながらも咄嗟に手を伸ばした虚雲の視線の先、あろうことか海已はそれを一気に飲み干した。
「鈴倉にしちゃ気が利くな、栄養剤か?」
 虚雲の話を全く聞いていなかったらしい海已は適当な方向に瓶を投げ捨てる。と、丁度そこに居た男と目が合った。がっくりと肩を落とす虚雲を放置したまま、海已はずかずかと片目を隠したその男へと歩み寄る。
「おい、お前。俺に見初められたことを光栄に思うんだな」
「はい?」
 きょとんと片目を丸めた人物は、明智 珠輝(あけち・たまき)。片手の容器に収めた惚れ薬をしゃかしゃかと振りながらパートナーのリア・ヴェリー(りあ・べりー)へにじり寄っていた珠輝は、一拍置いてその状況を理解すると、へらりと面持ちを緩め両腕を広げる。
「ふふ……激しい性格の殿方ですねぇ」
 怯むでもなく受け入れる体勢を整えた珠輝に、ぎょっと目を見開いたのはリアだった。「薔薇学の危機」「タコ焼き食べ放題」と珠輝に連れ出されたリアは、既に溶かされた衣服からすらりと伸びた腕が晒されている。
「珠輝!」
 やや慌てたように声を荒げるリアへ愛しげに緩めた目を向け、珠輝は嬉しそうに声を発した。
「おや、リアさん。私の貞操を気にして下さるのですね……!」
「するか馬鹿! 勝手にしろ!」
 その言葉にはっと耳を染めたリアは、勢いよく珠輝から視線を逸らす。その間にも珠輝へと迫った海已は、有無を言わさずその腰へ腕を回しぐいと身体を引き寄せた。獣のような輝きを瞳に宿し、片足を珠輝の股の間に入れ込むと、顎へ指先を掛けて引き上げる。
「ほら、大人しくしてろ」
 間髪入れずに唇を重ね、低くそう囁くと、海已は閉ざされた珠輝の唇へ割り入れるように舌先をねじ込んだ。顎から肌を辿らせた手で後頭部を抑え込み、深く舌を絡める。抵抗するどころか青の隻眼を蕩けさせる珠輝に気を良くしてその首筋へと唇を伝わせると、音を立てて吸い付いた。
「ああっ……!」
 わざとらしくも恍惚とした声を上げる珠輝に背を向けたまま、リアは苛々とタコを蹴り飛ばした。力づくでも止めてやろうかと思い詰めるリアの元へ、不意に轟音が近付いてくる。
「そこのおまえー! 俺と付き合えやー!」
 猛獣めいた雄たけびを上げながら筋骨隆々の裸体を晒して駆け寄るラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)に咄嗟に対処が追い付かず、リアは反射的に携帯していた国語の教科書をかざした。勢いよく教科書に顔面をぶつけたラルクがうっと唸り、「激しいな……だがそんなところも気に入ったぜ」などと嘯く。
 彼の背後では、彼に惚れ薬を飲ませたイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が携帯を片手に喉を鳴らしていた。不意を打って惚れ薬を服用させたラルクの目を隠し、混乱を巻き起こした張本人は彼女だったのだ。殆ど獣の如くリアへ襲い掛かるラルクの後姿を愉快気に眺めながら、「頑張れー」などと他人事めいた声援を投げる彼女に、不意にべちゃりとした粘液が降り掛かる。
「あっ! ……っ!」
 不意の衝撃に思わず高い声を発してしまったイリーナは、すぐに表情を引き締めた。自身の状態を確認すると、衣服の胸元がどろりと溶け落ちている。頬を上気させて両腕で胸を隠したイリーナは、しかし片手でラルクの様子を着実に撮影しながらも、鋭く周囲へ警戒を走らせる。ぴくりと片眉を跳ねさせた彼女が放った剣撃は、素早く盾にされたベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)を捉えた。
「触手と戯れる裸の男の子たち……ああ、ここが天国か……ごふっ!」
 貧血でふらつきながらもハアハアと息を荒げていたベファーナは、鋭い一撃にばたりと倒れ伏した。その後ろからひょっこりと顔を出した雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、ぱちりと片目を閉じて見せる。
「ごめんなさいねぇ、ちょっと照準がずれちゃって。えい!」
 悪びれた様子もなくそう述べて、リナリエッタは再びスプレーショットを放った。その矛先は、今度は珠輝たちへ向けられている。赤タコの粘液を採取して放つ彼女の一撃に、抱きあう珠輝と海已の衣服は一瞬にして溶かされた。からしマヨネーズを片手に握っていた海已は、迷う間を空けた後に、直接珠輝の胸元へ吸いつく。
 奇しくも襲い掛かるラルクの体躯に守られてスプレーショットの難を逃れたリアは、焦ったように視線を彷徨わせた。恐らく惚れ薬にやられているのであろう彼へ術を振るうわけにもいかず後ずさる彼へ、獲物を追い詰めるように舌舐めずりをしたラルクが迫る。
「……珠輝……っ!」
 追い詰められたリアは、縋るように口にした自らの言葉にぎょっと目を見開いた。意識せず発されたその名に、すっかり海已から送られる愛撫を楽しんでいた珠輝の片目が一瞬、鋭い光を帯びる。
 素早く身を屈めた珠輝がタコをひっ掴み、ラルクへと投げ付ける。振り向いた顔面へタコの貼り付いたラルクが慌ててぐいぐいとタコの胴体を引っ張り、撮影を続けるイリーナがおかしげな笑声を漏らす。
「ふふ……惚れ薬、要りませんでしたねぇ……」
 弾かれたように逃げ出すリアの薄赤く染まった頬をほんの一瞬視界に収め、珠輝は満足げに呟くと、
「俺以外を見てるんじゃねぇよ馬鹿野郎」
「激しくどうぞ、ふふ……!」
 そう言って再び口付ける海已へ緩やかに意識を戻した。


「ほら、飲めよ。体力回復の薬だ」
 どきどきと早鐘を打つ鼓動を抑え込みながら平然を装ったアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)の差し出す薬を、瑞江 響(みずえ・ひびき)は疑いもせずに受け取った。共にタコの群れを片付けた二人は、相応の疲労を感じている。
「ああ、ありがとう」
 感謝を示す響の言葉にちくりと刺さる罪悪感を感じながらも、アイザックは期待を込めてその様子を見守った。一気にそれを飲み干した響は自分を見詰めるアイザックへ訝しげな視線を返すも、次第にそれは甘く蕩けたものへと変わる。
「……アイザック……」
 控え目に名を呼ぶ響の声に恥じらいの色が含まれたのを、アイザックは敏感に察した。途端に表情を晴れさせたアイザックは、ごくりと息を飲み、意を決したように尋ねる。
「……響。俺様のこと……好きか?」
 真っ直ぐに目を見詰めながらなされた問い掛けに、響は暫し躊躇うように視線を彷徨わせた。
「……ああ」
 気恥ずかしげに目を伏せながら紡がれる静かな同意の言葉を聞き留め、アイザックはぐっと片手を握り締めた。心臓はばくばくと張り裂けそうな程に脈打っている。歓喜に震える心を必死に落ち着かせ、アイザックはそっと響の体を抱き寄せた。
 身体を強張らせながらも、響は抗わない。羞恥を滲ませるその姿すら酷く歓喜を煽るものへと擦り替わり、アイザックは穏やかに唇を重ねた。