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リアクション
・現在時刻:23時30分 ――ゲーム開始から四時間半経過
このような事があり、雪が強まる現在も、多くの生徒とともにフレデリカは配達を続けている。何人かの生徒は近くで護衛をしてくれているため、何かに襲われる心配もない。
「うーん、詳しいことは私には分からないんだよ。おじいちゃんって元々はそういう人だったんだね」
フレデリカは、安芸宮 和輝とクレア・シルフィアミッドから、聖ニコラスについての伝承を教えてもらっていた。
「本人じゃないから知らなくても無理はありませんね、ありがとうございます」
とはいえ、和輝は少し残念そうだった。
この場にいるのは彼らだけではない。路々奈達もまた、フレデリカにある事を説明していた。
「まあ、そんなわけで地上ではサンタクロースを毎年追っかけるイベントがあるのよ。だからあたしもこのパラミタでそれをやってみたってわけ」
「だから一気にみんな来たんだね。でも、どうして地上では居場所が分かるの?」
フレデリカには不思議だった。祖父はちょうど地上にいる。ただ、そんな行事があるとは聞いた事がなかった。
「あれ、おじいちゃんから聞いてないんだ? 地上ではサンタとして活動するときはGPS発信機を携帯するって契約になってるのよ。ノーラッドのサイトじゃレーダー、静止衛星、戦闘機で追跡って事にしてるけどね」
そこで納得した。だから地上ではサンタクロースを追えるのか、と。
「こっちじゃさすがに無理だから、自力で君を見つけたの。おかげでいいのが撮れたわ」
フレデリカとしては、いつの間に撮られたのかも分からなかったため、少々複雑な気分だった。
だがその時、鋭い気配を感じた。
「見つけたぜ、サンタぁ!」
上空、トナカイに乗ったその人物は国頭 武尊だった。凄みをきかせ、フレデリカに迫っていく。彼女は動こうと思ったが、なかなか思うようにいかない。
「逃がすか!」
だが、彼のようにフレデリカに向かってくる影はもう一つあった。
「見つけた、ようやく見つけたぞ、サンタクロースぅぅうううう!!」
パラミタ刑事シャンバランこと神代 正義であった。パートナーの大神 愛とともに武尊とは反対方向から疾走してくる。フレデリカは挟み打ちされる形になった。
「あの人達は……あの様子だと強引にでもプレゼントを奪い取りそうですね」
「フレデリカさんが危ないであります! 阻止するであります!」
「ふふふ、いいストレス解消になりそうだよね」
朔と彼女のパートナー達は臨戦態勢に入る。
「プレゼントが欲しいとはいえ、あんなにも可愛い女の子に危害を加えようとするとは、許せん!」
フレデリカの近くでプレゼントを配る者は皆気付いたようだった。
「まさかとは思いましたが……出ましたね」
フィリッパは剣を構え、警戒を強める。
「ほう、あの様子だと、フレデリカが危険だな。悪い子にはおしおきが必要だ」
クレア・シュミットも臨戦態勢に入る。
「まだプレゼントを強奪しよとしてると決まったわけではありませんが……用心にこしたことはありませんね」
ウィングもまた、構える。
それでも今はゲーム中だ、彼女に近づこうとしているからといって、無闇に攻撃をすることは出来ない……はずなのだが、
「うわ、どっからだ今の?」
「なんだ、なぜ正義のヒーローであるこの俺が狙われているのだ。うわ」
フレデリカを目前にし、集中攻撃が浴びせられる。どうやら雰囲気で危険だと判断されてしまったようだ。
「俺は諦めねえぞ!パラ実なめんなぁあああ!!!」
武尊はトナカイから屋根に飛び乗り、フレデリカに迫っていく。
「だから、俺はサンタ狩りじゃねえよ!」
だが、その言動がいけなかった。
「ならばちゃんと順番を守るんだ」
エヴァルトが武尊に忠告する。
「さもないと、危険だと判断されてしまうぞ。穏便に、だ」
「く……しゃあねえな」
さすがにここで争うのは得策ではない。そう判断したのだろう。ただ、彼の鬼眼によって未だフレデリカが動けないということは一目で見抜いた。
「プレゼント、頂こうか。なに、いいもんくれたらそれに見合った手伝いをしてやってもいいんだぜ?」
あくまで強気ではあった。だが、そこに敵意はなかったため、それ以上の攻撃を喰らう事はなかった。
「じゃあ、これ」
フレデリカはそっけなくプレゼントを渡した。さすがに、初対面でこれでは些か接し難いものがあった。
ちょうど同じタイミングで、正義と愛もやってきていた。必死で這い上がってきたためか、彼は満身創痍である。ただ、ほとんど無傷なのは、それだけプレゼントに執着していたからだろうか。
フレデリカを目前に捉え、彼は必死で訴えた。
「こんな扱いを受ける、とは……あんなに良い子にしていたのに! 一度としてアンタは俺の家にこなかった! サンタクロースの存在を知った時から、俺はずっと待っていたッ!!」
フレデリカには彼の言葉がいまいち呑み込めなかった。何か逆恨みをされているという以外に、説明のしようがない。凄い剣幕で迫られてはいたが、恐怖よりも戸惑いの方が大きかった。
「待ってたって、何を?」
とりあえず質問してみる。
「クリスマスプレゼントだよぉ!」
正義は泣いていた。仮面から零れ落ちている様はどこかシュールだ。
「ちょっとストーップ! 突然そんな家庭の事情暴露されて、しかも泣きだしたって初対面のサンタさんにわかるわけないですよ!?」
パートナーの愛が止めに入る。
「だって、だって……」
「どういうこと、なの?」
フレデリカは訝しむ。あまりにも唐突過ぎて、頭がついていかない。愛は正義に聞こえないように、フレデリカに耳打ちする。
(えーとですね……正義さんの実家は……子供に厳しい家だったらしく……幼少時代に両親から児童虐待を受けてきた神代はクリスマスプレゼントを貰った事がないんですよ。だからサンタさんがいるって知って感極まってしまったんでしょうね)
事情を聞き、フレデリカには同情の念が湧きあがった。さすがに、このままではかわいそうだ。
「今年のプレゼント下さい!!あとサイン下さい!」
涙を拭いながら、彼はプレゼントを要求してきた。
「はい、メリークリスマス!」
「ありがとうございます!」
正義は心の底から喜んでいるようだった。
「良かったですね、正義さん」
一時はサンタ狩りが現れたと思って緊張が走ったものの、この事態は無事に解決した。
そしてフレデリカや生徒達は再びプレゼントの配達を続けていった。
もうじき日付は変わり、ほんとのクリスマスになる。
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