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第10章 フレデリカとサンタクロース


 同じ頃、フレデリカと同行している者達の上に、空から白いものがひらりと落ちてきた。
「雪だよ、フレデリカちゃん!」
 金色のサンタ、エルがフレデリカに声を掛ける。朝、うっすらと積もっていた雪はすぐに溶けてしまい跡形もない。今、また雪が降って来た。
「フレデリカちゃんと一緒にホワイト・クリスマスが迎えられるなんて感動だなぁ。
 ……でも、フレデリカちゃんはサンタクロース。クリスマスが終わったら逢えなくなるなんて、ボクには信じられない! 耐えられない! そうだろうっ!?」
 返事を求めてエルがフレデリカを見ると、フレデリカは美羽の隣でぐぅと眠っていた。
「ああ、フレデリカちゃん、わかるよ。現実を見たくないその気持ち、ボクもキミと同じさ。
 出来ればずっとこのままキミと一緒にいたいけど、残酷な時間は、刻々とボクらを追い詰めていくんだーっ!!」
 ひとり感極まったエルが発動した光術は彼の体を包み、ヒロイックアサルトによりその輝きを強くしていく。
「うぅ、眩しい……」
 あまりの眩しさにフレデリカが起きてしまった。
「あのうねり輝くオーラ、金色に逆立つ髪、広くテカりを増すおでこ。………間違いないのだわ、あれこそスーパーサンタ人なのだわっ!!」
 京がびしりとエルを指さし命名する。
「なんだそりゃ」
 竜牙がぼそりとツッコんだ。
 あまりの輝きように、近隣の住民が何事かと集まって来た。
「うぉおおおおおっっっ!!」
 ますます輝くエルのパフォーマンスに、子供たちは大喜びだ。

「アレは、いいのか?」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が中継基地こと正悟に聞く。あれではこっそり配るサンタ業務などとても任せられない。
「うん、……どうしよう」
「住人の目を引きつけてくれてるんだ。今のうちに配ればいいじゃないか」
 悩む正悟に、四条 輪廻(しじょう・りんね)が提案した。
「そうだね」
 あっさり納得した正悟は、エルを目くらましに、プレゼントを急ぎ配るよう皆にメッセージを送る。

「サンタちゃん、大丈夫?」
 美羽の心配そうな声に目をやると、フレデリカがふらつく体をそりで支えていた。
「うん、さっきちょっと居眠りしちゃったから、平気だよ!」
 強がりながら、なおもプレゼント配りに奔走するフレデリカに、美羽は掛ける言葉が見つからない。
 正悟と輪廻は顔を見合わせ、恭司にフレデリカを追うよう頼んだ。

「フレデリカ、少し休め」
 フレデリカを追ってきた恭司が、袋に手を入れようとしたその手を掴んで止める。
「離してっ、急いでるんだから!……きゃっ!」
 頑ななその様子に、恭司は無言で彼女を担ぎあげ、正悟達の元へ運ぼうとする。
「わかってる。皆が頑張ってくれてることも、自分が無理してるってことも……」
 恭司の腕の中でフレデリカがつぶやく。
「それでも、やり遂げたい事があるの!」
「うわっ!」
 フレデリカは恭司を突き飛ばし、駆け出した。
「乗せてっ!」
 フレデリカは通りかかったウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)の小型飛空艇に飛び乗った。

「次、どこを配るの?」
 フレデリカがウィングに聞く。
「あの辺り一帯です」
 ウィングの指す方向を確認したフレデリカは、プレゼントの袋に手を伸ばし、ウィングに止められた。
「待っていて下さい。私が行きます」
 ウィングの言葉に、フレデリカが困ったように笑う。
「皆、そう言うんだから。……私、そんなに頼りないかな?」
 初めて不安を見せるフレデリカに、ウィングは優しく微笑んだ。
「可愛いサンタクロースさんに、かっこいいところを見てて欲しいんです」
 ウィングの言葉に、フレデリカの表情が和らぐ。
「わかった。見ててあげる」
 フレデリカを休ませると、ウィングは万が一を考え、煙幕ファンデーションを装備して配達先へと向かった。
 ターゲットの庭へ入ると、殺気看破のスキルを使って気配を読みながらピッキングで開錠し、侵入を果たす。
 情報攪乱のスキルがすぐに使えるように準備しながら、暗い屋内を超感覚を使って進み、無事に任務を終えて出てきた。
「鮮やかなもんだね」
 フレデリカの言葉に、ウィングは嬉しそうだ。
「それじゃ、次の家へ急ぎましょう」
「うん!」
 ウィングの小型飛空艇が、ふわりと浮かび上がり、右に旋回する。
「あっ!」
 フレデリカがプレゼントの袋を落としそうになり、バランスを崩した。ウィングが素早く手を伸ばすが、僅かに届かず、指先をかすめてフレデリカが地上へと落ちて行く。その後を追うようにプレゼントの袋が落ちていった。
『フレデリカさんっ!!』
 ウィングの声に重なるようにして未沙が叫ぶ。間一髪、未沙のそりがフレデリカを受け止めた。
「あ、あぶなかったぁ」
 さすがのフレデリカも、肝を冷やしたらしい。
「大丈夫ですか?」
 慌てて駆けつけたウィングに、未沙は落ちてきたプレゼントの袋を渡す。
「小型飛空艇じゃ、やっぱり安定性に問題があるから、フレデリカさんはこのまま私のそりに乗せるよ」
 残念だが未沙の言うとおりだった。ウィングは未沙の言葉に同意する。

「私、サンタクロース失格なのかなぁ」
 らしくもなく弱気になったフレデリカが、未沙の隣でつぶやく。
「失格かどうかは、合格してから言うもんだよ」
 未沙の言葉にフレデリカが顔を上げる。
「私だって毎日失敗して、間違って、思い通りにならなくて泣きたくなるけど……。そういうの、成長っていうんでしょ?」
「そっか、……じゃあ私、成長してるんだ」
 フレデリカは潤む瞳を、子供のようにゴシゴシとこすった。

 再び未沙とプレゼントを配り始めたフレデリカは、未沙に回ってくる連絡や、各都市に派遣したトナカイたちからの情報で、ようやく終了の目処が立ってきた事を知り、安堵の息をついた。
 その途端、体がふらりと揺れて屋根から足を滑らせてしまった。
 今度は未沙のそりも間に合わない!
「フレデリカさんっ!!」
「任せろ!」
 未沙の声に気付いたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が、白馬で駆け付ける。
 トライブは馬から降り、地面に叩きつけられる直前のフレデリカめがけて滑り込む。地面スレスレに彼女の身体を抱えると、転がるようにして衝撃をやり過ごした。
「ってぇ。……大丈夫か?」
 転がった先の壁にしたたかに背を打ち付けたトライブは、痛みをこらえてフレデリカの無事を確認する。
「うん、なんとかね」
 駆け付けた未沙に、そのままプレゼントを配るよう頼んだフレデリカは、トライブに抱えられ、中継基地こと正悟の元へ連れて行かれた。

「フレデリカさんとトライブさんが負傷。皆さん、2人の分まで頑張って配りましょう。あとヒール使える人がいたら手を貸して下さい。お願いします」
 フレデリカを見た正悟が皆にメッセージを送る。
「また、派手にやらかしたな」
 報告に来ていた雷蔵が言う。春美とセキがフレデリカとトライブに手を貸し、座らせた。
「あの〜、私達、ヒール使えますけど〜?」
 明日香と夕菜が、揃ってやってきた。
「すみません、怪我人の治療をお願いします」
 正悟の求めに応じ、2人はフレデリカとトライブにヒールをかけていく。
「配りたいのに…身体がいうことをきかないの……」
 フレデリカが辛そうに明日香に言った。
「大丈夫ですよ〜、すぐに治してさしあげますからね〜」
 明日香はよしよしとフレデリカの腕を優しく撫でながらその傷を癒していく。
「フレデリカは、よく頑張った」
 雷蔵が、差し入れの缶コーヒーをフレデリカに渡してやる。
「1人で一万軒なんて、なかなか配れるもんじゃねぇ。でもよ、もう俺たちがいるだろ? 一緒に頑張ろうぜ! それとも、俺達が手伝ってるってだけじゃ、楽にならねぇか?」
 雷蔵の言葉にフレデリカが首を横に振る。
「おまえは私達1日サンタクロースの指針。倒れられては困るのだ」
 その場を立ち去りかねた悠姫が、フレデリカに言い聞かせた。
「私達がきっと配り切ってやろう。だから、少しだけでも休んでいてくれ」
 悠姫は大丈夫だとフレデリカの手をぎゅっと握り、パートナーの永久とともに再びプレゼントを配りに行った。
「そういうこった。任せとけ!」
 雷蔵もまた、笑顔でプレゼントを配りに戻っていく。
「B−4地区、配り終えたぞ」
 輪廻が、報告に来た。正悟がすぐに地図に印をつけ、皆にメッセージを流し、輪廻に次の地区に回るよう頼む。
「D−6地区、単身で配っていた者たちと合流したそうだ。そのままC−5地区の応援に回った」
 恭司も報告を上げる。直接来る者、メッセージを送ってくる者、電話してくる者、皆がツァンダの子供たちのため、サンタクロースとして頑張っていた。
 それでもと、フレデリカは思う。
「配りに行きたいんだろ?」
 トライブがフレデリカに声をかける。
「治療は終わりましたよ〜」
 明日香がほほ笑む。
「行っても、いいのかな?」
 また足手まといになるのではという不安が、フレデリカを弱気にさせる。
「子供が楽しみにしているのは、プレゼントだけじゃなくて、サンタクロースが来てくれることだろ? 俺も全力で協力するからよ、最後まで諦めずに、一つでも多くの家を回ろうぜ」
「私たちもご一緒します〜」
「わたくしのそりに乗って配るといいと思いますわ」
 明日香と夕菜がトライブの考えに賛同した。
「ありがとう」
 フレデリカが立ち上がる。
「あ、忘れてた、これやるよ」
 トライブはポケットから、まだ温かいカイロをフレデリカに渡す。
「あんたの格好、寒そうだなって思ってよ。まぁ、俺としちゃ目の保養になっていいんだけどな」
 フレデリカはカイロに頬を寄せた。それはとても温かくて、皆の気持ちのように温かくて……。
「よぉしっ、元気でたっ!! 配って配ってくばるぞーっ!!」
「おいおい、いきなり復活かよ」
 フレデリカの宣言に、トライブが苦笑する。
「そりはどこ?」
「あちらですわ」
 夕菜の案内でそりに乗ったフレデリカは、愛用の鞭を取り出す。
「サンタクロースとしては新米だけど、おじいちゃんを超えるといわれた鞭使い、よぉっく見てなさい!」
 ピシリ。
 フレデリカが鞭をふるうと、そりは夕菜が操っていた時とはまるで違う動きで空へと滑り出した。
「うわっ、待てよっ!」
 トライブが慌てて白馬に乗る。
「あら〜、置いていかれてしまいましたわ〜」
 明日香も空飛ぶ箒に乗り、トライブと共にそりを追った。

 4人を見送った正悟は、笑顔で皆にメッセージを送る。
「フレデリカさん、トライブさん戦線復帰。あとちょっとだよ、皆、頑張ろう!」