天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

リアクション公開中!

御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

リアクション



そのに 第一クォーター


 スタッフの指示に従って、参加者は正方形に描かれたフィールドのスタート位置に着く。
 正方形の四辺には、北側をAとし、時計回りにB、C、Dとアルファベットが書かれたフラッグが立てられている。
 参加者は自分の選んだアルファベットの辺からスタートしなければならない。
 橘 カオル(たちばな・かおる)は震えていた。武者震いもあるが、自分たちの幸運によるもののせいだ。
「こ、これは……」
「ラッキーだね!」
 マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)はカオルの手を握りしめて笑う。マリーアは、男性としては柔らかくしなやかなカオルの手を握っているので上機嫌だ。二人の身体はロープでつながれている。
 カオルチームが選んだスタート視点はD、そしてDからスタートするのは三チームだ。これは四つのスタート地点の中で最も少ない。この三チームは、ライバルが少ないという意味で比較的優位にある。
 しかし、視点を変えれば、D地点からのスタート者はほかの参加者からマークされるということだ。
 シャンバラ教導団からの参加者は、カオルチームだけだ。彼らは、二人だけでこのカルタ大会を戦い抜かなければいけない。
「ベールを取り除きなさい!」
 環菜がスタッフに指示を飛ばす。ボランティアスタッフの玲と洋兵、恭司も手伝ってフィールドに配置された絵札を隠すベールを取り除く。
 ベールの下に隠されていた絵札がその姿をあらわす。環菜が美術部の部員たちをこき使って速乾絵の具で今日描かせたものだ。雨が降っても問題ないようにパラミタトウモロコシから生成された防水塗料が塗られている。
「札の向きもばらばらですか……」
 一式 隼(いっしき・しゅん)が呟く。彼のスタート地点はC。そこから見る限り札の並びは、向きも含めて完全にランダムだ。整列して並んでいないので、序盤は間違って絵札を踏まないように走るだけでも大変だろう。
「さて、準備はいいかしら? 一枚目、は……」
 環菜は白いボックスの中に手を突っ込む。その中に読み札が入っているらしい。
「一式 隼さんの案ね」
「俺たちの案じゃん! 取らなきゃ」
 リシル・フォレスター(りしる・ふぉれすたー)は隼の肩を掴んで揺さぶる。
「ね、猫はコタツで丸くなり、家犬も暖房でくつろいでる」
 環菜の声が会場を流れる。
「私は寒いから隼と一緒にコタツがいいや」
 獣人のルーシー・ホワイト(るーしー・ほわいと)は耳の付け根を書きながら隼にしなだれかかる。
「アンタはユキヒョウでしょうが!」
 リシルがルーシーの頭をはたく。
「誰か動くようですね」
 隼はいつもの二人のやりとりを受け流して呟く。それと同時にB地点から飛び出した者がいた。
おっしゃ、見つけたぜぇ!!
 蒼空学園の仲國 仁(なかくに・じん)だ。冷静に観察すれば少しうさんくささを感じるほどの大声を上げながらもグラウンドの中心に向かって駆けていく。
 それにつられて数チームが駆け出す。
「蒼学なんぞに負けられるか! ヒャッハー!」
 偉容な影が隼の横を追い抜いていく。
 パラ実のロッテンマイヤー・ヴィヴァレンス(ろってんまいやー・う゛ぃう゛ぁれんす)だ。
 異様な姿に見えたのは、彼女のチームが得意なフォーメーションを組んでいるためだ。ロッテンマイヤーが小柄なクララ・ラヴィエンス(くらら・らう゛ぃえんす)を背負い、チネッテ・ランブルス(ちねって・らんぶるす)が後ろから支える。その姿はさながら――
「ぬぅ。あれはパラ実名物、鬼刃殲!!!(きばせん)」
 観戦席に座っていた百々目鬼 迅(どどめき・じん)が驚愕に青ざめ目ながら立ち上がる。「知っているのか、迅!」と返してくれる者がいなかったので、迅は小さく咳払いをしてまた座った。
「あはは、私たちもあれしようか?」
 ルーシーは隼を見上げる。
「遠慮しておきましょう――」
「ルビィ! 猫の札見つけたよ」
 クララが叫ぶ。鬼刃殲ならぬ簡易騎馬戦は機動力が悪くなるだけと思われたが思わぬ利点があったようだ。
 長身のロッテンマイヤーに背負われたクララは、高い視点からフィールドを見渡すことができるのだ。
「よし! あたいの邪魔する奴ぁ、後でブッコロス! 長生きしてぇならじっとしてなぁ!」
 ロッテンマイヤーはほかの参加者を恫喝しながら突き進む。
「悪いな」
 ロッテンマイヤーのつま先が「ね」の札に触れようとしたまさにその瞬間、彼女より先に絵札に達したものがあった。
 鬼崎 朔(きざき・さく)だ。勝ち誇るでもなく坦々と絵札を持ち上げる。
「すまない。これも勝負だ」
「勝負は時の運であります!」
 スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)はロッテンマイヤーに向かって敬礼する。
 Cからスタートした朔チームは、D地点寄りにあった札を、ロッテンマイヤーチームより先に見つけ、獲得した。
 朔のもつトレジャーサーチだけでは説明できないような、何かを感じさせる。ロッテンマイヤーは何か違和感を感じながらも引き下がるしかなかった。