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御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

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御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

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そのさん 第二クォーター


 一枚目を取得した朔チームはその後も、四枚を続けざまに取得した。取得枚数が増えるごとにほかのチームからのマークが厳しくなる。まるでフィールド場に配置された絵札の配置をあらかじめ知っているかのような朔チームも、札を取れなくなってきた。
 時間の経過とともに、風が出てきた。南西からの強い風が吹く。
「はっはっはぁ! これでも喰らいな! 青びょうたんども!」
 ロッテンマイヤーはスタート地点付近に隠しておいた炭酸カルシウムの袋を破きまき散らす。炭酸カルシウムはグラウンドのライン引きに使われるものをくすねてきたものらしい。
 炭酸カルシウムは、強い南西からの風に乗ってグラウンド中に広がっていく。
「お、こんな事考えつく人間が私たち以外にもいるなんてね」
 D地点スタートのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が笑いながら炭酸カルシウムの空き袋を放り投げる。彼女もまた炭酸カルシウムを撒き散らしたのだ。
 南西からの風が吹き始めたこの瞬間こそが、リカインが狙っていたものだった。
「やれやれ、勝手に『私たちの計画』にしないでほしいものだ」
 キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)がぼやく。
「わぁ、なんだか綺麗だな!」
 童子 華花(どうじ・はな)はまるで粉雪のように舞う炭酸カルシウムを見て、手を叩いて喜ぶ。
「キューさん、お嬢、ハナさんは自分が責任持って見させてもらいます。思う存分やってきてください」
 ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が華花を抱き上げ、その分のロープをたぐり寄せる。

 ルミーナは壇上に立ったまま腕組みをしたまま微動だにしない環菜に耳打ちする。
「――これは少しやり過ぎなのでは?」
 A地点、B地点の参加者たちは、むせたり盛んに目をこすったりしている。
「そうね。勝つためなら手段は選ばない姿勢は大したものだけれど」
 環菜はポケットから携帯電話を取り出す。
「競技が私の指示以外で中断するのは少しだけつまらないわね」
 環菜は目にもとまらない速さで携帯電話を操作する。
「少しお仕置きしましょうか?」
 環菜が携帯電話のオンフックボタンを押す。制御用のシステムにコードが送信される。

ぼよよ〜〜ん!


「うひょおおおおおおおおおお!!!!!」
「うへああああああああああ!!!!!」
 リカインチームとロッテンマイヤーチームの足もとが唐突にはじける。
 地下に仕込まれていたお仕置き用トラップ『ぼよよん君二世』が発動されたのだ。ぼよよん君二世は、環菜がこのグラウンドを作らせた時に仕込んでいたものだ。このグラウンドのほぼすべての場所にぼよよん君二世が仕込まれている。環菜の持つ携帯電話からのコード送信でいつでも発動できる。
 宙を舞う二チーム。それぞれグラウンドの一番端に積み上げられたマットの上に落下する。
「競技一時中断!」
 環菜は続けざまにコードを送信する。スプリンクラーが作動し、風に乗って広がる炭酸カルシウムは急速に収まっていく。
「時は、来た――」
 ロッテンマイヤーとリカインは風の吹くのを待っていた。しかし、それを読んでグラウンドに水が撒かれるのを待っている者もいた。
「オールハイルイルミン!」
「二人のコンビネーション見せてやりましょう」
「ここから挽回ですね!」
 A地点の譲葉 大和(ゆずりは・やまと)水神 樹(みなかみ・いつき)は目配せをし合う。彼らは母校の名誉のために力を合わせることを誓っていた。
「さて、ようやく落ち着いたわね――それじゃあ、次の札に行きましょうか」
 環菜がボックスから読み札を取り出す。
「譲葉 大和君の案ね」
 大和と樹は素早く視線を交わす。次に読まれる札は『こ』
「こ、これからの山葉涼司はどこに行く……ほんとうに、どうするつもりなのかしらね」
 故意か偶然か、環菜の呟きがメガホンに増幅されてグラウンド中に響く。
 気の毒そうな視線が山葉 涼司(やまは・りょうじ)に突き刺さる。何となく気まずい沈黙が会場に降りる。
 沈黙の中、樹とカジカ・メニスディア(かじか・めにすでぃあ)のペアがそろりと進み出る。
「こ、こ。カジカ、わかる?」
 まるで子供扱いだが、カジカはそれにすら気づかぬようにフィールドを見渡している。
「おしるこの、こ!」
 カジカは突然走り出す。樹とカジカをつなぐロープがぴんと張る。樹は慌ててカジカの方向に向かって駆け出す。
「さて、水神さんの邪魔はさせませんよ」
 大和は眼鏡を外す。いつもは眼鏡の下で柔和そうに細められている目が、鋭さを増す。
 スプリンクラーの散水によって濡れたグラウンドの上に、氷術を放つ。水分を含んだグラウンドはたちまち氷の板と化す。
「なぁ、俺ってどうなるんだ?」
「涼司は涼司だよ!」
 花音・アームルート(かのん・あーむるーと)はにっこりと微笑んで自分より背の高い涼司の頭を撫でた。
 そんな二人の横を朱宮 満夜(あけみや・まよ)ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)のペアが通り過ぎていく。
「うーん。花音さんも懐が深いね」
 満夜はため息をつきながら呟く。
「日本ではああいう二人を『割れ鍋に綴じ蓋』というのだろう?」
 ミハエルの言葉に満夜は苦笑で答える。
「それ、いろはカルタだよ」
 二人はあえて二人三脚スタイルで競技に挑んでいる。ミハエルもほかのチームの進行方向に向かって氷術を放ちながら駆けている。直接当てなければいいので狙いは正確でなくていい。
「ペナルティが発動しないということは、御神楽さんは見逃すつもりのようですが……あたしの主義には反しますね」
 篠北 礼香(しのきた・れいか)が大和の足もとに弾丸を撃ち込む。
「っく……」
 集中を切らし、大和の詠唱が途切れる。
「姉貴、あの札はとってもいいのか!?」
 ジェニス・コンジュマジャ(じぇにす・こんじゅまじゃ)が『は』の札を指さす。
「お手つきになるからダメ!」
 礼香とジャニスがそんなやりとりをしている間に、樹は自らが提出した読み札に対応する札を手に入れたのだった。