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冬休みの過ごし方

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冬休みの過ごし方

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episode8:祈りは誓いに似て


 あけましておめでとうございます、と、面倒くさがるパートナーの閃崎 静麻(せんざき・しずま)を引きずって、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)はコハクと合流、新年の挨拶をした。
 お正月、ということで、レイナは慣れない振袖に挑戦していたが、静麻はいつも通りの、ヨレヨレコート姿である。
「おめでとうございます」
 コハクも挨拶を返した。今日はこれから、初詣である。


「はい。できたよ〜」
 コハクの着付けを完成させて、清泉 北都(いずみ・ほくと)は満足そうに頷いた。
「コハクなら振袖もいけると思ったけど、今回は初めてなんだし、普通にねぇ」
と、コハクの為に持参したものだ。
「あの……コハクは男なんだけど?」
 突っ込みを入れた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
「だから?」
ときょとんと訊き返されて、
「うーん、いや、別にいいわ……」
 着せられなかったんだしね、と美羽はそれ以上言うのをやめる。
「それより、君も振袖を用意しているんでしょう?
 何なら、僕が着付けてあげるよぉ」
「え? でも、服脱ぐんだし……」
 確かに自分で着付けは出来ないが、下着姿を見られることになる。
 及び腰な美羽に北都はけろりと
「ああ、そういうの僕、全然気にしないよぉ」
と言う。
 私が気にするのよ! と美羽は思ったが、本当にそういうことに全然興味がなさそうな北都に、結局は着付けて貰ってしまった。
「北都さん、女性用の着物も着付けられるんですの?
 あたし達のもお願いしてよろしいでしょうか」
 逆に自分から頼み込んだのが、ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)である。
 折角のお正月なのだから、と、自分の分とパートナーのリネン・エルフト(りねん・えるふと)の分の振袖を用意してあったのだ。
「いいよぉ」
 気前良く、北都は請け負う。
「さあさ、リネン。先に着付けして貰いなさいな」
 北都に着物を預け、リネンの背中を押す。
「う、うん……」
 躊躇いながらも、言われるまま、リネンも着物を着付けて貰う。
「髪が短くて結えないけど、髪飾りをつけるともっと華やかになるかもねえ。
 神社に行く途中でそんな店を見付けたら、寄ってみるといいんじゃないかなぁ」
「あ、ありがとう……」
 てきぱきと着付けられながら、アドバイスも貰う。
 続いて、ユーベルも着付けを済ませ、
「これで、女性陣は全員振袖だねっ」
 美羽が長い袖をゆらゆらと振りながら笑った。

「それじゃ、いってらっしゃい。楽しんできてね〜」
「お帰りになりましたら、初詣の話をお聞かせくださいね」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)の言葉に頷いて、コハクや美羽達は連れ立って初詣に出かけて行く。

 北都は留守番で、帰ってきた皆の為にお節やお雑煮の準備をするのだ。
 ツァンダで用意された大量のお節は、大勢でつついた結果、日保ちがするように作られた意味が全くなく全てたいらげられてしまい、北都が作ったものを用意、お雑煮は、これから作る。
 着物にタスキ掛けて、北都は料理にとりかかった。
「味付けには手を出すな」と言われているクナイは、その辺には関わらないように北都を手伝う。
 時々、ほんわりと自分を見つめているクナイに気づいて、
「何?」
と首を傾げた。
「……いえ、何でもございません」
 慌てて手元に注意を戻すクナイに、
「変なの」
と笑う。
 ああ、笑顔が増えましたね、とそれを見て嬉しくなる。
 変わって行くのは、コハクだけではないのだ。
 そして、北都の着物タスキ掛け姿に見とれていたというのは秘密だった。


 神社へ向かう道すがら。
「おっ、ちょっとこの店寄っていかねーか、コハク!
 このハンバーガー屋は美味いんだぜ! 皆も来いよー、おごるぜっ」
鈴木 周(すずき・しゅう)が右の店を指差して、コハクを美羽から引き剥がして連れて行けば、
「あっ、コハク、ここに飾られてるぬいぐるみかわいい! ちょっと中も寄ってみない?」
と、岬 蓮(みさき・れん)が左の店に目を留める。
「俺のメイン活動地帯はツァンダだが、空京にもそれなりに詳しいぜ。
 次、あそこのラーメン屋な!」
「ていうか、女性の店員さんがいる店ばかりだね……」
 苦笑してコハクが言う。
 そう、それなりに詳しいのは、勿論味も大事だが、一番はそこなのだ。
 そして勿論、ナンパしながらの寄り道である。もれなく玉砕のオマケ付きだが。
「もー、いい加減にしてよ、振り回されて、神社に辿り着く前からコハク疲れてるじゃないっ」
 寄り道しまくりな周に、美羽が耐えかねて言うと、周はちらりと美羽を見て、ぐい、とコハクを引き寄せた。
「なあコハク、ちょっとこのままフケねえか?」
 ひそひそ、と囁かれて、ええ? とコハクは驚く。
「初詣は?」
「ちょっと遅れて合流すりゃ問題ねえって!
 数で勝負なナンパもあるんだぜ? 美羽のことなら気にすんな。浮気も男の甲斐性だぜ!」
 いや、気にするだろう普通。
 というか、気にするところはそこだけじゃないのだが。
 そもそも、浮気というか別にまだそんな関係じゃないのだが。
 色々突っ込みどころはあったものの何も言えないでいると、ぐい、と周は猫の子のように後ろから首根っこを持って引き剥がされてしまった。
「そこまでだ。全く……」
 呆れたように、静麻がぽいっと周を放す。
「いい加減にしとけ。今日はそういう日じゃないだろ」
「俺は365日そういう日なの!」
 文句を言ったものの、コハクの顔を見て、周もこれ以上はコハクを困らせるだけだと判断した。
「へーへー、まあ確かに初詣しながらじゃ疲れちまうか。
 コハク、また日を改めてな」
 冬休みはまだあるのだし。

◇ ◇ ◇


 ストリートライブで盛りあがっている神社公園を抜けて、大きな鳥居をくぐる。
 大きいね、とぽかんと口を開けて驚いているコハクに、由来なんかを教えてやる。
 元旦は過ぎ、最も混雑している時よりは人ごみは減っているが、それでも随分な人出だ。

「射的もあるわ。りんご飴もたこ焼きもいいけど、何かゲームっぽいのがいいな〜。
 コハク、何かやってみよっか。金魚すくいとかどう?
 あ、でも先にお参りを済ませようか?」
 色々な出店を見渡しながら、岬蓮がコハクを誘う。
 出店をあちこち珍しそうに冷やかしつつ、参道を歩いていると、突然コハクは後ろから誰かに抱きしめられた。
「はぁい。お久しぶり、コハク♪ こんなところで会うなんて偶然ね!」
「!? お前!」
 静麻がぎょっとして叫ぶ。
 まさかこんなところで襲撃してくるとは思わなかった。
 こんな人ごみで使えるような武器は備えていない。
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、むぎゅうううう、とコハクに身体を押し付ける勢いで抱き付きながら、険しい表情をする静麻に
「やーね、怖い顔!」
と肩を竦めた。
 振袖には合わないから、とリネンも帯剣していなかったが、すかさずユーベルを見る。
 光条兵器を出すと、着物も破れてしまうが、構っていられない。
 ユーベルが剣を出そうとしたところで、
「こんな人ごみで物騒なこと考えないでよね。
 別に”光珠”持ってない貴方達を襲うつもりなんて、もう無いし」
 硬直して動けないコハクを、面白そうにべたべた撫で回しながらメニエスが言い、信用したわけではなかったが、動きを見ようと、ユーベルは剣を出すことを留める。
 確かに、こんなところで、大型剣など引っ張り出したら、周囲は大騒ぎになってしまう。もし本気で襲撃してくるのなら、メニエスがそれを意に介すとは思えないが。
「コハクから離れなさいよっ!」
 隣りにいた美羽がコハクを引っ張り戻そうとするが、メニエスは構わず、くすくす笑って、つん、とコハクの頬を突ついた。
「全くもう、あれから色々大変だったのよ〜? ついに所属も変わっちゃうしね!」
「……それ以上、コハクに触れていたら、斬るわ」
 ぎろりとリネンに睨み付けられ、あら怖い、と肩を竦めたメニエスは、するりとコハクから離れる。
「ま、いっか。面白かったわ。じゃあね」
 散々弄り回して満足したか、あっさり解放したと思ったら、人ごみの中に見えなくなってしまう。コハクはへたりと座り込んだ。
「大丈夫ですか、コハク?」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が助け起こす。
「……びっくりした……」
「全くですね。何事もなくてよかったです」
 全く新年早々、縁起が悪いですね、と言うと、
「エンギ?」
と、コハクやリネンが訊き返す。
「お芝居のことですよ」
と説明したレイナに「違う」と静麻が突っ込んで、
「生徒が多くて大変ですね」
と、恭司は苦笑した。


 そうして彼等は、ようやく拝殿に辿り着いた。
「ここ、お参りするところだよ」
と、蓮が説明する。
「お参り?」
 訊き返すコハクに、ほらよ、と静麻が小銭を渡す。
 不思議そうな顔をされたので、
「あそこの箱に投げ込んで、心の中で願い事を言うんだよ」
と教えてやる。
 レイナが手本を見せるように、賽銭箱に小銭を投げ入れ、拍手を打った。
 コハクもそれに習い、そしてその横で更にリネンもそれに習う。
「……これで、いいのかしら?」
 戸惑うリネンに、
「そうそう、それで、願い事を考えるの。今年がいい年でありますように、とか」
 蓮が教えて、リネンは手を合わせて目を閉じる。
 レイナは、今年こそ、シャンバラの復興が成りますように、と願った。
 美羽は、コハクともっと仲良くなれますように、と願う。
 とりあえず、帰りは腕組んで帰ろう。
 何だかどたばたしていて、ここに来るまでできなかったけど。
 コハクは恥ずかしがるだろうが、パートナーなんだから! とか言って押し通してしまおう、と考えていた。


 妹尾 静音(せのお・しずね)は、巫女のバイトで大忙しだった。
 元々は、バイトでいい男をゲット! という逆ナン目的だったのだが、忙しすぎて、それどころではないのである。
 神主やら宮司やらをターゲットにするわけにはいかないし、モデルっぽいと思って巫女のバイトをすることにしたのに、参拝客はまるで、水族館での水槽の向こうの魚の群れである。
 手出しできない。
「すみません、おみくじお願いします」
 恭司にに声をかけられて、はたと我に返った静音は
「はい。こちらです」
と応じる。あら、いい男、と顔をチェックするのは忘れない。
 チェックするしかできないのが辛いところだが。
「おーっ、美人のおねーさん! この後暇だったらお茶しない?」
 声をかけたのは周の方で、
「こらこら、見境ないですよ。巫女さんにまで声をかけない」
と恭司にたしなめられ、ちぇー、と口を尖らせていた。
 すみません後輩が、と恭司に謝られ、いいのに……と、静音は心の中で思ってしまう。
 しかしここはバイト優先だ。
「ごめんなさい。お正月中は、ちょっと忙しくて……」
 愛想笑いで心で泣いた。
 そんな静音の心など露知らず、おみくじを開けた恭司はコハクを見た。
「俺は、吉ですか。コハクはどうでした?」
「中吉、です」
「良かったですね、結構いいですよ」
 そうなんですか? と、コハクは嬉しそうにおみくじを見つめる。
「あらら……」
 ユーベルは、自分のおみくじを見て苦笑した。
 凶を引いてしまった。
 はっとして、おみくじを開いて見ているリネンのを、こっそり後ろから覗き見る。
 吉、と書いてあるのを見てほっとした。
「お守りもいっぱいあるよ」
と蓮が並べられた絵馬や鈴や破魔矢などを見てコハクに声をかける。
「コハク、これから蒼空学園に入って勉強もするんでしょ?
 何かそういうの買ったら?」
「学業成就のお守りでしたら、こちらですよ」
と、巫女の静音が示してやる。
 あれがいいこれがいいと皆で選んで、コハクにお守りをひとつ、買ってあげた。

「そういえば、何か騒がしいみたいですけど、どうかしたんですか?」
 境内の一部が変に盛りあがっているようなのを感じて、恭司が静音に訊ねる。
 ああそのこと、と、静音は答えた。
「福天レースって言って、参道入り口から裏の摂末社まで、走って競争するイベントをやるんですって。
 もうすぐ始まるみたいだから、よかったら参加してみるか、それか沿道から観戦してあげてね」
「どうします?」
と恭司は一同を見る。
「折角だから見て行きましょう?」
 少しでも、リネンと皆との思い出作りをしてやりたいユーベルが言って、ぞろぞろと皆で摂末社への参道へ向かい、ゴールの社に近い場所で勝負を観戦して、ちゃっかりと甘酒のご相伴にも預かった。

「さて、お参りもしたし、おみくじもひいたし、レースも見たし、あとは、ちょっとミスドにでも寄ってお茶してから帰りますか」
 恭司の言葉に、そうね、と美羽や周達も賛成する。
「コハク、今日は楽しかった。また一緒にどこか行こうねっ」
 蓮の言葉に、「うん」とコハクも笑った。
「帰ったら、今度はコタツにみかんでぬくぬくだよ〜!
 冬休みの最強装備だからねっ!」
 美羽が、コハクにコタツの素晴らしさを教えなくては! と意気込む。
「……あの、小鳥遊」
 着物は随分歩き難い。リネンは、ちょこちょこと美羽に歩み寄った。
「……あの。私が言うのも、変だけど。コハクのこと、よろしく。
 ……色々と、ありがとう」
 共に、1つの冒険を乗り越えた。
 そのお礼を言っておきたいと思っていた。
 コハクのことを、自分も大事に思っているから、美羽にお願いしたいと。
「うん。まっかせて!」
 にこっと笑って美羽は請け負った。

◇ ◇ ◇


「じゃ、俺達はここで」
「またね」
「今度は冬休み明けに」
 別れ際、閃崎静麻は、コハクに訊ねた。
「お前は、今幸せか?」
 アズライア達、死んで行った奴等に今、幸せだと言えるか? と。
 コハクは静麻を見上げて微笑んだ。
「うん」
 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

ハルカ「うなるぜオレの6D×2!!」
コハク「えっ、何それ?」
ハルカ「マスターが叫びながらマスタリングしてたのです」
リシア「それひょっとして、福天レースとやらの判定ロール!? アナログでやってたの!?」
ハルカ「おみくじは20Dだそうなのです」
コハク「20面ダイス?」
リシア「今時、他のマスターみたいにかっこよく、何たら乱数ソフトとか使わないものなの!?」
コハク「皆さんの運というより、マスターの運だよね、それ……」
ハルカ「おみくじは、凶と大凶がいっこずつだけあったのです。あとは、大吉・中吉・小吉・吉なのです」
リシア「1/20を4回も出してるの? 今年のマスターはもう駄目なんじゃない」
コハク「唯一の大凶を引いてしまった人は、本当にごめんなさい」
ハルカ「というわけで、あけましておめでとうなのです〜」
リシア「今更!!」
コハク「何だかもう、お別れしておいてあっという間に戻ってきてすみません……。お正月、皆と過ごせて楽しかったです」
ハルカ「皆と再会できて嬉しかったのです。新しく友達になった人もこれから仲良くしてくださいなのです」
コハク「福天レースといえば」
リシア「話が戻りすぎよ」
ハルカ「福の神のふくちゃんは、桜月マスターさんのお正月シナリオ『どこに参ろか初詣』からのゲスト出演なのです〜」
コハク「皆さんも、楽しくお正月を過ごせていたら嬉しいです」
ハルカ「ラブラブなMCさん達が多かったのです! もうすぐバレンタインでうっきうきなのです!」
リシア「チョコレートなら私も好きよ」
ハルカ「ハルカも大好きなのです」
コハク「……? 女の人がプレゼントするイベントだって、周や美羽が言ってた気がする……」
リシア「チョコレートなら私も好きよ?」
コハク「……怖いから迫らないで……」
ハルカ「皆も頑張ってラブをゲットしてなのです」
コハク「それでは、いつかまた」