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獣人どうぶつえん

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#2 ストライキ当日・開園。動物園入り口ゲート付近





 今日はこの園にとって、存続と閉鎖を賭けた特別な日となる。

 園長や従業員、そしてそれに絡む戦士たちの思惑をはらんで、今日も空京どうぶつえんは、いつものように開園した――



「ティア! ねえ、ティア! やっと来れたね! 空京どうぶつえんだよっ」

 初めての空京どうぶつえんに、仲原 陸(なかはら・りく)は普段に輪をかけてはしゃいでいる。

 ティア・如月(てぃあ・きさらぎ)は、両手をばたばたと振ってテンションの上がりきった陸をたしなめる。

「陸、あまりはしゃぐとまたこけるぞ」

「だってだってティア、空京内、ううん、パラミタ大陸でも一番人気の動物園だよ?」

「ああ、知っている」

 朝の開園直後だというのに大勢の観客が押し寄せる。その人ごみの合間を縫って、あちこちへ動きまわる陸。

「今日はね、ネコ科の動物さんをいっぱい見なきゃね。ライオンさんでしょ、トラさんでしょ……」

「陸、もう少し落ち着きなさい」

「あと、パンダさんも! 熊猫って書くからね。きっとネコちゃん要素てんこもりだよっ」

「パンダ……」

 ティアの赤い瞳が一瞬鋭く光る。

 陸を楽しませるためにやってきたが、ティアの目的は、今日空京どうぶつえんで行われるというストライキを止めることにある。

(ストライキの首謀者はパンダの獣人……獣人とはいえ、所詮ケダモノか。客前で人間の姿になるだと? 観客の、いや、陸の夢を壊させてなるものか)

「ティアー、ぼーっとしてないで早く!」

 陸の声で我に返ったティアは、いつの間にか遠くで手招きする陸を追う。

「先に行っちゃうよ~」

「陸!」

「どぇっ」

 ティアが声を上げるも、時すでに遅し。陸は人にぶつかって、間の抜けた声をあげてすっころんでしまった。

「いった縲怩「……」

「だから言っただろう」

「失礼。大丈夫ですか?」

 陸にぶつかられた夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)は、しりもちをついた陸に手を差し伸べる。

「こちらこそ失礼した。明らかにこちらの不注意だ」

 陸より先に、ティアが彩蓮に言葉を返す。

「ひっど縲怩「。ティアがぼーっとしてたから声かけてあげたのに」

「いや、陸のドジでしかあるまい」

「冷たいのっ」

 頬を膨らませた陸を見て、彩蓮は思わず吹き出してしまった。

「もう! お姉さんまで笑ってる!」

「あ、すみません。つい」

「いいのだ。笑ってやってくれ」

「ティアひどい!」

「ふふ、ははは」

 他愛のないやり取りに、彩蓮はいとも簡単に笑ってしまった。

「あれ、お姉さんって画家さん?」

 陸は、彩蓮が脇に抱えたスケッチブックと画材に目をやる。

「え? ああ、いや。動物の骨格模型を作るため、動物のスケッチを描きに来たんです」

「じゃあ動物の学者さんなの?」

「いいえ。シャンバラ教導団の衛生科に所属しています。将来は軍医になろうかと」

「へえ~。すごい!」

「陸もそういう具体的な目標を持ってほしいものだな」

「う、うるさいなぁ。ねえ、どの動物のスケッチを描くの?」

「まだ決めていないんです」

「じゃあ一緒にネコ科の動物さん見に行こうよ! 私は仲原 陸。」

「私は夜住 彩蓮といいます。ここは初めてで、ちょうどどうしようか考えていたところです」

「決まりっ! じゃあネコちゃん達を見に行こ~」

 陸を先頭に、ティアと彩蓮は動物園の奥へと進んでいく。


 それを後ろから隠れて見守る影が一つ。彩蓮のパートナー、デュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)である。

 カモフラージュのつもりか、今日はクマの着ぐるみをかぶっているので、隠れていても怪しさ満点である。

(彩蓮……なんと楽しそうな顔であろうか……)

 デュランダルが歩くと、がちゃがちゃと金属的な音がする。

「ママー、あのクマさん、変な音がするよ」

「しっ、見ちゃいけません!」

 変装したつもりだが、一般の子供にも見破られる始末である……



☆★☆★



「ここが空京どうぶつえん……ふっふっふ。腕が鳴ります」

 ルイ・フリード(るい・ふりーど)は、普段から整えている見事なスキンヘッドを輝かせながら、腕を組んで仁王立ちしている。

 後ろから、なぜか意気込んでいるルイの肩をたたき、椎堂 紗月(しどう・さつき)は言う。

「おいおい、道場破りじゃねえんだぜ」

「そもそも何でルイが一緒なんだ……せっかく紗月や赤羽さんと……」

 と、ぶつぶつ不満を呟いているのは、鬼崎 朔(きざき・さく)

 そんな朔に、赤羽 美央(あかばね・みお)が声をかける。

「不満そうですな、鬼崎さん」

「べ、別に不満というわけでは……」

「でもダディを呼んだのは私なのですな」

「え、赤羽さんが?」

「そう! わざわざワタシが動物園くんだりまでやってきたのは他でもありません。娘とも言うべき美央ちゃんが誘ってくれたからなのです!」

 ルイは上腕と胸筋を強調するポージングを決め、朔にニカッと白い歯を見せる。

「そのポーズは?」

「ルイ!! スマイル!!」

 朔は無表情のまま、心の底からため息をついた。

「まあまあ朔。せっかくの人気動物園にこのいい天気! 今日は思いっきり楽しもうぜ!」

 紗月は朔の手を取って、園の奥へ引っ張っていく。

(ああ……幸せだ……)

 紗月の手の柔らかさを感じながら、朔は悦に浸る。

「ところで、お腹が減ったら何を食べさせてくれるのですかな」

 美央は朝っぱらから昼食の心配をしている。

「そういえば四方天さんが露店をやるらしいぜ」

「ほう、それはそれは」

 ルイもそれに興味を示す。

「何を食べさせてくれるのですかな」

「何でもおでん屋さんを開くとか」

「うん、やるわよ」

「うおお! びっくった!」

 全員が声のする方を振り向くと、屋台の台車を後ろから押している四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)と、それを前で引っ張るパートナーのエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)が、立っている。

「お昼くらいに開店するから、遊びにおいでよ」

「ばっちりおいしいおでんを用意いたしますわ」

「うん! 行く行く!」

 紗月が目を輝かせる。

「それじゃ、私たちは準備があるから。エル、行くよ」

「ええ、唯乃。それではみなさん、後ほど」

 エラノールが屋台を重そうに引いていく。

「あの、唯乃。屋台がとても重い気がするのですけれど、しっかり押してくださってます?」

「もちろんもちろーん。全速前進~」

 かく言う唯乃は、屋台の後ろに乗っかって、押すのを完全にサボっている。

「ふんっ!……おかしいですわ……重い……」

「がんばがんば~」

 そんなやりとりをしながら、二人は園の奥へと消えていく。

「……」

 四人は、そんな姿を見送って、

「じゃ、じゃあ俺たちも行こうぜ」

 唯乃たちとは別方向へと進んでいった。



☆★☆★



 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は、自分が得た情報が、間違っているのかと一瞬疑った。

「な、何かいつも通って感じの賑わいだなぁ。ホントにストライキなんて始まるのかよ? 透乃ちゃん?」

 泰宏に呼ばれた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、答える。

「嵐の前の静けさってね。始まる前からギスギスしてたら、それこそまずいよ。ま、せっかく入場料も払ったんだもん。楽しんじゃお」

 透乃はからりとしている。

「とりあえず、スト起こそうってやつの様子見た方がいいんじゃねえか?」

「え~、別にいいよ。ショーが始まるときは始まるもん」

「ショーって……」

「当人は真剣なんだろうけどさ、私にとってみたらやばくて面白そうだもんね」

「あのなあ、透乃ちゃん……」

「じゃあやっちゃん、ストライキ止める方法思いついたの?」

「え? い、いや……」

「じゃあじたばたしたってしょうがないよ。なんとかなるっしょ!」

 あっけらかんとしてるのか、ストライキ決行を楽しみにしているのか、透乃は意に介さない。

「それに、パニックになったら、やっちゃんが私を守ってくれるでしょ?」

「お、おう! そりゃもちろんだぜ!」

「ストライキの時のカオスってどんなもんなんだろ? それはそれで楽しみー」

「……」

 泰宏は少しあきれるが、ストと止める方法が思いつかないのも確かだ。

(ま、パニックの時のために、逃走経路だけでも掴んどくか……)

 泰宏は、園内を進みながら、周りを見渡す。

「ん?」

 観客の賑わいに混じって、奇妙な歌が聞こえる方に、泰宏が目をやる。

「どうぶつ~、どうぶつ~、たのしみだもん~♪」

「きりんさん~、きりんさん~、どうしておくびがながいの~♪」

 歌の主はヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)

「ヴァーナーおねえちゃん、動物園っておっきいねっ」

 サリスは、ヴァーナーと繋いだ手をふりふりしながら、目を見開いて言う。

「カンナ校長先生が来るくらい、すごい動物園なんですよ」

「すごいすごい!」

「今日はサリスちゃんに、いろんな動物を見せてあげますね」

「やった~。おねえちゃんダイスキ!」

「サリスちゃんっ」

 公衆の目も気に留めず、ヴァーナーはサリスの笑顔にキュンとして抱きしめる。

「どうぶつ~、どうぶつ~、きりんさん~……」

 二人はまた手をつないで、歩き始める。

「……ヘンな歌……」

 泰宏それを見送りながら呟く。直後、ヴァーナーの目が光り、泰宏をキッと睨む。

「こら、そこっ! ヘンな歌とはなんだっ!」

 先ほどとは打って変わった口調だが、本人は気にしていない。

「え!? いや、そんなつもりじゃ……聞こえてたのかよ……」

「聞こえてるぞっ!」

「わああ! ご、ごめんってば」

「謝って済むなら警察はいらないんだぞ!」

「透乃ちゃん、助けてくれぇ」

「やっちゃんってば何揉めて……あ、百合園の制服! かわいーっ」

 透乃は泰宏を放って、ヴァーナーとサリスがまとった制服をまじまじと見つめる。

「ねえねえ、あんたたちって、百合園の生徒?」

「あ、分かりますか?」

 ヴァーナーはお気に入りの百合園女学院の制服を褒められて、あっという間に機嫌が直る。

「今日はカンナ校長先生もやってくるっていうすごい動物園って聞いて、遊びに来たんですよ」

「カンナ様? うちの学校の?」

「あら、あなたは蒼空の方ですか?」

「うん、そうだよ。こう見えてもね」

「あんなに綺麗な方は、なかなかいませんね~」

「あはは」

 透乃とヴァーナーは、いつの間にか意気投合してしまっている。

「ヴァーナーおねえちゃん、まってぇ」

 サリスが慌てて追いかける。

「あ、あれ? なあ、一緒に行くのか?」

 流れが全く分からない泰宏は、困惑気味に透乃に話しかける。

「ここって、動物ふれあいエリアがあるらしいよ」

「ええ~! あたし触ってみたいっ」

「ボクも興味があるわ」

 三人とも、泰宏にまったく興味を示さない。

「お、おい、待てって! 一緒に行動するのか? するんだな? それでいいんだな? おおい! ……私って今回こういう役回り?」

 結局泰宏は、透乃の自由行動についていくしかないのであった……