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獣人どうぶつえん

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獣人どうぶつえん

リアクション


#6 ストライキ開始直前 デニーの檻





 ストライキ危機にあるとはいえ、スト反対派のデニー達はいつも通りの勤務をしなければならない。

 ゾウのデニーは、観客たちに長く優雅な鼻を揺らして、時には子供を撫でてあげたりする。

 さらに、観客には聞こえないように、数人がデニーの檻のすぐ脇にいて、ストライキ防止の打ち合わせをしている。

「まったくのう。おなごの裸なら大歓迎じゃが、むさい男の裸など見てもなんにも楽しくないわ」

 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、不機嫌な顔を浮かべる。

「お客さんは動物を見れないし、誰にもいいことなんてないよ……」

 ファタのパートナー、フィリア・バーミーズ(ふぃりあ・ばーみーず)は、ファタの服の裾をつかみながら、頼りなげに意見を言う。

 打ち合わせの場には、遠野 歌菜(とおの・かな)とパートナーのスパーク・ヘルムズ(すぱーく・へるむず)、さらに和原 樹(なぎはら・いつき)とパートナー三人フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)もいる。

「ああ……普通に遊びに来たかった……」

 樹は、不満を漏らす。

「でもまあ、動物が獣人って分かったら、純粋には楽しめないよなぁ」

 という樹の言葉に、ショコラッテが

「私はそれでもかまわないわ。兄さんたちと一緒に出かけられるのなら」

 と、動物たちの正体にまんざらでもない返事をしながら、お弁当を広げようとしている。

 それを見てフォルクスが、

「こらショコラッテ。こんなところで食事をする気か?」

「だってお腹がすいたんだもの。樹兄さんもそうでしょ?」

「うん、そうだな」

「おい、樹、お前まで。セーフェル、何とか言ってやれ」

「おいしいですよ」

 セーフェルはすでにサンドイッチを口に含んでいる。

「まったく……こんなところでよく食欲が」

「君らも食べるか?」

 あきれるフォルクスを尻目に、樹は歌菜たちにもサンドイッチを勧める。

「え、いやあ、私は……」

 歌菜は遠慮気味だ。

「なあ、そんなことより、意見出し合おうぜ? 始まるまで待ちぼうけなんて、俺は嫌だぜ」

 スパークは、意気揚々と語る。

「例えば?」

 樹が尋ねる。

「ストライキはもうすぐ始まるって情報だろ? 止めるのに動いた方がいいんじゃねえか?」

「しかしねぇ。空京どうぶつえんは広い。ストライキ強行派を全員押さえるのは、物理的に無理じゃない?」

「そうじゃのう。獣人であることがばれるとしても、公衆に醜い全裸を晒すのは避けたいところじゃ。わしとしては、服さえ着てくれれば、ストを止める理由はないのじゃが……」

「やり方が賢くねえぜ。素っ裸なんて、あいつら獣人の誇りがあんのかよ……」

 スパークが悪態をつく。

「すみません。うちのスタッフがお手数をかけてしまって」

 デニーが、観客の隙をついて謝罪に来る。

「ああ、いや! デニーは何も悪くねえぜ?」

「そうじゃ。むしろおぬしの裸体は歓迎するぞ?」

「お、お姉ちゃん、何言ってるの……」

 フィリアがおっかなびっくりに突っ込む。

「フィリア。獣人を売りにして空京どうぶつえんを再構築しようという提案、園長には伝えてくれたかの?」

 ファタは、事前にその提案をロイホに伝えておくよう、フィリアに指示を出していた。

「え! あ、あ、あの、お姉ちゃん……ご、ごめんなさいいぃぃ……」

 フィリアは瞳をうるうるさせて、ファタに謝っている。

「まったく……まあ、そんなおぬしに頼みごとをした、わしの落ち度じゃがな」

「だ、だって、園長さんのお部屋がバチバチってなって、ドカンってなって、煙がいっぱい……」

 フィリアは、自分が目撃した、園長室爆発の模様を伝える。

「な、何と! それはストライキの狼煙ではないのか!?」

「ええ! あの、よく分かんない……」

「なぜそれを早く言わん!」

「ごめ、ごめんなさいいいぃぃぃ」

「こ、これ、泣くでない!」

 フィリアはファタの胸元に突っ伏して泣くばかり。

「お、おい、聞いたか!?」

 フォルクスは驚く。

「あちゃー、もうストライキは始まってるのか?」

 樹も続く。

「スパーク! 陽動作戦の時間だね!」

 歌菜は、待ってましたとばかりに、自前のマイクを取り出した。

「やれやれ、やっぱやるのかよ。仕方ねえ」

「な、何する気だ?」

 樹は尋ねる。

「お客さんが全裸を見なくて済むように、パラミタのアイドル! 遠野歌菜ちゃんが、歌って踊って、目をそらしますっ」

 キュピーン

 とばかりに歌菜はアイドルポーズ。隣でスパークはラジカセを抱える。

「なあんだ。ちゃんと考えてきてるんじゃないか。いいアイデアだね」

「でしょでしょ! みんな獣人の裸どころか、カナちゃんにメロメロだよ!」

「俺たちも目をそらす手は考えてある」

 樹がパートナー達に目くばせすると、

「我の『常用大凧』に」

 とフォルクスが大凧を取り出し、

「私の『不思議な白ウサギ』を乗せて」

 とショコラッテは子飼いの白ウサギを見せる。

「観客たちは、空飛ぶ白ウサギに目を奪われるってわけだ」

「凧が揚がるまでは時間がかかります。時間稼ぎに煙幕ファンデーションが役に立つでしょう」

 セーフェルが補足を加える。

「ほう、大所帯なだけあって、なかなかのチームワークじゃのう。うちもこのようにできればよいのだが」

 ファタはちらりとフィリアを見る。

「うぅ……ごめんなさい……」

「別に怒ってはおらん。泣くな泣くな」

 ストライキ待機組は、不思議な連帯感に包まれる。

「よしっ、行きますか!」

 歌菜が号令を出したその時。

「待ちたまえ、諸君」

 ゾウの檻の向かいにある茂みから、制止の声がかかる。

「慌てることはない。まだストライキは始まっていない」

「だ、誰だ?」

 樹の質問に答えず、薔薇の学舎の制服を着こなした銀髪の青年は、デニーに歩み寄る。

「ふむ。ゾウの獣人か。俺様のパートナーとしては悪くない」

 デニーを17歳の少女と知ってか知らずか、青年はゾウの檻に入り込み、デニーの体(といってもゾウなのだが)を触りまくる。

「体格は問題ない。ここも、ここも……うむ。ココも健康だ」

「や、ちょ! 何するんですか!」

 不適切なところを触られたデニーは、思わず声を荒げる。

「よし、ゾウよ。貴様の知性を試す。俺様の質問に答えよ」

「え? 何ですか?」

「普段は柔らかいのに、カキすぎると硬くなっちゃうモノはなーんだっ!」

 彼はデニーをびしっと指さす。

「なぞなぞ……?」

「何だこいつ?」

 樹達はきょとんとしている。

「カキすぎると硬くなる……?」

 ぼむっ!

 何を想像したのか、デニーと、そして歌菜は顔を真っ赤に染める。

「そ、そ、そ、そ」

「残念! 答えはペンだこだっ!!」

「……」

「……く、くだらない……」

「カナ、お前何想像した……?」

「な、何でもないっ!!!」

 青年はおもむろにデニーの鼻を撫でる。

「む……思いのほか立派なモノを持っているではないか。ふむ。捨てがたいが、俺様より立派だと困るな」

 青年は何を考えたか、自分の制服を乱暴にわしづかみする。

「俺様のと見比べてみることにしよう」

 ばあああっっっ!!!

 青年は一気に制服を脱ぎ捨て、薔薇の学舎マントに赤いマフラーのみ、つまり基本的に全裸の格好になる。

「なぁっ! ななななななななななな!!!!」

 一同、驚くのも無理はない。というか半分パニック状態だ。

 特に恐慌状態なのは歌菜。

「いやああああああっ!! 変態っっ!!」

「変態だと! 失敬な! 俺様の名は変熊 仮面(へんくま・かめん)!!」

 変熊は、歌菜に思いっきり正面切って、声高らかに宣言した。

「ちょっとおお! こっち向かないでよっっ!!」

「ヘンタイじゃろうとヘンクマじゃろうと……」

 ファタの全身が怒りに燃える。

「おんなじことじゃろがーーーー!」

 彼女の怒りのファイアストームが、変熊に直撃!

「ぐはああああああーっ!」

 変熊は華麗に地面に……背中から落ちた。

「ぐふうっ……貴様、やるな……ガクリ」

 変熊は仰向けに気を失い、スパークが彼を用意していたシーツで覆う。

 樹は変熊を少し哀れに思いながらも、

「なるほど、こうやって便乗する奴も出てくるわけか……」

「こいつの場合はもとより用意していた気がするがな……」

 と、フォルクスは変熊を眺める。

「迷惑なの」

 ショコラッテは冷たく吐き捨てる。

「私、全力で止めるわ……もう、あんなのヤダ」

 歌菜も目に決意をみなぎらせる。

 変熊の登場は、みんなの決意を一層堅いものとした。



 ピンポンパンポーン♪



「何の音だ?」

「園内放送のチャイムです。何かあったのかしら」

 と、スピーカーからは、鳥羽 寛太の声が響く。

「えー、コホン。来園の皆様にお知らせします。まもなくパンダエリアにて、パンダのジョナサンによる、特別ショーを行います。本日しか行われない超レアなパフォーマンスです。どちらさまも、パンダエリアに、さあ! ダッシュしてくださいね縲怐v

 それは誰の目にも明らかな、ストライキ開始の合図だった……