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リアクション
「わかってるって、今急いで昇ってるからっ!」
スナイパーライフルを担いだローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、携帯電話片手に、パートナーのグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)と、大急ぎで階段を駆け上がっていた。大学のサイトの掲示板に書き込んでいた「精密射撃、引き受けマス♪」との書き込みに、今すぐ電話してとメールを送ってきたのが茜だったからだ。
「時間がないのっ。とにかく急いでっ」
電話の相手は茜だ。
「もうすぐつくから。焦らない」
ローザマリアは階段を上り詰め、屋上のドアを開ける。
そこは空京大学本校舎の屋上。
約600メートル先に、茜たちが攻防戦を繰り広げているサークル棟が見える。
「そこからクレーン車が見える?」
サークル棟前にはクレーン車が陣取り、炎上しながらもバリケードに突き刺さった鉄球を引き抜いて、再攻撃の準備を進めていた。
「同志ローザマリア、大急ぎでお願い」
「クレーン車を撃てばいいの?」
「そう、クレーン先端のワイヤーを。一撃で」
「ちょっと、無茶言わないでよ? 操縦席狙えばいいじゃない?」
「私たちの戦いはあくまで防衛。人殺しじゃないの。振り子状に揺れる鉄球付きワイヤーで、ただ一点固定されている目標は根元のクレーン先端部だけ。できるよね?」
「クレーンだって動いてるんだからそんなに簡単にいかないわよ! 風だって吹いてるし、600メートルも先のコインみたいな移動目標にぽんぽん当たるわけ無いでしょ?」
「あなたなら出来るって」
「ったく……英霊珠、本当なんでしょうね?」
「もちろんっ!」
「それと私はただの傭兵。同志じゃないからね」
ぶつぶつこぼしながら電話を切ると、ローザマリアはSR―25のセイフティーを外してスコープをのぞく。
照準器の十字線の中央でズームされた目標が揺れる。
「精度限界距離か……」
バンッ!
クレーン先端を銃弾がかすめる。
「はずしたかっ」
バンッバンッバンッ!
次々と次弾を発射する。
「……当たらないっ。なんでよぉ」
「ローザマリア、落ち着いて」
観測手を勤めるグロリアーナが双眼鏡をのぞいたまま声をかける。
「弾が右に流れてる。サイトがずれてるのかもしれない」
「うん……わかった」
ローザマリアは深呼吸すると再び照準器の先のターゲットに全神経を集中させた。
バンッ!
音速を超えて飛んでいく一発の鉄鋼弾がワイヤーをひきちぎった。
鋼鉄の破城槌はバランスを失ってクレーン車自らを直撃、ヴェーゼルとジーベックが飛び出して逃げた直後に、クレーン車は燃料に引火して大爆発を起こした。
「いっちょあがりっ♪」
ローザマリアは茜に電話をかける。
「あ、もしもし、茜さん? 仕事は終わったわよ。約束通り……」
「えー、この電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになってもう一度お掛け直しください」
「あーーーー!?」
ローザマリアは電話機を放り出すとライフルを構え、怒りに我を忘れて撃ちまくった。受話器からは茜の悲鳴が響き渡った。
その頃、サークル棟は「クレーン車大破炎上」の報に大歓声がわきおこっていた。それは1階でも例外では無かったのだが、防衛隊の意識がすぐに現実に引き戻されざるをえない事態が起きていた。
壁に空いたわずかな隙間から、7人の敵軍が屋内に侵入してきたからだった。
「いちに、さん、し、ごーろく、なな。7人だけか。ほう。勇敢じゃないか」
レンが挑発してみせる。だが、サングラスの奥のレンのまなざしはこの状況が常識では計り得ないことを的確に捉えていた。
「ご託はいい。へらへらとしゃべるのがおぬしの仕事か?」
壮年のサムライ、三道 六黒(みどう・むくろ)が答える。
「ああ。もっとも、言って聞かないヤツは張り倒すけどな」
「群れる弱者の言葉に価値など無い」
「それじゃあお前もお前のツレのワンちゃんもしゃべるな。ああ、どっちもイヌだったかな?」
「ダンナ、もうあいつを引き裂いていいかい?」
三道のパートナーの狼獣人の羽皇 冴王(うおう・さおう)が舌なめずりをする。
「ああ。よかろう。わしは雑魚の相手は苦手だからな」
「んだと?」
「このなかでいちばん腕に自信があるものは前へ出ろ」
「じゃあ、俺にやらせてもらおうかな」
名乗り出たのは金髪のタフガイ、ラルクだ。
「ふざけんな。最強は俺だ」
国頭が割って入る。
「国頭、悪いが主役は譲ってもらいたいな。何せ俺は空京大の当事者だ」
「おぬし、名は?」
「ラルク・クローディス。こーみえても医学部なんだぜ?」
「よかろう。相手をしてやろう」
「俺の治療はちょいとばかり痛いぜ。覚悟するんだなっ!」
言うが速いかラルクはその巨体に似合わぬ瞬速で間を詰め、怪力の籠手で殴りかかる。それを三道が斬馬刀のような長刀抜き払って受け止めた。
「ふっ。ご主人様のケンカがはじまったな?」
「うるせえ、あんたはイヌのエサだ」
冴王とレンも戦闘に突入した。
「さーて。ンじゃ俺も誰かぶっとばすかなぁ。おう、おめーらこっち来いや? その機械いっぱいくっけたおめーらだ」
国頭がガンを飛ばしたのは教導団の相沢 洋(あいざわ・ひろし)と、そのパートナーの乃木坂 みと(のぎさか・みと)だった。ふたりは全身をパワードスーツで固めている。
「典型的な『暴徒』だね。みと」
「そうですわね。まさに法秩序の敵そのもの」
「我々教導団は社会の敵に容赦はしないぞ? それでもよろしいのか?」
「誰が社会の敵だこるぁ? シャンバラ人はオレのマブダチなんだよ! おめーら全員、グシャグシャにして埋めてやんぞ!?」
そういった瞬間、国頭の姿が消えた。
「光学迷彩? ……! みとっ、後ろだっ!」
「え?」
「遅せぇ」
国頭は無防備なみとの側頭部に鉄拳をたたきつけた。
直撃をくらったみとは悲鳴すらあげられず吹き飛ばされる。
「不意打ちかっ?」
相沢がウォーハンマーで殴りかかる。一瞬の間合いでそれをかわす。
「どこまでも愚劣なっ」
「勝ちゃいいんだよ。勝ちゃ」
「そうだな」
相沢がニヤリと笑い、さっと身を引く。
それと同時に背後からみとの火術が国頭の体を焼いた。
「ぐぁあああああっ」
「これでおあいこだな」
ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)とパートナーのフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は特殊警棒で顎や鎖骨や肋骨を砕き、ジュラルミンの盾でなぎ払い、抵抗するシャンバラ人学生たちをせん滅して回っていた。
「甘ったれたガキどもがっ。革命だ? 解放だ? 親にしがみついてるハナタレが図に乗るんじゃねえ!」
「バウアー、あまりやり過ぎて殺さないでね?」
「当然だ。死なない程度にいたぶってやってるところだ」
バウアーはフィリシアに答える。
「へえ。でもこっちは手加減しないからね。おふたりさん」
「ん?」
ふたりの前に立ちはだかったのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とそのパートナーセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
「ほう。教導団がテロリストに成り下がったか?」
「体制のイヌがよく言うわね?」
「軍とはそもそも政府の為の暴力装置だ。そこに一切の思考の余地はない。命じられるままに打倒するのが教導団の任務だ。ちがうか?」
「確かに軍は政府の暴力装置よ。でも権力を握るべきは人民。人民政府の人民軍が打倒すべきはあなたたち反革命的反動勢力。ちがう?」
「そこまで洗脳されたか売国奴があーっ!」
バウアーが特殊警棒を振りかざして突進してくる。
「かかった♪」
シャーレットがスイッチを取り出す。
それを見てバウアーの天性の勘が身の危険を感じ取る。ふと振り返るとそこには鉄製のケースのようなものが設置されていた。
「指向性爆薬!?」
「当たり」
シャーレットがスイッチを押すと、爆轟音と共に無数のベアリングボールがバウアーを引き裂いた。
「バウアーーーーーッ!!」
セレアナが悲鳴をあげる。
「くくくく。面白いねえ。イヌが焼け死ぬのは」
「あなた……絶対許しません」
フィリシアが憎しみのこもった視線でシャーレットを睨む。だが、そういている間にも、1階は上の階から降りてきた増援部隊であふれかえり、時間がたてば立つほど鎮圧軍にとっては劣勢になっていた。
「ふむ。どうやらこのあたりが引き時であるな……」
ラルクと五分以上の戦いをしていた三道がつぶやく。
「おのおのがた、ここは引き下がるとしよう! 退路を断たれて囲まれても困る。相沢殿、援護を頼む」
「了解であります」
押し寄せる防衛隊に相沢は弾幕射撃で火線を張り、その間に重症を負ったバウアーを三道が担いで順次引き上げていった。
再び防衛側の勝利であった。
気勢を上げる防衛隊のひとりが、隅でうずくまってるひとりの少女が倒れていることに気づく。近づいてみると、どうやら負傷しているようで、苦しそうにうめき声を上げていた。
「こっ、こいつ、敵の残党だ!」
全員の視線が少女に集中した。水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はパートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)と共に突入するも、途中で別れ別れになり、ゆかりだけが取り残されてしまったのだ。
「こいつ、どうする……?」
「たたき出すか?」
「いや。ここにいてもらおう」
そう言ったのは大岡 永谷(おおおか・とと)だった。
「いい考えがある。ロープで縛って上から吊すんだ」
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