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瀕死の人魚を救え!!

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瀕死の人魚を救え!!

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 橘 綾音(たちばな・あやね)は、そっと寄って来て遠慮がちに言った。
「えーと……その……よろしければ私もお手伝いします」
幼い顔立ちをさらに強調する、切りそろえた前髪のロングヘアの少女だ。一見どう見てもか弱げだが、実は戦い慣れた戦士である。
 とはいえ、彼女自身は争い事は好まないので、それが表に出る機会は少ない。いや、少なくあって欲しいとは本人も思っているのだった。
「私は海水を汲んできましょう。広くなったら、その分水深が浅くなってしまいますから」
 そう言って、橘は海岸から少し離れた売店に、バケツを求めて駆け出していった。長い黒髪を彗星の尾のように従わせて。
 「うん、お願い、ありがとう〜」
ファイリア、刹那、ウィルヘルミーナ、綱斬が異口同音に発した言葉に、橘ははーいという返事と、手を高々と上げて振って見せたのだった。

 銀色の髪をなびかせてエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は捜索班と駆け出してゆく唯斗を見やり、困ったこと、といった表情を浮かべ、一人ごちた。
「あの人助け馬鹿」
 エクスは肩をすくめると、少女らしいかわいらしい容姿の紫月 睡蓮(しづき・すいれん)を従え、フェリアにキュアポイゾンをかけているファイリアの傍らに来て言った。
「わらわもキュアポイゾンとヒールのスキルがある。さほどのスキルではないが、交代で処置をするのがよろしかろう。そなた一人では身が持つまい」
エクスを見上げ、ファイリアは言った。
「はい、よろしくです」
 睡蓮がルビーの瞳のエクスと、対照的な青い目をエクスの方に向け、にっこりした。
「唯斗兄さんも、エクス姉さんもやっぱり、優しいですね。こうやって困ってる人がいたら助けちゃうんですから」
潮風に柔らかな金髪が踊っている。睡蓮は続けた。
「皆さん、何かお手伝いがあれば言ってください。なんでもしますから」
「ありがとう」
「まずは、スペースを広げるのと海水を運ぶのを手伝ってやれ。2人で大変そうだ」
エクスが休憩するファイリアと交代して、キュアポイゾンをかける合間に言った。
「はい」
にっこり笑って睡蓮は返事をし、早速作業に取り掛かった。

 リネン・エルフト(りねん・えるふと)が遠慮がちに言った。黒いボブカットの髪の、おとなしそうな少女だ。
「あまり上手じゃないけど……私もヒールが使えますから……もし、交代要員が必要でしたら声をかけてください」
リネンのパートナー、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が金色のポニーテールを肩から払って、小声でぶつぶつとリネンにこぼす。
「どうしてこう、たまに遊びにいくと厄介ごとに巻き込まれるのよあたしたちは! あぁ、もう……しょうがないわね!」
「命が危ないというのに、放っては置けないでしょう?ヘイリー」
穏やかに言うリネンに、意志の強そうな目を向け、
「わかっているわよそんなこと! あたりまえでしょ」
ヘイリーは語気強く言って、あらためて看護に忙しいメンバーに向き直り、
「あたしもヒールのスキルがあるから、交代が必要なら言ってちょうだい。フェリアさんを狙っているやつがいるようだから、あたしとリネンは基本、不審人物の哨戒に当たってるわ。ヒールの交代要員が必要があれば携帯で呼んでちょうだい」
リネンが付け加えてそっと言った。
「私も殺気看破のスキルで……最大限警戒に当たらせていただきますから……」
 てきぱきと自分たちの携帯番号を伝え、二人は手分けして周囲を警戒し始めた。弱ったフェリアをさらに心配させるようなことが何もなければいい、と願いながら……。

 テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)は幾分愁いを帯びた表情で、フェリアの方を向いた。サングラスに覆われて、目の表情は見えないが、心を痛めている様は読み取れる。
「もう少しの辛抱ですよ。じきに薬がそろいますからね」
 かつてオーシャンボイスと呼ばれていたこともあった、中性的な、深みのある美しい声に、フェリアは苦しみながらも思わず目を上げてテスラを見やった。
「人魚といえば、美しい歌声が有名でしょう。是非、体が治ったら一緒に歌いましょう」
テスラは言って、SPリチャージをするために驚きの歌を歌い始めた。美しい歌声が浜に広がる。あえてかまわずにいるテスラの深い青色の髪は、潮風に思うままに乱されていた。

 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)がフェリアの方へやってきて言った。
「わたくしもキュアポイゾンの交代要員として、待機させていただきますわ」
黒いロングヘアを背中にたらし、一見育ちのよいお嬢さんといった風貌だ。
 おっとりと言ったリリィのほうに向かって、リリィのパートナー、マリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)が赤毛を振りたて荒っぽく歩み寄ってくると、リリィを乱暴に押しのけ、フェリアの手をしっかりと握り締めると言った。
「ああ、大丈夫だとも! リリィは無能だけど、他のみんなががんばってくれているんだ。必ずよくなるさ。すぐに薬を探しに行った奴らも戻ってくるだろうしさ。元気出して!」
 押しのけられたリリィが負けじと声を張り上げて言う。
「マリィ! そんなに強く握ったらフェリアさんが痛いじゃないの! 邪魔をしないでじっとしてなさい。うろうろしないで」
「うっせー。姉貴ズラしてんじゃねーよバーカ。あたいのアリスキッスのほうがあんたのキュアポイゾンよりずっと効果があるさ」
「な、なんですって!」
「バーカバーカ。無能なくせにあんたこそうろうろするんじゃないよ」
リリィはむっとフェリアを振り返り、キュアポイゾンを放った。
「病人の脇で喧嘩はおよしなさいね」
「きちんとローテを組んで処置しましょうね」
「暴れないでください」
綱斬とファイリア、橘がきっぱりと言い、二人は小さくなった。
「すみません……」

 氷見 雅(ひみ・みやび)が砂浜を走ってきた。シャギーの黒髪の、ボーイッシュな少女だ。元気よく看護メンバーに声をかける。
「紫外線を受けるから人魚にとっても危険よね? 取り敢えずこの日焼け止め塗ったらどうかしら?」
「うーん、ないよりはまし……なのかなあ……」
 氷見のパートナー、タンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)が横で考え込むようにつぶやいた。
「それより、ワタシ、関節部がスカスカなので湿気に弱いですし、潮風にもあまり当たらないほうがいいんですけど……」
「そうだ、タンタン、パラソルがまだきていないし、あんたのサイコキネシスで砂を集めてカマクラみたいなの作りなさいよ! うん、これはナイスアイデアだわ。火を確実にさえぎれる! ほら、急いで急いで!」
「そうですね〜。海の生物がずっと陸に出ているとかなり危ないですし〜。じゃあやりますか〜。ええ〜〜い、うう〜〜ん」
 砂のカマクラが完成したころ、既に調達されたパラソルが立てられていた。氷見はひたすら人魚にSPリチャージをかけ続けている。
「あ〜、もうこれいらないかな〜」
タンタンは小ぢんまりしたカマクラにもぐりこむと、丸まって昼寝の体制に入った。
「ふわぁ、休止モードに入ります」
 ちょっと間があって、タンタンはつぶやいた。
「うーん……風が通らなくて暑いです〜」