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Dragon Buster

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Dragon Buster

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第六章

 纏わり付くイコンから逃げるように飛行を続けるドラゴンの翼に突然、裂傷が走る。
 それは、注視すれば見える程度に迷彩塗装を施されたイーグリットによる斬撃だった。
「地面にいっぱいイコンがいるですぅ〜。あはは〜っ、飛べないみたいですぅ」
 青く染められたイーグリットのコクピットで、天貴 彩華(あまむち・あやか)が、地上を走るイコンを見て笑う。
 無邪気にビームサーベルを振り回す機体を上手く調整しながら、天貴 彩羽(あまむち・あやは)が地形の確認を行っていく。
「特に障害も無いわね……彩華、ここで食い止めるわよ」
「翼をぐっさりですぅ〜」
 飛行を続けながら時折、翼を翻して爪を振るうドラゴンの攻撃を回避して、隙を見つけながら斬り込んで行くが、決定打が足りない。
『こちら【ICE】。上空への援護射撃を行う。当たらないように留意してくれ』
 通信先をレーダーで確認すると、飛行するドラゴンの横を平行に走るクェイルからだった。
『こちら【イロドリ】、感謝する。そちらの位置を補足次第、連絡する』
 端的に通信を切って、ドラゴンに向かってアサルトライフルを向けるクェイルを一瞥した後、位置情報を取得。
 射線を計算して流れ弾に当たらないようにイーグリットを操作する。

『こちら【イロドリ】、いつでもいいわ』
 氷室 カイ(ひむろ・かい)が乗るクェイルに、彩羽達のイーグリットから通信が入った。
「こちら【ICE】。了解した。射撃を開始する」
 ドラゴンの翼に狙いを付けていた、雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が、トリガーを引く。
 身体を掠めるビームに、ドラゴンがカイ達のイーグリットを睨み付ける。
「その調子……こっちを見ててね」
 渚がドラゴンの移動先を読んで、移動先を逆算しながら発砲を続ける。射撃を重ねるイーグリットにドラゴンが苛立ち、翼を広げて火球を吐き出した。
 口を広げるドラゴンの背後に、イーグリットが接近する。
「イロドリくんのサーベルはなんでもスパスパですぅ〜」
 ドラゴンの注意が逸れた好機を逃さずに、広がった翼を彩華が深く切り裂く。翼が裂けたドラゴンが、ついに飛べなくなって半ば落ちるように着地した。何度が翼を羽ばたかせるが、やがて飛ぶことを諦めて、逃げるように走り出す。
「逃げるなよ!」
 葉月 エリィ(はづき・えりぃ)エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が、イーグリットで駆け回るドラゴンを追い立てる。
 上空から翼の根元を狙って、両手に持ったビームライフルの引き金を同時に引いた。発射されたニ対のビームは、左右の翼を的確に撃ち抜いていく。
「ドラゴンの血って……どんな味がするんでしょう」
「……え?」
 血まみれになったドラゴンを見ながら、突然エレナが呟いた言葉に、エリィは何も言えなかった。

『こちら【コキュートス】。出来る限りサポートはしてきますが、初めてイコンに乗る方々は無理はしないで下さいね』
 ドラゴンの頭上を飛びながら、頭部を狙って射撃を繰り返すシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)が、地上を走るイコンに向けて通信を入れる。
 時々、思い出したように頭上に火を吹くドラゴンの攻撃を、シフのパートナー、ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が的確に回避。
「んー。筋肉の動きが見える敵ってのは、やっぱ見切りやすいよね!」
 接近し無い限り爪の攻撃を受ける心配も無いと判断して、ミネシアはドラゴンの首の動きだけに注意しながらイーグリットを操縦する。

 ドラゴンの捕捉に苦労していた地上のイコン達が、上空からのサポートを受けて、ここぞとばかりにドラゴンに向かって攻撃を仕掛けていく。
 全方位から攻撃を受けながら、ドラゴンはただ必死に逃走を図って足を動かし続けるが、そんなドラゴンの前に、二機のイコンが立ちはだかった。
 それは、星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)のイーグリットと、火村 加夜(ひむら・かや)のクェイルだった。
 ドラゴンと対面する二機のイコンの背後には、村があった。既に村人の避難は終わっていたが、人の被害が無くても帰る場所が無くなっては意味が無い、とこの付近で待機していたのだ。
「悪いが、散歩コースを変えてくれ」
 智宏がイーグリットの頭部バルカンでドラゴンを撃つ。両腕に武器は無く、代わりにそれぞれの手にはビームシールドが握られている。
「さあ、こっちよ!」
 時禰 凜(ときね・りん)がバルカンを放ち続けるイーグリットを村から遠ざけるべく、誘導を試みる。
 しかし、追われる身のドラゴンは、バルカンの攻撃にも構わずに前進する。智宏が小さく舌打ちをした。
 バルカンを撃つのを止め、イーグリットを飛翔させる。

「お願い、来ないで」
 クェイルの膝を立てながら、ドラゴンに向かって加夜がアサルトライフルを撃つ。
 使い慣れた魔道銃とは違う、機械的な反動を身体で感じながら、続けざまに発砲していく。安定した射撃は、ドラゴンの身体に傷を負わせるが、それでも停止する気配は無い。
 直前まで迫ったドラゴンに、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)がクェイルを立たせた後、手にしたアサルトライフルを投げ捨て、機体の重心を落とした。そのままドラゴンの正面で、迫る巨躯を押さえ込むと、衝撃がコクピットを揺らす。
「――ッ!!」
 傷を負って体力が落ちていて、スピードが出ていなかったとはいえ、遥かに大きさが違うドラゴンの重量に、クェイルの脚部が地面を抉る。
 手足構わず、間接部からは何かが破砕する音と共に、火花が吹く。
 強引に押し通ろうとするドラゴンの正面に、智宏のイーグリットが着地。両腕を交差させ、腹部に向けてビームシールドを展開させる。
 シールドが触れた部分の皮膚が、黒煙を上げながら焦げ付いていく。
『こちら【アイビス】。対象機、動けますか?』
『ちょっと、無理みたい?』
 ノアが被害状況を確認しながら凜に答えた。完全に操作を受け付けなくなった脚部を何とか復旧させようとするが、反応が無い。
 低く唸りながら、身体の下でシールドを展開し続けるイーグリットへ、ドラゴンが爪を振りかぶる。
 凜が、イーグリットの脚を曲げ、クェイルの機体へ足を添える。
『失礼しますっ!』
 凜の声が加夜達のコクピットに響き渡った瞬間、イーグリットがクェイルを蹴り飛ばした。
 クェイルが、引き抜かれるように横へ飛ぶ。
 次いで、襲い掛かるドラゴンの爪をビームシールドで受けながら、ブースターを起動。
 出来るだけ攻撃の勢いを緩和させられるように、自ら飛んだ。相殺しきれない勢いを何とか抑えつつ、体勢を立て直す。

『――総員、発射!』

 突然、聡の声がコクピットに響く。何事か、とドラゴンを視界に入れようとした瞬間に、メインモニタが白く染まった。
 それは、聡のコームラントを含むイコン達の一斉射撃だった。
 総勢十機を超えるイコンから一気に放たれた攻撃が、ドラゴンの巨躯を一気に吹き飛ばす。

「鬼姫、どうや?」
「索敵範囲内に反応は無いな。集中して良いぞ」
 ドラゴンからやや離れた場所からコームラントに乗った穂波 妙子(ほなみ・たえこ)が、大型のビームキャノンを構えている。
 対の白いドラゴンは別のイコン達が戦闘を続けているおかげで、こちらに攻撃が向く事は無かった。
 しかし、完全に狙撃体勢を取ったコームラントを狙われたら、被害は少なくない。
 パートナーの朱点童子 鬼姫(しゅてんどうじ・おにひめ)は、警戒は解かずに周囲の索敵を続けた。
 周囲の警戒を鬼姫に任せて、妙子はドラゴンの頭部に意識を集中させる。
(狙うのは……ドラゴンが火を吐こうとする瞬間!)
 集中砲火を浴びたドラゴンは、既に翼が千切れ、裂けた皮膚の下からは血を流し続けている。
 通常では、動いていることすら信じられないその姿で、未だドラゴンは接近するイコンに爪を振り、反撃を続けていた。
 上空から天御柱学院のイコンが翼を撃ち抜く。裂けていた皮膜を銃弾が抉り、完全に身体から分断していく。
 その時、ドラゴンが鼻孔から体内に酸素を取り込み、その身体を一回り大きく膨れ上がらせた。
 傷口から鮮血を噴き出しながらも、限界まで酸素を取り込んだドラゴンは、真っ直ぐ上を向いてこれまでに無い火力で猛火を吐き出した。
「もらったぁ!!」
 叫び声を上げながら、妙子がトリガーを引くと、銃口から放たれたビームがドラゴンに向かって真っ直ぐ伸びる。
 青白い軌跡を残して、炎を吐いていたドラゴンの口腔内を直撃。衝撃で頬が避け、本来開かない位置までドラゴンの口が開けられる。
 更に、同じように口の中を狙っていたイコンが揃って発砲を行った。実弾とビームが交差して、其々がドラゴンの頭部を砕いていく。
 全ての攻撃が終わった時には、下顎だけを残した状態のドラゴンが、ゆっくりと倒れ込んだ。



『対象のドラゴン撃破。今からそちらへ向かう』

「あれ? もう終わっちゃったんだ。つまんないの」
 聡からの通信を受けた益田 椿(ますだ・つばき)が、上空から純白のドラゴンにアサルトライフルを向けながら吐き捨てた。
「別に良いさ、こっちはこっちで相手が居るんだ」
 むくれる椿を、複座から榊 孝明(さかき・たかあき)がなだめる。
(それに、エリュシオンとの戦いも近いはず……ドラゴンの性質を知っておくのは悪い事じゃない)
 椿はドラゴンから一定の距離を保ちながら、翼を広げて飛び立とうとする瞬間を見極めて、射撃しやすいポイントでイーグリットをホバリングさせる。
 椿が喜々とした表情で、ドラゴンが広げた翼をアサルトライフルで打ち抜き、飛行を阻害していく。
 こちらを見上げて反撃を仕掛けるドラゴンの攻撃は、距離を置いている為、余裕をもって回避できた。
「はっ、トカゲは地べたに這いずってるのがお似合いよ!」
 もはや地上に縫い付けられる形で戦闘を続けるドラゴンに、椿が唇の端を上げる。

 上空から狙撃されるドラゴンに向かって、地上では、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が乗るクェイルがアサルトライフルを向けていた。
 白兵戦を仕掛けるイコンに向かって爪で攻撃をしようとするドラゴンの横に回りこんで、翼をこじ開けるように連射をする。
 当たらなくても牽制にはなる上に、当たった際は攻撃のタイミングを遅延させられるこの戦い方は、未だイコンの操縦に不慣れなクレアには向いているようだった。
 何よりも、初めての操縦でハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が、ここまで安定した動きを見せることに驚く。
「案外何とかなるものですね」
「これだけ数で勝っている状況なら敵の攻撃も少ないからな」
 クレアが、ハンスの言葉に端的に応え、攻撃の合間を縫って思いついた戦術を書き留めていく。

 黒いドラゴンを倒し終わったイコンが続々と終結する中、クェイルに乗ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、仲間の攻撃に合わせて射撃を行いながら、モニタに映るドラゴンを見て目を細めている。
「ん〜……わかんない!」
「あのドラゴンの事か。……まぁ、確かにな」
 珍しく眉間に皺を寄せるルカルカに、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が心の内を察する。
 身近にドラゴニュートという種族が居て、長い時を掛ければドラゴンの成体になる事も知っている。
 その反面、目の前に居るドラゴンは意思の疎通が図れない上に、どんな事情があるにせよ、人を襲う。
 被害を出してしまったからには、討伐されてしまうのは仕方がない事だとは理解しているが、このドラゴンが一体何処から現れて、どんな種族に分類されるのか。見ているだけでは理解できない考えが頭の中を駆け巡っていた。
 その時、小さな声で唸るルカルカのコクピットに、通信が入った。

『こちら、山葉 聡。総員に告ぐ。これより残ったドラゴンに対して、一斉射撃を行う。カウントダウン終了までに、接敵しているイコンは退避してくれ』
 聡のその言葉に、計三十機近くのイコンが地上、上空に並び、それぞれに武器を構えて待機を始める。通信機から、独特の電子音が響く。

『3』

 白い鱗を血で赤く染めながら、ドラゴンがサーベルを振るうイコンに爪を振っている。

『2』

 地上から攻撃していたクェイルが、戦線を離脱する。


『1』

 上空からドラゴンの周りを飛びながら撹乱を続けていた天御柱学院のイコンも、限界まで粘ってドラゴンの注意を逸らしてから、離脱した。

『発射ァ!』

 その場に居た全機が、ほぼ同じタイミングで引き金を引くと、耳を覆いたくなるような轟音が鳴り響いた。
 前回の一斉射撃の比ではない量のビームと弾薬が、乱暴なまでに純白のドラゴンを赤黒く染めていく。
 攻撃の後、しばらくは猛煙がドラゴンの身体を包んでいたが、風がそれをさらうと――後に残ったのは息絶えたドラゴンだけだった。

 ――歓声が上がる中、聡のコームラントが、静かにその場を離れる。



 ――戦場から程なく離れた、森の中。

『こちら山葉 聡。現在地は?』
『HCで送ります。少々お待ち下さい』
 聡が送られてきた情報を元に位置を割り出して向かった先には、プラチナムと睡蓮が居た。
「出来ればデートの待ち合わせが良かったんだけどな……それで、どこに?」
 コームラントを降りた聡が、目を伏せて俯く睡蓮に問いかける。
 睡蓮が答える前に、プラチナムが黙って指を差す。
 指の方向を辿って視線を向けると、少し先に小さなドラゴンが倒れていた。
 小さい、といっても先程まで見ていたサイズと比べての事だが。
 もうすでに息は無いようで、翼を広げたままピクリとも動かない。
「たまたま、唯斗兄さんと合流する為に、この森を通ったら見つけてしまって……」
 そこから先は、ある程度予測が付いた。
 洞窟の中でドラゴンの子供が二匹発見されて、一匹は討伐。もう一匹は逃走をした、と報告は聞いてる。
 巣穴まで調査に行ったメンバーの話を統合しても、十中八九、今回暴れていたドラゴン達の子供だろう。
「……で、どうすりゃいいのかな?」
「出来れば、弔うのを手伝って頂けませんでしょうか? イコンがあれば自分達でやったんですけど……」
「腕、取れてしまいましたからね」
 聡の脳裏に、戦闘中の報告書が蘇った。多分、あの滅茶苦茶な戦い方をしていたクェイルの事だろう。
(ついさっき親を殺した俺が子供を弔う、か。……まぁ仕方ないよな)
「そういうことなら、任せろよ」

 ――聡がコームラントに乗り込んで振り向くと、戦場だった場所は、もう既に穏やかな山岳地帯に戻っていた。

担当マスターより

▼担当マスター

樹 和寿

▼マスターコメント

 大変お待たせいたしました。
 この度、樹 和寿マスターの代筆で、『Dragon Buster』の執筆を担当させて頂きました、歌留多と申します。
 まず、樹マスターのシナリオとして参加してくださった皆様、すみません。
 ご期待に沿えるリアクションかは解りませんが、少しでもお楽しみいただければ、幸いです。

□また、ご留意頂きたい点は、以下の通りです
■今回のリアクション執筆は、樹マスターのマスタリングを基準とした物ではございませんので、ご了承下さい。
■イコンの搭乗・操縦に関して、特別な事情が有る場合を除き、判定は甘めとなっております。
■色々有って平均文字数より、かなりくなっております。

 あまり人様のシナリオでコメントを残すのも失礼かと思いますので、この辺りで失礼いたします。それでは。