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リアクション
第1章 可愛い者に着せるのは悪ではないのです
ここはイルミンスールの森にぽっつりとある貴族たちの屋敷。
騒がしい都会を離れ両家は、互いの子孫を今時珍しい政略結婚として、若い男女を婚約させた。
しかしこれが悲劇の始まりだった。
彼女のジュエリンはなんと着せ替え好きのお嬢様だったのだ。
そのあまりの凄まじい執念にカラスさえもギャァギャァと羽をばたつかせて逃げ出す。
「婚約者のコーディネートをするのは私の務めですのよー!?」
「嫌です、オレにはまったく似合いませんから!」
「そんなことありませんわよ。お待ちになってぇえ、オーッホホホ♪」
好みの服を着せようと神速のようなスピードで恋人のロリオを追いかけ回す。
「追いかけっこしてるの?追いつかれたら罰ゲーム!?じゃあ逃げるー」
嘉神 春(かこう・はる)は2人が追いかけっこしているのかと思い、無邪気にはしゃぎゲーム感覚で参加する。
「そうだよー、捕まったら罰ゲームだからねっ。(ククッ、この機会にあ〜んなことや、そぉ〜んなことをしちゃおう♪)」
庭を走る彼を追うように神宮司 浚(じんぐうじ・ざら)は、何かを企んでいるかのニヤッと笑う。
「(どうせ罰ゲームなんて冗談だよね。嘘をつくならもう少し面白い嘘をつけばいいのにさ)」
そんなことするはずはないと、軽い気持ちで鼻歌まじりに逃げるのを楽しむ。
「逃げられると思ってるの?サイオニックの俺に敵うわけ、ないよね?」
「ざらずーるーいー!ざらに敵う訳ないじゃん」
「あぁそうそう。俺が捕まえたら女装させるからね」
「え!?本当に罰ゲームあるの!!?女装ってえぇえ!!?」
「冗談で言うわけないじゃないか。さぁ・・・捕まえちゃうぞぉお」
大変ヘンタイな表情をして春を追いかけ回す。
「こ、こないでぇえっ!」
服を剥がして着せ替えさせようと、わきわきと掴むような手の動きをさせる彼から必死に逃れようとする。
それは傍からみたら大人が少年を追いかける危険な変質者のように見える。
通報されたらまず捕まるだろう。
「うわぁん、やだよぉ〜」
捕まるものかと超感覚でカラカルの耳と尾を生やして逃げ回る。
「あれっ?あの人たちがいない・・・」
庭の中を逃げている途中で、前を走っていたはずのジュエリンたちを見失ってしまう。
「超感覚があるからってジャンプしたり、早く走れるわけじゃないからね。あくまでも感覚が鋭くなるだけなんだよ。他のスキルにふれることの以上を期待して頼ってちゃ、すぐに捕まえられちゃうからね。逃げきるには他のことも覚えなきゃね♪」
「そんなぁあ〜」
春は情けない声を出し、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませる。
「だから超感覚だけじゃ、逃げ切られないんだよ」
サイコキネシスで彼の服を引っ張り、自分の方へズルズルと引きずり寄せる。
「さぁ、罰ゲームだよ。これに着替えようか」
ぎゅむっと怪しいお兄さんのように春を抱き締める。
「うー・・・。真面目に逃げるんだった・・・」
「大人しく着替えようね」
春の服を毟るように剥がし、黒の編み上げチューブトップを着せる。
「めいっぱいお洒落しなきゃね」
ニヤつきながら楽しそうにミニの赤いバルーンスカートを穿かせ、フリル付のアームカバーを両手につけさせてやる。
「いいねぇ、可愛いよぉ〜春ぅうう」
「(こんなところ誰かに見られたら、うぅ・・・)」
めそめそと泣きながらも春は抵抗せず、されるがままニーハイとブーツを履かせられる。
「頭にも飾りをつけてあげないと・・・」
もっと可愛くしようとヘッドドレスを春の頭に飾り付ける。
「思ったとおり、とても似合ってる」
恥ずかしそうにする春を撫で回し、ヘンタイの如く満足そうにニヤついた。
「あの筋肉はちょっとあれだけど・・・顔がかぁいいんならかぁいくしなきゃね♪」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は楽しいなら何でもオッケィなノリでジュエリンに協力する。
恋人を必死に追いかけるジュエリンに協力してあげたいという満面の笑顔の裏には、顔が可愛いなら着せ替えてみたいというミルディアの野望が隠されているのだ。
「ん、あれってジュエリンさんかな?待って、止まって!」
ロリオを探しているジュエリンの姿を見つけ、両手を大きく振って止まるように大声で呼びかける。
「彼氏にどんな衣装を着せたいんだよね?」
「そうですわよ」
「あ、そうだ。ロリオきゅんの写真を貸してくれない?頼もうにも姿が分からないとね」
「写真だけでいいんですの?」
「うん、お願い!」
「それでは私のアルバムからお貸しいたしますわ」
「ありがとう、すぐ返すから待っててね」
写真を片手に持ち携帯でパシャリと撮り、和泉 真奈(いずみ・まな)へメールで送る。
「ミルディからメールが着たみたいですけど・・・えっと内容は・・・。この男の子に合わせた衣装を用意するんですか?」
内容は、“この人に合うかぁいい服が欲しい!とりえずゴスロリとひらひらフリルの洋服からセーラー服、ブレザーとか制服を用意して”という文字と添付された写真だけだった。
メールの文を見ている頃、ミルディアはどんな服を着せようかジュエリンと話している。
一方、添付されたメールを確認し終わった真奈は、ムッとして眉を吊り上げてメールを送り返す。
「真奈さんからメールがきた!うーん、何々・・・これじゃ頼めない・・・って、えぇえー」
“何とかそれで頑張って”と、真奈にもう1度メールを送る。
「ん、またきた。えっと・・・」
2通目のメールにはこうか書かれている。
-写真だけで背丈とか分かったら神すぎます。
無茶振りもいいところですよ!-
と、いう怒りの返信内容だ。
「あぁそうか、そうだよね」
さすがにそれだけの情報じゃ無理だったかとミルディアは頬をぽりぽりと掻く。
「ジュエリンさん、ロリオきゅんの背の高さとか教えてくれない?写真だけじゃ無理って言われちゃったからね」
「あなたなら教えても大丈夫そうですから教えてあげますわ」
「個人情報だからね、それくらいは分かってるよ」
服を探すためにジュエリンからこっそりサイズを教えてもらう。
「これを・・・真奈へメールを送信っと」
ポチポチと携帯を操作して送り直す。
「―・・・まぁ、この情報がないと無理ですからね。それと実際に着せるから、庭で待っているから一緒に来て・・・ですか」
人を玩具にするなんて・・・と嘆息しながらも、服を探しに向かう。
「何だか騒がしいけど、あの館の方からなぁ?」
イルミンスールの森を歩いているマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が偶然通りがかり、何事かと騒音を響かせる屋敷を見上げる。
「家の住人かな?なかなか可愛いお嬢さんだねぇ、石化させて俺のコレクションに加えちゃおう♪」
口元をニタリと笑わせ、ジュエリンを狙って館の中へ侵入する。
しかしそれは彼にとって忘れたくても忘れられない悲劇が待っていることを知る由もなかった。
「くふふっ、石になぁれぇ〜♪美少女を石化して持って帰れるなんて、今日はなんてツイている日なんだろうねぇ!」
背後からペトリファイの術をかけようと迫るその刹那、マッシュの存在に気づいたのか少女は振り向き様にニッコリと微笑む。
「あらあら、可愛らしいネコさんを見つけてしまいましたわ〜。さっそく着せ替えてあげましょう♪」
窓に姿が映る少年に相応しいコスチュームを思いつき、キッラァーンとダークレディッシュブラウンの瞳を輝かせる。
「へっ・・・着せ替え?しっ、尻尾はらめぇえぇえーっ!!―・・・ふにぃい〜」
逆にターゲットにされた彼は尻尾を捕まれ、くにゃぁんとへなってしまう。
ぎゅむっと捕まれたまま衣装部屋へズルズルと引きずられていく。
「あなたには羊さんが似合いますわね」
「や、やめてぇえ。ひゃぁああぁあーーっ!」
あっとゆう間にパン一にされ、子羊の衣装を着せられてしまった。
「ほぉらごらんなさい。私が思った通り、ピッタリですわ」
鏡に映ったマッシュの頭には耳のついた羊の帽子を被せられ、腕にはウールのモコモコなバンドがつけられている。
さらに腹が丸見えの袖のない羊毛の上着に、同じ素材で作られたパンツをはかせられ、両手足には羊のヒズメをつけられた格好だ。
それはまるで今にも食用として運ばれそうな、ジューシーで美味しそうな姿だ。
「これ・・・、誰だよぉ。俺じゃない・・・こんなのは俺じゃないよぉお!げはぁっ、でぃばっ!」
-ナレーション-
恥ずかしさを超えてメンタルダメージをくらい、吐血してHPマイナス1000ダーメジ。
マッシュ・ザ・ペトリファイアー、戦闘不能。
「なんとっ、ここに着せ替えのプロがいるんですかぁ〜っ!ぜひとも技を伝授して欲しいですぅ〜♪」
リフィリス・エタニティア(りふぃりす・えたにてぃあ)は緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)を着せ替えさせるだけでなく、コスプレイヤーの道へ進むべく学びに館へやってきた。
「早くちぃさくなるですよ!技術を習得するにはモデルは必要なんですぅっ」
「モデルですか?(まぁ、なんとなく想像はつきますけどね)」
完全に諦めモード遙遠は、彼女の言う通りにちぎのたくさみで140cmほどの身の丈に小さくなり、11歳くらいの小さな姿になった。
「とてもいい1日になりそうですねぇ。フッ、フフフ・・・♪」
黒色の双眸を爛々と輝かせ、引きずるように彼の手を引っ張り館の中へ駆け込む。
「ジュエリンさぁーん、わたくしにコスプレの極意を伝授してくださいーっ!」
まるで道場に入るようにバタンッと勢いよく扉を開ける。
「私に教わりたいということですの?」
「はい、弟子入りしたいのですぅ!愛しい人に好きな服を着てもらいというところに、すっごく共感しちゃいましたぁ♪」
「学ぶにしてもモデルがいないと上達しませんわよ。マネキンではお話になりませんもの」
「そういうことなら、ハルカちゃんがいるんで大丈夫ですぅ」
「フフッ、さっそく実習に入りましょう♪」
女装した遙遠の服を問答無用で脱がし、メジャーでぱぱっと寸法を測る。
「きっ、着せ替え!それをやるにはやっぱり服を脱がさなきゃいけないんだよねぇ。ムフフッ、はぁあー・・・はふぅー」
こっそり部屋に入ってきた土屋 舞羽(つちや・まう)は、ジュエリンから5mほど離れたクローゼットの陰に隠れ、着せ替えの様子を覗いている。
「パ・・・パンツ1枚っ。むはぁあっ」
ボタボタと鼻血を垂らし、いやらしい目つきでこっそり遙遠をガンする。
彼女の存在に気づかず、ジュエリンはコスプレの衣装を作り始めた。
リフィリスも技術を習得しようと勉学に集中しているせいか、舞羽が見ていることにまったく気づかない。
「(まったくあんなところからこそこそ見るなんて・・・。まぁ、ここで騒ぎになってしまったら楽しんでいるリフィの雰囲気がぶち壊しになりますからね。パパラッチをしているわけじゃないようですし、放っておきますか)」
遙遠の方はディテクトエビルの反応で“覗きという害”を察知しているが、見る者もいるだろうと細かいことは気しせず放っていく。
「やっぱりちゃんと採寸しなければいないんですねぇ」
作り方を学ぼうとリフィリスはメモを取る。
「えぇ、着る者のサイズに合わせるのは基本中の基本ですわ。小さすぎたり大きすぎないようにしなければいけませんもの」
「次はどうするんですぅ?」
「布を選んで裁つんですのよ」
ジュエリンは冬の花をイメージしたペールラベンダーとホワイトのグラデーションカラーの布を引き出しから取り出し、布に定規を当てながらハサミでざくっと裁つ。
「切った布を身体に当てて、マチ針をつけて糸で仮縫いしましょう。袖の部分を持っていてくださいな」
「はいっ!」
布の位置がずれないようにリフィリスは指で摘んで持つ。
「ハルカちゃんごと切ったりしないですよねぇ?」
余分なところをジョキジョキ切るジュエリンに、冗談交じりに言う。
「フフッ、大丈夫ですわよ」
仮縫いをした後マチ針をはずして脱がせミシンで本縫いをする。
カタカタカタッと静かな部屋の中に音が響く。
「後ろは羽をつけましょうか。―・・・出来ましたわ!ではさっそく着せますわよ♪」
オレガノの花びらのような長袖のワンピースを遙遠に着せ、服の背中の部分はビビットイエローグリーンの大きな妖精羽がつけられている。
「遙遠専用に1から作ってくれたんですね」
頭にはワンピースに使った生地と同じカラーで作った花びらの飾りつけられ、足の部分は葉をイメージしたサンダルを履かされた。
「可愛いですぅフェアリーなハルカちゃんっ。もっと着せ替えるですぅ」
「そうですわねぇ、うさぎさんの格好とかどうですの?」
「うさちゃんですかぁ、いいですねぇ!」
「クローゼットの中にあるんで持ってきてくださいな」
「はぁーい♪わぁ〜可愛い衣装がいっぱいありますぅ〜」
「(うわっやば!こっちにくるよっ)」
衣装を持ってこようとクローゼットへ近づくリフィリスから逃げるようにカーペットの上を這い、舞羽はベッドの下へ隠れる。
しかし逃げる彼女に気づかず、リフィリスはジュエリンのところへ衣装を運ぶ。
「(おっけおっけぇ、バレてない!)」
舞羽はシーツをぺろりと捲り、覗き見を続行する。
「うっふふ♪モデルがいるのっていいですわねぇ」
持ってきてもらった衣装を受け取るとジュエリンは、へその見えるハイネックの上着にを着せて丸い尻尾がついたスカートを穿かせて、うさ耳がついたニットの帽子を遙遠に被せる。
両手にはふさふさ拳に、靴はうさぎの足のようなニーハイブーツを履かせてみる。
「(へそっ、へそぉおっ!へそ出しのもふもふうさぎぃいっ!!あぁっ、隣の子の身体で隠れちゃった。もうちょっと左に、左に行ってよ!)」
リフィリスの身体で遙遠が隠れてしまい、位置をずれろとわんばかりに除けようとするように左手を振る。
「(よぉし、これで見えるね。ムッフフゥ)」
他のも着せようとクローゼットへ行くのを見て、再びベッドの下から覗き眺める。
「もっともーと着せ替えるですぅ♪ん・・・血・・・・・・!?」
リフィリスは衣装を探そうと下の段を開けると、カーペットに点々とついている血痕を目にした。
「(ベッドの下に続いてますねぇ)」
たどっていきシーツを捲ると、着替えを覗き見ている舞羽を見つけた。
「ジュエリンさん、着せ替えのモデルを見つけましたぁ〜♪」
「へっ、えぇえ!?」
見つかった舞羽は、リフィリスにずるずると引っ張られ、供物のようにジュエリンのところへ連れて行く。
「ハルカちゃんは小悪魔系レースクイーンにして、この方は空豆にしましょう♪」
「ちょっ、ちょっとぉお!そっちは可愛くって、何で自分はお笑いな服なんだよぉおっ」
「こっちの方がきっとよく似合いますわ」
「どっかの星から来た感じになっちゃうよそれ!うきゃぁあっ、あぁああぁあれぇ〜」
問答無用で脱がされた舞羽は、てっかてかのグリーンメタルカラーの全身タイツを着せられてしまい、空豆の形をした帽子を被せられる。
「とっても素敵ですわよ」
「えぇええーんっ、こんな服やだよぉー!!」
姿見の鏡に映った自分の姿を見た彼女は、着せられたショックを受けて号泣する。
「ハルカは着せらても平気ですよ。慣れてますし」
「むぅ、そっちは可愛いじゃない!自分はお豆さんだよーっ。てかてか感で、どこかの星から来たヤツみたいになっちゃってるぅう。ひどーい、ひどいよぉ〜」
着替えさせられるにしてもこれはあんまりだよーっ、とびぇえぇんと泣き喚いた。
「この屋敷に彼氏を着せ替えようと追いかけているクレイジーなレディーがいるようだね」
騒動を聞きつけてやってきたラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)は、木崎 光(きさき・こう)を淑女らしくしてもらうと彼女を連れてきたのだ。
「いい?女性なら女性らしい格好をするべきなんだよ!それなのに光は毎日毎日そんな男物の服ばかり着て・・・。ちょっとは女の子らしい服を着てみなよ!」
「そこまで言うなら別に着てもいいけどよぉ・・・・・・。笑ったら決闘だからな!絶対だぞ!決闘だぞ!」
「笑わないから早く行こう」
イメチェンを迷う光の手を引っ張り、屋敷の中へ入る。
「ねぇ、光に女の子らしい服をコーディネートしてあげて。ロリオを捕まえるのに協力してあげるからさ」
ジュエリンに彼女を女の子らしい服装にしてと頼み込む。
「いいですわよ。上は長袖のトップスで下はフレアスカートにしましょうか?色味はペールがいいですわね」
「服を脱がさなければいけませんわね」
「ぱっと脱がしてくれ」
パン一にされてしまった光は恥ずかしがる様子がなく、むしろ下さえ隠れてればいいという感覚だ。
「(ホライゾーンの胸でも合うようなコーディネートにするのかな?)」
ラデルは椅子に腰をかけて着替えの様子を眺めながら待つ。
ペールイエローグリーンカラーのトップスとフレアスカートを着せられ、腰はベルト代わりにブライトの色味のリボンで可愛らしく結ぶ。
「違う色を着せる場合は、暗すぎたり強く目立つ感じにしてしまうのはよくありませんの」
色が浮いた感じにならないようにカーディガンはペールイエローカラーに決める。
「靴はハイヒールがいいですわね」
ブラウニッシュゴールドのヒールを光に履かせる。
「もうちょっと淑女らしい感じがいいな」
「え、そうですか?じゃあ・・・このドレスを着せてみますわね。その前にコルセットをつけませんと」
「あーっ、いでででっ」
「こうしないとキレイなラインが見えませんのよ」
騒ぐ光に対しておかまいなしにぎゅうぎゅうとコルセットを締めつける。
「これでどうでしょうか?」
ローズカラーのフリルがついたペールピンクのドレスを着せる。
「う・・・、うんいいんじゃないかな。―・・・ぷっ、もう無理。限界だよっ」
光の顔に不釣合いなドレス姿に、耐え切れなくなったラディが噴出してしまう。
「ラデルー・・・今、笑ったな?確実に笑ったよな?覚悟は出来ているんだろうなぁあ!?」
「えー、気のせいだよ。―・・・フリフリのドレス・・・ぷふっ」
「こんのぉおっ、決闘だーっ!!」
憤怒のオーラを発した光は逃げるラディを追いかけていく。
「あらあら、服を置いていっていいのかしら」
そっと覗いていた佐倉 楓(さくら・かえで)が光の制服を拾う。
「とっても似合っているのだから、そのままの格好で帰るといいわ!」
クスッと黒い笑みを浮かべ、他の生徒の服も奪おうと屋敷内を歩き回る。
「あっ私、ロリオを着せ替えようと追いかけていた途中でしたの。衣装は自由に使っていいですわよ、しばらくここを離れますから練習していてくださいな」
「はぁーい♪」
部屋から出て行くジュエリンにリフィリスは元気よくフリフリと手を振る。
舞羽とはいうと部屋の隅っこで膝を抱えてどんよりと沈んでいる。
本来のターゲットを思い出したジュエリンは、彼女を置いてロリオを探す。
「どこにいるんですの?ロリオ、出て来なさい〜」
「話に聞いた以上な感じだね。着替えさせようと必死に探しているよ・・・」
ジュエリンに見つからないように物陰に隠れ、椎名 真(しいな・まこと)はボソッと呟く。
愛する人を着せ替えさせようと、猛スピードで廊下を走り回る彼女の姿に、真は思わずぶるっと身を振るわせる。
「無理やり着せるのはちょっとねぇ・・・。それに体格がいいと似合う服もあまりないからね。俺も合う服があまりなくってさ」
服を抱えて追いかけてるジュエリンからロリオを助けようと逃げているのだが、童顔に不釣合いな体格という点で親近感を持っているようだ。
「着せ替え好きだとは聞いてましたけど、あれほどとは思いませんでしたね」
「そうなんだ・・・。しかも体格に似合わない服ってなおさら嫌だよね。ところでどうしてそんなに体格がいいのかな、魔法を使う家系に見えるけど?」
「こういう家柄ですからね、ひ弱なもやしに見られるのが嫌なんですよ」
「(ガタイがいいんならモンクからグラップラーになった方が・・・って思ったけど。家系なら仕方ないか)」
七枷 陣(ななかせ・じん)は彼のクラスが格闘系じゃないことに疑問を抱いていたが、2人の話を聞いて家系ゆえ自由に選べないのかと納得するように心の中で呟く。
「それで鍛えてるんだね。屋敷からしてトレーニング出来るようなところがある感じがないし、どうやって鍛えてるのかな?」
「えぇ、毎日10000回以上は腹筋をやったり、腕立て伏せとかもそれくらいはやってますね」
「だいたい何分くらいかな?」
「そうですね・・・5分程度だと思いますよ。調子が悪い時はそれくらいですね」
「な・・・っ、マジか!?うっわ!腕とか足、めちゃくちゃ凄くないか!?着やせて見える感じやねっ」
軽く言うロリオに陣は驚きのあまり大声を上げてしまい、頬からタラリと冷や汗を流す。
「はははっ、俺よりやばいね」
「2人に比べたらオレなんてこんなもんや」
「(何を比べてるんだろうね、まったく・・・。この間にジュエリンさんに見つかったらどうするつもりなんだか)」
身体のたくましさについて話す3人に、真の足に装着している綾女 みのり(あやめ・みのり)は深いため息をつく。
「最近さ痩せマッチョとかいう単語あるよね。あれって何だろう?」
「痩せているのにそれって変ですよね」
「瓦割りが出来たりするやつがそうなんちゃう?ようは体格がよくなくても力があるってことだと思うんやけど」
「でも力だけだと、マッチョと関係ないように見えるよ」
もしかしてというふうに言う陣に、力だけじゃ体格には相当しないんじゃないかと首を傾げる。
「やっぱりそうですよね。どんなに強くても、それと関係ありそうに見えないですよ」
「うん、マッチョていうからには筋肉がないとね」
「マッチョイコール筋肉なイメージがあるからやな」
「どれだけマッチョの話題を続ける気なの!。その話題から離れて!それよりここから離れないと見つかっちゃうよ。どこか違う・・・ぁあ!?」
“他の場所へ移動しよう”と言いかけたその時、みのりたちの存在に気づいたジュエリンがしゃんでいる彼らを見つけてしまった。
「ここにいたんですのね、ロリオ。さぁ、お着替えをしましょう♪」
「やばっ!逃げるんやっ」
陣はロリオの手を引き石畳の廊下を走る。
「婚約者への愛ゆえにだよね?でも嫌がっている相手に着せ替え行為は・・・って、あれ?足がもつれ!?み、みのり・・・!!?ちょ、え、あ!?」
「(―・・・真さん、ごめんなさい。でも、ボクも変わった姿がちょっと見たくなっちゃったんだ)」
「あ、あれ足がもつれ!?」
まるで瞬間接着剤で足が床へくっついてしまったかのように動けなくなり、真は顔面直下で倒れ込んだ。
「(ロリオさんと一緒に着せ替えられるところを見たかったけど、陣さんが連れて行っちゃったからね)」
それは彼に装着しているみのりが石畳の上に止まったせいだった。
ターゲットを見つけたジュエリンは彼らよりも走る速度が“新幹線か!”て思うほど早く、あっとゆう間に追いつかれてしまう。
「ロリオに逃げられてしまいましたけど、ちょうどいい方を見つけましたわ♪」
「えっ、何が!?」
「何ってあなたを着せ替えることに決まっていますわ」
ジュエリンはニコニコと微笑み、マッシュが沈んでいる部屋へ引きずっていく。
「陣さぁあん、助けてーっ!」
「ごめん。真さんの尊い犠牲、無駄にしないから・・・。じゃ、そういうことでっ」
「ひっ、酷いよー!俺を置いていかないでー!!」
シュタッと去っていく陣に救いを求めるが、その手は仲間の手ではなく虚しく空気を掴んだだけだった。
「奥で誰か倒れてる・・・。―・・・へっ、えぇえ嘘ぉおお!?俺、あんなふうにされるわけっ?ありえないよ、嫌だよーっ!」
ショックのあまり部屋のスミスで口から血を流すマッシュの姿に、真はこれから自分の身に起こる恐怖を想像して顔をひきつらせる。
「い、いやだぁあっ!うぁああーっ。誰か、誰か助けてぇええっ!!」
-ナレーション-
着せ替え中・・・。
しばらくお待ちください。
「ウフフッ、我ながらいい出来栄えですわね」
真の体格に合わせて作った山羊の衣装を1秒で着せ替えた。
「うぅっ、酷い・・・あんまりだよ・・・」
おまけで背中に食用NO2という文字が書いてある。
-ナレーション-
HPにメンタルダメージ800をくらった。
みのりの企みでショックを受けてSPマイナス600を失ってしまう。
椎名 真は力尽きた。
「時代が変わったとはいえ、女の子が嫌がる男の子を・・・けしからん!男女平等なら彼女も着替えるべきだよねっ」
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は嫉妬に燃え、ジュエリンを着替えさせようと探す。
「うぅ、正直・・・彼が羨ましいよ・・・」
政略結婚とはいえまだ彼女として付き合っているジュエリンに毎日会える環境の彼が羨ましくなったのだ。
「ホント・・・、なんというか。相手がいるのに嫉妬するとはねぇ・・・。付き合う相手がいない人だっているのに」
リア充ですらない者が聞いたらどうなのかと思い、仁科 響(にしな・ひびき)は深くため息をついた。
「僕だってされたいし、されたいのにぃいっ!」
悔しさのあまり弥十郎は声に出して叫んでしまう。
「じゃあ打ち合わせ通りにお願いね♪」
「(切り替え早っ!)うん、分かったよ」
その通りに遂行しようと、響も屋敷の中にいるジュエリンを探し歩く。
「―・・・あ、あの子かな?」
人が隠れられそうな場所を片っ端から探しているジュエリンを見つける。
「佐々木弥十郎という、女学生にすると似合いそうな男の子がいるよ」
わざとらしく大声を上げて、弥十郎がいる方へ顔を向ける。
「本当ですの!?」
ジュエリンの着せ替えレーダーが反応し、彼がいるところへ駆けていく。
「大正ロマンなハイカラさんとかどうかなぁ」
「それならこちらの衣装棚の中にありますわ」
クローゼットの中にしまってある服を取り、響と一緒に弥十郎を着せ替えさせる。
「大人しくしててね♪」
響は彼が逃げ出さないようにカーペットに転がし腕をぎゅっと握る。
「人を着せ替えるのって楽しいねぇ」
「(これってその子を着せ替えるための演技だよね?響っ、何か楽しんでない!?)」
ニヤニヤと満面の笑みを浮かべ、着せ替えを手伝う彼を見上げる。
「キレイにお化粧もしておこうね。ンフフッ」
弥十郎の口に紅を塗ったり、マスカラをつけて楽しむ。
「脱がされたあげく、こんな目に遭うなんてっ」
着せ替えさせられた彼は膝を抱え、しくしくとすすり泣く。
しかしそれは目的を達成するための演技だった。
「お疲れ様、これどうぞ」
「私にくださるの?ありがとう・・・あら・・・急に眠く・・・」
“眠くなって起きたらキスチョコ”だと知らず受け取り、食べてしまったジュエリンは床にパタンと倒れて眠ってしまった。
「眠ったかな?じゃあ僕はアイマスクでもして見えないようにしておくよ」
弥十郎はジュエリンが着替えているところを見ないように目隠しをする。
「(なんやかんやいって、結局はジュエリンにゾッコンなんじゃないかなぁ)」
心の中で呟きながら、ミニスカサンタの服がないか響はクローゼットの中を探す。
「これかな?じゃあさっそく・・・」
着せ替えさせようと彼女の方へそっと忍び寄る。
服を脱がせようとした瞬間、部屋の外から陣の聞こえてきた。
もう1人いるようだが、響が聞いたことない声音だ。
「ひとまずこの中へ隠れようか・・・。ん・・・?あっ!?」
部屋に入るなり響たちの姿を見て、陣は声を上げてしまう。
「ここで何をやっているんですか?」
上着を脱がせようとしている響に対して、ロリオが凍てつくような冷たい視線で彼を見下ろす。
外見性別で危険者と判断した彼は、なにやら誤解をしてしまったようだ。
「あ、違うんだよ・・・これは・・・そのっ」
「どうしたの響?もう着せ替え終わったのかな。―・・・えっと、男女平等にってことなんだけど。分かる・・・よね?」
アイマスクを外した弥十郎は彼の傍へ寄ると、髪の毛が逆立つようにピリピリと怒りのオーラを発しているロリオを見て、頬から冷や汗を流す。
「オレには男が服を脱がそうとしているようにしか見えませんねっ」
「着せ替えだよ、着せ替え!だってほら、この子だっていろんな人を着せ替えちゃってるんだからさっ」
「ほぉ〜そうですか」
問答無用といわんばかりに魔法少女の術で魔女Bに変身し、片手に持っている“殺”と書かれた毒リンゴをグシャッと握りつぶす。
「―・・・うわぁああーっ!ふぎゅっ」
さーちあんどですとろいの怒りの炎で弥十郎は窓の外へふっ飛ばされてしまう。
「はわわっ・・・」
その恐ろしい光景に響は腰を抜かし、床にぺたんと座り込む。
「―・・・私、どうしてここで眠っているんですの・・・。あっ、ロリオ♪」
目を覚ましたジュエリンは変身して“死”と文字が書かれた黒い日傘を目にし、彼が近くにいるのだとすぐに分かった。
傘の周りについている金具には、血を吐きぐったりとしているようなてるてるぼうずが吊るされている。
「き、着ませんからね。絶対!」
ナース服を持って詰め寄るジュエリンから逃れようと部屋を駆け出て行く。
「お久しぶり!光精の指輪のエフェクト発動!(いくらなんでもそんなの着せるなんてありえなさすぎるっつーの)」
ロリオを逃がそうと陣は追ってこようとする彼女に、光精の指輪から聖霊を呼び出し目晦ましをくらわして逃走する。
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