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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
輝く夜と鍋とあなたと 輝く夜と鍋とあなたと

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「ふははははっ! さあ、諸君! 素敵な鍋パーティーで親交を深めようじゃないか! カンパーイ!」
 高笑いとともに、乾杯の音頭をとったのはジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)だ。
(フィアナ……俺はフィアナに誘われて鍋を食いに来ただけなんだが……どうして……どうしてジークはいるし! おまけに外はカップルだらけなんだーーっ!)
(私だって予想外ですよ……こんなにカップルだらけだなんて……)
(そっち!? ジークの方は!?)
(だって、魔王様がやるって言った鍋ですから、いるのは当然じゃありませんか)
 こっそりと会話しているのは相田 なぶら(あいだ・なぶら)フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)だ。
 そして、誰も料理が出来ないとみて、なぶらがすき焼きを作っているのだ、乾杯している暇など実はない。
「そこだけで盛り上がらない! 今日はみんなで友情を深める会なのだから!」
「はぁ……どこを見ても……右を見ても、左を見てもカップル、カップル、カップルですよ……」
「お、おーい、遠い目になってるが?」
「お気になさらず……はぁ……」
 坂上 来栖(さかがみ・くるす)はすでに溜息モードだ。
「む? 仮面を付けてると味見が……出来ない!? どうしよう……あっ! 龍騎士の面の噛み付く事も出来るって言う謎機能はこういう時のための物に違いない!」
 なぶらはゆっくり、ゆっくり口を付けて――
「アッツ! 無理! アッツ! 仮面の中にアツアツの具が」
 やはり無理があったようだ。
「仮面を外せばいいのではないか?」
「や、やめて! 仮面取らないで!」
「ふっふっふ……そう言われると余計に外してやりたくなるな!」
 わきゅわきゅと指を動かし、今にもジークフリートはなぶらに飛びかかりそうだ。
「火の近くで暴れたら危ないって!」
 仮面を抑え、後ずさりする。
「良いではないか、良いではないか」
「ギャー!」
 なぶらは本当に飛びかかられ、必死に自分の仮面を死守している。
「そんな仮面引っぺがしちゃえば良いんですよ」
「いらないんじゃないですか?」
 フィアナが言うと、来栖が賛同した。
「ねぇ?」
 2人で顔を合わせて、声も揃えたが、必死過ぎるなぶらとジークフリートには届いていない。
「しっかし、一人身ばかり集まってこの空間は辛いですよ……回りもラブラブラブラブラブラブラブラブと」
 フィアナは持っている熱燗いりお猪口をゆっくり回してから口の中へと流し込んだ。
「どこ見てもイチャイチャイチャイチャ、キャッキャキャッキャ……楽しそうにしちゃってさぁ〜、なんなんですかぁ?」
 来栖はホットココアを飲んでいるだけなのだが……酔っているかのような言動になっている。
「アツアツな私たちで雪も溶けちゃいます〜て感じですかぁ? ねぇ、どう思いますかぁ?」
「ええ、ったく、最近の若い人は、もう少し節度を持って付き合ったらどうですか。人前でイチャイチャイチャイチャ……」
「私だって、別に恋愛に興味がないわけじゃないんですよ〜? ただ……相手がいないだけなんですっ!」
「私だって……相手がいれば!!」
「ねぇー」
 またも2人は同時に顔を見合わせ、声を揃えた。
「そんなにカップルが羨ましいのなら、俺や仮面騎士殿はどうかね?」
 仮面を取る、取らないの決着はお預けになったらしい、ジークフリートが肉に手を出しながら、そう言ってみた。
「……」
 フィアナと来栖は無言、無表情で顔を見合わせ、そして同時に溜息を吐いた。
「なっ、何だその溜息はっ!?」
「なんでだろう……ここでじゃあ、付き合うってなっても微妙だけど、溜息吐かれるとズーンってなる……」
 ジークフリートとなぶらはそれぞれショックを受けたようだ。
「お〜い、そこの仮面さん、まずは仮面外しなさいよ〜顔見せろよぅ〜」
 仮面を死守して安心していたなぶらに来栖がホットココア片手ににじり寄る。
「この仮面は外せないから、近寄らないでぇ!」
 仮面を取られる恐怖で、またも後ずさりをする。
「(外見だけ)かっこいい魔王では不服だというのかっ!?」
 そんな来栖にジークフリートがにじり寄った。
「あっぶなっ!」
 そんなジークフリートにショットガン(ゴム弾)で、それ以上近づくなと威嚇をする。
「国のひとつでも征服してから言え!」
「まったくです」
 来栖の提案にフィアナが賛同した。
「おじょーさん」
 そんな時、カマクラの入り口から声を掛けられた。
「素敵なお嬢さん達、そんなに暗い顔してたら勿体ないですよ? 一緒に星を――」
 エッチェルが最後まで言う前に由唯が蹴り飛ばしたようだ。
「やっぱりろくなのがいないですね」
「はい」
 フィアナが言うと、来栖が大きく頷いた。
「さぁ、来栖さん、鍋も出来上がってきましたしあの二人は放って置いて食べましょう」
「良いですね、今夜はガールズトークを楽しみましょう!」
 2人は本当に女性2人だけで食べ始めてしまった。
「くっ……こんな世の中間違っている! 俺が世直ししてくれるわ〜! 酒だっ酒を飲むぞ!」
 12月9日で20歳になったばかりのジークフリートが一升瓶を片手にそう宣言し、なぶらの肩を抱いた。
「ふははははっ、カップルなんぞ凍傷してしまえ!」
「ジーク……目から熱いものが流れて止まらないんだ……」
「おかしいな……俺もだ……」
 なぶらとジークフリートはひしっと抱き合い、そして、酒をかっくらい始めたのだった。
 まだまだ独り身のガールズトーク・ボーイズトークの夜は続く。