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リアクション
『っていう催しがあるみたいなんだが……せっかくだし行ってみないか? 付き合って……というか、出会って1年の記念って何にもやってなかったからな』
「えっ!? っと! わわっ!」
『大丈夫か!?』
椎堂 紗月(しどう・さつき)から嬉しいお誘いを受けた鬼崎 朔(きざき・さく)は思わず持っていた携帯を落としそうになった。
「大丈夫です! ちょっと携帯を落としそうになってしまって……行きますっ! カマクラで鍋、行きます!」
『良かった! じゃあ待ち合わせは――』
待ち合わせを決めると、電話を切り、さっそく支度に入った。
(紗月と2人で……)
朔は着て行く服を考えながら、顔が少しにやけていた。
(1年前……)
と、思っていたら、少し沈んだ表情に変わる。
(私がまだ「汚い」自分の事を、愛してくれる人などいないと……そう思ってた頃、あなたに出会えた。私は本当に幸せだ……どこまでも優しいあなたに出会えて)
選んでいた服をぎゅっと抱きしめ、幸せを噛み締めた。
待ち合わせの時間通りに2人は落ち合い、タノベさんから食材をもらうと2人用のカマクラへと入っていく。
「小さいけど……良い感じですね」
「そうだな」
コタツに入ると、体が温まってきて、かじかんでいた手足もぬっくぬくになった。
みぞれ鍋は温まったところで、2人で作っていく。
「紗月、大根おろしをお願いします」
「任せろ!」
大根おろしをお願いしている間に朔は鶏もも肉やキノコ、白菜、水菜を丁度良い大きさに切っていく。
材料が切り終わると、出汁と材料を鍋に入れ煮込んでいく。
「大根おろし出来たからなー」
「はい、ちょっと待って下さいね、これが煮えたら大根おろし入れますから」
しばらくして、良い感じに煮えたら、蓋を開け、大根おろしを投入。
朔がスープの味を見て、塩を少し足し、まるで鍋の中にも雪が降ったかのようなみぞれ鍋が完成した。
「よそいま――」
「ほとんどやってくれたんだし、それくらいは俺がやるよ」
「えっと……ありがとうございます」
お玉を朔から受け取ると、皿によそって、朔の前に置いた。
それから自分の分をよそう。
「紗月」
「んー?」
「あーん?」
ちょっと小首をかしげながら、朔が紗月の前に箸を持って行った。
「あーん」
それを紗月は喜んで受ける。
「たまにはこういうのも良いな」
「はい」
「美味しい鍋はあるし、雪は綺麗だし、星もくっきり見えるし、それに……」
「それに?」
紗月は朔の顔をしっかりと見る。
「それに何より朔が俺の横にいるしな」
紗月が笑うと、朔は顔を赤くした。
まったりと食べ進め、かなりの時間を掛けて、鍋は空になった。
「朔、こんなの持ってきたんだ」
そう言うと、紗月は長く真っ白いマフラーを朔の首に巻き、自分にも巻いた。
マフラーを巻いたまま、コタツの中で2人で横になる。
しばらくそのまま無言が続く。
決して嫌な感じの無言ではなく、まったりとゆっくりと時間が進んでいく感じだ。
2人はほぼ同時に顔を相手に向け、視線が交わる。
笑い合ったあと、紗月は朔の頭を優しく撫でた。
朔は、ひとしきり撫でてもらったあと、頭に置かれた紗月の手を取り、自分の頬へと持って行った。
2人の視線が再び交わる。
「朔……」
「紗月……」
ゆっくりとキスを交わす。
(黒いレースの勝負下着も着てきたし……もっと……もっと紗月を感じたい)
朔は瞳を潤ませ、紗月を見る。
紗月は視線を受け止め、朔を自分の腕の中へと入れた。
結局、進展することはなかったが、抱き合ったまま朝までゆったりとした時間を過ごすことが出来、距離はもっともっと近づいた。
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