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その正義を討て

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その正義を討て
その正義を討て その正義を討て その正義を討て

リアクション


第7章


西シャンバラ・ロイヤルガードにして蒼空学園のスーパーアイドル!!
 ブレイズとヒーロー達の戦闘が激化する中、ビルの屋上から現れたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。ロイヤルガードのマントを翻し、ミニスカート姿も勇ましく、バシっとポーズを決めて、ビシっとブレイズを指差す!!
「この小鳥遊 美羽ちゃんが、街の平和を守ってみせるわ!」

「なかなかやるな! だがそこまでだ!」
「いくぞ、セレインナーガとの協力技!」
「くそぉ! 正義スパーク!!!」

 ――聞こえてない。

「ちょっとー! 私を無視するなー! そして私より目立つなー!!」
 バーストダッシュ!! ビルの屋上から一気に距離を詰め、ブレイズの前に一気に躍り出る!!
「――正義スパーク!!」
「――ぐぅっ!」
「ちぃっ!」
 敵の数が増えたと判断したブレイズが正義スパークを放ち、セレインナーガとディバインロード、そしてケンリュウガーが跳ね飛ばされた。
 だが、ブレイズの目の前にいた美羽には全く効いていない。真正面から正義スパークの直撃を受けたにもかかわらずだ。
 それもそのはず、美羽は自らに対電フィールドを施し、あらかじめ正義スパーク対策をしておいたのだ。
「ブレイズゥーー!!!」
 正義スパークの隙を突いて、美羽の両腕に装備された怪力の籠手が唸りをあげた!!
 ブレイズの顔面と言わず胴体と言わず、美羽のコンビネーション・ラッシュがブレイズを捕らえる。
「君が!!」
 右フック!!
「泣くまで!!」
 左フック!!
「殴るのをやめないッ!!!」
 右ストレート!!!

 強烈なパンチの連打で空中を一直線に飛ぶブレイズ。激突した地面に亀裂が走る。
 そこにいた天海 護(あまみ・まもる)は、戦場に似合わない穏やかな口調で話し掛けた。
「……正義マスク、ブレイズ君……だよね」
「――あぁ!?」
「僕は天海 護。――キミも本当は、少しずつ分かってきてるんじゃないのかい?」
「んだぁ? 何が言いてぇ? てめえもあいつらと同類か!?」
 護の胸倉を掴むブレイズ。だが彼は動じず、続けた。

「僕を殴るなら殴るといい。でも、キミにも少し考えて欲しいんだ。真の正義、本当の平和って何なのか、って」
「……真の、正義」

「正義はもちろん悪いことじゃない。でも、それが周りに認められるカッコいいものか、それとも残念な暴れん坊のままで終わってしまうかは、とても大事な境界線だと思わないかい?」
「――」
 その言葉は穏やかながら、重みがある。それが暗に今のブレイズの状況を指していることぐらい、彼にも分かった。
「キミはとても頑張っていたんだと思うんだ。でも、せっかくの頑張りが誰にも認められなかったら、それはとても――悲しいことだと、思う」
 す、と自分の胸倉を掴むブレイズの右手首を握る護。
 大して力は込められていない。でも、振りほどけなかった。
 その手に込められていたものは、憎しみや恨み、怒りではなく……

 ただその手は、重く、強く――熱かった。

「今なら、まだ間に合うんだ……みんなに認めてもらえる、本当にカッコいい正義のヒーローになろうよ」
「……俺は……」
 そこに飛んできたのが天海 北斗(あまみ・ほくと)。護の弟としてパートナーになった機晶姫だ。
 猛ダッシュで飛んできた北斗は、勢いよくブレイズの胴体に飛び蹴りをブチかます!!
「っだーっ!! 聞いてらんねー!! 兄貴ってばぬるい、甘い! かったりぃ!!」
 そのまま猛ラッシュでブレイズを追い込んでいく北斗。ブレイズはと言えば、防御姿勢は取っているものの北斗の攻撃に反撃の糸口がつかめない。
「北斗! やめるんだ!!」
「口で言ったってわかりゃしねーって! こういう奴は力でぶちのめすに限るんだよ!!」
 がしっ、と北斗の出すたパンチを手のひらで受け止めたブレイズ。
「天海 護……だったな。てめえの言葉、聞いておく……だが、それでも俺は! 俺の信じた正義を貫くために戦う!!」
「ホラ見ろ! こいつに兄貴の話を理解できるような上等な能みそは搭載されてねーって!!」
「北斗、そうじゃない!! 彼だって本当は――」

 そこに、さらにもう一人が現れた。ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)、普段からピエロの化粧をして人を小馬鹿にした言動で煙に巻き、パラ実の中でも変人の部類に入る。
 そして今日のナガンは更に一味違う。そう、その顔面に着けられたのは正義マスク!
 普段なら正義などまったくお構いなしなのだが、今日はちょっと正義マスクのせいで正義感というものに目覚めたりしたらしい。
「俺もそっちの機晶姫の兄ちゃんに賛成だねェ。そいつは少なくとも正義じゃねェな」
 北斗が振り向くと、ナガンはゆらりとブレイズに近寄っていく。
「真の――完璧な正義は存在しない。正義とは負けない者、俺やこいつらの正義と貴様の正義……どっちが強いか勝負といこうじゃねェか。勝ったほうが正義だ。シンプルでいいだろ? なあ?」
 北斗の右手を握ったままのブレイズ。見るとケンリュウガーやセレインナーガとディバインロード、美羽も駆けつけてくる。

 そこにザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)もやってきた。
「そのマスクは……危険ですね」
 ザカコが現れたのは説得のためだが、ブレイズも話を聞ける状態ではない。

「……いいだろう。こうなったらとことんやってやろうじゃねーか!!!」
 ブレイズの怒号が響き渡る。
 並みいるヒーロー達とナガン、北斗に単身向っていくブレイズだが、護にはその雄叫びはブレイズの悲鳴にしか聞こえなかった。


                              ☆


 ――いつしか、雨が降っていた。
 ヒーロー達は佇み、ナガンの足元に倒れるブレイズを見つめている。
「へっ! バーカバーカ!!」
 ナガン特有のケンカ殺法は、パラ実のブレイズにはむしろ馴染み深いものだったはずだが、正義マスクを着けてから幾多のヒーローと戦い続けてきた今のブレイズにはトリッキーなものだったのだろう。ナガンに正義マスクの力があったこともあって、ついにブレイズは倒れた。

「――これを見て」
 都筑 優葉(つづき・ゆうは)もまた、正義マスクを手に入れた者の一人だ。彼女は、その力を戦いのためには使わなかった。
 ソートグラフィーをマスクの力で強化して、彼女が見てきた街の惨状を周囲のガラスやモニターなどに映し出したのだ。

 渋滞する道路。混乱する警察、燃え盛るアパート、増える一方の怪我人。

「君の行なった『人助け』で、これだけの人が困っている。――君がしたかったのはこんなことなのか?」
「……違う……俺はただ」
「人を助けたいと思う君のその気持ち……それは悪いことではない。正義とは、自分の正しいと思うことを貫くことだと私は思っている。」
「……」
「ただ、やり方を間違えればどうなるか、君も分かった筈だ。……共に考えようじゃないか。また君が間違えるようなら、私が殴ってやる。……それが、私なりの正義だから」
「……俺は」

 皆、優葉の説得を見守っていた。
 だが、その時、近くで大きな爆発音がした。
「――何だ!?」
「あの辺には、廃工場があるはず!!」
 ケンリュウガーの魔鎧である灯が牙竜に告げた。見ると、廃工場の天井が大きく噴き飛び、火柱が上がっている。
 誰もが廃工場に向おうとした。それを制するように、灯が再び牙竜に言った。
「待って!! あれを見て!!」
 ケンリュウガーが見ると、廃工場の方から一人の人影が空中を飛んでくるのが見える。
「何だ――あれは?」

「気をつけろみんな! あれが今回の事件の首謀者だ!!」
「何!?」
 そこに駆けつけたのは天司 御空。もちろん白滝 奏音とマイト・レストレイド、そして伏見 明子もいる。

「あいつはクライム仮面!! 正義マスクを作って陽動のために街にばら撒いた!! 銀行も火事もカモフラージュに過ぎない!! 本当の目的は……正義マスクを多くの人間に使わせることだったんだ!!」
 御空が叫ぶと、空を飛んできたクライム仮面は笑い声を上げた。
「ハーッハッハッハ!! その通り!!」
 クライム仮面が両手に力を込めると、黒い霧のようなものが立ち上り、一瞬で街中に広がった。

「……何だ!?」
 ナガンは空を見上げた。黒い霧に覆われた街はまるで悪意そのもののようだ。
 そして、身体中にみなぎっていた力が抜けていくのを感じた。
「う……こ、これは!?」
 ナガンだけではない、優葉も、この場にはいないルイも、正義マスクを使用していた誰もが脱力感を感じ、立っているのがやっとの状態になった。

「フハハハハ! 正義マスクを通じて貴様らから蓄積された力は、確かにこの私がいただいた!」
「……なん……だと……」
 高笑いを続けるクライム仮面。この場で動けるのはケンリュウガーとセレインナーガ、ディバインロードと小鳥遊 美羽。そして天海 護と北斗の兄弟、それにザカコ・グーメルだ。
「さらに!!」
「うわあああぁぁあ!?」
 クライム仮面が力を入れると、倒れていたブレイズが声を上げた。見る見るうちにマスクが黒く染まり、ブレイズはぶらりと宙を浮くようにクライム仮面のもとへと浮かんでいく。
「この正義マスクだけは特別製でな! 私の力を分け与えると同時に、このマスクで特別に強化された肉体は私の自由に操れる! さあ行けブレイズ!! 邪魔者を排除しろ!!」

「ウガアアアァァァ!!!」
 野獣のような咆哮を上げて、ブレイズの身体から今までの正義スパークを数段上回る電撃が放出された。

「やめるんだ、ブレイズ君!!」
「兄貴、危ない!!」
 咄嗟に前に出た護をかばって電撃をモロに受けた北斗。
「うわぁぁぁっ!」
 全身が金属外装の北斗はやはり電撃には強くない。
「大丈夫か、北斗!?」
「あ、兄貴こそ……こんぐれえ、大したことねえよ……」
 とりあえず減らず口が叩ける程度ではあるようだが、とても戦える状態ではない。

 ブレイズはと言うと、空中に浮かんだまま強烈なスパークを放出し続けている。電撃で道路のアスファルトがめくれ、電柱にヒビが入る。
「――しょうがねえ、マスクを破壊するしかねえか」
 一歩前に出るケンリュウガー。だが、その横をすり抜けて空中のブレイズにタックルを仕掛けた男がいた。
 ――ザカコ・グーメルだ。

「ぐぅっ!!!」
 電撃を受けて苦しむザカコだが、なんとかブレイズの胴体に取り付いた。
「――聞け!! ブレイズ!!」
「グアァァァ! ガアァァァ!」
 ブレイズは暴れながらも、苦しんでいるように見えた。彼もまた、支配されつつある意識の中で戦っているのだろうか。
「貴方の人助けをしたいという原点は間違っていなかった!! だが力を振りかざす正義では誰もついてはこないのです!!」
 電撃の勢いを強めるブレイズ、だが、ザカコは一歩も引きはしない。
「マスクの力に頼っているうちはただの独善!! 貴方ならマスクなしでも自分の力で正しい道を進めるはずです!!」
 激しい電撃に身を焦がしながらの説得に、皆が声を重ねた。

目を覚ませ、ブレイズ・ブラス!!!

 ――そして、彼は長い眠りから目を覚ました。いつか感じた確かな正義に――

「うおぉぉぉ!!!」
 くるりとザカコを振り切って、そのまま猛スピードでクライム仮面に突進するブレイズ。
「何ぃ!? 洗脳が解けたというのか!?」
 ブレイズはがっしりとクライム仮面に組み付いた。誰もが感じていた。ブレイズの体内で集められたパワーの内圧が高まっているということを。

「!! やめろ、ブレイズ!!!」

正義ダイナマイト!!!

 そして、ブレイズの体内の強大な力は、かつてない威力の自爆技となって発現したのだった。