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賢者の贈り物

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賢者の贈り物

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Part,Epilogue(Prologue)

 そこは、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)とそのパートナーしか知らない場所だった。
「……よう、久しぶり、サルファ」
 そこにひっそりとある、ひとつの墓標。
 それはかつて、鏖殺寺院より神子抹殺の指令を受け、神子である可能性が高いという情報を元に、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)への刺客となった、サルファという女のものだった。
 彼女が気になり、放っておけなかったトライブは、サルファと行動を共にし――そして、その死を見届けることとなったのだ。
 パートナーの機晶姫、ジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)も、花を持ってトライブに付き合い、墓の周りを軽く清める。
 花を墓に供え、ちらりとトライブを伺って、くるりと後ろを向いた。
 彼の目に、光るものを見付けたからである。
(……全く、調子狂っちゃうなあ)
 顔を合わせれば軽口を叩き合う2人だが、この時ばかりは声を掛けることもためらった。
「……あれから、色々あったんだぜ」
 だから来るのが遅れちまって悪ぃな、と、トライブは、シャンバラで起きた様々なことを、サルファに語る。
 何故だろう、軽く肩を竦めて、苦笑するようにして、
“あんたも、相変わらずね”
と言うサルファの顔が、思い浮かぶような気がした。
「そうだな。真っ当な学生をしてねえ俺にはしんどいこともあるが、退屈しない程度には面白おかしくやってるぜ」
 ただ。
 腹の底に、拭い切れない後悔が残っている。
 守れなかったこと。――もう二度と会えないこと。
 トライブは、涙を拭って立ち上がり、サルファの墓に笑顔を向けた。
「……また時間が出来たら、会いに来るぜ。またな」
「終わったの?」
 墓に背を向けて歩き出すトライブに、ジョウが伺い寄る。
「おう」
 やはり口数が少ない。
「……帰ったら、何か美味しいものでも作ってあげよっか」
「……」
 きょとん、とトライブはジョウを見た。
「……ガキが気い使うなアホ」
「な、なんだと――! トライブだってチビの癖に!」
 かしましくも微笑ましい話し声が、墓から遠ざかって行く。


 空京。聖アトラーテ病院。
 そこは、パートナーロスト等、契約者特有の疾病を専門とする病院である。
 源 鉄心(みなもと・てっしん)は、そこに入院する1人の教導団員を見舞いに訪れた。
 かつて教導団が砦を構えていた国境の要塞に、エリュシオンの龍騎士が襲撃を仕掛けてきた防衛線の際に、パートナーを死なせて昏倒した、都築少佐である。
 直接関わることはなかったが、その戦闘の状況と彼のことを聞いて、彼を訪ねずにはいられなかったのだ。

「よう」
 頬がこけるほど痩せて、青ざめていたものの、都築少佐は笑って鉄心を迎え入れた。
「容態はどうですか」
「頭痛が酷くてな。
 今は大したことないんだが、前触れなく激痛が来やがるから始末に負えない」
 苦笑しながら軽く頭を押さえる。
「……人材は足りていないんですから、お早い復帰をお願いしますよ。
 ……そんで呑みに行きましょうや。勿論少佐の奢りで」
 軽口に、都築少佐は
「そうだな」
と笑った。
「俺としたことが、ここに来てからこっち、ビールの一杯も飲んでねえときたぜ」
 肩を竦める少佐と鉄心を、鉄心のパートナー、ヴァルキリーのティー・ティー(てぃー・てぃー)が遠慮がちに見比べている。
「あんたの相棒か?」
 気付いて、都築少佐が話を振った。
「はい……あの、同じ日本の方ですよね。
 お知り合い、ですか?」
「いや」
 今初めて会ったな、と答える都築少佐に、少し驚く。
 2人の会話から、顔見知りかと思ったのだが。
「……確かに、似た匂いは感じたか」
 まあそんなもんだろうとよく解らないことを言って笑う都築少佐に、しかしティーは少し残念に思った。
 もしかしたら、鉄心の過去を、何か知れるかもしれないという淡い期待があったのだ。
「あまり長居したら悪いですね。
 この辺で失礼します。お大事に」
 見舞いの花篭を置いて、鉄心達は病室を出る。
 溜め息を吐き、彼と会話している時は成りを潜めていたピリピリとした雰囲気が再び出てきて、ティーは心配そうに鉄心を見た。
 元気がないように見える鉄心を励ましたいのに、言葉が見つからない。
「……戦場での兵の死は、必要な犠牲と割り切るしかない。だが」
 軍服を着ていたのなら、子供だからという言い訳も利かない、それも理解できる。だが。
 彼のパートナーを死なせたのは、本来の敵である龍騎士ではなかった。
 それが、鉄心の心を波立たせていた。
 そもそも、龍騎士達ならむしろ、そのような手段をとることを嫌悪するだろうと思う。
「……それを、『仕方ないことだった』と、そう簡単には、割りきれんよなあ……」
 苦い呟きが、空に溶ける。