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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

リアクション


第3章

「まぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇ!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、一匹の赤モンキーを追って全力疾走していた。
 猿も必死の形相で逃げている。かれこれ、もう何分もこの追跡劇は続けられていた。
 何故、美羽が猿を追いかけているのか。話は少し前に遡る。
 休日を利用して、美羽はパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とのんびり過ごそうとワイハーに来ていた。
 くつろいでいたところ、ついうとうととしていた所を猿にイタズラされてしまったのだ。
 そのイタズラとは、
「私の髪をもてあそんだ罪は重いわよ! まちなさぁぁぁぁい!」
トレードマークのツインテールを解かれ、バナナの形にされていた。しかも房。
 ある意味職人技を見せた髪型を、何とかコハクに直してもらい、犯人の猿を見つけた美羽は追い続けていたのである。
 流石に追い掛け回され、疲れが見えたのか猿が動きを止める。
「捕まえたッ!」
 美羽が【ブーストダッシュ】を発動する。一直線に、猿へと向かう美羽。
 しかし、猿はひらりと横に避ける。その背後にはプール。
 時既に遅し、勢いをとめることも出来ず、ド派手に水しぶきをあげて美羽はプールへ落下した。
 その光景を見た猿が安堵の息を吐いた、瞬間。
「ぶはぁッ!」
 プールから美羽が飛び出した。
「逃がすかぁッ!」
 鬼の形相に恐れを為した猿が逃げようとする。
「はぁっ!」
 美羽に漸く追いついたコハクが、テレネキシスで拾ったバナナの皮を浮かべ、猿目掛け放つ。皮は、猿の顔面に張り付いた。
「今だよ、美羽!」
「うん!」
 皮が剥がれず慌てふためく猿に、美羽は身体ごとぶち当たるようにして捕まえた。
「やった! 捕まえたよ! さーて、どんなお仕置きを……って、どうしたのコハク?」
「あ、あの……見えてるよ、美羽……」
 顔を真っ赤にして、美羽を指差すコハク。
 美羽が自身を見ると、着ていた服がボロボロになって隙間から水着が覗いていた。壁に衝突したり、バナナの皮で滑ったりした代償だ。
「きゃああっ! み、見ないでよコハク!」
「ご、ゴメンよ美羽!」
 そもそも着ているのが水着なのだから、恥ずかしがる必要はないと思われるが、そこに気づかない二人であった。

「……平和ですねー」
「そうですわねー」
「何か面白い事でも起きて欲しいですよ」
「あら、先程波の出るプールが凄かったらしいですわよ? 何でも災害級の波だったとか」
「ああ、聞きましたよ……ちょっと見たかった」
「後ついさっき、ツインテールの女の子が全力疾走してましたわ」
「ああ、バナナの皮って本当に滑るんですね。初めて見ました」
 プールサイド。ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)パトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)がのんびりと会話を繰り広げていた。
 そんな二人を影から、数匹の赤モンキーが覗いていた。
 次のターゲットは彼女達にしよう、と考えていたその時、ちょいちょいと猿の肩を何者かが叩く。
 邪魔そうに振り返った猿は、言葉を失った。
 そこに居たのは翼を携えた類人猿のような風貌を持った学ラン姿の者――フライング・ヒューマノイドだった。

「……なんか騒がしいですね」
「そうですわねぇ、あそこの茂みですわ」
 ガートルードたちが、茂みを覗く。

『何さらしとんじゃワレェ!』
『ヒトのシマ勝手に荒らしといていい度胸じゃねぇか!』
『パラジツ舐めとんのか!? あぁ!?』

 そこには、フライング・ヒューマノイド三匹が赤モンキーの胸倉を掴んでいる光景が拡がっていた。
「……まーたやってる」
 見慣れた光景に、ガードルードがうんざりしたように呟く。
「どうするんですの?」
「スルーでいいでしょう。言う事聞くような奴らじゃないし、それに人に迷惑かけてるわけじゃないし」
「そうですわね」
 そう言って、二人は日光浴を再開する。猿の悲鳴を聞きながら、二人はゆっくり夢の世界へと誘われて行った。

――ワイハー内では、イベント用の特設ステージが設置されており、日によって様々な催し物を行なっている。
 本日のイベントステージで行なわれているのはフラダンスショーであった。
 ステージ上では、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が他の踊り子と一緒に踊っていた。
 その様子を、赤モンキー達が伺っていた。観客が多い中、何かイタズラをしてやればさぞかし面白いものになるだろう。
 猿達はステージへと向かっていった。

「……レティ、ちょっと」
 踊りながらミスティはそっとレティシアに近づき、耳打ちする。
「何でしょうかねぇ?」
「ディテクトエビルを発動させていたんだけど、今何かを感知したわ。何かいる」
「ああ、そういえばさっきパラミタ赤モンキーとやらに注意、って言われましたっけねぇ」
 レティシアが思い出す。アルバイトにも今回の件についての説明が行なわれている。
「多分それだと思うんだけど……どうする?」
「ほっといていいんじゃないでしょうかねぇ?」
「え? 大丈夫なの、それで?」
 予想外の言葉にミスティが驚いて聞き返す。
「大丈夫なんじゃないでしょうかねぇ? 先程、罠は周囲に撒いておいたんで」
「……あ、感知しなくなった」
「それじゃ、もう大丈夫なんじゃないでしょうかねぇ」
「そうみたいね」
「これが終わったら後で見てみることにしましょう」

 ショーが終わり、レティシア達はステージ裏に直行した。
「ふむ、大量大量♪」
 ステージ裏でしびれ粉で痺れている猿達を発見したレティシアが満足げに言う。
「あーあ、かわいそうに」
「自業自得なとこもあるともいますがねぇ。それより、痺れている内に捕まえちゃいましょう」
 そういうと、レティシアとミスティは猿を残らず捕獲するのであった。

「だからねぇ、真っ直ぐいきゃあいいってもんじゃないんだよ。もっと頭を使わなきゃ」
「押忍! 精進します!」
 今坂 朝子(いまさか・あさこ)の言葉に、弋 幸奈(いぐるみ・ゆきな)が力強く頷いた。
――宿泊していたホテルで猿を見かけた朝子は、幸奈の腕前の成長を確認しようと猿の捕獲を命じた。
「押忍! エテ公に目にもの見せてやります!」と幸奈は息巻いて挑んだはいいのだが、彼女の得意の空手の技は素早い猿には通用しなかった。
 それどころかいいようにあしらわれ、終いには転倒させられてしまう始末だ。
 見るに見かねた朝子は、近くにあった松明で猿をプールへと追いやり、更に電気コードを放り込み感電させたのであった。
 現在、彼女達のそばにあるプールの中には、多数の猿が浮いていた。皆失神している。
「流石プール。電気の通りがいいねぇ」
「……あの、よろしいでしょうか?」
「ん? なんだい?」
「いえ、エテ公はいいのですが、人間の方まで浮いているのですが……」
 幸奈が言う通り、プールには猿以外にも感電した人間が多数浮いていた。
「……なぁに、こまかいこたぁ気にしないんだよ!」
「お、押忍! 捕獲はどうしましょう!? まだ電気が流れているみたいですが……」
「気にすんな!」
 誤魔化すように、朝子が声を張り上げた。

 その後、感電した人々は無事に救助され猿も捕獲されたが、猿より被害が大きかったのは言うまでも無い。

――ワイハー内、熱帯雨林地域。
 罠を張り、捕獲を試みていた逢見 繭(ほうみ・まゆ)であったが、猿は一向に現れなかった。
「……駄目だ、全然来ない」
 光学迷彩を解き、隠れていた茂みから現れる。
「伏影ー、伏影ー?」
「呼んふぁふぇごふぁるふぁ?(もぐもぐ)」
 突如、一本の木が動きだす。擬態していた巳野 伏影(みの・ふしかげ)だ。
「呼んだ呼んだ。猿、全然来やしないわね」
「ふぉうでごふぁるふぁ(もぐもぐ)」
「……ところで、何食べてるの?」
「餌のバナナでごぶぁッ!」
 伏影は繭に思いっきり殴られた。
「何で餌のバナナを伏影が食べてんのよ」
「それは拙者が食べる事で臭いで猿を誘き寄せるでごぶぁッ!」
「本当は?」
「せ、拙者がお腹が空いたからでござる……」
「はぁ……また餌持ってこなきゃ」
「おう、お主ら何をしとるんじゃ?」
 溜息を吐く繭に、姫宮 みこと(ひめみや・みこと)を連れた本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)が声をかける。
「私達? 赤モンキー捕獲の罠を張っていたのよ」
「そうなんですか? ボク達もなんですけど……どうですか?」
「さっぱりでござる」
「バナナを餌にしてるんだけどね」
「なんじゃ。誘き寄せるのならばバナナなんかよりももっといいものがあるぞい……なぁ、さる?」
 揚羽が、みことを見てニヤリと笑った。その笑みを見て、みことはとても嫌な予感がしていた。

「これで本当に(んぐんぐ)引っかかるの?(もぐもぐ)」
「なぁに心配いらぬわ(むぐむぐ)……最近流行っておるようじゃからのぉ(むぐむぐ)」
「流行っているって(あむあむ)なんでござるか?(もぐもぐ)」
「『こんな可愛い子が女の子のはずが無い』とかゆうたかのぉ(んぐっ)」
「むぐ……それ、どういう意味?」
「んぐ……みこと殿は女の子でござろう?」
「いやいや、さるはあんななりをしておるが実は――」
「……あの、なんでボクはこんなとこにいるんでしょうか?」
 みことが言う『こんなところ』とは、カゴに棒を引っ掛けて斜めに立てかけた古典的というかベタというか、罠中の罠の中である。
 そんな中に、白いビキニを着せられたみことは入れられていた。
「そりゃ、さるが餌だからじゃよ」
「餌って何でボクが!? 繭さん、バナナはどうしたんですか!?」
「お腹が空いたから食べた」
「美味しかったでござるよ?」
「そういう問題じゃないですよ!?」
「ほれ、餌が騒いでたら来るものも来ないわ、黙らんか」
「うぅ……こんなので来るわけが……え?」
 ドドドドド、と地を揺らすような音が響いてきた。
 猿の大群が、みことの方向へ向かって駆けてくる。
「き、きゃあああああ!!」
 大群はみことを飲み込む。その拍子に棒が外れ、カゴが倒れた。
「な、何なのかしらこの大群は……?」
「繭殿、誰か来るでござるよ?」
 伏影が指差す方に、猿の大群を追うレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)の姿があった。
 レイディスは手近な猿を捕まえると、持っている縄で縛り上げた。
「よっしゃ、もう一匹捕獲っ!!」
「ちょ、レイ! あたし放っていくなさ! これ動きづらいんよ!?」
 レイディスの背後を、身体に樹の葉を巻きつけたフィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)が必死で追いかける。
「ははははは! まだまだぁッ!」
 レイディスは片っ端から猿を捕まえては縛り、放っていく。
 始めは亮司の店を破壊された怒りにより、捕まえていたはずだった。しかしいつしか目的が『捕獲』となり、レイディスは目に付いた猿を片っ端から縛り上げるよう暴走していた。
「人の話を聞け……ってそれは青モンキーだわさ!」
 フィーネが縛られた青モンキーの縄を解く。
 先程から見境が無く、猿であればなんでも縛り上げている。その度フィーネが解放していた。
「ちょっとレイ! いい加減に……」
「むっ! そこだぁッ!」
 レイディスが木刀を振るう。しかし猿には当たらず、木刀は空ぶり、フィーネの胸に巻いてある葉を掠った。

「「あ」」
 はらり、とフィーネの胸に巻かれた葉が落ちた。
 
 流石の事態に、レイディスも冷静さを取り戻した。
 フィーネは落ちた葉をゆっくり拾い上げ、巻きなおす。
「……いや、フィーネ、すま――」
「チェインスマイトッ!」
「んぶッ!」
 すまん、と言い切る前にレイディスはフィーネのその鉄板のような大剣でぶん殴られた。
「なにするのさこのスケベッ!」
「い、いや……今のは不可抗りょくぅッ!」
「うっさい! レイのスケベッ! 潰れるがいいさっ!」
 何度も何度も、レイディスにフィーネは大剣を叩きつける。
 最初は何か言おうとしていたレイディスもその攻撃を喰らい続け、ピクピクと痙攣を起こし失神していた。殴る音も、ぐちゃりという生々しい音へと変わっていた。
「はぁーっ……はぁーっ……」
 血に染まった大剣を振って、付着した血糊を取り払ったフィーネは視線を感じ、振り返る。
 そこには、ドン引きした目の繭と伏影、そして事態を余り理解していない揚羽がいた。
「あ、あははは……お、お騒がせしましたーっ!」
 ほぼ肉塊な状態のレイを引き摺るように、フィーネは逃げていった。
「行っちゃった……」
「何なんでござるか?」
「知らないわよ……まあ、とりあえず私らはこれを捕まえよっか」
 繭が目を向ける先には、レイディスが縛り上げた猿達が転がっている。
「ところで、みこと殿はどうしたでござるか?」
「ん? おお、そうじゃったそうじゃった」
 言われて思い出したのか、揚羽がぽんと手を打つ。
「おお、あったあった。さるー、どうじゃー?」
 みことが入っているカゴに、揚羽が呼びかける。
「いやあああああ!! お猿さんやめてぇぇぇぇぇぇ!!」
 カゴの中から、悲鳴のような声が聞こえてきた。
「水着脱がさないでぇぇぇぇぇ! ぼ、ボクはおと……『男でもいい』っていやぁぁぁぁ!! だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!!」
「……助けて、って言ってるよ?」
 繭がカゴを見て、揚羽に言った。
「さる、お主の犠牲は無駄にはせんぞ」
 揚羽は遠い目で何処かを見ていた。
「でも開けないと捕まえられないでしょ」
 そう言って、繭はカゴを持ち上げる。
「「あ」」
 持ち上げると、中にはみことが着ていた白いビキニを持った猿。そして、全裸のみことがいた。
「な……み、みこと殿は男の子だったでござるか!?」
 その身体を見て、伏影が驚きの声を上げる。
「お? 言っとらんかったかのぉ?」
「き、聞いてないでござるよ!」
「はい確保ー」
 気づくと、繭が猿を鞭で縛り上げていた。
「……繭殿、何で平然としているのでござるか? 男性の裸でござるよ?」
「え? 別に。人間付いてる物なんて皆一緒じゃない。これが変な物でもあったなら驚くけどね」
「そういう問題でござろうか……?」
 自分のパートナーながら、よくわからないと伏影は首を傾げた。

――賑わっていたウォータースライダー周辺も、騒ぎの影響か人影が少なくなっていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 そんな中、ウォータースライダーを全速力で逆走するのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
「しばき倒すしばき倒す絶対にしばき倒すーッ!」
 セレンフィリティの前には、同じように逆走する赤モンキーがいる。猿の手には、セレンフィリティのビキニが握られていた。泳ぎ疲れ眠っていた彼女から、猿が盗んだものだ。
 木の葉で胸を隠し、犯人である猿を見つけたセレンフィリティに、猿は食べていたバナナの皮を投げつけておちょくってきた。
 その態度に「しばく!」と切れたセレンフィリティを見た猿は、流石にヤバイと思ったのか逃走。しかし追いかけて追い続け、ここまで猿を追い詰めたのであった。
「いい加減大人しく捕まってしばき倒されろぉーッ!」 
 背後からセレンフィリティが手に持った水鉄砲を走りながら構える。この水鉄砲は、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が買ってきてくれたものだ。中にはハバネロ水が入っており、撃たれたらひとたまりも無い。
「喰らえぇーッ!」
 しかし、猿も素早い動きで避ける。流石野生の動物である。
 頂上、あと少しでウォータースライダーの入り口へと辿り着きそうになった時、猿は油断から足を滑らせた。
「もらったぁッ! エロ猿、覚悟ぉーッ!」
 その隙をセレンフィリティは逃すわけも無く、背中を水鉄砲で撃つ。
「ウキィーッ!」
 猿が悲鳴を上げた。ハバネロ水をモロに背中に受けたのだ。
 衝撃で頂上へ投げ出される猿。そのまま逃げようとするところを、セレンフィリティが捕らえた。
「ふっふっふ……もう逃がさないわよぉ……?」
 セレンフィリティが猿の顔面に銃口を突きつける。
「チェックメイト――」
 そして、引き金を絞った。
 
 数秒後、そこにはのた打ち回る猿がいた。
「ふはははははは! エテ公如きが人間様をおちょくるなんてまだまだ早すぎわぁッ!」
 そして、そのエテ公を相手にマジになって追いかけ回した人間様がそこにいて、高らかに笑っていた。
――彼女はまだ気づいていない。走っている間に、胸を隠していた木の葉が無くなっていた事に。

「……凄いな、あの女」
 麓からウォータースライダーを見上げて、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が呟く。先程、物凄い速さで逆送していたセレンフィリティの姿が見える。
「確かに凄い。けど、俺達も負けてられねぇな」
 ネルソー・ランバード(ねるそー・らんばーど)が猿捕獲用に用意したエアガンを構える。その先には、赤毛の猿が一匹。
「そうだな……俺が背後から行く。おまえが狙ってくれ」
「了解」
 マクスウェルが捕獲用の網を手に、そっと猿に近寄る。気配を消し、一歩、また一歩と距離を縮めていく。
「よしッ!」
 マクスウェルが網を振り下ろす。だが、流石野生の猿。そう易々と捕まらない。
 寸での所でマクスウェルに気づいた猿は、身を捩り網を交わす。
「ネルソー、今だ!」
 だが、それも作戦の内。避けたところを、ネルソーが麻酔弾で狙撃する……はずだったのだが。
「あっ……ちぃっ!」
 一瞬タイミングが遅れ、麻酔弾が猿の横に着弾する。
 それに気づいた猿が、危険を感じ逃げていった。
「おい、何をしているんだ!」
 マクスウェルがネルソーに言う。
「くそッ! 駄目だ気が散ってしょうがねぇ!」
 ネルソーは何かをチラチラと気にするように見ていた。
「……一体どうしたんだ?」
「ああ、あそこの奴だ!」
 そう言って、ネルソーが目を向ける。そこはウォータースライダーの頂上。先程のセレンフィリティが高らかに笑っている。。
「あれがどうしたんだ!?」
「ああ、あそこの奴、水着着てないんだ! 後もう少しで見えそうだっていうのに遠すぎてよく見えねぇ! くそっ! 俺がもっと視力がよければ――」
「二度と見えなくしてあげる」
 セレアナがぴゅーっと放った水鉄砲の水が、ネルソーの目に直撃する。
「ぎゃああああああ!! 眼が! 眼がぁぁぁぁ!」
 眼を押さえてのた打ち回るネルソー。
「な……お前何をした!?」
「人の相棒の裸を見ようとしたから、つい」
「つい、って……」
「ご心配なく、ただのハバネロ水だから」
 さらっと言ってのけるセレアナ。
「……そうは思えないんだが」
 足元でのた打ち回るネルソーを見て、マクスウェルが呟く。ちなみにハバネロが目に入るととんでもなく危ないので、決して真似をしてはならない。
「命に別状は無いんじゃない? さて……セレンー! 胸、胸ー!」
「……きゃああああ! 何でまた裸になってるのよぉー!」
 セレアナが叫ぶと、ウォータースライダーの上から悲鳴のような声が聞こえてきた。
「……やれやれ」
 溜息を吐き、マクスウェルはネルソーを担いだ。目的地は救護室だ。