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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!
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第四章 祭りの始まり

 蒼空学園の校内に、正午の軽やかなチャイムが響き渡る。間をおかずして、アチコチから扉を開ける音と駆け出す足音が響いた。
「始まったな」
 山葉 涼司(やまは・りょうじ)は校長室のテレビをつける。購買部から少し離れたところに立つ、マイクを持った羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)の顔が大写しとなった。
「遂に始まりました! 伝説の焼きそばパン争奪戦! わずか50個の『伝説』をゲットできるのは誰なのか! 私は購買部前の争奪戦を随時中継したいと思います。さて翔子さーん、そちらはいかがですかー」
 カメラが切り替わると、校内のどこかにいる鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)が映る。
「はーい! 翔子でーす。私は購買部に向かう人にインタビューしたいと思いまーす。あ、見えました。ちょっと追っかけますねー」
「涼司、何なの、コレ?」
 シャンバラ教導団から、執務を手伝いに来ていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、テレビを覗き込む。
「今日から伝説の焼きそばパンの販売が始まるんだが、聞いてないか?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、手を叩く。
「思い出した! お知らせが出てたね。チョコじゃなかったから、すっかり忘れてたよ」
 校長室の窓から外を見ると、勢い良く走る生徒の姿が見えた。
「なーんか面白そう。様子見てくるね。ついでに買ってくるよ」
 思い切り良く飛び出した。

「焼きそばパン、1ついただきますわ」
 購買部の前に立っていた中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、クルリと向き直ると藤井 つばめ(ふじい・つばめ)に言った。
「え、だって……あの、風紀委員……ですよね」
 戸惑うつばめは、横にいた火村 加夜(ひむら・かや)を見た。そんな加夜も、どうして良いか迷う。
「山葉校長は『取り締まるのに協力してくれ』とは言いましたが『風紀委員は買ってはいけない』とは一言も言っていませんものね?お昼休みになったのですから、購入しても何の問題もないはずですわ」
「それはそうでしょうけど……」
 戸惑う加夜を横に、獣 ニサト(けもの・にさと)が、綾瀬に焼きそばパンを差し出した。
「ま、いんじゃない。言われてみれば確かにその通りなんだしさ。はい、どうぞー」
「ありがとう。じゃ、お金とこれ……」
 綾瀬はニサトの手のひらに、代金と風紀委員の腕章を乗せた。
「慰労会は出ないのか?」
「前にも言ったはずです。私は食べたいものを食べる主義なの、ナポリタンパンなるものに興味はないわ」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、焼きそばパンを持たない方の手でドレスの端を摘むと、軽く一礼して購買部の前から立ち去った。
 不満そうなつばめと加夜を、ニサトがとりなす。
「ま、仕方ないさ。そろそろちゃんと買おうって奴らが来るぜ。さぁ、準備、準備」
 パンパンと手を叩く。
『第一あれは、俺達が作った焼きうどんパンだしな』
 ニサトは、頭の中のそろばんに1つ分の代金を加算した。

 購買部を後にした中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、焼きそばパンにかぶりつく。
「……ドレス」
「はい、綾瀬」
「これが伝説の焼きそばパンなの?」
 返事は返ってこない。魔鎧の漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が、焼きそばパンの味を知るわけがない。
「まずいのですか」
「いや、美味しい」
 綾瀬の鋭い感覚にも、焼きそばパンは十分に美味しかった。しかし、どこか、何かが違うような気がする。言うなれば食感が。
「綾瀬は焼きそばパンを食べたことがあるのですか」
「何度か……ある」
「それと比べていかがですか」
「美味しい……と思う」
「それなら良いのではありませんか」
 その通りなのだろう。購買部へと走る一団を横目に、どこか割り切れない思いを抱えながら、綾瀬は自分の教室へと向かった。
 
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、チャイムを聞くや否や、教室の窓からダイブした。
「きゃーっ!」
 可愛い悲鳴をあげたのは、美羽……ではなく、彼女に抱えられたマリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)だった。
「美羽ー、どこ行くのぉー」
 マリエルは必死で美羽にしがみつくと、なんとか声を振り絞る。
「購買部だよっ! よーし、バーストダッシュだぁ!」
 一気にスピードが上がる。マリエルには、いつだったか乗ったジェットコースターを思い出した。
「も、もうちょっと、ゆっくり」
「そんなこと言ってたら、売り切れちゃうよ! なんてったって『伝説』なんだから」
 購買部に向かう小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に、追走する人影があった。
『む、ライバル?』
 チラッと横を伺う美羽に、突然、カメラが向けられる。
「こんにちは! 伝説の焼きそばパン争奪戦中継係の鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)でーす! あなたも焼きそばパン狙いですか?」
「もちろんよ。絶対、絶対、ぜーったいマリエルと一緒に食べるんだから」
 言い切った美羽は、更にスピードを上げる。が、あっさり翔子もついてくる。今度はカメラを、美羽が背負ったマリエルに向ける。
「間に合うと思いますか? 焼きそばパン、食べたいですか?」
「い……命があったら、食べたいです」
 マリエルは美羽にしがみついたまま、必死で答える。カメラが向けられているのに気付くと、思わずピースサインをしようとして手を話す。だがバランスを崩しそうになって、あわててしがみつき直した。
「ねぇ、すずちゃん?」
「すずちゃん? 私ですか?」
「よくバーストダッシュについてこれるのね。なんか私より目立ってない?」
「これぞジャーナリスト魂! そう、スピリッツっす!」
 よくよく見れば、前すら見ずに横走りで美羽と翔子に付いて来ていた。
「どうもありがとうございました。じゃあ、争奪戦、頑張ってください!」
 鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)は、新たなターゲットを見つけると、急ターンで駆け抜けて行った。
 
「こんにちはっ!あなた達も焼きそばパン狙いですか?」
 鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)は、並んで爆走する桜葉 忍(さくらば・しのぶ)とパートナーの織田 信長(おだ・のぶなが)に、マイクを差し出す。
「当たり前だろ、って言いたいところだけど、信長が食べてみたいってさ」
「そうなんですか、信長さん?」
「うむ! 伝説の焼きそばパンは、この私が手に入れてやろうぞ、ふっははは!」
「でも競争率は、かなり厳しいようですよ。なにせ50個しかありませんから」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、フッと鼻で笑う。
「問題ない! 俺の進む道に障害があるのなら切り開くのみ!!」
 スキルバーストダッシュで、スピードアップすると、全速力で窓からジャンプした。
「皆さん、すごい意気込みです。ではこの辺でまゆりさんにカメラを戻します。購買部前の羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)さーん!」