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【新入生歓迎】不良in女子校!?

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【新入生歓迎】不良in女子校!?

リアクション


part5  更衣室前の戦い――本戦


 イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)が、パラ実生たちに対して声を張った。
「わたくしがパラ実生撃退部隊、隊長! イングリット・ネルソンですわ! 更衣室内には有志が着替え中! ここから先は一歩も通らせませんわよ!」
 武器を持たずに腰に手を当て、凛々しく仁王立ちしている。
 グラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)は、パートナーのセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)の肩に手を置く。
「行くぜセシル、装着だッ! お前には俺が付いてる、負ける道理がねえぜ!」
「ええ、よろしくお願いしますね」
 セシルがうなずいた。
 グラハムはメイド服に変化し、セシルの体を覆う。胸元は大きく開き、裾は短く、抜群なスタイルをしっかりと見せつけるデザイン。
 セシルはトコトコとイングリットに近づくと、丁寧にお辞儀する。
「え、えっと、ひゃっはあ、ですわ。イングリット様に一騎打ちを申し込みます」
「とてもパラ実生には見えませんし、そちらは二人ですから一騎打ちではありませんけど……、いいでしょう! ブリティッシュノーブルは、申し込まれた決闘は辞退しませんわ!」
 イングリットは腰を低く落とし、バリツの構えを取った。
 野良メイドvs英国貴族。下克上なマッチが始まろうとするが、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が割って入る。
「おっと待った。先に俺と勝負して欲しい、イングリットとやら。俺は空京大学のラルクってもんだ」
 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が長ドスを振り回しながら足を踏み出す。
「いいや、俺が先だ。新入りにしては骨がありそうじゃねえか。その実力、見せてもらいたい」
「あら、困りましたわね……。わたくしの体は一つしかありませんのに……」
 大人気のイングリットは腕組みし、口元に拳を添えた。
 同じくイギリスの血を引く近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)は、パラミタの百合園女学院生が武闘派だという噂を確かめるため、観戦していた。手の平をメガフォンにして声援を送る。
「イングリット、負けないでー! 大航海時代からずっと、世界はイギリスのものなんだよっ!」
「うっせえぞ! 小学生が大人の勝負に茶々を入れんじゃねえ!」
 竜造が怒鳴ると、ヴィクトリカの額に青筋が立った。
「小学生!? あたしは、十、七、歳だっ!!」
「知るかよぺちゃんこ。見た目が小学生なんだから呼び名も小学生でいいだろうが」
 実際、身長百四十二センチで胸も小さい彼女は、小学生にしか見えなかった。
「ーっ!! ぶ、ぶっ潰す!」
 ヴィクトリカは当初の目的も忘れ、二丁拳銃を手に立ち上がる。
「みんな頑張れ! ヤバくなったら助けてあげるから、全力でパラ実を追い返すんだよっ!」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が百合園側の生徒たちにオートガードをかけた。
 彼女の隣では、パートナーのローザ・ベーコン(ろーざ・べーこん)が手製のスイッチを持って待機している。彼女はホームセンターで買い求めた材料でANFO爆薬を作り、パラ実生が立っている場所にラインを引いて埋めていた。
 ミルディアに確認を取る。
「そろそろ仕掛けてもいいかな?」
「うん、いいよ! この距離なら支援スキルも届くし!」
「よし、これでどうだ!」
 スイッチを前に倒すと、連鎖的に爆弾が弾けた。土砂が吹き上げられ、爆音が轟く。鼻を刺す薬品臭と、鋭い熱波。パラ実生たちの隊列が分断される。
 百合園生たちはときの声を上げ、混乱するパラ実生たちの方へと突っ込んだ。


 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がラルクに勝負を挑む。
「俺は蒼空学園所属、エヴァルト・マルトリッツ! 更衣室に突入などという狼藉は許さん! かかってこい!」
「しゃーねえな。お前もなかなか手強そうだ。楽しませてくれよ!」
 ラルクはくわえていた煙草を地面にプッと吹き捨てた。神速でエヴァルトに接近し、ドラゴンアーツの拳を叩き込む。
 エヴァルトがカウンターで拳を繰り出した。奇しくも、ラルクと同じドラゴンアーツである。二人の拳が互いの頬を強打する、小気味良い衝撃音。
「ち、畜生、効いたぜ……」
 ラルクはよろけた。歯を食い縛り、懸命に意識を保とうとする。
「お前の拳もな……」
 エヴァルトは口の端から血を垂らしながら、不敵な笑みを浮かべる。
 そして、二人同時に昏倒した。


ヴィクトリカが竜造を指差して叫ぶ。
「あたしが勝ったら、『見た目が小学生』ってのを撤回してもらうからね! 覚悟しなさい!」
「あーあー、分かった分かった。『見た目が幼稚園児』に訂正してやるよ」
 竜造はポリポリと頭を掻いた。
「よっ、余計に酷くなってるじゃない! ふざけんな!」
「ヴィクトリカ、落ち着いて。ああいう手合いの挑発に乗ったら、流れを持って行かれますよ。戦いのときは、青い炎のように、静かに、激しく燃えなければ」
 アーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)がパートナーのヴィクトリカをたしなめた。
「分かってるわ! 行くわよ!」
「ええ!」
 ヴィクトリカが二丁拳銃を構え、アーサーは彼女にディフェンスシフトをかけた。拳銃が交互に火を吹く。
「うお! 危ねっ!」
 竜造は龍鱗化で皮膚を硬質化した。飛び道具相手に遠距離戦では分が悪いと判断し、射線をかわしながら距離を詰める。腰の回転を利用した蹴り。ヴィクトリカの拳銃が弾き飛ばされる。
「ヴィクトリカ、下がって!」
 アーサーはフルーレで薙ぎ払った。竜造の服が切り裂かれるが、硬質化した肉体にはダメージを与えられない。
「おらよ!」
 竜造がアーサーのみぞおちに拳をえぐり込んだ。
 アーサーは気絶してくずおれる。
「あ、ああ……」
 武器を失い、パートナーも失ったヴィクトリカは、恐怖に目をわななかせた。思わず後じさりする。
 竜造は追撃してこようとはしなかった。ヴィクトリカに背を向け、イングリットの方へと歩き出す。
「ちょ、ちょっと……。どうしてとどめを刺さないのよ……」
「弱い奴には興味ないんでね。てめえの相手はその辺の新入生でも十分だろ」
「くっ……」
「……強くなりな。そして、また向かってこい。憎しみが、人間を強くする」
「言われなくてもっ……!」
 ヴィクトリカは拳を握り締め、いつか必ず奴を越えると心に誓った。


「見たところ、あいつは格闘タイプだ。懐に入られないよう気ぃ付けな!」
 グラハムがセシルに助言した。
「承知しましたわ。……参ります!」
 セシルは長槍を突き出してイングリットに突進する。
 イングリットはひらりと横に跳んだ。
「速力はあるようですわね!」
「メイドは家事で足腰鍛えてますから!」
 セシルは素早く突きを繰り出す。
 イングリットが上半身をひねって回避し、脇に長槍を抱え込む。
 セシルは引き抜こうとするが、びくともしない。
「は、放してください!」
「お断り、ですわ!」
 イングリットが長槍を持ち上げ、セシルがくっついたまま振り回す。
「きゃああああ、目が回りますうううう」
「セシル! 放せ放せ放せえええ!」
 セシル付きの長槍がぶん投げられた。綺麗な放物線を描いて飛び、パラ実生たちをなぎ倒しながら投げ出される。
「き、貴族様は強いですわ……」
 セシルは地面に顎をつけて力尽きた。


「投げ技主体……やっぱり柔術が基本か。それに細かいアレンジを加えたって感じかな」
 朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は少し離れたところからイングリットの戦いぶりを観察していた。一応、騒ぎが大きくなりすぎた場合は介入するつもりでいるが、今はバリツの技に興味津々である。
 彼女のパートナー、イルマ・レスト(いるま・れすと)はデジカメでイングリットを撮影しながらこぼす。
「動きが速すぎて追いにくいですわ。もっとゆっくり、スローモーションで戦ってくださればいいのに」
「それじゃ負けるだろ。どこの古代の舞だよ」
「柔術ですから……、日本の舞ということになりますわね」
「普通に返すなよ! 質問じゃなくて突っ込みだよ今のは!」
「湖に行きたいなら、道なりにいけばいいでしょうに、どうしてわざわざ直進するんでしょうか。自殺志望のレミングスじゃあるまいし」
 千歳は遠い空を眺める。
「パラ実は馬鹿だからな」
「馬鹿ですか。ならば仕方ありませんわね」
イルマは心から納得した。
「ああ、仕方ない」
 結局、パラ実の行動を説明するには、小学生でも知っているその単純な二字熟語だけで、常に十分なのだ。
 今しも、パラ実生徒のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)がイングリットを捜し出して対決を申し込んでいるところだった。
「キサマがキマクでブイブイ言わせてるイングリットって野郎かァ! キサマのバケツ流武術とやら見せてもらおうか!」
「バケツ……? なんのことですの?」
 前の相手の始末を終えたイングリットは、怪訝そうに眉根を寄せた。
「とぼけても無意味だぜェ! キサマがバケツを武器にあらゆる水芸をこなすって話は、とっくにとある筋から調べがついてるんだからなァ」
「わたくしの武術はバリツですわよ。武器は使いませんわ」
「え? え? バケツじゃなくてバリツ?」
 ナガンは目を丸くした。
「ええ。とある筋とやらから聞いたときに、気付くべきだと思いますけれど。どこの世界に、掃除用具を武器としてこよなく愛する流派がいるんですの?」
 イングリットは呆れてため息をついた。
 ナガンはぶるぶると震える。
「く、くくくくそう、せっかくバケツに対抗して水筒武術用意したのにぃ! ええいままよぉ!」
 三本の水筒の中身を勢いよくイングリットの体にぶちまける。強酸や熱湯が入っているのではない。ただの水。しかしそれが乙女の制服に触れたとき、素敵な奇跡が……というか、要するに布地が濡れて透け透けになってしまうわけで。
 イングリットは怒りに顔を紅潮させる。
「よ、よくもやりましたわね!? 神聖な勝負を、こんな茶番で汚すなんて!」
「やーいやーい! バケツ痴女! 」
 ナガンは両手を開け閉じしてからかった。
「わたくしの武術は、バリツ、ですわ!」
 イングリットがの襟を掴み、刹那の抵抗も許さぬ速さでぶん投げる。
「ごっご褒ォヴィ!」
 なぜか嬉しそうな顔で空中を飛んでいくナガン。建物の外壁に叩きつけられ、ずるずると地面にくずおれる。
「まったく、パラ実の人たちの頭の中はどうなっているのでしょう。想像もしたくありませんわ……」
 イングリットは肩を荒く上下させた。
 彼女を観察していた千歳が感服する。
「ほう、見事なものだな。一発でKOとは」
「とりあえず記念に一枚撮っておきましょう」
 イルマはイングリットの艶やかな濡れ姿をカメラに収めた。


 更衣室前の最終防衛ライン。
 そこでテレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)は、パートナーのマリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)に戦い方の指示を出していた。
「いいですか、パラ実生は直線ルートを外れたら負けなんですの」
「負け? なんで?」
 マリカが不思議そうに首を傾げた。
「どうやら、彼らの直進行軍は、迂回や後退が禁止されているらしいのです。ルートをそれた生徒は失格。ですから、強引にでも彼らをルートから投げ飛ばして、追い払ってしまえばわたくしたちの勝ちですの」
「なるほど! あたしの柔道技の出番ってわけね!」
「そうです。わたくしはこの後のパーティーのために着替えますから、護って下さいね」
 テレサは更衣室のドアノブに手をかけた。
 マリカが驚いて引き止める。
「ええーっ? テレサは手伝ってくれないのー!?」
「手伝いませんわ。一年生のイングリットさんが頑張っているのですから、マリカさんも先輩として格好いいところを見せてくださいな」
 テレサはわざとそっけなく突き放して更衣室に入った。時間をかけて着替えをする。すべては、マリカを背水の陣に立たせ、人間的成長を促すため。教育係としての親心だった。
「よーし、まあ、そこまで言うなら頑張るよ! 幾らでもかかってこいっ!」
 マリカは更衣室のドアを背にし、パラ実生たちに叫んだ。
「三二一! 後少しで更衣室だぜ! その先には……フフ、フフフ!」
「鼻の下伸びてんぞ三鬼! 更衣室は飽くまで通過地点、五分以上留まったら、あたしが百合園生に代わってあんたを成敗するからな!」
「ああ、五分あれば足りるぜ!」
「なにする気だ!?」
 三鬼と三二一が言い争いながら駆けてくる。
 マリカは二人の方へと突き進む。技をかけるため、三鬼の服を掴もうとする。
 三鬼は素早く跳躍して距離を置いた。彼もまた格闘家。マリカが投げ技を狙っていることをすぐに見抜いたのだ。
「二対一か……。ちょっときついかも……」
 マリカはつぶやいた。
 更衣室の窓の隙間からは銃口が突き出していた。浅倉 椎矩(あさくら・しいく)の銃である。目下、椎矩にはパートナーのアニエル・トレボール(あにえる・とれぼーる)が憑依しており、体を操っているのもアニエルなのだが。
「手を貸してもいいかしら? あなたの契約者、このままじゃまずいわよ」
 椎矩(アニエル)は、同じ室内で着替えをしているテレサに確認を取った。
 テレサはブラウスを脱ぎかけのまま、窓の隙間から外を覗く。
「相手が悪いですわね。お願いできます?」
「任せて。ここを破られたら更衣室になだれ込まれちゃうし、なんとか押しとどめないとね」
 椎矩は慎重に銃口の狙いを付けた。敵がモンスターだったら頭を撃ち抜くところだが、不法侵入犯とはいえ人間に実弾は使えないので、強力な麻酔弾を装填している。
 外では三鬼がマリカに迫り、リーゼントを叩き込もうとしていた。
 椎矩の銃が火を吹く。微細な注射針が三鬼の脛に刺さる。
「ぬあ……?」
 三鬼は間の抜けた声を出してよろめき、うつ伏せに倒れた。すぐにいびきが聞こえ始める。
「三鬼ぃ!? なに寝てんのさ、こんなときに!」
 三二一は相棒に駆け寄った。
 さらに椎矩が弾丸を発射。三二一の胸に突き刺さる。
 三二一は三鬼の体の上に重なって倒れ、仲良く昼寝を始める。
「え? なに? なにが起きたの?」
 マリカは状況が掴めずに辺りを見回した。