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【新入生歓迎】不良in女子校!?

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【新入生歓迎】不良in女子校!?

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part5  更衣室前の戦い――終盤戦


 激戦が繰り広げられている地上とは対照的に、更衣室の屋上はのどかなものだった。
 それは、百合園上級生が主催する――といっては物々しいが、彼女たちが中心となった――新入生の戦闘見学会。
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の持ってきたパラソルを広げて紫外線を防ぎ、ティーセットも用意されている。お茶会と表現する方が的確かもしれない。
「頑張れー。そこですよー」
 ロザリンドは双眼鏡で地上の人間たちを眺めながら応援の声を送った。
 崩城 理紗(くずしろ・りさ)はパート―ナーの崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)に寄り添って観戦中。
「手伝わなくていいのかなー。私も一応新入生なんだけど……」
「いいんですの、あなたはこの私のパートナーなんだから。ふんぞり返っておきなさいな」
「でもバリツさんとも色々お話してみたかったなあ」
「バリツさん?」
 耳慣れぬ名前に亜璃珠は眉をひそめた。
「イングリットさんのことだよー。バリツの使えるバリツさん!」
「ふうん、なかなか面白いあだ名ですこと」
 ……百合園で流行らせてみようかしら。
 亜璃珠は生意気なイングリットが激怒する様子を想像してくつくつ笑った。
「あー、おねーさま、なんだか悪いこと考えてるー」
「あら、分かりますの?」
「分かるよ。おねーさまのことならなんでも!」
 理紗は胸の前で拳を固めて力強く宣言する。
「可愛いこと言いますわね……」
 亜璃珠は理紗の頭を軽く撫でた。
「じゃ、今はなにを考えてるか分かって? 当ててみなさい」
「んーっとね、口寂しい? かな?」
 理紗は当て推量で言ってみた。
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が袋から菓子やジュースやビールを取り出し、皆の真ん中に置いていく。
「はいはい、腹ぺこさんたち、観戦のお供だよっ」
「ポテチはねーのか?」
 彼女のパートナー、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が不満げな顔をした。
「まーそう急かさないでってば。ちゃんと買ってきてるよ」
 サビクは袋からポテチを取り出してシリウスに渡す。
「二人ともくつろぎすぎですわ! 百合園の新入生さんが大変なんですのよ!?」
 シリウスのパートナー、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が抗議の声を上げる。
 シリウスは旨そうにポテチをかじった。
「そうだけどよー、敷地を断固通さないっつー百合園側も大概だろ? 馬鹿と頑固者の喧嘩だよ。オレら部外者が手を出した方が収拾つかなくなるって思わねーか?」
 サビクが威勢良く腰を下ろした。
「よし、じゃーさ、どっちが勝つか賭けない? 当たった方は、外れた方にクレープおごるってことで!」
 亜璃珠が軽く笑った。
「いいですわね。私はパラ実に賭けさせていただきましょう。バリツさんの負けるところが楽しみですし」
「私はおねーさまとおんなじにしまーす!」
 理紗は元気よく言った。
 ロザリンドは口元に拳を添えて数秒考える。
「……私は百合園にします。やっぱり後輩には活躍してもらいたいです」
「オレも百合園かなあ」
 とシリウス。
「ボクはパラ実で!」
 とサビク。
「だから皆さん不謹慎ですわ! 下では真剣勝負をなさってるんですのよ!?」
 リーブラが語気を荒げた。
 シリウスが小首を傾げる。
「リーブラは無投票なのか? それはつまり引き分けに入れたってことになるぜ? 大変だなー、引き分け以外だったら全員にクレープ奢らなきゃいけねえぞ」
「なんでですの!?」
 リーブラは一人で空回り気味だった。
 桐生 円(きりゅう・まどか)は彼女たちから少し離れた場所に伏せて射撃ポジションを確保していた。傍らには、百合園の後輩の観測手。基本的に両校の争いには関わらないが、殺意を持っている生徒は敵味方関係なく狙撃して気絶させるつもりである。
「みんな脳天気だねえ。もしかしてメインの目的はお茶会で、戦闘見物は口実だったりしない?」
「そんなことありません。ほら、お弁当を作ってきたんですよ。召し上がってください」
 ロザリンドがバスケットからランチを出して円に差し出した。
 円の頬がぴきっと凍りつく。
 ロザリンドの料理はやばいのだ。なんというか一口味わうだけで異世界に旅行できる、とんだオーパーツなのだ。
「い、いや、いいよ。気持ちだけ受け取るよ」
「そう遠慮せずに。ちゃんと人数分以上作ってきましたから、円さんの分は三人前ありますよ」
「殺す気!?」
 円は逃げた。恥も外聞もなく逃げた。今はパラ実の軍勢より、ただひたすらロザリンドの料理が怖かった。


 パラ実一年の担任、凶作は疲れ果てていた。
 そもそもが動き回れる傷ではないのを意志の力で前進したうえ、湖を泳いだことで体力が限界まで消費されてしまっているのだ。
「そんなに百合園に入りたければ、この場で宦官科の教師にしてあげる!」
 ハイレグレオタード姿の桜月 舞香(さくらづき・まいか)が更衣室の入り口から飛び出した。
「教師とはいえ、百合園の敷地内は男子禁制ですよ!」
 パートナーの桜月 綾乃(さくらづき・あやの)もレオタードを身に着け、反対方向から現れた。二人で凶作を挟み打ちにする。
 彼女たちがわざわざレオタードに着替えたのは、凶作の目を引きつけて隙を作るためだった。
 しかし。
 疲労困憊しきった凶作は、健全なお色気に心を奪われるどころではなく、目は虚ろだったし、体はふらついていた。ちまたの情報では活力溢れる獰猛なマッチョだと言われているのに、今ではただのマッチョだ。
「舞ちゃん、なんか予想とかイメージとかとだいぶ違うんだけど」
「あたしも。これ、ホントにパラ実の縄張凶作なのかしら」
 綾乃と舞香は困惑して顔を見合わせた。
「ワシが……一年の担任、縄張凶作……じゃあ……」
 凶作はかすれた声を出した。
「まあいいわ。本人が縄張凶作だと名乗っている以上、縄張凶作が受けるべき報いを受けるのは間違ってないはずなのよ」
「そうだよね。たとえ間違ってても、それはこの人が生き方を間違えただけで私たちに責任はないよね」
 綾乃と舞香はうなずき合った。
「というわけで」「とゆーわけで」
 凶作の方へと一歩踏み出す。
「天誅よっ!」
 舞香はバトン形状の光条兵器で凶作の頭を殴った。
 トドメを刺され、今度こそ失神する凶作。
 舞香たちは凶作の足を掴み、騒動を引き起こしたお仕置きをするため、人目につかない物陰へと引きずって行った。


 パラ実の新入生、狗 破天(く・はてん)は百合園に侵攻するうえで、致命的な問題を持っていた。極度の女性恐怖症なのだ。だから、女子生徒を見なくて済むよう、目隠しをしていた。
「破天〜。右だよ、右右〜。そして今度は左〜。ためらいがちな子鹿の足取りで左斜め下右右BAで、三十一ミクロン左〜」
 パートナーの胡蝶・童子(こちょう・どうじ)が後ろについて、破天に動き方を指示する。正直、そんな状態でまともに戦えるはずもないのだが、これはこれで西瓜割り気分で楽しいので、特に異論は唱えない。
「真っ直ぐ進んで。ぶつかったら、ドアノブみたいなのを握って、ドアみたいなのを引っ張って開いて、中に入るみたいな動きをするんだよ〜」
「こ、こうアルか?」
 破天は素直に言う通りにした。更衣室のドアノブを引っ張って、中に入る。
「あらあらぁ……聖なる女子更衣室に男子が忍び込むなんてねえ……」
 室内には雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が待ち構えていた。
「え!? 更衣室!?」
 破天は突然の女性の声に驚く。しかもあろうことか、背後でドアが閉じる音がした。
「どうして目隠ししちゃってるのか分からないけど、そういうプレイなのかしらぁ? 目隠しして女子更衣室に入るという類の。信じられないほどマニアックねぇ」
 リナリエッタは電光石火の速度で接近し、破天を床に転がして寝技をかける。
「可愛い恐竜さんが『二匹』もいらっしゃるわねぇ……。女の園を侵したらどうなるか、その体にじっくりと教えてあげるわぁ……」
「ひええぇ……」
 上から両腕を押さえつけられ、破天は情けない声を漏らした。