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リアクション
7
前日のこと――
茉莉はミレリアに話しかけると、
「ミレリア、ドラムできる?」
と尋ねた。
「うん。一応できるよん。音楽打ち込むときはDTMソフトにキーボードとかギターとかドラムとかつないでやってるから、ひと通りの楽器はこなせるわよん」
「おどろいた。よほど音楽が好きなのね」
茉莉の言葉に、ミレリアは自信を込めて答えた。
「歌えることはあたしの命。音楽はあたしの魂。別に寺院に強要されてアイドルをやっていたわけじゃないわ。音楽が好きで、それがたまたま寺院の目に止まっただけだものん」
「じゃ、これから楽譜渡したらドラム弾ける?」
「うん。二回くらい楽譜を見たら、諳んじて弾けるわよ」
「さすがトップアイドルねえ……」
「で、あたしはドラムをやればいいのかしらん?」
「ええ。ドラムと、ヴォーカルを。この、電子アイドルのKAORIと……」
茉莉はそう言ってパートナーのレオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)に目配せすると、レオナルドは携帯端末を操作してKAORIを起動させた。
「おはようございます」
超能力を引き出すために開発されたヴァーチャルアイドルKAORIが言葉を発する。
「おはようKAORI。彼女は、トップアイドルのミレリア・ファウェイ。ミレリア、彼女がKAORIよ」
「はじめましてミレリアさん。ご高名は伺っております。こうして一緒に歌うことができて幸せです」
「……KAORI、あなた幸せという感情を手に入れたの?」
「人間のそれとは、正確には違います。ですが、私は人間をシミュレートしロールプレイすることによって、胸が高鳴り、ドキドキし、言語で表現することの難しい感情を人間が感じるであろう幸せという感情であると推察しているのです。
私はプログラムです。人間と同一であるということにはいきません。ですが、人間のロールプレイをすることによって人間に近づくことは可能です」
「ふ〜ん。すごいわね、天御柱学院の技術って。このプログラム一つで歌が歌えるの?」
「そうよ。楽器も弾けるわ。KAORIはヴォーカルとギターを担当するわ。まあ、打ち込みだけど。で、あたしはベースとコーラス。彼は、発明家の英霊レオナルド・ダヴィンチ。そしてこっちが悪魔のダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)」
「よろしく、ミレリア殿」
「よろしく頼むぞ、愚民」
「…………」
ダミアンの言葉を聞いてミレリアは黙って殺気を放った。
「なんのつもりだ? 愚民」
だが悪魔のダミアンはそんなことではこたえない。
「あたしにそんな口聞いていいと思ってんの?」
「当然だ。我はナベリウス。ソロモン72柱が一柱。19の軍団を指揮する序列24番目の侯爵なるぞ」
「ケルベロスじゃない。そんな悪魔あたしの歌で一眠りよ?」
「ふん……ミレリアとやら、我と仲良くしておくといいことがあるぞ」
「なによ?」
「ナベリウスの力を知っておるのだろう? ナベリウスは失われた威厳や名誉を回復する力を持っている。我に従えばお主の名誉を取り戻してやろう」
「笑わせないで、あんたがナベリウスであるという保証はないじゃない。それに、名誉なんて不要よ。故郷が救われた今、名声なんてどうでもいいのよ。あたしが歌っていたのは、歌いたかったから。寺院に協力したのは、寺院があたしの歌で故郷を救ってくれたから。でも、アルコリアおねえさまのおかげであたしの故郷は寺院から独立することができた」
アルコリアはミレリアに故郷のために活用しろと100万Gを渡した。正しくは小切手だが。
ミレリアはそれを使用し、まず故郷にパラミタの傭兵と契約し軍隊を持たせた。それから学校と医療施設(もっとも、寺院のおかげで公共施設はある程度揃っていたのだが。ただ、運営者は皆寺院の人間だったためこれらの運営者も新しく雇った)を整備した。
そしてそれらの公共事業によって故郷に仕事と食事を与えた。ミレリアは故郷を救ったのである。
そして、独立したミレリアの故郷は自治政府を持って周辺の国家やヨーロッパに接触した。EUとの同盟によってその庇護を得たミレリアの故郷は、急速に発展していた。
「あたしは別に恩赦が目的で今回刑務所から出てきたわけじゃないのよ。ただ、戦いと、歌がそこにあったから。あんたが悪魔なら、あたしは戦と歌の女神、ミレリア様よ!」
「ふん……言うではないか。では、特別に僕(しもべ)と呼んでやる」
「ちなみに、僕というのはダミアンにとって一番親密度が高いものに対する二人称よ」
茉莉がフォローを入れる。
「そう……まあいいわ。で、楽譜と歌詞は?」
「これだ……」
ダミアンがファイルを取り出してそれをミレリアに渡す。
「あら、結構いい歌じゃない。これを歌えばいいのね」
「ああ。私がKAORIの調整をしている間にミレリア殿と茉莉殿はこの曲の練習をしてほしい」
「いいわよ。でも、S@MPとも共演することになってるから、そっちの練習もしなくちゃならないし、4時間だけよ」
「OKだ。ミレリア殿がマスター出来ればあとは茉莉殿を私が指導しておく」
「了解。それじゃ、早速練習に入りましょ。リハーサル室があったわよね、御神楽音楽堂って。ま、コンサート会場なんだから当然だろうけど」
「ってこでいくわよ」
「了解だ」
茉莉の言葉にダミアンも従う。
そして4人とKAORIはリハーサル室に移動したのだった。
それを見ていたデビットは……
「ふん……どうなんだか?」
半信半疑の口調でそう呟いた。
――そして現在
ステージに茉莉と、3DCGのKAORIが現れるがミレリアがいない。
観衆はざわつく。
と、茉莉が空を指す。
「見なさい!」
客たちはそれにしたがって空を注目する。
と、唯斗のS-01が上空から急速に急角度で降下してくる。
客は悲鳴をあげる。
コクピット内部で唯人に装着された魔鎧のプラチナムが冗談めかしたセリフを吐く。
「お客様、この度は当機迅雷にお乗り頂きありがとうございます。
これより当機はコンサート会場に突っ込みます。
まぁ、イコンパイロットのお客様には問題無いでしょうが。
半墜落状態のスリルをお楽しみ下さい」
口調は淡々としているが結構楽しんでいるのが感じられた。
「冗談っぽい、よ♪」
と言いながらもミレリアもサブパイロット席に座りながら操縦の補佐をしつつその状況を楽しんでいた。
「あたしほどじゃないけど、結構な腕のパイロットね、あなた」
「そりゃどうも」
ミレリアと唯斗は軽口をかわしながら垂直落下する。
唯斗はバーニアを急噴射し速度を殺しながら人形に変形して着陸する。
コクピットが開いてそこにスポットライトとカメラが当たる。
ミレリアが堂々と登場する。
「おまたせー。スーパーアイドルミレリア登場よん♪」
歓声と拍手。
そしてミレリアは空飛ぶ魔法↑↑でステージまで移動する。
「みんなー、げんきー?」
ミレリアはドラムセットにつけられているマイクを外して客席に向ける。
歓声。
「おっけー。今日は、いつもは見せないドラムを叩くミレリアちゃんを見せちゃうわよん」
歓声。
「それじゃあいくわよ、『恋のヒロイン!』」
ミレリアがドラムを叩いてからKAORIのギターがリードし茉莉のベースがベースラインを奏でる。
前奏からAメロに入るとまずKAORIが口を開いた。
そして茉莉がハーモニーを加える。
あなたのこと いつでも 思っているの
なんて! まるで『オトヒメ』みたいでしょ?
だけど あたし 1秒も 我慢できない
そしてミレリアが歌う。
ドラマみたいな 恋したい
この恋の ヒロインは きっと あたしなの
こんどはKAORIが。
あなたのこと 誰より 思っているの
なんて! まるで『ジュリエット』みたいでしょ?
だけど あたし はなればなれは 我慢できない
そして再びミレリア。
映画みたいな 恋したい
この恋の ヒロインは きっと あたしなの
間奏。
まずはKAORIのギターソロ。
それからミレリアのドラムソロ。
最後に茉莉のベースソロと続く。
そして再びKAORIが歌う。
ドラマみたいな 恋したい
この恋の ヒロインは きっと あたしなの
さらにミレリア。
映画みたいな 恋したい
この恋の ヒロインは きっと あたしなの
そして最後の部分をKAORIとミレリアと茉莉でハモる。
うまくやってみせるわ
台本はいらなの
KAORIのギターが最後に余韻を残して演奏が終わる。
拍手と歓声。
割れんばかりの。
と、タイムキーパー兼音声係の顕仁がリリアにインカムで耳打ちする。
「ミレリア登場のパフォーマンスで時間が押している。少し巻いてはくれないだろうか?」
「わかりました」
そしてリリアはアナウンスをする。
「ありがとうございました。つぎは、846プロの皆様です!」
とにかく説明を省いて先にすすめるしかない。
そして846プロ所属のプレイヤーたちが舞台に昇った。
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