天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

リアクション公開中!

四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

リアクション

 第4章 海の家にて

「はい、醤油ラーメンだよ! 350Gね」
 熱々のラーメンを客に渡すと、プリムは首にかけたタオルで流れる汗を拭って売り場全体を見渡した。あれからまた3人ほどバイトが入ったが、それでも休むヒマなく忙しい。
「うー、海の家のバイトって思ったより大変なんだなあ。これなら、普通に遊びに来た方がよかったかも……」
 中には、早くもバテているバイトもいる。
「闇口さんは、なんかサボってるし……」

「Pがねぇじゃねーんだよアホ背後、要するに使い道が偏ってんじゃねえか! だァから山羊には手紙でも食わせとけってんだよ!」
 LC1率が高い2メートル超えの山羊獣人を揶揄しつつ、占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)は闇口と一緒に2軍の愚痴を言い合っていた。闇口は氷のたっぷり入った烏龍茶を飲みながらうんうんと相槌を打っている。
 客の前で。
「あ、あの、すみませんー。私ばっかり……あの……」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)がおずおずと話しかけてくる。結和は参加確実なMCである。
「いや結和ちゃんはいーんだよ俺の結和ちゃんだもん」
 彼女に一目ぼれな占卜が愚痴りたい相手は、あくまでも背後であるらしい。
「非常に同意だよ、占卜君。私も背後が『海やりたいなー。でも、新しいNPC増やすの嫌だし……。海の家の管理人どーすっかなー。……あ、あいつがいた』と思わなければ永遠に忘れられた存在だっただろうからな」
 実際忘れてたけどね。
「ウィキとかで記念日調べたら7月7日に七夕ならぬポニーテールの日とかわけのわからないものがあって、もしそっちで電波が降りてたらと思うと恐ろしいよ」
「そうか、そんな経緯が……、俺も今、MSが参考にプロフページ見に行ったら待機になってたんだ。また留守番とかどういうことだよ! 俺はこの2軍シナリオが出なかったら次、いつ出られたんだ!?」
「あ、あの、お客様が見て……」
「つーかこないだのグラシナ出たの俺のコーヒー占いのお陰だろ! もっと感謝しろよ!」
 結和は客を気にしつつ、占卜達の傍であわあわとしていた。何がなんだか、大騒ぎする占卜はかなり恥ずかしい。が、勢いがすごくて止められない。占卜は次に、お好み焼きを焼いていたアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)に水を向ける。
「みっちゃんだって何だかんだで埋もれてる設定いっぱいあんだろ!?」
「は? 設定? なんの?」
 アンネ・アンネは突然設定とか言われてきょとんとする。機晶姫に組み込まれてる設定ってことかな? まあ僕は、2軍な現状に不満はないし。
 そう思いつつ、ばっちりと美味しそうなお好み焼きを作ってパックに入れる。
「ありがとうございましたー」
 本人は覚えていないが、アンネ・アンネは家政婦ロボという設定である。料理や家事はお手の物だ。埋もれている設定が表に出た瞬間だ。
「あの……三号さんまで、なんだか巻き込んじゃったみたいでごめんなさいー」
 彼の隣で同じくお好み焼きの材料を焼きながら、結和は申し訳無さそうに言う。
「んー、いいよいいよ。なんだか僕、料理したり掃除したりするのが1番楽しいしね。いろんな人に喜んでもらえるってのが嬉しいし」
 そう言って、未だくだを巻いている占卜をちらりと見る。
「占卜のお守りは僕がしとくから、結和は遊んできてもいいよ? お友達とか、探したらいるんじゃない?」
「……いいえっ、お2人が頑張ってるのに私だけ遊ぶなんてできないです。わ、私も頑張りますね」
 2人中1人はあまり頑張っているようにも見えないが、結和は出来上がった手元の料理をパックに入れた。だが、見た目が――
「「…………」」
 壊滅的なその出来に、結和とアンネ・アンネは思わず黙り込んだ。
「……ご、ごめんなさい、やっぱり、だめですよねー……あっえっと他に何かできることってないです?」
「そ、そうだね、えっと……」
 アンネ・アンネは考える。結和は料理好きだ。味は悪くない。味は――
「タ、タネを作ってよ! 僕が焼くから」
「は、はい!」
 そうして、結和がボウルに卵を割り入れ始めた頃、占卜も接客対応に戻り始めていた。
「コーラのMください! 2つ!」
「コーラですか。それもいいですが、お客様、トルココーヒーはいかがですか?」
「トルココーヒー? そんな熱いものいらないわ。コーラちょうだい!」
 海でトルココーヒーの需要はそう無いだろう……。プールならいけたけもしれない。
「お好み焼き1つ! 広島風で!」
「広島風? あ、じゃあ……」

              ◇◇◇◇◇◇
 
「ヤキソバいかーっすかー」
 お好み焼き屋台の横では、リア・レオニス(りあ・れおにす)があっつい鉄板の前で焼きそばを焼いていた。ジュージューという良い音に、ソースの良い匂い。しかし、その近くはとにかく、暑い。
「手馴れてますね」
 その隣では、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が焼きモロコシを作っている。
「庶民だからな」
 リアはコテを使いこなし、焼きそばを適度に香ばしく仕上げていく。今日は『肉体労働は苦手』と渋るレムテネルを連れてバイトに来ていた。募集を知って即決だった。仕送りだけでは苦しいので、切実にバイトをするしかない。
「すみません、焼きそば分けてくださいー。広島風の注文が入ったのでー」
 そこで、大きめのお皿を持った結和がやってくる。
「んじゃ、これ持っていけよ。今ちょうど焼けたとこだ」
「ありがとうございますー、あ、あつっ、あつっ……」
 コテで焼きそばを皿に盛ると、結和は慌てて戻っていった。
「隣も並んでるな」
 がんがん売って、1日汗水流す。レムテネルは適当に休息させよう。というのも、レムテネルは既にバテバテでぐったりしていたからだ。リアはコテを置いて、業務用機械で素早くカキ氷を作って彼に差し出す。
「ほら、後少しで休憩だから頑張れ」
「屋台は日陰だしいけるって……、全然いけないじゃないですか……」
 カキ氷を受け取って、しゃくしゃくと食べる。冷たさに幸せを感じて一気に食べたら、頭がキーン、となった。
(アイシャは今頃何してんのかな)
 リアはレムテネルの担当していた焼きモロコシに醤油を塗りつつ、海辺で遊ぶ海水浴客達を見るともなしに眺めていた。思うのは、シャンバラ女王であるアイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)の事。女王になる前の時点で一目惚れし、交流をしている少女。
「すみません、カキ氷を2つください。イチゴとブルーハワイを」
「あ、はい、いらっしゃいませ」
 夢想していて反応の遅れたリアの代わりに、レムテネスが接客する。
「おいしそうですね」
 注文の品を渡すと、客である男女はにっこりと笑った。

              ◇◇◇◇◇◇

「冷たくて美味しいですね〜、涼介さん」
「ええ。こういうところで食べると更においしいですよね、ミリアさん」
 海の家の中にある木製テーブルセットで向かい合い、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)とカキ氷を食べていた。先程レムテネルからカキ氷を購入したのはこのカップルである。
 太陽の日差しから少し避難して屋内で冷たいものを。
 2人の席の近くでは扇風機がのんびりと首を振っていて、開け放たれた海側からは夏特有のもわりとした熱い空気も入ってくる。
「お休みが一緒になって良かったですね〜」
「それが海開きの日に重なったというのが、また。たまにはこういうのもいいですよね」
「はい、たまには」
 涼介の言葉に、ミリアは柔らかに笑った。
「でも、たまにじゃなくても、いいんですよ〜?」
「え……」
 ほんわかとしたその笑顔に、涼介は動かしていた手を止めた。海の家で提供されるカキ氷は当然お持ち帰り用で、スプーンはストローの先に小さく付いているだけだ。そこから、白とブルーの氷がぽとりと落ちる。
「そちらの氷も美味しそうですね〜、ブルーハワイ、ですか〜」
「あ、はい、ミリアさんも食べてみますか?」
 不意の台詞に驚いていた涼介は我に返り、自分の前にあったカキ氷カップをミリアの方へ押しかけ――
 そこで、彼の手が再び止まる。
「どうしました〜?」
「え、あの、えっと……」
 涼介は少し赤くなって、少し迷う素振りを見せてからストローで氷をすくう。
「食べて、みますか……?」
「……?」
 ストローの先をきょとんと見て、ミリアはそれから微笑んだ。
「はい、ぜひ」
 涼介の持つストローから、彼女は氷を味見した。青く色づいた、甘い香りのする氷。
「美味しいですわ。それじゃあ、涼介さんもどうですか〜?」
 ミリアはピンク色のイチゴ味の氷をすくいとり、涼介の口へと近づけた。断るわけもなくそれを食べ、彼は照れたように笑った。
「美味しいです。ありがとうございます」
 笑いあい、氷を食べ終えて外に出る。浜を何歩か歩いた時、2人はなんとなく海の家を振り返った。そこからは、ソースの匂い以外に、カレーやラーメンの匂いも漂ってきている。
「なんだか、お料理したくなってきますね〜」
「ミリアさんもですか。実は私もなんです。職業病というやつでしょうか」
 お互いに料理人というだけあって、何かがうずいてしまうようだ。
 2人はそのまま、海の家をしばらく眺める。
「2人であそこに混ざって、お料理するのも楽しそうですね〜」
「まあ、それはそれで面白そうですが……」
 苦笑して、涼介はミリアの手を取る。
「今日はお休みだからね」
「ふふ、そうですね〜」
 そうして、2人は笑い合った。
 手を繋いで、波打ち際をのんびりと歩く。浜には魔物な監視員とか、海では魔物な捕食者とかが見え隠れしていたので、それは見なかったことにして離れたところを。
 巨大イカとかが出てきたらその時は魔法で迎撃するけれどそんなことも無さそうだ。まあ、2人で焼きイカを囲むのも――
 いや、それは違う。ちょっと違う。
 ――せっかくの休日、楽しい一時を過ごしましょう。

              ◇◇◇◇◇◇

「いらっしゃいませなのですー」
 ミリアと2人だったからだろうか。涼介は屋台のメニュー一覧にとある薬があることに気が付かなかった。ワンピース水着にエプロンをした小学生くらいの少女が担当しているメニュー――
『フランクフルト』
『各種ひえひえジュース』
『ビール』
『アイスクリーム』
『ホレグスリ』……
 気が付いていれば、「そんなもの売っちゃいけないよ」と涼介は少女を諭していたかもしれない。流石に撲殺は出来ないので。
「ビールですねー。毎度なのですよー♪」
 笑顔で接客をしながら、ちぎのたくらみで幼児化した緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)――ハルカちゃん――はこっそりと思う。
(気が付いた人は買っていかれますが……今のところ、あまり騒ぎにはなっていないようですね)
 海では半裸でLOVELOVEな男女も多いし、使われても目立っていないのかもしれない。