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リアクション
ラヴァーズ
東雲 いちる(しののめ・いちる)は、友人のヤジロ アイリ(やじろ・あいり)と、制服が可愛いと聞き、たまカフェでアルバイトをすることに決めた。
「うわあ、目移りしちゃう」
いちるがうきうきと制服を選び始める。
「うーん、どれもステキだな」
アイリは普段から言動も服装も男の子のようだが、今回はいちるの勧めもあって、おそろいの制服を着ることに決めていた。いちるが選んだのはメロンソーダのワンピース。明るいグリーンにすそにフリル。女の子らしい可愛いデザインだ。
「……やっぱりいちるにはよく似合うよな、かわいいぜ!」
「アイリちゃんは恥ずかしそうだけどすごく似会ってますよ。
可愛いですよーきっとセスさんも大喜びです」
「……そ、そうかな」
すでに同じメロンソーダの制服で、従業員控え室にいたエヴェレット 『多世界解釈』(えう゛ぇれっと・たせかいかいしゃく)こと、シュバルツが声をかける。
「二人ともカフェの制服とっても似会ってるわ。いちる、可愛いわよ」
「わああ、ありがとう」
おそろいのメロンソーダだが、こちらはエプロンのついたタイプの制服を選んだメアリー・グレイ(めありー・ぐれい)はバイト、と言う点が少々不満そうだ。
「私、こういうの苦手なんだけど……まったく余計なお世話よね。
『たまにはお出かけましょう』って、バイトじゃない。
まぁ……制服は悪くないから。
言っておくけど悪くないってだけで可愛いとか思ってないからね」
「まったく、素直じゃないね」
普段は男装をしているネイジャス・ジャスティー(ねいじゃす・じゃすてぃー)がメアリーに言った。ネイジャスはアイリかわいい制服のバイトをすると言うので、自分もかわいい服を着てみたくなりやってきたのだった。今はアイリとそろいの制服で、女らしく見える。セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)は恋人のアイリと一緒にいたい、とこちらは男性用のスッキリした大人っぽいデザインのメロンソーダの制服を着用している。アイリがおずおすとセスの方へ出てきた。
「ど、どうかな」
「ちゃんと似合っていますよ、今日のアイリは特別かわいいです!」
「あ、ありがとう……俺ももっとこういうのが似合うように頑張る!」
(うーん。緊張している姿もかわいいですねえ)
セスは思った。シュバルツの方を見ると、彼女はそっセスにとデジカメを見せて頷いた。普段アイリは照れ屋で、なかなか写真撮影のOKが出ないのだ。だが、カフェでなら、お客さんとの記念撮影もあるので、撮れるかもしれないという二人の魂胆である。
(今日はいっぱいいちるの写真を撮らなくちゃね。
もちろんアイリちゃんの写真も撮るわ、セスさんとの約束ですもの。後でコピーして送るわ。
それにアイリちゃんと一緒にいるいちるの笑顔がとっても自然で可愛いのよね~)
不慣れな格好で落ち着かないアイリに、ネイジャスが叱咤激励する。
「そんなもじもじしていたらダメです、情けない。
私のように堂々としていれば良いだけなのですから しっかりしなさい
たま☆るさんに迷惑を掛けてはいけませんからね」
「う、うん」
「だいじょぶだいじょぶ、さあ、行こう!」
店内はだいぶお客さんも増えてきていた。華やかな笑顔で、場の雰囲気を明るくするいちると、少々緊張感が漂うものの、アイリは普段とは打って変わって丁寧な口調で接客し、先を読んで素早く動くなど、客を待たせないように気配りを発揮し、二人は、席の案内を主に担当していた。
「いらっしゃいませ~! お席はこちらです!」
「どうぞ、こちらへ」
シュバルツはいちるとアイリのにこやかな写真を撮りつつ、二人と記念撮影をしたい、と言うお客さんの要望に応じて、写真係を主に担当し、水を得た魚のようだ。
メアリーは空の食器を下げたり、テーブルを拭きながら考えていた。
(シュバルツったら、そんなにいちるの写真撮ってどうするのかしらね?
本当にシュバルツはいちるが好きよね。私にはよくわからないけど)
セスは物腰は丁寧な方であり、接客は得意である。要望やトラブルがあれば「博識」などの手持ちスキルを活かして速やかに対処してゆく。時折働くアイリのほうをちらりと見やって、せっせとシュバルツが写真を撮っているのを見て、心を躍らせていた。
(シュバルツさんが撮影した写真は後でコピーを分けてくれるそうですし……
アイリは照れてなかなか写真を撮らせてくれないので有難いですね)
各々別々の思いをこめて、元気良く働く6人である。
セルマ・アリス(せるま・ありす)は、受け取ったチラシを見て、目を丸くした。カフェ開店500日パーティのゲストの名前に、あの、空京たいむちゃんの名がある!
たいむちゃんを知った時から動機息切れが……とまで行かないが、あの可愛さにハートを射抜かれたのは確かだ。ぜひともたいむちゃんに一目会いたい、お話したい、できればお友達に……。
「こ、これは行くしかないっ!!」
「ん? どこへ行くの?」
ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が尋ねる。
「このチラシを見て!!」
「へ~、開店5百日パーティ? ワタシも面白そうだから一緒に行くよ」
「可愛いゆる族のお店?! それは是非とも行かないと!」
シャオこと中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)も大乗り気だ。チラシを見て何か思いついたようだったが、にたっと笑っただけで何もいわなかった。こういうときは、たいてい何か良からぬことを画策している兆候なのだが、セルマは気づいていない。
どこか上の空なセルマと、シャオ、ミリィはカフェへと向かった。
鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)はバロ・カザリ(ばろ・かざり)を抱っこして、受け取ったチラシを元に、たまカフェを捜し歩いていた。30分あまりぐるぐるした挙句、バロが方向指示をし、ようやく店にたどり着いたのであった。
「バロ偉い!迷わずお店につけるなんて! は~~ 暑かった」
「普通は迷わないぞ。普通は。 ……って無視かよ!
……ほう、なかなか感じの良い店だな。……んでオイ、氷雨いい加減おろせよ!」
氷雨は聞いちゃいない。と言うのも、店に入ってすぐのところに、セルマらがいたからだ。
「お、セルマじゃないか。いつも氷雨の相手ご苦労様」
「あれ?あ、セルマ君だ! こんにちは。……って気づいてないな」
バロと氷雨が声をかけるも、セルマは店の奥のたいむちゃんに視線が釘付けになっている。ミリィが代わりに答えた。
「さっきからああなのよ~。ここに来る目的はたいむちゃんだったみたいだね~」
シャオが店内の従業員たちを見回し、氷雨と目線を交わした。目的は同じ、目と目だけで気持ちが一瞬にして通じるのだ。
「なるほど~」
「……あ、分かった!ウェイトレスさんの格好したいんでしょ!
それならボクに任せて!」
氷雨がすぐに、フィリップ君と、休憩に来ていたたま☆るを見つけ、バイトの交渉をして戻ってきた。
「セルマ君、はーい、借りてきたよー。じゃあ、レッツお着替えだよー」
有無を言わさず、シャオと二人でセルマの腕を取り、控え室へ強制連行する。氷雨はいい席~たいむちゃんに近い席~を取っておく、とシャオに後を任せて出て行った。
「バイトするのはいいけど……。
それで……制服着るのもわかるけど何で女性ものなんだろう?」
セルマは服を掴んでぼんやりと見た。サイズは確かにぴったりだが、オレンジジュースの、ふんわりしたワンピース。胸元のリボンと、裾のレースが愛らしい女子制服である。
「深く考えなくていいのよ! ほら、たいむちゃんが待ってるわ!」
シャオの一言で、セルマは制服を身につけ、満面の笑みを浮かべて出てきた。シャオは一人ほくそ笑む。
(今回もまた立派な男の娘に。 感無量だわ……。
女装させられてる割には今回はあまり気にしてなさそうね。たいむちゃんがそんなに好きか!
それともひょっとしたら水面下で 着実に男の娘化が進行しているということかしら!
今までの私と氷雨の活動が実ってきたということにしときましょう♪)
いそいそと水とメニューを持って現れたセルマを見て、ミリィがぼそっとつぶやく。
「普段は嫌がる女装をしてるのに、 たいむちゃんに会えて嬉しいのか全然気にしてないみたいね」
「氷雨には後で、オレがよく言い聞かせておくから……強く生きろ。な」
バロは万感の思いをこめて、椅子の上からセルマの肩を叩く。氷雨は満足げだ。
「わぁー、セルマ君相変わらず可愛いねー。
あ、そうだ。折角だから写真を撮ろう!」
テーブルを立ち、たま☆るとたいむちゃんのそばへつかつかと寄る。
「すみませんー!!
たま☆るちゃんと、たいむちゃんと、記念撮影ししたいんですが、いいですかー?」
「かまわないわよ」
「……ちょと恥ずかしいけど……かまわないんだぬ」
「ありがとー!!!」
交渉成功。セルマが顔を紅潮させて進み出る。
「た、たいむちゃん……初めまして、セルマ・アリスといいます。
えっと……ファンです!握手してください!」
ニコニコと応じるたいむちゃんに、さらにセルマは舞い上がり、意識が半分どこかへ吹っ飛んでいる。
(わーわー嬉しすぎる……。 たいむちゃんかわいいよ~)
「あ、たいむちゃん。あんまりルーマがうっとおしかったらワタシが引っ張っていくから遠慮なく言ってね?」
ミリィがたいむちゃんを見つめたままのセルマを見て、たいむちゃんに言う。氷雨がてきぱきと動き回り、シャオはすぐさまカメラを構えてスタンバイ。。
「ほらほらバロとミリィちゃんも一緒に並んで!」
「って、オレも並ぶのか?」
バロがすまなそうにたま☆るらに声をかける。
「うーん、セルマがさらに生き生きとしだした!
これはまた今後のいい資料……じゃなかった、いい思い出になるわよっ!」
シャオがカメラマン張りに、短時間に写真を取り捲る。
「あー。皆可愛いーー!!」
氷雨が撮影後、全員まとめて抱きしめようとする。バロがすまなそうに、
「……お前らもつき合わせて悪いな」
と言ったのであった。
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