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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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【重層世界のフェアリーテイル】おとぎばなしの行方

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「……はぁ、緊張した……」
 ノートルド・ロークロク(のーとるど・ろーくろく)が溜息を吐いた。
「お疲れ様です。どうぞ」
 そんなノートルドを見て、常闇 夜月(とこやみ・よづき)がお茶を差し出す。
「……お、お話を読むのってあんなに大変なんだ……」
 一口お茶を飲み、息を吐くノートルド。
 彼らは、何かのヒントになると思い子供を集め、色々と書物を朗読してあげていた。
 ノートルドは自身が持ってきた絵本を読むことになったのだが、人付き合いがあまり得意でないせいか、緊張しっぱなしであった。
「でも楽しいではないですか。子供達も興味津々でしたし」
 リティシアーナ・ルチェ(りてぃしあーな・るちぇ)が、笑いながら言う。彼女は『花言葉』に関する本を読んであげていた。
「占いみたいで喜んでくれていましたよ……中には、ちょっと言いにくい言葉もありましたが」
 そう言ってリティシアーナが苦笑する。花言葉には、良い意味だけでなく悪く取られる言葉もあるので、その言葉を選ぶのには苦労したようだ。
「あまり肩ひじを張らず、自分で読むようにすればいいんですよ。楽しませよう、とか読もう、と思うと緊張してしまいますからね」
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が言う。臨時講師だった経験があるおかげか、子供達からも評判は良かった。
「あの子供達は色々な物に興味を持っているようですから」
「そうですね。私もこっちの昔話を話してあげましたが、結構喜んでくれていましたよ?」
 加岳里 志成(かがくり・しせい)も言う。彼女は『桃太郎』や『一寸法師』といった昔話を読んであげていた。
「そうですね、だから大丈夫ですよ。緊張してよくつっかえていた志成様のお話でも、あの子たちは楽しんでいましたから」
「さ、小夜さん……」
 くすくすとおかしそうに笑う左文字 小夜(さもんじ・さよ)に、志成は言葉を詰まらす。子供の相手をするのが初めてだった志成が質問攻めにあったりなどして困っていた時、小夜に助けてもらったため強くは言えない。
「そうそう。あまり気を使いすぎると逆効果じゃからな。気楽にやるのが一番いい」
「そう言いながら、房内はほとんど遊んでたじゃないですか」
 医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が窘めるように言う。貴仁が見ていた限りでは、ほとんど歌っていた姿しか見ていない。
「遊んでいたとは失礼な。こう見えてもわらわは、子供達からわらべうたなど無いか調べていたのじゃぞ?」
「童歌……確かに童話以外でもあったら秘密とかありそうですね」
 房内の言葉に、博季が考える。
「で、結果は?」
「そういうものは知らないらしくてな、わらわが逆にこっちのものを教える羽目になったわい。ほっほっほ」
 楽しそうに笑う房内に、溜息を吐く貴仁。
「まあまあ、あまり根を詰められても、見えている物だって見失ってしまいますよ? ほら、見てくださいよ。緑が綺麗ですよ?」
「……そうですねぇ。日差しも気持ちいいですし」
 夜月に倣い、小夜が目を細めて辺りを見る。
「あー、疲れた疲れた」
 そこへ八日市 あうら(ようかいち・あうら)が戻ってくる。その後ろから、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)ディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)が続く。彼女たちは朗読班とは別に、体を動かして子供達とコミュニケーションを図りに行っていた。
「休憩中?」
「そうじゃ、今夜月が用意しておるから待っておれ」
「あ、それならあたしもあるよ。これもどうぞ」
 そう言ってネージュはハーブを用いて作ったクッキーやドーナツ、炭酸水に蜂蜜とシロップを溶かしたサイダーを用意する。
「そっちはどうでした?」
「あー……久々に本気で鬼ごっこなんてやったなぁ。疲れたよ、正直」
 貴仁の言葉に、エースが苦笑しつつ答える。
「そうですねぇ、子供達って元気ですよねぇ」
 エースに続いてルーシェリアが言うと、
「そう言いながらも二人とも結構楽しそうだったじゃない」
と、あうらが突っ込む。
「そりゃあ、ね。いろんな花も見れたし」
 エースがそう答える。花好きの彼にとって、数々の花を見るだけでも十分な収穫だった。
「綺麗でしたねぇ。そんな中で遊ぶは楽しいですよぉ」
 しみじみとルーシェリアが言う。
「そうだねー、鬼ごっことか、かくれんぼとか面白かったぁ……」
 ネージュが目を細めて、先程のことを思い出す。
「ぼ、ボク……いっぱいつかまっちゃったよ」
「私もですよぉ」
 ディアーヌとルーシェリアが苦笑する。
「あの子たち、のほほんとしてたけど動きとか勘は凄かったね。そこはやっぱり子供なのかな」
 そう楽しげにあうらが言った。
「で、何か収穫はありましたか?」
「……収穫?」
 貴仁の言葉に、エースが首を傾げる。
「……まさかそなたら、遊ぶのに夢中になって目的を忘れていたのでは?」
 房内にじとっとした目を向けられ、交流班がギクリとする。一応、目的としては子供と交流して、その中で何かヒントになることはあるか、という物があった。
「い、いやいやいや、そんなことあるわけないよ?」
「そ、そうそうそう! 色々と収穫もあったなぁ!」
「そうですそうですぅ!」
 あうら、エース、ルーシェリアが言うが、目はどう見ても泳ぎ切っている。
「収穫ですか。例えば?」
「え? えーっと……」
 志成に言われ、ネージュが考える。同様にあうら達も考えて、
「「「「……妖精の子達は可愛かった」」」」
ほぼ同時に口を開いた。
「だらしないのぅ、夢中になって忘れおったのか」
「こ、コミュニケーションは取れた! それをいうならうちのメシエは遊ぶことすらしてなかったぞ!」
「エース、何の言い訳にもなっていません。それに何もしていなかったとは心外ですね」
 溜息を吐きつつメシエが言う。
「え? 特に何もしているように見えなかったけど……」
「聞いていましたよ、貴方達があの子供達と会話していたのを。何かヒントになるかと思いましてね」
「全然気づかなかった……で、何か分かった?」
 あうらに言われ、メシエが首を横に振る。
「残念ながら、ほとんど雑談で終わってました。エースが花のことを聞いていましたので、咲く時期によって季節の推移などわかれば……とも思ったのですが、子供達はよく知らないようでしたので」
「やはり収穫は無いみたいですね」
「そ、そういうそっちはどうだったの? ノートルドやリティは?」
「え? ぼ、ボク? ボクほ読むのに必死で……」
「ワタシは色々な花言葉を学びましたわ」
 二人の言葉にあうらは「収穫なしか……」と呟く。
「皆はどうですか?」
「そうですね……」
 ルーシェリアに言われ、博季は考える。浮かぶのは、朗読している中、子供と触れ合っていた光景だ。
 博季以外の朗読班の面々も、思い出す仕草を見せ、やがて口を開いた。
『……子供達は可愛かった』
「双方大差無し、ですかね」
 やれやれ、とメシエが言う。
「でも、楽しかったよ?」
 そんな中、ディアーヌが呟く。
「そうだね、あんな遊ぶ事ってそうないからね」
 それにネージュが続いた。
「そうじゃのう、ま、悪いことばかりではなかったってことじゃ。ディアーヌ、良い事を言うのぉ」
「……無理矢理締めたな」
 エースがジト目で房内を見るが、「さて、何のことかのぅ」と何処吹く風であった。

「うーん……どうしようか」
「どうしよっかねぇ」
 ミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)が呟く。
 二人の前にいるのは、数名の花妖精の子供達。ミリー達を興味津々な目で見ている。
「相手をしてあげて、って言われてもねぇ……」
 ミリーが困ったように言った。
 先程、ミリー達は歩いているドロシーを捕まえ、この村に関する話が無いか、と尋ねてみた。書物調査は非効率、と考えた結果からの行動だ。
 しかしながら結果は空振り。有益な情報は得られなかった。
 ただ聞いただけでは、と思いドロシーの手伝いを申し出た所、

――それでは、子供達の相手をしてくれますか?

と言われてしまったのである。
「どうする? ミリー?」
「どうするって言われてもねぇ……トラウマ作っちゃわない? ボクらだと」
「……とらうま?」
「とらうまってなにー?」
 ミリーの呟きを耳にした子供達が、興味津々とばかりに聞いてくる。
「……ねぇ、ミリー。フラット、とぉってもいい事思いついたのぉ」
 そう言って、フラットがミリーに振り返る。
「うわ、超イイ笑顔してるよ、フラット」
 ミリーの言う通り、フラットは笑顔を浮かべていた……前に『邪悪な』という言葉がつくような。
「うふふふふぅ……ミリーも協力してねぇ……じゃあみんなぁ」
 フラットは子供に向き直る。先程の邪悪な笑みを隠し、人懐っこそうな顔で言った。
「今からぁ、トラウマって何かを教えてあげるぅ」

 その後、
『どっドロシーお姉ちゃあああああああん!』
「え? み、みんなどうしたの!?」
 フラットとミリーによるトラウマ講座によって、見事トラウマを植え付けられた子供達は一人寝る事もできず、結果、ドロシーの仕事を増やすことになるのだが、これはまた別のお話。