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リアクション
「ぺいゆちゃーん!」
ショタ談義の花畑で積んだ花で花冠が出来そうになる頃、ぱたぱたと両手を振って駆け寄ってきたのは白波 理沙(しらなみ・りさ)とランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)でした。
後ろからはカイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)と龍堂 悠里(りゅうどう・ゆうり)も続いています。
ショタっ子になった理沙と、獣人ショタであるランディに呼ばれたぺいゆちゃんは、ティーカップを置いて立ち上がりました。
「けもみみショタ来た! これもアリ!」
「え?」
ぺいゆちゃんの言葉を理解し損ねて首を傾げるランディをぎゅうっと抱きしめて耳や頭をもふもふしながら、
「どうしたのです?」
と訪ねます。
「うん、折角遊びに来たからぺいゆちゃんと遊ぼうと思って、誘いに来たの」
「なぁなぁ、あっちでみんなも待ってるぜ。中庭もすげーことになってるしさ」
「中庭?」
「そうだよっ、取り敢えず来てみればわかるよ〜」
ランディと理沙に手を引かれ踏み出そうとしましたが、気が急いたのか思わず足がもつれてしまいました。
「にぎゃっ」
「お、……っと、危ない」
「大丈夫か?」
地面とごっつんこしそうになって思わず目をつぶったぺいゆちゃんでしたが、想定した痛みは来ません。
寧ろよくわからない浮遊感を感じてそっと目を開けると、思いの外近いカイルの顔がそこにありました。
「!?!?!?」
何事、と瞬いたぺいゆちゃんは、自分がカイルに「おひめさまだっこ」をされているのだと気付いて思わず手足をばたつかせました。
けれど体格差ゆえか、カイルはぺいゆちゃんをとり落とすような真似はしません。
「暴れるな、すぐ下ろすから」
苦笑まじりにそう告げて、両手で支えていたぺいゆちゃんの身体をそっと地面へ降ろしました。
「なななっ、何するですか!?」
「いや、転びそうだったから……」
「怪我がなくてよかったな」
つられて転びそうになっていた理沙とランディを支えていた悠里も二人から手を離してわしゃわしゃとぺいゆちゃんの頭を撫でます。
ぱくぱくと口を開閉したぺいゆちゃんは、気恥かしさが勝ったのか視線をそらしてしまいました。
けれどこの状況を「オイシイ」と判断したのか、すぐに輝きを取り戻した目でカイルに礼を言います。
「ありがとうですよ」
「ああ、気にするな」
「ところでイケメンたちも一緒に遊ぶんです?」
「んあ、そうだな。外でみんな待ってるらしいし、折角だから一緒に遊ぶか」
「イケメンとショタに囲まれて遊べるとか天国だね! ぺいゆの時代来たね!」
「え?」
悠里の答えに一気にテンションが上がったらしいぺいゆちゃんは、今度は理沙とランディの手を引いて意気揚々と外へ向かうのでした。
「――ん〜。なかなかいい写真が撮れましたね」
走り去っていくぺいゆちゃんたちを見送った緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、ゆっくりとそちらへ足を向けながら手にしていたデジタルカメラのデータを確認していました。
そこに写っていたのは、ショタ化したみんなの姿です。
もう一つ手にしていたビデオカメラには同様の姿が動画でおさめられているでしょう。
このデータをどうしようかと内心考えを巡らせる遙遠自身も、少年の姿になっています。
けれど他のみんなと違うのは遙遠のショタ化はぺいゆちゃんではなく自らのスキル【ちぎのたくらみ】によるものだということと。
そして今日の遙遠はぺいゆちゃん公認のカメラマンだということでした。
今日は存分にショタを愛でるつもりだというぺいゆちゃんに代わって、その可愛らしい姿をカメラにおさめましょうか、と提案をしたところ、ぺいゆちゃんは二つ返事で了承をくれました。
そんなわけで遙遠は、憚ることなくみんなにカメラを向けているわけです。
勿論カメラを向けられた瞬間に逃げそうな面々にはばれないようにこっそりと。
「何だか面白いものもいるみたいですし……今日はいい写真がたくさん撮れそうですね」
ぺいゆちゃんと鬼ごっこを始めたらしいみんなにまたカメラを向けながら、遙遠は楽しそうにひとりごちました。
さて、理沙たちに言われたように中庭に赴いてみると、そこには何ということでしょう。
――見渡す限りの銀世界が広がっていました。
勿論それは中庭だけではありましたが、地面も植木も、すべて雪におおわれています。
「うわぁ……」
このあたりに雪が降るには少しだけ早い季節。それなのにこの一面の雪景色はどうしたことだろうとぺいゆちゃんが見惚れていると、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)がそっと小さな雪だるまを差し出しました。
「ぺいゆさん、お招きありがとうございます……」
「雪だるま?」
「お土産……です。あとこの中庭も……」
「ちみがこれをやってくれたんですか?」
ぺいゆちゃんが雪だるまを受け取りながら訪ねると、レイナはこくりと頷きました。
「……ちょっと、頑張りました」
「ふおおお……すごいですね! 本物の雪ですー。嬉しいですよ」
はにかむレイナに礼を言いながら、ぺいゆちゃんは真っ白に染まった地面へさくりと足跡をつけました。
理沙や春もその後に続きます。
そうしていつしか雪合戦を始めてしまった面々の姿も、きっちりと遙遠が写真におさめるのでした。
「ふーむ、面白いことになってやがるですねぇ」
銀世界の中庭に足を踏み入れたシャルロッテ・マミルナ(しゃるろって・まみるな)は、すっかり変わった姿できゃっきゃと遊び回るみんなとぺいゆちゃんを見回しました。
かくいうシャルロッテの姿も普段のツインテールではなくショートカットに、パートナーの花京院 秋羽(かきょういん・あきは)もすっかり可愛らしい少年に姿を変わってしまっていました。
普段から女形として女性的な所作の秋羽ですが、小さくなって骨格も幼くなってしまっているためか、ますます性別不詳に拍車がかかっているようです。
「なるほどな……城に入るとみんな少年になってしまうわけか」
自らの姿を確認した秋羽は、次いで周りを見渡して小さくため息をつきました。
「まぁ、なってしまったものは仕方がない……国王のぺいゆちゃんとやらに謁見して戻してもらう他なさそうだな」
「もう少しその姿でいてもいいじゃねぇですか」
シャルロッテの言葉に秋羽は困ったように眉を寄せます。
「いや、このままというのはちょっと」
「その方が国王の覚えもめでてぇですよ」
「そういう問題では……」
「んなっ!?」
言い募ろうとした秋羽の声は、すぐそばから聞こえてきた怒声にかき消されました。
振り返ると、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)がクレヨンを片手にエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に何かを怒鳴っているところでした。
「お前のせいだろう!」
「何のことでしょう。私はグラキエス様の為にクレヨンを借りてきただけですよ」
「俺がガキになるように頼んだんだろ?」
「そんなことをするものですか。きっとグラキエス様が見目麗しいためにぺいゆ様の目に留まったのでしょう」
静かにエルデネストに諭されて、グラキエスはぎぎぎと歯噛しました。
向かって行こうとしても普段とはリーチの違う肢体。上手く攻撃を仕掛けることも出来ずじたばたするのみです。
傍らでそんなグラキエスを宥めるベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)は、とろけきった満面の笑みを浮かべています。
「ほら、グラキエス。そんなことよりゴルガイスを描くんだろう。折角の機会なのだし姿など気にせずに絵を描くといい」
「いや気にするに決まってるだ、」
可愛らしい姿できゃんきゃんとわめくグラキエスを笑顔のまま膝に抱き寄せて、ベルテハイトはその手を紙に導きました。
「魔法のクレヨンなどに触れる機会はそうないし、長く借りていては申し訳ないだろう? ほら」
ベルテハイトにも諭されて、グラキエスは紙に向かい直しました。
憤りや理不尽さをぶつけるように、クレヨンを動かして絵を描くグラキエスを眺めながら、ベルテハイトとエルデネストはにこにこと含みのある笑顔を浮かべていました。
「……やはり、早く何とかした方がよさそうだぞ、シャルロッテ」
「ブラコンはどうでもいいぜです」
「いや、よくないだろう……」
「それにほら、楽しんでるやつらも多いんだぜぇです」
シャルロッテはエルデネストたちとは違う方を指し示しました。
そこには嬉々として柊 北斗(ひいらぎ・ほくと)の手を引いて歩くイランダ・テューダー(いらんだ・てゅーだー)の姿。
どちらもすっかり可愛らしい少年の姿になってしまっていましたが、嫌がっているそぶりは確かにありませんでした。
「北斗、寒くない?」
「ああ、大丈夫だ」
「転ばないように気をつけてね」
「ああ」
北斗の世話を焼くイランダはとても楽しげで、時折北斗の頭を撫でたり上着を直してあげたりしています。
そのたびに頷いたり笑顔で礼を言う北斗に、イランダの可愛い物好きの心がくすぐられます。
「かわいい!」
と何度も繰り返して、いつもとは違う同じ目線の北斗をぎゅうっと抱きしめます。
北斗もそれを嫌がることなく、寧ろ楽しげなイランダの姿に嬉しそうでもありました。
お互い姿が変われども、北斗にとってイランダが大切な存在であることには変わりがありませんから、そんなイランダが喜んでいるのならしばしの間この姿でいることもやぶさかではありません。
笑顔の絶えないイランダと雪だるまを作りながら、二人は次は何処を回ろうかと相談を始めました。
それと時を同じくして中庭を通りがかったのは三井 静(みつい・せい)と三井 藍(みつい・あお)です。
「すごい……中庭にだけ雪が降ってる」
「本物……みたいだな」
あたりを見回してぺいゆちゃんと遊んでいるレイナを見つけた藍は、彼女がブリザードで雪を降らせて新たに雪だるまを作ろうとしているのを見てそう呟きました。
「少し見ていく?」
「そうだな」
提案に頷いた藍の歩幅に合わせて中庭に出ると、その姿に気付いたぺいゆちゃんが「新たなショタ来た!」と此方へ向かってきました。
「……っ」
ほぼ無意識に身を引きかけた静は、けれど一歩進み出て藍の斜め前で足を止めました。
「――」
藍はそんな静の行動にわずかに瞠目し、けれどすぐにそっと微笑しました。
姿が変わった藍を守ろうとする静の気持ちが嬉しいのと同時に、何処か微笑ましくも思えました。
静の前で足を止めたぺいゆちゃんは、静と藍を交互に見てきらきらと目を輝かせました。
「ちみたちも一緒に遊ぶですよー」
「お、っと」
藍に抱きつきながら二人を誘うぺいゆちゃんに、静は戸惑ったように藍を見遣りました。
苦笑を浮かべる藍を守らなくてはと思ったのか、静は藍の手を引いてぺいゆちゃんに声をかけました。
「ええ、と。ぺいゆさん? 僕たちもう少しお城を見せてもらいたいんだけど……」
「それなら案内するですよ」
「大丈夫、です。あの、ぺいゆさん忙しいだろうし」
急に抜けてきたぺいゆちゃんが戻るのを待っている面々に視線を向けて、静は笑顔を作ってみせます。
それを振り返ったぺいゆちゃんはそれなら、と藍から手を引きます。
「それじゃあ後からでも混ざりにくるといいのですよー。イケメンもショタも大歓迎です」
「う、うん、そうする」
静が答えて、藍も頷いたのを見たぺいゆちゃんは、また遊びの輪に戻って行きました。
はああああ、と。緊張が解けたように胸をおさえて息を吐いた静に、藍が微笑みかけました。
「ありがとう、静」
「え、あ、ううん。ごめんね勝手に」
「いや」
守ってくれて助かったよ、と礼を告げる藍にはにかんで、静は来た方へ振り返りました。
「それじゃ、他のところも回ってみよう、か」
「そうだな」
踵を返して静の隣に並んだ藍は、書庫の方へでも行ってみようかとお城の中へ戻ることにしました。
「みんな楽しそうだねぇ」
お城を回りながらショタ化した使用人や招待客を見た亜城 奏(あしろ・かな)は、くふふっと笑って先ほど見つけたものを楽しそうに眺めました。
「もう少し楽しくしてあげちゃおうかな」
そこにあったのはウネウネと蠢く不穏な影。
ショタ化された際に放出されたエネルギーが形成したその影は――オヤジムシでした。
「ぺいゆちゃんがおじさんになったらどんな反応するのかな〜」
楽しみ! とオヤジムシの方へと歩み寄ろうとするより早く、小さな影がオヤジムシへと駆け寄りました。
「こいつじゃな!」
そう叫んでオヤジムシに腕を差し出したのは平賀 源内(ひらが・げんない)です。
そのまま向かってきたオヤジムシわざと噛まれた源内は、みるみるうちに可愛らしい少年からいつも通りの姿に戻ってしまいました。
きゅるんとした瞳はきりっとしたつり目に、育ち盛りの細い手足はしっかりとした逞しい体躯へ。
面白いほどに変わった姿を満足そうに確かめる源内の後ろから、また誰かがきたようです。
のんびりとした足音に奏が振り返ると、煙管を手にしたノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)と連れだって伊礼 權兵衛(いらい・ひょうのえ)が現れました。
「ほう……本当に子どもをオヤジにしてしまう虫なんだねぇ」
「そのようじゃ。ほれ、お主らも」
オヤジムシを差し向けて權兵衛の腕を噛ませると、權兵衛もすぐにいつもの姿へと戻っていきます。
「自分はやめておこう」
レイはそれを辞しながら、それで? と源内を見遣りました。
「この虫をけしかけようっていうのかい」
「ああ、そうじゃ」
「あっ、それなら私もやる!」
源内のやろうとしていることを知った奏は、すかさず手を挙げて名乗りを上げます。
思いも寄らないところから声をかけられた源内たちは一斉に奏を見ましたが、すぐに笑いました。
「ノリがいいおなごじゃのぅ」
「ぺいゆちゃんならあっちにいたし、面白そうだから手伝うよっ」
乗り気な奏が指し示す方へと視線を向け、頷いた源内はそれでは、とオヤジムシを手にして奏に案内を頼むことにしました。
「……何だか厄介なことを聞いてしまいましたね」
奏たちが去っていったのを見送った鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は、小さくひとりごちました。
源内たちの計画を耳にしてしまっては黙っていることも出来ません。
オヤジムシを見てぺいゆちゃんが騒げば厄介なことになりそうです。
ショタ化したまま元に戻れなくなるかもしれません。
なるべくならぺいゆちゃんの目に触れることなくオヤジムシを退治してしまいたいところです。
恐らくこの存在に気付いている者も多いでしょうから、倒すこと自体は苦ではないでしょう。
それならば自分はぺいゆちゃんに件の虫を見せないように努めようと、貴仁はぺいゆちゃんの元に先回りすることにしました。
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