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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

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【第一章】

 時計の針は間もなく夕刻を刻もうと言うのに今日の太陽は厭に元気だ。
 今も放課後の校舎を燦々と照らし、その光を受けた生徒達は輝く瞳で柔らかく微笑み合っている。
 
 百合園女学院は本日も至って平和そのものだ。

 職員室では部活動に励む為に校舎から飛び出していった生徒達を窓の外に見ながら、一人の教師が微笑んでいた。
「良い天気ね」
 他愛ない会話の切り口に微笑みで返事を返したのは、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)
生徒会執行部白百合団に所属する「美しきお姉様」だ。
「それにしても今日は本当に平和ね。生徒達も静かでいい子にしてくれるので助かりますよ。いつもこうしてくれると良いんだけれど」
 教師は机の上を適当に纏めながら先程の冗談めかした言葉への返事を待つがそれは一行に帰ってはこない。
 持っていた本から目を離しやや長身な崩城の表情を覗こうと顔を持ちあげると、彼女は思案しているような瞳で窓の外を見つめている。
 暫くして返された返事は冗談でも、笑顔でも無いものだった。
「本当に……平和ですわね」



 その頃――。
 百合園女学院の校舎からそれ程離れて居ない立ち入り禁止区域の入り口は密やかに、だが活気づいていた。
 ある者は何時もの制服で。ある者は変装し、あるものはマントに身を隠しながら……代わる代わる現れる生徒達に気づく者はまだ居ない。
 だが今も獣人の少年がその長身を隠す様に背中を丸めて、辺りを伺いながらやってきたところだ。
「ここか?」
「うーん……連絡では確かにこの辺りで手引きしてくれる人が居るって聞いたんだけどなぁ」

 少年、白銀 昶(しろがね・あきら)の後ろに居るのは清泉 北都(いずみ・ほくと)だ。
 乙女の園、の近くにこっそり侵入する為華奢な体形を生かし性別を感じさせない服装で少女の様に装っているが、真実は少年であり、
パートナーと同じく男子禁制の園の近くをこの様に徘徊していては見つかり次第不審者と通報されてしまうだろう。

「あ、あそこかぁ」
 清泉が指差すその先にあるのは大きな岩の向う側から手招きする細い手と、揺れる黒髪。
「こっち、こっちですわ! あ!」
 自分が出した大声に慌てて口を塞いだのはリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)だ。
 慌てて周囲を見回して誰も居ない事を確認すると、誰も居ない事に安堵し小さく息を吐く。
 清泉らが彼女の前までやってくるとリリィは一礼をしてすぐにローブの裾を翻し、獣道を見た目とは裏腹に身軽に歩いて行った。
 ふと、何度か後ろを振り返っていた白銀に気づいて、リリィが「大丈夫ですわよ」と口を開いた。
「百合園の方達に教えて頂いた通りなら定期の見周りは後15分はありませんわ。
それにこのルートは皆さん居らっしゃるごとに毎回変えてますの。魔法の得意な方にも幾らか目くらましして頂きましたから、簡単に見つかりっこありませんわ」
「皆来る毎にって事はぁ……僕達もしかしてビリっけつ、かな?」
「ええ。皆さんもう集まってらっしゃいますわ」
「えー! だから早く行こうって言っただろ」
憮然とする白銀に罵られながら辿り着いた先は件の洞窟の入り口であった。



 待ち構えていたのはこの場に不似合いなとんでもない露出をした少女こと、
パートナーのラナ・リゼット(らな・りぜっと)を纏った泉 美緒(いずみ・みお)を中心とした生徒達だ。
「皆様、集まってくださって有難う。さあ、モルフィーが待っていますわ」
 フラッフィーモルフォ達が心配なのか、はたまた魔鎧を纏った姿を衆目に晒すのに気が引けるのか、美緒が挨拶早々に洞窟内へ向かおうとすると「ちょっと待って!」と声に阻まれる。
 生徒達が振り向いた先に居たのは……バッグ星人だった。

 右手と左手にこんな碌に整備されていない道なき地面では逆に使いづらいであろうトローリーバックを持ち、
両肩と首にはスポーツバッグとショルダーバックを三つ、トドメに背中にデイパック――と言うには大きすぎる本格山岳用のザックを背負ったそれは
実際それ以外形容の仕方が無い状態である、が、マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)だった。

 ――さっきまでスルーしていたが、やっぱり突っ込むべきだっただろうか……。
 生徒達が気不味そうに眼を逸らしていると、本人は至って気にもせずに話を進めて行く。
「皆。聞いていると思うけど、この先の洞窟に居るモルフィーさん達フラッフィーモルフォは人工の灯りが苦手だって話」
 やや早口でそう話しながらマリカは持っていたバッグを一つずつ地面に置いて行く。
「人工の灯りって懐中電灯とかだけじゃないわよ。例えば携帯電話やノートパソコンのバックライトなんかも暗闇では結構な光源になるわ」
 地面はあっと言う間にバッグで埋まり……
「だからモルフィーさん達を怖がらせない為にも、そういうものは洞窟に持ち込まないように……」
 トドメにはやっぱりあのザックがドシンと叩きつけられた。
「あたしが預かっておくよ!」

 携帯やら何やらを集める代りに地図を記す為のメモ帳やペンをてきぱきと渡し、満足気な表情を浮かべるマリカを見ながら、
パートナーのテレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)は思う。
 ――マリカさん……。アイデアは良いと思いますけれど、そんなに大量の荷物を抱えて居る所を誰かに見つかったら逆に不審がられると思わないのかしら。
 まあ一度の失敗で学ぶ所もあるだろう、教育係は教え子の為に考えを飲みこんで見守った。


数分もしない内にマリカの作戦が終了すると、生徒達は再び出発となった。
入り口で最後に降りて行く生徒を見守るのはレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)チムチム・リー(ちむちむ・りー)だ。
「それじゃあ後は僕達に任せて! 戻ってくる時は合図をしてね。ここもチムチムに頼んで隠しちゃうから」
「石を積んだら入り口わからないアル。チムチム、役に立つアル」
生徒達が全員降りたのを確認すると、レキは「さてと」と、立ち上がって外に残ったリリィとマリカ、テレサに向き直る。
「わたくしは禁止区域の外から」
「あたしとテレサはこの周辺一帯を」
「洞窟の入り口は僕とチムチムが見張るよ。皆で守ろう!」
知らず知らずのうちに組まれた円陣に自ずと気合が入った5人の声が響き渡った。
「おー!!」