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長期休暇廃止の危機

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長期休暇廃止の危機

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一章『ゴール前の番人』

 グラウンドで小柄な少女が走っている。ショートの銀髪をなびかせているのは綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)だった。
 聡美は走りながら呟く。
「漠然と走るだけやなんてつまらんのう」
 試験で使われるコースのゴールもすぐ目の前にまで迫っている。
「このまま終わるんも物足りん気ぃするで……」
 試験内容はマラソン。練習もマラソン。ただ走るだけ。それが聡美にとって盛り上がりに欠けるらしい。
「実技やさかい、もっと動けること証明したほうがええんとちゃうか?」
 考える聡美の後方から足音が聞こえ始めた。同じくマラソンの練習をしている生徒かもしれない、そう思った聡美の頭に電球が灯る。
「ケヒッヒッヒ、こりゃいける」
 零れ落ちる笑みを含ませ、聡美は勢い良く振り返って豪語。
「ちょい待ち! まさか長距離走っただけで長期休暇得られると思っとるん? ケッヒッヒ、そうは問屋が卸さへんでぇ! 休暇欲しけりゃ最後の試練、乗り越えろや!」
 背後からやってくる足音に構えを取り、ワンツーと拳を繰り出す。
 だが、その拳は華麗に受け止められた。
「最後の試練? 何だそりゃ」
「な、山葉校長!? や、こりゃ、ちゃうねん!」
 相手は視察中の涼司。すぐさま拳を引っ込め、弁明を試みる。
「格闘技もスポーツやし、ただ走るだけやのうて、こう、動きを加えるっちゅうか、そのほうが楽しいっちゅうか……」
 運動以外の汗が伝い始める聡美。喧嘩をふっかけるにしても、涼司相手では分が悪すぎる。言葉はどんどん尻すぼむ。
「練習するのはいいが、妨害するのはどうかと思うぞ?」
「ごめんなさい」
 素直に謝るしかなかった。
 先ほど感じた懸念が形になり始めた時、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。