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仮装の街と迷子の妖精

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仮装の街と迷子の妖精

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 ゴンドリーエとして一日観光案内を勤めていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)。百合園女学院の旧制服に、白い上品なケープと帽子を被ってゆったりとゴンドラを操作する様はすっかり一人前になっていた。
 自分の感想も交えつつ、丁寧に説明していたこともあって二人の評判は良かった。
 一番有名な広場にある時計塔を始め、一定時間で水の流れが変わる噴水もあり、夜にはライトアップされて綺麗だとか、百合園女学院生徒ならではの地元の美味しいお店を紹介したりなどなど、ゴンドラに乗るお客さんに少しでも多くヴァイシャリーのいいところを知ってもらおうと頑張っていた。

「お姉さん、あれは?」
「あれが先ほど聞かれた騎士の橋ですよ。大きな屋根がついているのが見えますか?」
 あ〜、あれがそうなのか、とゴンドラに乗る人々から声が上がる
「あの屋根を支える柱の中央部、その内側に騎士の姿が彫りこまれているんですよ」
 ここからじゃ見えないのが残念ですけどね、とカムイも付け足す。
「本当かどうか分かりませんが、橋の下でお祈りをすると叶う、なんて言われてるんですよ。よかったら皆さん本当かどうか試してみてはいかがですか?」
 橋に近づくにつれてスピードを落としてさらにゆっくりと進むレキ。
 船尾のカムイと目線があってにっこりと笑う。
 みんなが楽しんで、いい思い出が出来ますようにと橋の下で願いを込めて。

 レキたちとはまた別のゴンドラで岸へと着いた歌菜、羽純、ルカルカ、ダリル。
「歌ちゃん、何お祈りした〜? ルカはね世界平和! まだ叶ってないからもう一回お願いしちゃった」
「遠野はきっと羽純のことばっかり祈ってたんだろ?」
「私は……お掃除が上手くなれますようにって
 少し恥ずかしそうに呟くと、歌ちゃん可愛いとルカルカに勢いよく抱きつかれてさらに恥ずかしそうに顔を赤くした。
「羽純……は聞かなくても遠野関連だろうしなぁ」
「ダリル、何だって? あまりにも寒くなったからホットチョコレートが飲みたい?
「いやいやいやいや!」
 世界はまだまだ平和には程遠いかもしれないけど、大きな平和は小さな平和から。
 羽純はしっかりと歌菜の手を握って歩き出した。


「お菓子だったらパティシエール・薔薇の雫が美味しいって評判だよ」
「なるほどなるほど。これはチェックだわ!」
 友人のネージュと二人きりのゴンドラの上、秋月がネージュ特製のサンドイッチを頬張りながら地図に印をつけていく。
「これでデートもばっちりだー!」
「夜になると噴水もライトアップされてとっても綺麗なんだよー」
「ロマンチック〜!」
 きゃいきゃいと嬉しそうにはしゃぐ秋月たちの横を、北都とクナイの乗ったゴンドラが静かに進んでいった。
「クナイ、また来年もこうやって一緒に来ようね」
「うん。今度は、教えてもらったお店もいっぱい回ってみよう」
 二人で、まだ時間はたっぷりあるから。
 手をそっと繋いだままゆっくりとゴンドラは進んでいく。
「あ」
 空からゆっくりと舞い降りてくる白い粒。
 手に触れると体温でじんわりと溶けてしまう。


 ――せっかくなので、皆さんに少しばかりのプレゼントを。

 エルが小さく指を振ると、ヴァイシャリーの街に静かに雪が降り始めた。
 観光客も街の人々も空を見上げて笑顔になる。

「おねえちゃん、またこんどいっしょにあそびにこようね」
「そうね、その時は静香さんたちをもっとびっくりさせちゃいましょう」
 今度はしっかりと手を繋いでゆっくりと景色に溶けるように姉妹は姿を消した。