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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

リアクション

 さて、縁と百、そしてエリザベータとセフィーの四人は廊下でさめさめと泣いている二人の人影を見つけた。この雨空にも関係なく、一糸まとわぬ姿でへたり込んでいるその姿に、さすがの四人も驚愕した。
「どういたのですかあなたたち!!」
 エリザベータが即座に自分の服の一部をかぶせる。彼女はなんとなく二人がどのような目にあったのか予想できて、憂うしかなかった。
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)はその瞳に涙をあふれさせている。エリザベータの服のぬくもりに温められるように事情を語りだした。
「あの……幽霊が、山賊の幽霊が急に襲い掛かってきて……」
「あぁ……」
 エリザベータは予想していた事実に軽くめまいを覚えると、セフィーがその体を支える。
「ごめんな。あんたたちを襲ったのはあたしたちの知人なんだ」
「え?」
 咲耶はきょとんと首をかしげた。その隣で放心していたアルテミスも会話の食い違いに気づいていたらしい。
「ごめんなさい。それは勘違いだと思います。確かに山賊の幽霊には襲い掛かれましたが、あなたたちの心配していることとは違います」
 咲耶はゆっくり立ち上がるとアルテミスの手を取って二人寄せ合った。ただ一つ少女を守る服で最低限の部分を隠しながら、窓ガラスに映るおぼろげな自分の虚像を見つめていた。そして自分たちがなぜこんな目に合っているのか、雨音を聞きながら説明するのだった。





 時間にして小一時間ほど前の話だろう。咲耶とアルテミスは武器を構えながら目の前の仲間だった人物へ叫ぶ。
「ちょ、ちょっと、兄さん!! ヘスティアちゃん!! 正気に戻ってくださいっ!!」
 しかしその叫びもその人物たちには届く気配は見せることなく、隣のアルテミスは表情を厳しくさせていた。
「フハハハ!! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)……改め、悪の山賊団オリュンポスの大幹部ブリガンド・ハデス!!」
 ハデスは狂喜に彩られた瞳とともにその髪を振り乱られながら二人の前で高笑いを繰り広げている。体全体からはぞっとする冷気のようなものを漂わせながら、ハデスの自我と山賊の幽霊が混ざり合ってよくわからないテンションになっているようだ。
 そしてその隣では臨戦態勢のヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)がその敵意を二人に向けている。二人とも幽霊に取りつかれているということが一致していた。そしてその後ろには配下のマネキンの憑代を持つ山賊たちが待ち構えている。
「ククク、我らが山賊団のために、貴様らの着ているものは一枚残らず置いていってもらおうか!!」
 指先を二人に見せると、二人の頬にさっと朱が混じる。マネキンがはしゃぐように踊っていた。
「そんなことできるわけないじゃないですか!! いい加減正気に戻ってください!!」
「抵抗するというのか? ならば容赦はせん!! ヘスティア・ウルカヌスよ。お前の力を見せつけてやるのだ」
 やけにかっこつけたポーズでハデスはヘスティアにそう命じる。ヘスティアにも咲耶とアルテミスは懇願の目線を届けるが、それに彼女が影響された気配は毛頭感じられなかった。
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかったハデス博士……でもなく、ハデスの兄貴。女生徒の身ぐるみを剥いでまいります」
 彼女の言葉が二人を知らず知らずのうちに拘束する。それを確実なことにするためにヘスティアは一歩前に歩いた。彼女の体が何倍にも大きく見え、そのたびに咲耶が肩をびくりと震わせる。
「しっ仕方ありません、こうなったら、力づくで止めてみせます!!」
 きっと気絶でもさせれば元に戻るだろう。そう見切りをつけて咲耶は兄であるハデスと対峙する。不気味に笑う兄の笑い方は取りつかれる前となんら変わりはなかった。自らの分をわきまえない笑い方だ。
 そんなだから簡単に幽霊に取りつかれてしまうのだ。
「兄さんは私が担当するから、アルテミスちゃんはヘスティアちゃんの相手をお願い!!」
「えぇ……でも……」
 アルテミスは困ったように咲耶の横顔を見つめた。ヘスティア相手に勝ち目がないからではない。単純に幽霊が苦手なのだった。なぜこのようなものになってしまったのだろう。自分の不幸はまだ始まったばかりなような気がして、アルテミスは寒気を覚えていた。
「怯えているのですか?」
「そっ、そんなことありません!!」
 剣は抜いたものの、その震えまでは隠せない。それでも彼女は虚勢を構えるしかなかった。
「へッ、ヘヘ……ヘスティアちゃんの相手は、こ、この私がお相手しますっ!! やぁ!!」
 その言葉が合図だったのか、ヘスティアとその背後に控えるマネキンが猛然と襲い掛かる。アルテミスもその迎撃を行うため、剣を握る力を強めた。しかしやはりアルテミスは幽霊が怖いのである。
 駄目だと分かっていても、目をつぶり、膝が震えるばかりだ。これでは幽霊の相手は到底不可能だろう。
「き、騎士として、ゆ、幽霊ごときから逃げるわけには行きませんっ!!」
 そう勢いのあることを言っているが、剣が彼女のすべてを語っている。その滑稽な姿にヘスティアは半ばさめたような目を作ると、退屈気分のまま背中から【ワイヤークロー】を射出した。
 それはアルテミスではなく、その向こうにいる咲耶を見事とらえたのだった。
「きゃっ!! み、身動きが……」
「よくやった!! ヘスティア・ウルカヌス!! 宣言通り身ぐるみを剥いでやろう!! 覚悟しろー!!」
 ハデスとその周りにいるマネキンが咲耶を取り囲む。ワイヤークローの拘束から抜け出せない咲耶は絶望的な自分の数分先を想像して、顔を青くした。
「や、やだっ、服がっ…!! いやあーーーー!!」
 咲耶の悲鳴にようやく目を開いたアルテミスは、咲耶と同様に顔から血の気を失うこととなり、自分の予感が正しいことに気づく。たどる末路は咲耶を同じだったようである。ヘスティアとマネキンの邪悪な笑みが瞳に焼き付いていた。
「きゃ、きゃあっ!! や、やだっ!! さ、触らないでくださいっ!!」
 二人の悲鳴が空しく廊下にこだまする。そして勝ち誇ったハデスたちは次なる標的を求め、何もかも失った二人をそこに残したのだった。