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突撃! パラミタの晩ごはん

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突撃! パラミタの晩ごはん

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第三章  Allegro.Attacca

12:30pm 葦原島 市場

「干しナマコ、干しシイタケ、えーっと、あと干し貝柱に干しアワビも。あるだけ全部頼みます」
 葦原島の市場で声を張り上げているのは、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。
 惜しげも無く高級食材を大量に買い付けて、最後に上機嫌で付け加える。
「あっ、支払いは蒼空学園、山葉涼司宛に請求書回して下さい!」
 巨大なリュックに溢れんばかりの乾物を詰め込んだ唯斗は、傍らのエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)を振り返る。
「スープ用の乾物はこんなもんかね。次は何だ?」
「……なにゆえ、わらわが荷物持ちをせねばならぬのだ」
 エクスは不機嫌そうに顔をしかめて唯斗を睨みつける。
 その小柄な背中にも、唯斗に負けず劣らずの巨大なリュックが背負われている。
「わらわはすぐにでも蒼空学園に赴き、この腕を振るわねばならぬというに……」
「いやいやいや」
 唯斗は今にも一人で飛んで行きそうなパートナーを押し止める。
「焦らなくても、試食会は明日だろう。食材調達してから駆けつければ十分間に合うさ」
 そう言ってから、ふと首を傾げる。
「待てよ、うちの学食の「秘伝」はもう判明してるのか?」
「……ない」
 エクスは腕組みをすると、けして豊満とはいえない胸をそらして怒ったように答えた。
「そのようなものは、我が葦原明倫館には伝わっておらぬ」
 唯斗は眉をひそめて聞き返す。
「どういうことだ?」
 エクスは忌々しげに息をついた。
「そのような「秘伝」が伝わっているなら、明倫館で食堂を預かるわらわの耳に入らぬ道理はない。わらわが知らぬということは、すなわち、我が明倫館に「秘伝」は存在しないということだ」
 納得がいかないという表情だった。
「その件も、確かめねばならん。だから、今すぐ蒼空学園に向かわねば……む」
 言葉を切って、懐から携帯を取り出す。
「メールか……蒼空学園からの食材調達の依頼だな」
「どれ」
 唯斗はエクスから携帯を受け取り、文面に目を通す。
「基本の食材は、大方予想通りか。特殊なものは……『しちしちかんち豆』か」
「豆!?」
 どんな豪快なアイテムを要求されるかと思っていたエクスが思わず聞き返すと、唯斗は
「いや、これはパラミタの湿度の高い高地にしか生息しない希少種で、まぼろしの豆と呼ばれるレア食材だ。生息地は確か……」
 目を閉じ、『博識』スキルも動員して記憶を辿る。
「……南方の孤島か。時間が掛かりそうだな。すぐに向かおう」
「うむ、ではそちらはまかせた」
 そう言って、エクスは奪い取るようにして唯斗のリュックを受け取った。
「やはり、わらわは先に蒼空学園に向かう。おぬしは幻の豆とやらを持参して後から来るがよい」
「いや、しかし……」
 止めようとする唯斗の言葉に耳を貸す様子も見せず、エクスはリュックを背負い、布袋を手に取る。
 その肩が微かに震えている事に気づいて、唯斗は思わずエクスの顔を覗き込んだ。
「……ふ……」
 僅かに上がった口の端から、声が漏れた。
「……え、エクス?」
「ふふ、ふ……ふふふ……」
 笑っていた。
 こみ上げる何かを押さえるように、エクスは呟いた。
「待っておるがよい、『伝説のメニュー』とやら……わらわが目にもの見せてくれるわ」
 戦うんかい!と心の中で突っ込みを入れて、唯斗は深いため息をついた。



13:00pm パラミタ内海・海岸

 にゃー、にゃー。にゃーー。
 芦原 郁乃(あはら・いくの)の頭の上を、冬羽のカモメが鳴きながら通り過ぎた。
 午前中に仕掛けを作っていたときには一羽も姿を見なかったが、野生のカンで食料の気配を嗅ぎつけたのだろう。
 にゃー、にゃー。
「ウミネコとは良く言ったものですねぇ。ほんとにネコみたい」
 晴れた空と穏やかに薙いだ海を瞳に映して、楽しそうに微笑んでいる秋月 桃花(あきづき・とうか)の横顔を眺めながら、郁乃はつぶやいた。
「うん……可愛いなぁ……」
「そうですねぇ」
 郁乃のコメントの意図には気づかない様子で桃花は相づちを打って、郁乃を振り返った。
「やっぱり、海に来てよかったですね」
 砂浜にちょこんと並んで座っている二人は、別にデートに来ている訳ではない。
 のどかに会話をしながら、二人の手はせっせと漁の準備をしている。
「うん、やっぱり海の漁はいいわね」
 タモの網を繕いながら郁乃も答えたが、すぐ首を傾げる。
「でも……ほんとに料理のお手伝いに行かなくてよかったのかなぁ」
 ぴくっ、と僅かに桃花の恵美が引きつった。
「料理じゃなくて材料調達に行くって決めたとき、なんかみんな微妙な空気だったのよねぇ」
 ……それは、皆さんホッとしてらしたんですよ、郁乃様。
 桃花は心の中でそっとつぶやいた。
 でも、口には出せない。
 ……「料理が攻撃兵器になってしまう人が秘伝なんて作ったら何ができてしまうのか心配」だなんて、郁乃様にはとても言えません。
 だから、代わりに言った。
「皆さん、期待してるんですわ。なんと言っても【簀立て職人】郁乃様ですもの!」
「……そっかなぁ……」
 納得したような、しないような、曖昧な表情で郁乃がつぶやく。
 桃花は魚籠に縄を巻く手を止めて、ぐっと拳を握った。
「そうですとも! 張り切って新鮮な海の幸をたくさんゲットしましょう」
 にゃーにゃーにゃー。
 エールを送るように、カモメが鳴いた。
 ようやく郁乃は微笑んだ。
「そっか、そうだよね!」
 そして、海に目をやる。
 波の引いた遠浅の砂浜に、さっき二人で仕掛けた簀立ての仕掛けが姿を現していた。
 頃は良し。
 郁乃は勢い良く立ち上がると、高らかに言った。
「よーし、みんな待っててね! 活きのいいのたっっくさん持っていくからねぇ」