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第一幕:魔女の隣人

「久瀬先生。ちょっとよろしいですか?」
 久瀬 稲荷が書類を整理していると来訪者があった。
 青空学園の生徒、御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。真面目な性格なのだろう。彼の立ち振る舞いや言葉遣いからそれが窺がえた。
「御凪クンですか。相変わらず固いですね。もう少しゆるい言葉づかいでも私は気にしませんよ?」
「俺としては固いつもりはないんですけど……話が逸れました。質問があります」
 御凪が質問の内容を話す前に久瀬が口を開いた。
「魔女の件ですね。わかっていますよ」
「久瀬先生にしては感がいいですね」
「一言余計です、と言いたいところですがさっき御凪クンと同じ目的で来た子がいてね。それでもしかしたらと思ったんですよ」
「出遅れましたか」
「そうでもないですよ。たしかに彼女はしっかりしていますが、相方の子は大雑把ですから。もしかしたら振り回されて魔女どころではないかもしれません」
「彼女……ですか。ひょっとして久瀬先生に聞きに来た人って――」
 久瀬はため息を吐いた。
「セレアナクンと御凪クンの二人しか私に聞きに来ていませんよ。事前に情報を仕入れずに森へ魔女探しに行くなんて……見つからないと私は思うのですが、二人がしっかり者で私としては嬉しい限りです」
「褒めても何も出ませんよ。それより依頼人はどこに?」
 御凪が今回の一件の詳細を知る人物の所在を聞く。
 探しているのは魔女を探している、という依頼の主だ。
「こちらですよ。ついてきてください」
 久瀬は立ち上がると御凪を連れだって職員室を後にした。
(さて……どんな話が聞けますかね?)


                              ■


 森の中を軽装で進む一組の姿がある。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人だ。御凪が久瀬と話をしていた頃、彼女たちはツァンダ東部の森に着いていた。ロングコートの下、ビキニにレオタードという森の中を歩くには不向きな恰好の二人組だが、足場の悪い場所には慣れているのか歩く速度に変化は見られない。
「まっだかなー。お菓子の家なんて見たことないのよね。楽しみだわ」
 ウキウキと楽しげに話すセレンフィリティをセレアナがたしなめる。
「お菓子の家なんて非現実的なものがあるわけないでしょう。目的忘れてないわよね?」
「わかってるわよ。魔女でしょ魔女。ちゃんと魔女も探してるってば」
「わかってるならいいのだけど……」
 セレアナの視線の先にはどう見ても浮き足立っているようにしか見えないセレンフィリティの姿があった。人の話を聞いているようで聞いていないという表現はこういう時に使うべきなのかもしれない。
(前もって久瀬稲荷に話を聞きに行っておいて正解だったわ)
 セレアナのそんな気持ちを知ってか知らずか、セレンフィリティは上機嫌で森の中を進む。歩き続けること二十数分、セレンフィリティが急に足を止めた。
「どうしたの?」
「……お菓子の匂いがする」
 まさかとセレアナは思った。
 だが、たしかに微かながら甘い匂いがする。
「嘘、本当にお菓子の家に住んでるの?」
「そうなんじゃない? だってお菓子の匂いがするもの。こっちね!」
 セレンフィリティが駆け出した。セレアナも追走する。
「お菓子の家はあたしのモノよ!!」
「違うわよ。目的も違うってば!」
 彼女たちは森の奥へと姿を消した。

 しばらくして、彼女たちが通った道をなぞるように進む人物がいた。
 御凪真人だ。彼は久瀬と依頼人から話を聞いたのち、先に森へと向かった人たちと合流するべく辺りの形跡を確認しながら歩いていた。
「しかし面白いというか可愛いらしい話でしたね」
 御凪は先ほどあったことを思い浮かべる。

 久瀬に案内された先にいたのは機晶姫のクウという少女だった。
 一般的な機晶姫に比べて小柄な印象の子だ。
 そんな感想を抱いていたのを見抜かれたのか、クウは不機嫌そうに言った。
「アタシは小さくないよ」
「これは失礼しました。俺の名前は御凪真人です。よろしく」
 丁寧な挨拶に気を良くしたのか、クウは笑顔で御凪にこれまでの経緯を話してくれた。
 要約すると背比べで喧嘩してしまったらしい。些細なことだと思うが、当人からすると大事なことなのだろう。コンプレックスを抱いているのがクウの話から窺がい知れた。
「それでクウさんはルーノさんに会いたいのですか?」
 ルーノというのは魔女の名前だ。
 実際は張り紙の人物像のような筋骨隆々ではなく、クウに近しい容姿をしているらしい。
「会いたくないわけじゃない」
「嫌いですか?」
「…………」
 やれやれ、と御凪は頭をかいた。
(どうやら素直になれないだけみたいですね。話を聞く限りでは仲直りをしたいけれどきっかけがないといったところでしょうか)
 御凪は得た情報を整理するとクウに話しかけた。
「大丈夫ですよ。悪いようにはなりません」
「え?」
「友達ってそういう関係なんですよ」
 御凪の言葉をいまいち理解できていないのか、クウは首をかしげる。
 対照的に久瀬は笑みをこぼしていた。